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焦点 共同体、そのまま仮設へ 福島・川俣町山木屋地区
 | 仮設住宅で行われた輪投げ大会。参加者は顔見知りで和気あいあいだ=福島県川俣町 |
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福島第1原発事故で計画的避難区域に指定された福島県川俣町山木屋地区の住民は、避難先でも地域コミュニティーを維持している。避難まで猶予期間があり、行政区ごとにまとまって仮設住宅に避難できた。県内のほかの避難区域の市町村が分散避難で住民の孤立が深刻化する中、避難前の共同体が保たれて人間関係を再構築せずに済み、心的負担の軽減につながっている。(桐生薫子)
◎分散避難避け、心の負担軽く
<「阪神」教訓に> 仮設住宅は、農村広場住宅と体育館住宅の2カ所。ともに町中心部にあり、距離も約1キロしか離れていない。地区民の3分の1に当たる計197世帯410人が入居している。 山木屋地区には11の行政区があり、町は仮設住宅を行政区単位で割り振りした(図)。地域単位で避難できずにコミュニティーが分断され、233人の孤独死を生んだ1995年の阪神大震災を教訓にした。 行政区ごとの区分けで顔なじみの住民が固まって生活し、「人間関係のストレスが少ない」(住民)と歓迎されている。 交流も盛んで、毎朝のラジオ体操に加え、週1回は集会所でお茶会や健康体操が行われる。住民は隣近所を訪ね、誘い合って参加する。普段も外のベンチに集まって会話を楽しむ。食べ物のお裾分けをする光景も避難前と変わらない。 無職菅野栄子さん(82)は「昔から知った人ばかり。山木屋地区は家が点在してご近所も遠かったが、仮設住宅だと近くなって以前より話すようになった」と言う。 両仮設住宅の広野太自治会長(63)は「何年後に帰還できるのか心配は尽きないが、地元住民で不安を分かち合い、一緒に帰る日を待ちたい」と語る。
<交流の場提供> 山木屋地区は昨年4月22日に計画的避難区域に指定された。避難の緊急性の高い警戒区域と違い、5月末までに避難すれば良く、町も住民も1カ月余りの準備期間があった。 町は4月中旬から住民を対象に説明会を実施し、避難先の意向調査をした。仮設住宅の入居希望者を特定し、早い段階で県に設置要望した。住宅は6月下旬に完成し、それまで町内外に一時避難した住民を呼び寄せ、入居を促した。町内の避難対象区域は山木屋地区1カ所にとどまり、避難先を集約しやすいという事情もあった。 原発事故では、避難区域の他市町村は分散避難を余儀なくされた。中でも浪江町は仮設住宅に限っても6市町28カ所と拡散し、避難者の孤立が問題になっている。 川俣町原子力災害対策課の担当者は「避難までに猶予期間があり、準備できた。居住環境がよくなくても顔見知りの人がいれば安心感が生まれ、孤立防止になると考えた」と話す。 課題は県内外の借り上げ仮設住宅で暮らす住民への対応だ。仮設住宅入居者の2倍近い約670人が福島県を含む12都府県に避難している。町は県内を主な対象に借り上げ住宅の住民が集まれる拠点を整備し、交流の場を提供する方針だという。
2012年07月19日木曜日
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