社説

東日本大震災 海を渡るがれき/知らんぷりは許されない

 同盟国として、絶望のふちに沈む私たちを献身的な「トモダチ作戦」でサポートしてくれた。その恩義は決して忘れることができない。被災地はいまだ復興の途上にあり、引き続き支援を必要としてもいる。
 一方で、この問題に限っては厚意に甘えるわけにはいかないのではないか。海に流出した東日本大震災のがれきが、北米大陸の太平洋岸に漂着し始めた。
 無論、流出は不可抗力だ。日本が責任を負うべきルールがあるわけでもない。
 だが、経緯はどうあれ自分の家の軒先を他人が排出した廃棄物で汚されたら、納得できるものではなかろう。それは国家同士の場合でも、同じではないか。
 太平洋を挟んで、「知らぬ顔の半兵衛」を決め込むことは許されない。日本政府はカナダ、米国両政府と誠実に協議し、費用負担を含めて処理方法に知恵を出してほしい。
 海を渡る漂流物は初め、「美談」として報道された。寄せ書きがされたサッカーボールやバレーボール、オートバイなど思い出の品々が現地の人によって発見され、その一部は持ち主の元に返された。
 風向きが変わったのはことし3月、カナダ西部クイーンシャーロット諸島の沖合220キロで、さび付いた漁船が発見されたあたりから。津波で青森県から流され、東向きの海流に乗って北米大陸に向かっていた。
 安全確保のため4月に沈められたが、米海洋大気局(NOAA)の学者らが大量漂着の可能性について警鐘を鳴らす事態となっていた。既にカキ養殖で使われているのと同型のブイなど、軽いものは漂着している。
 環境省は岩手、宮城、福島の3県から海に流された家屋などのがれき133万トンのうち今後、約4万トンが2013年2月までに北米西海岸に到達するとの推計を出している。
 漂着物への対応には国際的なルールがなく、たどり着いた国で処理するケースが多い。だが、これだけの量になれば放置は許されない。場合によっては、外交問題にも発展しかねない。
 アラスカ州選出の上院議員がオバマ大統領に書簡を送り、同州沿岸部に到達した漂着物の処理や海岸清掃の費用として少なくとも4500万ドル(約35億7千万円)を拠出するよう求めた。先立つものがなくては活動は難しい。いずれ日本側に費用負担を求める声が高まるだろう。
 環境省は当初、がれきの処理予算が国内を想定していることから、海外では使えないとの立場を取っていた。だが、細野豪志環境相は日米の非政府組織(NGO)が対応策を協議することに前向きの姿勢を示した。
 環境保全活動に取り組む一般社団法人「JEAN」(東京都国分寺市)の担当者が近く訪米し、現地の自然保護団体と連携に向けた協議を始める。国はJEANへの活動費を助成する仕組みだ。
 誰もが嫌う面倒なテーマだからこそ、丁寧に。がれき処理は「同盟深化」の試金石となろう。

2012年07月20日金曜日

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