米労働統計局によると、米国の女性の40%が一家の稼ぎ手、つまり夫より稼ぎが多いという。私はその中の1人だ。そして、何百万ものそうした女性と同様に、私は「一家の大黒柱である女性と、付き従う男性の間の結婚に生じる緊張をどう扱うか」という極めて現代的なジレンマにどっぷりつかっている。
夫の仕事は骨董品の修復だが、この業界は不景気でほぼ消滅してしまった。夫の収入は公共料金と自動車保険を支払うには十分という程度だが、夫はできる限り家事や子育てを手伝ってくれる。片や、私は同時に多くのことを処理しながら1日12時間から14時間働いている。1週間のうち1日も休みを取れないことも多い。1日が終わってやっとの思いでベッドにたどり着くときには、私は疲れ切って、不安に打ち震えている。
私たち夫婦だけではない。男性の時代はもう終わり、女性のリーダーが急増している。ここ数年の間にさまざまな記事や本がそう喧伝してきた。こうした野心家の女性を妻に持つ夫と言えばほぼ、(歩き始めたばかりの子どもが絨毯の上にその日3度目のおもらしをしても)テレビゲームをしている引きこもりの怠け者か、子どもを医者に連れて行ったり宿題を見たりすることはもちろん、料理や掃除、買い物に協力する聖人のような父親のいずれかだと言われていた。
もちろん、こんな男性像は大袈裟だし、極端な例を示しているに過ぎない。しかし、この世代の男性は平等という価値観を持ち込んだ女性運動の影響が残る中で育てられたため、その多くは妻の収入のほうが自分より多いことに悩んだりしないようだ。
しかし、一つだけ言っておきたいことがある。男性というものは理論上、家族を養うのに十分な収入を持ちたいと思うものなのだ。この基準を満たすことができないと、男性は腹を立てたり、恥ずかしく思ったり、怒りやすくなったりすることがある。そして、そういう夫を持つ妻が腹立たしく感じたり、ストレスを感じることは少なくない。
「男女の役割についてあまり考えることはないが、自分が経済的に家族を養えないから、怒りや無力さは感じている」とグレッグ・マクファデンさんは言う。39歳のグレッグさんは俳優で、専業主夫でもある。妻のシャノン・ハメルさんは38歳で、彼女の収入が一家を支えている(2人の間には6歳の子どもがいる)。シャノンさんは教師として仕事をするほかに、ブルックリンにある舞踏団の芸術監督も務めている。グレッグさんは「『力を与えられた』男性がいかに一家の養い手になるべきかを説いた記事や父親の視線によるブログを読むことにうんざりしている。稼ぎが少ないことをどう思うか、こうした人たちに聞いてほしい」と述べた。
同じような状況にある家族はどのくらいあるのだろうか。収入レベルによって、それも大きく違ってくる。アメリカ進歩センターは4月に発表した報告書で夫と同等または夫以上の収入がある米国人女性に注目した。妻が一家の稼ぎ手であるケースは、収入が上位20%の家庭では34%、収入が下位20%の家庭では70%に上ることがわかった。中間所得層の家庭ではおよそ半数の女性が夫と同等かそれ以上の収入を稼いでいる。
こうした女性とその夫がどのように感じているかは、それぞれの家族の置かれた状況によって大きく異なる。女性向けの金融メディアサイト、デイリーワース・コムが一家の稼ぎ手となっている女性400人を対象に行った調査によると、自分が夫より多く稼いでいることが結婚にマイナスの影響を与えていると考えている女性は子どもがいない家庭では22%に過ぎなかったが、子どもがいる家庭では、36%がそう感じている。
自分より稼ぎがいい妻と結婚している多くの男性は明らかに、伝統的な男女の役割が入れ替わっていることに負い目を感じている。サンディエゴ在住で元航空シャトル便のオペレーター、コナン・コットさんは4歳になる双子の子どもを生まれたときから世話している。コナンさんの妻、ミシェル・コットさんは米海軍のコンピューターシステムの専門家だ。コナンさんは「自分の子どもが大きくなり、物事を学ぶ様子を見られるのは最高だ」と話すが、家事には苦しんでいる。「芝生に水をまかなければならないし、ネコのトイレも臭っている。居間には汚い靴下が落ちている。どんなにがんばっても7時半までに子どもたちを寝かしつけることはできない」とコナンさんは話す。
ミシェルさんは言う。「典型的な夫の言い分を自分が言っているのがわかる。そして、夫からは典型的な妻の言い分が返ってくる。こうしたことが私たちの結婚にとって、とてつもないプレッシャーとなっている」
ニューヨーク市在住のマシュー・ペリーさんはパートタイムで働いている。妻のM.P.さんは編集者として高収入の仕事に就いている。マシューさんは現代の多くの専業主婦と同じように、自分は軽く見られている、仕事をする上で身動きが取れないと感じている。「M.P.はあれこれ子どもの面倒を見なければ、と心配する必要はない。自分の仕事の時間を削らなければならないのはいつも私だ」とマシューさんは言う。
万が一、妻の収入がなくなっても、夫の収入で家族を支えることができる場合は、プレッシャーは軽くなる。認識も変化しているようだ。それが広報担当の重役アリソン・リッソさんのケースだ。39歳のアリソンさんは土木技師の夫、ジョンさんの2倍稼いでいる。2人には6歳と8歳の子どもがいる。ジョンさんによると、自分と妻は仕事に求めるものは違うが、家族については同じ目的や価値観を共有している。
「私はアリソンのように野心的な人間ではない。だから、彼女のほうが稼ぎが多いのはうれしい。出世してバイスプレジデントにならなければ、というプレッシャーは私にはかからないから」とジョンさんは言う。それに、職場での責任が軽ければ、家族を優先したスケジュールに合わせて柔軟に働くことができる。ジョンさんは時間通りに帰宅して子どもを学校に迎えに行き、夕食の準備をする。アリソンさんが夜7時前に帰宅することはめったにないからだ。
ブルックリン在住のシャノンさんとグレッグさんは不安定ながらなんとかうまくいきそうな合意にたどり着いた。シャノンさんはグレッグさんが苦労して子育てと予測ができない仕事を両立させていることにもっとうまく感謝しなければならないことを認めている。しかし、彼女は自分には休みが必要だとも言う。「夏には2週間、どこかへ出かけたい。それを何とか実現するために、休暇の間、他人と自宅を交換し、食事は自分たちで全部作ることにした」とシャノンさんは話す。「でもそれだけの価値はある。見返りが必要だ。そうでなければ全てがうまくいかなくなってしまう」
グレッグさんはこう話している。「考え方の面で一致すれば、腹立たしさはなくなる。でも、考え方が同じでも、実際にはまだそこまでたどり着いていない。努力している最中だ」