2012年07月04日 公開
しかし、その後の日本の満洲経営の道は決して平坦ではなく、むしろ常に危険に晒されていきます。その重大な障害となったのが、明治44年(1911)の辛亥革命と、大正6年(1917)のロシアの共産革命であり、さらに日露戦争の直後に始まり一貫して日本の満洲における発展を抑え込もうとするアメリカの“門戸開放”という名の「対日牽制政策」でした。つまり、これらを俯瞰して言えば、20世紀前半のおよそ50年間は、満洲をめぐって、日本、ロシア、中国、アメリカという4者が、その争奪を競い合う時代だったということです。
この時、注意すべきは、清朝の滅亡した後、満洲は決して「中国の領土」ではなかったということです。戦前、東京帝国大学と京都帝国大学の双方で東洋史を教えた矢野仁一は、大正13年(1924)になっても、「清朝の歴史的な形成の仕方から見て、滞洲は元来、支那の領土とは言はれない」(『近代支那論』103頁)と明言していました。
この点において、辛亥革命の残した今日まで続く最大の問題は「孫文の裏切り」にありました。
革命の対象となった清朝は、そもそも満洲を故地とする満洲族の王朝で、そこを拠点にして中国本土に進出し漢民族の明朝の領土を併呑 <へいどん> したのち、モンゴル、チベット、ウイグルなどの諸民族の住む地域を服属させることに成功しました。以後20世紀まで、清国はあくまで清朝皇帝の下に、漢民族とは互いに対等の形で蒙古族、ウイグル族、チベット族から成る“大清連邦”とでも称すべき大版図 <はんと> を形成していたのです。
ですから、辛亥革命で清朝が崩壊したら、これらの諸民族はそれぞれ独立するのが本来の形だったわけです。
現に辛亥革命後、孫文は当初、清朝支配下の諸民族は漢民族と対等の立場で独立すればよい、と唱えていました。ところが宣統帝溥儀 <せんとうていふぎ> が退位すると、孫文は掌を返して「清朝の領土は全て中華民国が継承する」と宣言したのです。
当然ながら満洲族の中からも、故地・満洲での再興を目指す動きが出てきます。そしてこの場合、清朝の王族だった満洲人たちが、自らの出身地である満洲において権益を有していた日本と結びつこうとするのは、当然の動きでした。満洲のみならず、チベットやウイグルを含め、現在も独立を目指す中国の「少数民族」の運命を狂わせた最大の原因こそ、この「孫文の裏切り」なのです。
これ以後、漢民族が支配する中国(中華民国)は、かつて一度も支配したことのない満洲の地を「中国領土」と主張し、日本やロシアとその支配を争うことになります。
そして、大正6年に勃発したロシア革命が、中国の混乱に拍車をかけ、満洲の運命を一層大きく狂わせていきます。
ロシア革命の本質は、「共産主義の輸出」にありました。ロシア一国では共産主義は延命できないと考えたレーニンは、諸国の共産主義勢力を糾合すべく、大正8年(1919)に「第三インターナショナル(コミンテルン)」を結成、ソ連の強い影響と統制の下、「世界革命」を目指していくのです。
当初、彼らはドイツやフランスなど西欧諸国での共産革命を目論み、これら各国の政治や社会の混乱を策します。その財源には、帝政ロシアから奪った莫大な財宝が充てられました。
コミンテルンの活動の本質は、公然たる運動ではなく、秘密諜報・破壊活動にありましたが、当初コミンテルンによる革命の矛先とされた西欧諸国では、各国の防諜体制がだいたい大正12年(1923)頃には確固たるものとなり、ヨーロッパで共産革命を起こすことは、ほぼ不可能となりました。
壁にぶち当たったコミンテルンが、次に狙った革命の輸出先――それが、袁世凱 <えんせいがい> 死後、軍閥が割拠して争乱状態にある中国でした。コミンテルンは国民党の指導者・孫文と結ぶことで、「中国革命」の実現を狙います。彼らの大きな目的は、中国での共産主義革命実現もさることながら、中国に大きな権益を有する「反ソ帝国主義」の2大勢力、イギリスと日本の「背骨をへし祈る」ことでした。そのための手段としてコミンテルンは、中国で排外的なナショナリズムを煽る戦術をとりました。
ここで、孫文による「第二の裏切り」と評してもよい、愚行が犯されました。大正12年1月、孫文はソ連のヨッフェと会談し、中国革命の未来をコミンテルン路線に委ねることにしたのです。そしてコミンテルンの指導で大正10年(1921)に結成されていた中国共産党の党員が大挙して国民党に加入(国共合作)し、ボロディンなど多数のコミンテルン工作員や共産党員が中国国民党と政府の幹部や顧問に就任して、大きな影響力を振るいました。孫文の「三民主義」の理想はここで完全に裏切られたと私は思います。
慶應義塾大学法学部卒業。大阪府特別参与、行政刷新会議公共サービス改革分科会構成員(内閣府)、横浜市外部コンプライアンス評価委員、研究費不正対策...
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