2012年7月19日(木)

周辺国が介入 泥沼化するシリア

傍田
「日本時間のきのう(18日)、国防相や大統領の親族らが殺害された首都のダマスカスでは政府軍が夜を徹して反政府勢力を攻撃し、戦闘は一段と激しさを増しています。」

 

鎌倉
「国防相らが殺害される爆発があったのは国の治安をつかさどる国家安全保障本部の建物でした。
この建物が位置しているのは中央省庁や各国の大使館が建ち並ぶ首都のまさに中心部でした。
アサド大統領が拠点を置くこの大統領府までは直線距離でおよそ2.5キロの地点です。
19日もこちら南部のミダン地区など、少なくとも2か所で激しい戦闘が続いています。」
 

ダマスカスの治安施設への爆弾テロを受け、19日未明、報復に打って出た政権側。
軍を市内の各地区に展開させ、夜を徹して反政府勢力との間で、激しい戦闘が行われました。
 

ダマスカスにいる反政府勢力活動家
「政府軍の戦車やヘリコプターが動くものすべてを殺害している。一般市民の家も破壊されている。
負傷者を病院に運びたくても、病院に向かう途中で殺されてしまう。」

 

現地に展開する国連の停戦監視団関係者は、4月下旬以降で最悪の事態だという認識を示しました。
 

国連停戦監視団 関係者
「ダマスカスの戦闘はこの72時間で激しさを増している。
特にこの24時間は私がここに来てから最も激しい戦闘だ。」
 

ダマスカスでは、「シャッビーハ」と呼ばれるアサド政権を支持する民兵が住民を襲っているという情報もあり、首都の戦闘は、激しさを増しています。

ダマスカスの戦闘 最新情勢は

鎌倉
「ここからは別府記者に聞きます。
ダマスカスの最新の状況どうなっていますか?」

別府記者
「シリアで反政府運動が始まってから1年と4か月。
アサド政権の牙城、人口200万人の首都ダマスカスに、反政府勢力が達したのは、確かに明らかに新たな段階です。
市街戦は、日曜日に始まり、きょう19日で5日目も続いています。
しかし、反政府勢力が、ダマスカスを一気に攻略するのは容易ではありません。
反政府勢力は、首都の中心部で攻撃を行いましたが、ゲリラ的な攻撃にとどまっています。
市内に拠点となる地区を確保できていませんし、拠点を維持しつづけるだけの要員や補給のルートも確立していません。
さらに、双方の武器にも大きな差があります。
これに対し、政府軍は首都を死守するため部隊の増強をはかっています。
イスラエルとの国境近くに展開している部隊が、首都に移動したとの情報もあります。」

アサド大統領 その心境は?

傍田
「別府さんはかつて、アサド大統領にインタビューしたことがありましたよね。
今、自らを取り巻く状況が厳しさを増しているアサド大統領、今どういった心境にあると別府さんはみますか。」

 

別府記者
「事態がここまで悪化するとは想定外のことだと驚きをもって受け止めていると思います。
5年前、ダマスカスの大統領府で行ったインタビューで、アサド大統領は、市場経済への移行や、表現の自由の拡大など、様々な改革を目指したいと熱く語っていました。
自分は、旧世代の抵抗と戦う改革者として、若い世代からは支持されていると自信を見せていたのが印象的でした。
しかし、今、多くの若者たちが大統領にノーを突きつけているのです。
またインタビューでは、当時、混乱を極めていた隣国イラクの情勢が、シリアを始め周辺国に波及することに懸念を示していました。
しかし、今は逆にシリアの混乱が周辺国に波及することが懸念されています。
『こんなはずではなかった』と自問している大統領の姿が想像できます。」

鎌倉
「シリア情勢には周辺の国々のさまざまな思惑がからんでいます。
シリアは、イスラム教スンニ派の国民が全体の7割以上を占めています。
しかし、国の中枢を支配しているのは、アサド大統領自身が属する、少数派でシーア派の一派のアラウィ派です。
このためシーア派の大国・イランが、アサド政権の後ろ盾となっています。
これに対して、スンニ派が主流を占める反政府勢力に対しては、同じスンニ派が多数を占めるサウジアラビアやカタールなど湾岸諸国が、武器の提供などを含めた支援を行っているとも言われています。
このように周辺国が介入を強めていることが、シリア情勢の一層の混迷を招いています。」

周辺国が介入 混乱深まるシリア

周辺国は、シリア情勢にどのように介入しているのか。
実態を探るため、ヨルダンとシリアの国境地帯に向かいました。
ヨルダン側の国境の町ラムサ。街中には、シリアからの難民を支援するとする複数の慈善団体が、拠点を設けていました。

 

澤畑記者
「ここではシリア難民に対する金銭的な支援が行われています。」

2週間に1度、1500世帯の難民に渡される金券は、日本円で1万5千円ほど。
この地域では生活を支えるのに困らない金額です。
こうした慈善団体の活動資金は、イスラム教スンニ派のサウジアラビアなど湾岸アラブ諸国から寄せられています。
その理由はイスラム教スンニ派を中心とする反政府勢力が、対立するシーア派の一派に属するアサド大統領によって激しく弾圧されているからです。

慈善団体代表
「政府軍と反政府勢力の双方で、かけがえのない命が失われていますが、自由と正義の実現のためには、反政府派にこそ支援の手を差し伸べるべきです。」


 

難民の中には、反政府勢力に加わった人も少なくありません。
この団体では難民支援という名目で事実上、反政府勢力を支えているのです。

反政府勢力の戦闘員
「サウジアラビアや湾岸諸国の支援には感謝していますよ。」

こうした公然とした活動に加えて、湾岸諸国は、シリアの反政府勢力に対する武器支援を強化しているとされています。
慈善団体の代表も、アサド政権に対する武装闘争を推し進めるべきだと言ってはばかりません。

慈善団体代表
「政治的・外交的な解決の望みがないのなら、反政府勢力に武器支援するまでです。」

資金や武器とならんで、反体制派の大きな武器となっているのがメディアです。
その急先鋒が、カタールの王族がスポンサーとなっている衛星テレビ局アルジャジーラです。

「数千人が反政府デモに参加しました!」
 

アサド政権は、アルジャジーラが実際には小規模なデモも、誇張して伝えていると、非難しています。
アルジャジーラ内部からも報道が偏りすぎていると、抗議の辞職をする記者が現れました。
元ベイルート支局長のビンジッドさん。
去年4月、アルジャジーラを去りました。
ビンジッドさんもアサド政権は独裁的だと批判していますが、中立性を失った報道は、市民の犠牲を増やすだけだと指摘しています。

元アルジャジーラ記者
「アラブメディアは、出資者である湾岸諸国の方針に追随し、(シリアの)宗派間対立をあおり、戦闘激化の片棒を担いでしまっている。」


 

一方、湾岸アラブ諸国に対抗して、アサド政権の後ろ盾となっているのが、シーア派の大国イランです。

テヘランで開かれたシリア物産展です。
経済制裁で苦しむアサド政権を支援しようと開かれました。

出展したシリア人
「(シリアもイランも)経済制裁下にあるので、ともに協力できるはずです。」
 

さらにイランはアサド政権に、ロケット砲などの武器支援を強化していると見られています。

反政府勢力は今年1月、『アサド政権に加担していたイラン人の狙撃手』とする映像を公開。
イラン側は、インフラ工事のために派遣した技術者だと否定していますが、アサド政権を支援する姿勢を崩していません。

周辺国の代理戦争の様相を呈し始めてきたシリア情勢。
外部からの介入で、戦闘は激しさを増しています。

シリアに介入 周辺国の思惑

傍田
「では、別府記者にふたたび聞きます。
別府さん、このシリア情勢ここにきて、周辺国の介入も目立ってきましたが、各国の思惑というのはどこにあるのでしょうか?」

 

別府記者
「各国の思惑を理解するためには、まず実はシリア問題の背景には、中東の最も深刻な問題、イランをめぐる対立があることを指摘しておきたいと思います。
ペルシャ湾を挟んで、核開発で欧米と対立するシーア派の宗教国家イランと、イランに対抗し、米軍基地を多数受け入れているスンニ派の王族が支配する産油国が、にらみ合いを続けています。
この対立が、シリアに持ち込まれているのです。
中東の対立構図が、周辺国からの介入により、シリアに持ち込まれていることで、宗派対立の先鋭化を招いています。
事態は代理戦争の様相を呈しながら、悪化の一途をたどっています。」

傍田
「別府記者に伝えてもらいました。」

鎌倉
「こうした中、国連の安全保障理事会では、この後、日本時間の今夜11時から停戦監視団の活動期限の延長とアサド政権に対する制裁条項を盛り込んだ決議案の採決が予定されています。
しかし、ロシアや中国が反対の姿勢を崩しておらず、ぎりぎりの交渉が続いています。」

まもなく開かれる国連安全保障理事会の会合では、アメリカやイギリスなどが今月20日に迫った停戦監視団の活動期限を45日間延長するとともに、アサド政権が10日以内に重火器の使用停止などに応じなければ非軍事的な制裁を科すという決議案を提出しています。
しかし、ロシアや中国は、制裁には強く反対し続けており、採決にかけられれば拒否権を発動する可能性が高いと見られています。
またこれに先立ち、国連のパン・ギムン事務総長は19日、声明を発表し、
「時間こそが重要だ。
安保理には、シリア情勢に対する効果的な行動を取る責任がある」
として、安保理がただちに対立を解消し、一致した行動を取るよう強く促しました。

シリア制裁決議案 採決の行方

鎌倉
「決議案の採決予定の時刻が迫っている国連本部には榎原記者がいます。
榎原さん、現在そちらはどのような状況でしょうか。」


 

榎原記者
「シリアの制裁決議案をめぐる会合はこちら時間の午前10時、そちらの午後11時から始まる予定です。
まもなく、安保理メンバー15カ国の大使らが会合のために集まってきます。
アメリカやイギリスなどが提案した決議案はアサド政権が10日以内に停戦に応じなければ、資金の凍結とか国外渡航禁止などの制裁を科す、というものです。
しかしこの軍事的ではない制裁に対してもロシアと中国は真っ向から反対し、その姿勢はまったく変わっていません。
そのためきょう、これから採決が行われれば、中ロ2カ国は拒否権を発動する可能性が高いと見られています。」

回避できるか 停戦監視団の期限切れ

傍田
「しかし、その結果、活動期限が切れると国連の停戦監視団はどうなってしまうのですか?」

榎原記者
「決議案には停戦監視団の活動延期も含まれているので、これが否決されれば、監視団は今月20日以降、ただちにシリアから撤退しなければなりません。
ということは、国際社会はシリアを事実上見捨てることになるわけで、安保理各国はその事態だけは避けたいと危機感を強めています。
このため、制裁決議案が否決、廃案となった場合に備えて欧米諸国は、制裁についての文言は省き、監視団の期限の一定の延長だけを盛り込んだ新たな決議案についても現在検討しているということです。
安保理としてなんとか一致した対応策が見いだせないのか、水面下でぎりぎりの交渉が続いています。」

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