2012年7月26日(木)

世界最大規模の軍事演習で中国を牽制する米軍

アメリカ、韓国、日本そしてロシア。
各国の艦船が今、ハワイに集結しています。
世界最大規模の軍事演習『リムパック』です。
22か国、2万人以上が参加して行われています。
アジア太平洋地域を重視する新たな戦略を打ち出したアメリカが主催するリムパック。
今年はこれまで以上に同盟国などの役割が強化され、軍備を増強する中国をけん制する狙いがうかがえます。
 

オバマ大統領
「現在のさまざまな難題に立ち向かうには、アメリカの力だけでは十分ではない。
アメリカの総力を結集したうえで、同盟国などと協力して取り組まねばならない。」
 

演習の現場から、アメリカが描く新たな国防戦略に迫ります。
 

傍田
「2年に1度行われる世界最大規模の軍事演習『リムパック』が、ハワイとその周辺で先月(6月)から行われています。」


 

鎌倉
「アメリカが主催するその『リムパック』とは、どういった演習なのか。
黒木さんからです。」
 

黒木
「リムパックとは、環太平洋合同軍事演習。
アメリカ海軍主催の海洋合同軍事演習のことです。
1971年に開始。
当初はアメリカ、カナダ、オーストラリアが中心となって行っていました。
以来2年に1度行われ、前回の2010年は14か国が参加し、今回は過去最多の22か国が参加しています。

艦船や航空機など部隊として参加したのは、日本や韓国、そして初参加のロシア、ニュージーランドなど11か国。
司令部に連絡将校だけを参加させたのはイギリス、インドネシア、初参加のインドなど11か国です。
艦船46隻。航空機200機。兵士2万5000人が参加して行われている今回のリムパックは、海洋合同演習としては過去最大規模となりました。」
 

鎌倉
「太平洋の主要な国が参加する中、アメリカが、演習に招待しなかったのが中国です。
急速に軍備の増強を進める中国の動向をにらんだ今回のリムパック。
国防費の大幅な削減という国内事情を抱える中、アメリカ軍は、同盟国の役割を強化することで展開能力の向上を図ろうとしています。
軍事演習を通して、その取り組みを取材しました。」

リムパック 描く新国防戦略

海洋合同演習としては過去最大となった今回のリムパック。

今年は、ロシアやニュージーランドなどが艦船とともに初参加。
インドも、艦船派遣は見合わせたものの、初めて司令部に将校を派遣しました。

 

潜水艦が廃船を標的に、本物の魚雷を撃ち込む訓練です。
魚雷が廃船に命中し、ゆっくりと海に沈んでいきます。
実戦さながらの光景です。
海だけでなく陸上でも演習は行われました。
アメリカ海兵隊を中心に上陸作戦が行われます。
 

樺沢記者
「私の後ろでは敵地に上陸したことを想定した実弾射撃訓練が行われます。
1キロ先の標的に向けて射撃訓練は行われます。」


 

演習には、オーストラリア陸軍の兵士も参加しました。
インド洋に進出する構えを見せる中国をにらみ、ことし、オーストラリア北部に新たな拠点を築いたアメリカ海兵隊。
高度な共同作戦を行うことができるよう、訓練を繰り返しています。

オーストラリア 陸軍部隊責任者。
「こうした演習は、相互運用訓練の場となります。
基準の作成や両国の手順、作業方法の効率化に非常に役に立ちます。」


 

今回アメリカ軍は、演習にあたって、司令部の重要な指揮命令のポストの一部をカナダやオーストラリアなど同盟国に与えました。
例えば今回、各国の200機を超える航空部隊を指揮したのはカナダ軍の司令官でした。

カナダ軍司令官
「演習参加のすべての国に地域の安全を守る責任がある。
これは1国ではできない。」


 

リムパックが始まって40年あまり、アメリカ軍が指令機能の中枢に他国を加えたのは初めてのことです。
アメリカとしては、同盟国の役割を強化することで、太平洋での展開力を強化し、急速な海洋進出を進める中国をけん制する狙いです。

アメリカ海兵隊_太平洋副司令官
「地域全体の部隊が一同に会し、能力を統合するすばらしい機会です。」

去最大規模 リムパック その背景は

鎌倉
「現地で取材に当たったワシントン支局の樺沢記者に聞きます。
今回のリムパックが過去最大の規模に拡大されたのは、やはり中国の存在が背景にあると考えていいのでしょうか。」

 

樺沢記者
「はい、それは間違いないと思います。
表向きアメリカは今回の演習が中国をにらんだものだとは、決して言いません。
ただ、今回、中国を演習に招待しなかったということが、それをよく表しています。
これに中国は反発しました。
中国は今月半ば、東シナ海で実弾射撃演習を実施。あたかも米中双方がけん制しあうようにも見えました。
先月、太平洋軍のトップ、ロックリア司令官が中国を訪問しました。
そこでリムパックは、中国を孤立させるような主旨のものではないと説明し、理解を求めたと見られます。
ただ、急速な軍備の近代化と南シナ海や東シナ海など海洋への進出を進める中国に対し、アメリカが警戒を強めていることはまちがいありません。
アジア太平洋地域を重視する国防戦略を今年1月に打ち出したアメリカにとっては、この地域での存在感を示す意味でも、また限られた国防予算の中で効果的に中国をけん制するためにも、各国に可能な限りの参加を呼びかけたわけです。」

アメリカ軍 今後の戦略は

傍田
「アメリカ軍は今後、アジア太平洋地域でどういった戦略を具体的に描いていくことになるのでしょうか?」

樺沢記者
「アメリカ軍は、今後もこの地域でこうした各国との演習を続けることで、相互運用の能力を向上させたい考えです。
太平洋地域の各地で絶え間なく合同演習を行い、展開力を強化していくことで、中国をけん制する狙いです。
さらに各地に新たな戦略的拠点も設けようとしています。
特にベトナム戦争時代にみずから建設し、拠点としていながら、その後アメリカ軍が使っていない施設への回帰が鮮明となっています。
例えば、フィリピンのスービック海軍基地、さらに南ベトナムのカムラン湾、そして、タイのウタパオ空軍基地などです。
アメリカは、各国政府にこうした施設の使用を求めて交渉を続けています。
今後ますます軍事的な存在感が大きくなるとみられる中国を見据え、アメリカはしたたかに布石を打っているという印象です。」

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