「特集「エネルギー、日本の選択」」

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天然ガスが恒久的に原発を代替できるこれだけの理由

ホルムズ海峡への依存はゼロに近づく

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2012年3月22日(木)

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 2カ月以内に日本のすべての原子力発電所が稼働停止する可能性が非常に高くなってきた。

 この事態に、「原発が3基しか動いていない状況で何とか厳冬期を乗り切ったので、このままでも脱原発は十分可能だ」という楽観論が、一部で声高に言われるようにもなっている。

 しかし、夏の電力ピーク需要は冬場よりずっと高く、このままでは夏場に電力不足で工場などの操業に大きな障害が生じる可能性は高い。しかも原発代替の突発的な火力発電所フル稼働で、日本の発電コストは大きく上昇し、これが今後電力料金の大幅値上げとなってツケが近いうちに国民全体に回ってくることになる。

 3.11前は全電源の約3割であった天然ガス・LNG(液化天然ガス)発電は、現時点で日本の全電源の約4割、東京電力や中部電力管内では5割前後にまで急上昇している。自家発電の急遽のフル活用も同様だ。

原発停止による発電コスト上昇は一時的

 ここで誤解していけないのは、この大幅コストアップは元来、原発のコストが安く、火力や自家発電が高いということでは全くないことだ。

 原発の発電コストの大半は設備コストという固定費用(=埋没費用)であり、発電量に応じて新たにコストがかかる燃料費(=可変費用)ではない。逆に、火力発電、特に石油火力発電や天然ガス発電、自家発電は、設備コスト=固定費用は安く、燃料コストが高い。

 既に設備投資が終わっていて、発電の有無にかかわらず発電コストはさほど変わらない、いまだに使用可能な原発をわざわざ止めて、発電量に応じて燃料費が比例的にかかる火力や自家発電を急きょフル稼働させれば、当然発電コストは一時的に大幅に上昇する。

 しかし、原発停止によって発電コストが上昇するというのは短期の一時的現象であって、中長期の構造的な問題では全くない。中長期的に、老朽原発や危険度の高い原発を次々と廃炉にして、すべて火力や自家発電に切り替えても、コスト上昇は原理的に生じない。まず、このことをしっかり認識する必要がある。

 意識的かどうか知らないが、この短期の一時的問題と中長期の問題を一緒くたにした議論をよく見かける。

北米や極東ロシア、東アフリカから調達

 もう一つの短期的な問題は、イランの核開発問題が夏場にかけてこじれ、万が一ホルムズ海峡が一定期間以上、通行不能な事態に陥った場合に、日本中で大電力危機になる可能性である。

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石井 彰(いしい・あきら)

エネルギー・環境問題研究所代表、石油天然ガス・金属鉱物資源機構特別顧問、早稲田大学非常勤講師。1974年上智大学法学部卒業。日本経済新聞社を経て、石油公団にて1970年代後半から石油・天然ガス(LNG)開発関連業 務、1980年代末から国際石油・天然ガス動向調査・分析に従事。その間、ハーバード大学国際問題研究所客員、パリ事務所長などを歴任。著書に『世界を動かす石油戦略』、『21世紀のエネルギー・ベストミックス』、『エネルギー:今そこにある危機』、『石油 もう一つの危機』、『天然ガスが日本を救う 知られざる資源の政治経済学』ほか。

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