季報 エネルギー総合工学Vol29 No.4(2007. 1) > 講演

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icon 季報 エネルギー総合工学Vol29 No.4(2007. 1)

【パネルディスカッション】

次世代の自動車用エネルギーを探る

司会 駒橋 徐 (日刊工業新聞 編集委員)
パネリスト
(五十音順)
池田 元一 (東京ガス(株) エネルギー営業本部
 天然ガス自動車部長)
斎藤健一郎 (新日本石油(株) 研究開発本部 開発部部長)
立花 慶治 (東京電力(株) フェロー(執行役員待遇))
大聖 泰弘 (早稲田大学理工学部 教授)
二宮 利宏 (日産自動車(株) 総合研究所
 パワーソース研究所長)

パネルディスカッション

司会 これまでエネルギーの安全保障とエネルギーの多様化,中でも液体燃料を中心にエネルギーを大量に使う車の二酸化炭素(CO2)排出削減,排ガス規制に向けた技術開発について各方面からお話をいただきました。それを踏まえて,これから5人の方々とさらに具体的な話をしていきたいと思います。

駒橋 徐氏(日刊工業新聞 編集委員)
駒橋 徐氏

 先ほどお話を頂いた大聖先生と松村日石常務以外の方々にまずそれぞれの立場からお話を頂きたいと思います。池田さんからお願いいたします。



池田 元一氏(東京ガス(株))
池田 元一氏

日本の天然ガス自動車の普及状況

 私ども都市ガス業界は,90年代から経済産業省,国土交通省,環境省の政策に協力しながら,石油業界と一緒に天然ガススタンドを作り,また同時に,車のメーカーと一緒に天然ガス自動車(NGV)の開発にも取り組んできました。天然ガス自動車の普及への取り組みは10年以上になります。図1は,NGVの普及状況です。右肩上がりで普及が進んできています。

図1 国内における天然ガス自動車普及とスタンド数
(出所:日本ガス協会)
図1 国内における天然ガス自動車普及とスタンド数
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 最近導入が進んでいるのは主にディーゼル車代替(トラック,塵芥車,あるいはバス)であり,窒素酸化物(NOx),粒子状物質(PM)の排出との関係で,NGVは極めて排出ガスがクリーンということで採用されてきています。
スタンドの数の推移を図2に示しました。

図2 スタンドの分布と建設者別の内訳
(出所:日本ガス協会)
図2 スタンドの分布と建設者別の内訳

2005年度末時点で311カ所です。特に,東京ガス,大阪ガス,東邦ガスといった大手ガス会社がある大都市を中心に整備されています。円グラフでは,建設者別に,ガス事業者,一般資本(ガソリンスタンド事業者など),一般利用不可(バス基地,宅配業者等による自家用スタンド),その他,の内訳を示しました。ガス事業者が作ったスタンドもかなりの部分がガソリンスタンドやオートスタンド(LPG)との併設ですから,スタンド建設には石油業界との協働が今後とも大変重要ということになります。

NGVの利点

[クリーンな排ガス]

 NGVは非常にクリーンな自動車です。ライバルのディーゼル車も大分クリーンになってきたということですが,図3で,現在の「新長期排出ガス規制」の値は外側の枠,2010年から適用が予想されている「ポスト新長期排出ガス規制」の値は内側の枠です。

図3 ディーゼル車に対する国内規制
(出所:東京ガス)
図3 ディーゼル車に対する国内規制

天然ガス自動車のメイン市場の一つは,小型トラック(2t〜4t)の領域ですが,この領域で競合するディーゼル車で「新長期排出ガス規制」をクリアする車は,つい最近一車種が発表されただけというのが現状です。これに対して,天然ガス自動車では,既にその先の「ポスト新長期排出ガス規制(NOx:0.4, PM:なし)」をもクリアするものが発売されています。

[高いCO2排出削減効果]

 これから重要になるのは,地球温暖化対策としてのCO2の排出削減です。CO2削減に関しては,NGVはガソリン車に比べ20%から25%ぐらい,燃費が良いディーゼル車との比較では,同程度から運行条件によっては20%近い削減能力があります。
 図4は,いすゞ自動車が環境コンペティション『ミシュラン・チャレンジ・ビバンダム2003』(於カリフォルニア)で金賞を受賞したディーゼルサイクルに近いサイクルで走らせる直噴NGVの試作車です。

図4 ディーゼルサイクルNGV
(出所:いすゞ自動車ホームページ)

現在商品化開発中とのことですが,これが出てきますと,今の天然ガス自動車よりさらに20%以上のCO2削減が期待できるということで,輸送用エネルギーのCO2削減の切り札になると期待しているところです。

[供給安定性の高い天然ガス]

 次世代の自動車用エネルギーを考えるときに,排ガスのクリーン性,CO2削減に加えて大切なのはエネルギーセキュリティです。図5図6に示しますように,天然ガスの生産は,太平洋圏が中心であること,加えて,日本に対する天然ガス(LNG)の供給元も,アジア・太平洋地域が約75%を占め,中東依存度が低く,石油に比較し供給の安定性が極めて高くなっています。

図5 世界の天然ガス生産量(2004年)
(出所:エネルギー白書2006年度版)
図5 世界の天然ガス生産量(2004年)
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図6 わが国の天然ガス供給元
(出所:日本ガス協会)
図6 わが国の天然ガス供給元

 運送事業者が特に困っているのは,価格の乱高下です。石油の場合は,価格の急激な高騰があり,一時的にでも資金繰りが苦しくなることが,運送事業者の経営に深刻な影響を及ぼしています。
 一方,NGVの燃料である圧縮天然ガスの価格は,図7で示すように,振幅の激しい石油価格に比較して安定しています。

図7 天然ガスと石油価格の変動比較
(出所:日本貿易会月報」より計算)
図7 天然ガスと石油価格の変動比較
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 運送事業者が使いやすいエネルギーとして選択されることも多くなってきています。

世界のNGV普及状況

[全世界で約500万台]

図8は世界全体のNGV普及状況です。

図8 世界のNGV普及状況
(出所:欧州ガス自動車協会統計資料)
図8 世界のNGV普及状況
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486万台のNGVが走っており,アルゼンチン,ブラジルが100万台を超えています。日本は現在2万5,000台で,世界第18位です。
 導入が進んでいる背景として,アルゼンチン,ブラジルなど南米地域では,自国で産出されるエネルギーのうち,輸出しやすい石油は輸出して,輸出するにはLNGへの転換やパイプライン敷設が必要な天然ガスは自国で消費しようという国家戦略があります。また,ヨーロッパ諸国では,日本に先んじて,2003年EU指令で2020年までに輸送用燃料で20%の脱石油を図ることを目指しており,その半分の10%を目処にNGV導入が進められています。さらに,デリー,ソウル,北京といったアジアの主要都市では,NOx,PMの排出を抑え都市の空気をきれいにするためにNGVの導入が図られてきています。以下に,特に最近の導入が進んでいるアジア地域についてもう少し詳しく紹介します。

[アジア諸国での普及状況]

表1に示しますように,中国で11万台,韓国で9,000台,マレーシアで2万台,パキスタンで100万台,インドでも33万5,000台のNGV導入の計画があります。

表1 アジアのNGV普及状況と導入目標
(表をクリックすると拡大します)
表1 アジアのNGV普及状況と導入目標

各国とも今後さらに導入数を増やしていこうとしています。
 最近非常に動きがあるのはタイです。タイでは,2010年にNGVを50万台導入すると言っています。日本が今3万台ですからはるかに大きな数字です。スタンドを740カ所作るということで,国策で様々な優遇策,補助策をとっています。それを受けて,ベンツ,トヨタ自動車,いすゞ自動車,GMタイがNGVのタイでの現地生産を発表したり,韓国の大字がNGVバスを導入すると発表したりしています。タイでのNGV導入に対す考え方もは南米と同じで,海外の高い石油に金を払うより,国内のインフラを整備し自国の天然ガスを使っていく戦略だと聞いています。

[強化されるタイ,中国の排出ガス規制]

 このように,積極的にNGVの導入を進めているアジアの国の中の,タイ,中国の排出ガス規制を図9に示しました。

図9 各国の(ディーゼル車に対する)排出ガス規制
(出所:東京ガス)
図9 各国の(ディーゼル車に対する)排出ガス規制
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EU規制と比較してみると,まだEURO2,あるいはEURO3の段階にあります。これらのレベルでは,日本では少々前の新短期規制の対応の技術でクリアできます。日本の今の技術はそれをはるかに凌ぐものです。規制は今後,厳しくなることが確実ですから,日本の技術がいずれ必要になる日が来ると思われます。

アジア諸国とのエネルギー協力へ

 最後になりますが,本年5月にまとめられた「新・国家エネルギー戦略」の第3章では,「輸送用エネルギーを20%程度削減することを目指す」とされています。更に,6章,7章では,「資源国との協働」,あるいは「アジアの環境エネルギー政策への貢献」をうたっています。そのためにも,NGV導入を国策で進めている産資源国でも有るアジア諸国に対して,日本の進んだ技術を更に発展させて貢献していくということが非常に重要なのではないでしょうか。



立花 慶治氏(東京電力(株) フェロー(執行役員待遇))
立花 慶治氏

増加の一途を辿ってきた電力消費量

 戦後まもない頃は,1カ月の電力消費量は43kWhでした。1961年になりますと,電化製品が増えて1カ月75kWhに,さらに2001年には289kWhと随分増えました。それでも図10にありますように,一世帯当たりで自家用車が使うエネルギーは,1,139リットル(原油換算)で,エアコン111リットル,冷蔵庫75リットル,テレビ44リットルと比べますと,かなりの量になります。

図10 1世帯当りの年間エネルギー消費量(2001年度)
図10 1世帯当りの年間エネルギー消費量(2001年度)
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つまり,新たに自動車用燃料として電気を使うことになると,これだけのポテンシャルがあるということです。それは電力会社にとって大きな商機であると同時に,社会的に非常に大きな責任,即ち,炭酸ガス排出の削減,あるいはエネルギーセキュリティ確保という社会的責任を背負いながら,これだけの物量を供給することを意味します。

発電種別のCO2排出

 そこで,電気をどういう一次エネルギーで作るかが問題になります。図11は,発電種別に,発電所の建設から運転,最終的な廃棄までライフサイクルの炭酸ガス排出の原単位を整理したものです。

図11 発電種別のCO2排出原単位
(出所:電力中央研究所報告書)
図11 発電種別のCO2排出原単位
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このように,発電手段に応じて炭酸ガスの排出には大きな幅があります。
 さらに,発電手段の組み合わせは国によって大きく違います。図12に各国別の電源構成とCO2排出原単位を示します。

図12 各国における電源構成とCO2排出原単位
図12 各国における電源構成とCO2排出原単位
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排出が最も少ないのは0.082kg/kWhのフランスです。国別のCO2排出原単位の大きさは,発電手段の比率に影響されます。フランスは原子力発電の比率が非常に高いのです。カナダも水力の比率が高いために排出原単位が低くなっています。一方,米国は石炭が多いので国としてのCO2排出原単位が0.575と非常に大きいです。日本,東京電力は比較的バランスのとれた電源の組み合わせ(エネルギーミックス)を行っているので,CO2排出原単位は,フランス/カナダと米国の中間ぐらいになっています。
 図13は,東京電力の電源構成の比率です。他社から買った電気も含めて,京都議定書の基準年1990年から現在までの推移と今後の計画を示しました。

図13 東京電力における電源構成の推移と計画
図13 東京電力における電源構成の推移と計画
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図14は,それを色々な指標で見たものです。

図14 東京電力における発電量およびCO2排出原単位の推移
図14 東京電力における発電量およびCO2排出原単位の推移
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1990年には排出原単位が0.382でした。排出原単位は,石油ショック以降のエネルギーセキュリティの観点からエネルギーミックスの多様化を進めた結果,ずっと下がってきました。それが少し横ばい状態で推移した後,一時的に上がったのは,データ改ざん事件のために原子力発電所を多数停止した影響によるものです。その影響はまだ完全に克服されてはいません。
 京都議定書で定められた国家としての目標6%減に対して,電気事業者は自主的な目標を定めました。東京電力も排出原単位を0.31程度(90年比で20%程度)下げるという目標を掲げました。現在,そこに向かって努力しているところです。
図15は,石油ショックがなくて,相変わらず石油に頼り続けてきたと仮定した場合の東京電力のCO2排出量です。

図15 発電種によるCO2排出抑制効果(東京電力の場合)
図15 発電種によるCO2排出抑制効果(東京電力の場合)
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実際の排出量は,原子力などの導入により一番下の線です。2005年時点の排出量が2億トンになるところだったのを1億トンまで削減したことを示します。このカーブが示唆するのは,自動車用燃料として発電量を増やしていこうとすると,これと同じ努力が必要になるということです。

排出原単位を減らす手段

[火力−コンバインドサイクル発電]

 LNG火力には発電効率59%(低位発熱量基準)の「コンバインドサイクル発電システム」という非常に高効率の発電手段があります。
 図16は,火力発電効率向上の経緯を示したものです。

図16 火力発電の発電効率の推移
備考:火力発電効率は、高位発熱量(HHV)換算。( )内は、低位発電量(LHV)。HHVとLHVの違いは、燃料中の水分及び燃焼によって生成された水分の凝縮熱を発電量として含むか否かによるものであり、凝縮熱を含むHHV表示の方が大きくなるので、熱効率は低くなる。
図16 火力発電の発電効率の推移
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川崎1号系列が,効率59%を達成しています。効率を更に上げる技術開発もしています。例えば,固体酸化物型燃料電池(SOFC)を組み合わせると,65%〜70%にできるという試算があり,大幅に原単位を減らす可能性があります。

[原子力−設備利用率の向上]

 発電量に占める原子力発電の比率を高めていきたいという計画がありますが,時間がかかります。今すぐ出来ることは,設備利用率の向上です。日本の原子力の利用率を1%向上させただけで300万トンのCO2排出削減効果があります。これは約200万人(家庭部門)の年間排出量に相当し,東京23区の約4倍の面積の森林が1年間に吸収する量でもあります。設備利用率の向上を実現するには設備が安全でなくてはいけません。そして,地域の皆さんに安心して頂くことです。地道な努力を重ねつつ,利用率向上を実効的な温暖化対策にしていこうと努力しています。図17に設備利用率の推移を示します。

図17 原子力発電の設備利用率向上およびCO2削減効果
図17 原子力発電の設備利用率向上およびCO2削減効果
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海外の実績にできるだけ早く近づけて,地球温暖化対策に更なる貢献をしたいと考えているところです。

[自然エネルギー−買い上げ増加]

 自然エネルギーは,量的に非常に少いですが,色々な努力をしています。東京電力が買い上げている自然エネルギーは,主に風力発電と太陽光ですが,図18に示しますように,最近急激に伸びています。

図18 東京電力による自然エネルギー購入量の推移
図18 東京電力による自然エネルギー購入量の推移
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さいごに

 これまでの話を全部集約しますと,図19のようになります。

図19 東京電力における発電・送電・配電
(出所:『東京電力 サステナビリティレポート2006』を元に編集部で作成)
図19 東京電力における発電・送電・配電
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この後パネルで色々な議論が行われると思いますが,火力発電所から排出されるCO2,硫化物(SOx),窒素酸化物(NOx)の量,各発電手段の割合など,参考になる色々な数字が書かれています。これが本日ご紹介した中で一番お役に立つ図ではないかと思います。
 以上申し上げてきましたデータは,すべてホームページ(http://www.tepco.co.jp/eco/index-j.html)に公開されていますので,ご関心のある方はそこをご覧ください。



二宮 利宏氏(日産自動車(株)総合研究所 パワーソース研究所長)
二宮 利宏氏

 自動車メーカーから見た自動車用燃料の姿,それに対応する取り組み状況についてお話しさせていただきます。
 図20は,米国エネルギー省(DOE)が2006年に発表した長期的な原油価格の見通しです。

図20 米国DOEによる原油価格の長期見通し
図20 米国DOEによる原油価格の長期見通し

2005年のリファレンスシナリオでは,2030年の石油価格が25ドルぐらいになっていました。それが今年は57ドルになっていますから,1年間でリファレンスシナリオが倍ぐらい上方シフトしています。さらに,星印が2006年の最高値(約80ドル)ですから,もう20ドルぐらいの90年代のレベルに戻ることはないのかなと思います。こういうことから,アメリカを筆頭に,エネルギーセキュリティへの関心が非常に高まって,環境問題ともあいまって,代替燃料が見直されているのだと理解しています。

代替燃料の種類

 表2には,色々な代替燃料について,精製一次エネルギー源,特徴,エネルギー密度,コスト,供給量,CO2排出量,駆動システム(パワーソース)への影響で評価した結果を示しました。

表2 代替燃料の種類
(表をクリックすると拡大します)
表2 代替燃料の種類

 やはり,車という限られたスペースに搭載し,移動体として機能するにはエネルギー密度が一定以上ないといけません。そういう意味では液体燃料が一番ありがたいということになります。コストや取り扱い性を考えると,GTL,エタノールとかが使いやすいと思います。ちなみに,パワーソースへの影響では,エタノールの場合,E85(エタノール85%)ぐらいまでは,既存技術の組み合わせで対応できますが,E100(エタノール100%)になりますと,新規の技術開発が必要になります。それから,CO2排出ゼロというポテンシャルがあるという意味では,水素と電力が候補として出てくると思います。ここについては,パワーソースへの影響が大(新規技術開発が必要で,かつハードルが非常に高い)となります。今日は,エタノール,水素,電力について少し話をしたいと思います。

代替燃料としてのエタノール

[セルロース系がCO2排出削減効果大]

 図21には,バイオ燃料によるCO2排出削減効果を示しています。

図21 代替燃料のCO2低減効果
(出所:米アルゴンヌ研究所)
図21 代替燃料のCO2低減効果
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上から2番目の米国産トウモロコシベースのエタノールの場合,well-to-tankでのCO2排出削減効果はあまりありません。これはトウモロコシを栽培する時とエタノール精製の両方に問題があります。これに対し,ベストは次のセルロースベースのエタノールです。非常に大きなCO2排出削減効果が期待されます。

[エタノールはガソリンとの競争力有り]

 図22でガソリンに対する代替燃料の経済性を示しました。

図22 代替燃料の石油に対する経済性
(出所:WBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)
図22 代替燃料の石油に対する経済性
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石油価格が25〜45ドル/バレルだと,サトウキビベースのエタノール,GTL,CNGは,ガソリンに対する競争力を持っています。さらに,技術革新で製造コストが下がってきますと,2020年には,FAME(脂肪酸メチルエステル),CTL,セルロースベースのエタノールが競争力を持ってきます。
 CO2排出削減効果で見ますと,2つのエタノール,BTL,水素が有力になると思います。

DOEが急増を予測するエタノール供給

図23はエタノールの供給見通しです。

図23 エタノールの供給見通し
図23 エタノールの供給見通し
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図中“World DOE”というのは,米国エネルギー省(DOE)が世界について推定したもので,“World IEA”とは国際エネルギー機関(IEA)によるものです。IEAは2020年で約1,200億リットルのエタノールを推定しています。2020年の世界全体のガソリン需要が1兆8,000億リットルと予想されますから,エタノールは発熱量換算でガソリン需要の7%程度になります。しかし,もっと多くないと意味のあるCO2排出削減効果は期待できないと言われています。
 これに対してDOEは,エタノール製造量が急増し,2020年のガソリン需要量の10%になると予測しています。その背景には,政策インセンティブによる大型投資とセルロース由来エタノール製造技術の確立があります。ブッシュ大統領は,2006年の年頭教書演説で,いわゆるエネルギーセキュリティをベースに,中東の石油からの依存を脱却するため,エタノールに対して政策援助をすると言っています。また,食料由来のエタノール製造量を10%以上に増やすことは食糧政策との関係で簡単ではないと思われますので,食料残渣,木とか幹などからセルロースベースのエタノールを作る技術が大幅に普及しないと駄目だと思います。ですから,そういう製造技術がいつ確立するのか,それを後押しする政策インセンティブがどう打たれるのか,ちゃんと見ておかないといけないと感じています。

各国で異なるエタノール濃度規格

 世界各国で,エタノール濃度がどう設定されているか図24に示しました。

図24 エタノール濃度規格予測(2015年)
図24 エタノール濃度規格予測(2015年)
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ブラジルは「E100」(エタノール100%),「E22」(エタノール22%)の規格があり,販売もしています。アメリカは現在,「E85」(エタノール85%)と「E10」(エタノール10%)の規格を持っています。石油の中東依存脱却を目指すということで,「E10」が出回った後には「E85」の量が拡大していくと推定しています。今,タイには「E10」がありますが,2009年から「E20」に対する優遇税制を実施するのではないかと言われています。EUが同じく,「E5」から「E10」に向おうとしています。日本の環境省は,2020年に「E10」にしようとしています。
 このように,世界には「E3」から「E100」まで色々なエタノール燃料があります。これは,各国が自国にとって一番いい燃料を販売しようとしているためです。グローバルにビジネスを展開する自動車メーカーにとっては,こういう色々な燃料に対応する必要があります。エタノールだけでなく,CNG,水素,あるいは電気にしても,地域毎に多様化したエネルギーへの対応が必要だと思っています。つまり,未来の代替燃料は1つに収斂せず,エンジニアはずっと忙しいのではないかと思います。

エタノール燃料への日産車の対応

[E10対応と米国におけるFFVの販売]

 グローバルに販売する日産車への「E10」対応は,一部OEM販売(相手先商標製品として販売)車を除いて,2004年度に完了しています。
 例えば,アメリカの「E85」に対応する自動車「タイタンFFV」は,2004年12月から販売されています。図25に示すこの車はエタノール濃度0〜85%までフレキシブルに対応するということで,FFV(Flexible Fuel Vehicle)と呼んでいます。

図25 エタノール燃料に対応した日産車「タイタンFFV」
図25 エタノール燃料に対応した日産車「タイタンFFV」

[水素,電気エネルギー対応技術開発]

 電動車両には,ハイブリッド車,燃料電池車(FCV),電気自動車(EV)があります。こういう電動車の共通部品として,モータ,バッテリー,インバータがありますが,日産では,こういう共通部品の小型化,軽量化,コスト低減に向け,図26のような技術開発に取り組んでいます。

図26 日産における電動車両対応技術開発
図26 日産における電動車両対応技術開発
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 開発の成果ですが,モーターですと,1個で両軸にフレキシブルに違う出力を取り出せるスーパーモーターという技術を持っています。従来のモーターシステムより約3分の1の小型軽量化,コストダウンが図れています。
 リチウムイオンバッテリーでも,ラミネートタイプの非常にコンパクトなものを開発しました。従来のニッケル水素に対して同じく約3分の1の小型化軽量化,コストダウンです。
 インバータは,主に要素の集約化に取り組んできました。私どものFCVに搭載している旧型と新型の間で2割程度の小型化とコストダウン,加速性能の向上を達成しています。
 こういう技術を搭載したFCVの2005年モデルを現在リースしています。2003年モデルとの比較では,図27のように,航続距離が350km以上から500km以上に上がっています。

図27 X-TRIAL FCV2005年モデル
図27 X-TRIAL FCV2005年モデル

停止から時速100kmへの加速タイムも18秒から14秒に短縮されました。実用域に近づくような航続距離と加速性能になっています。
 航続距離拡大を可能にした要因として,図28に示す高圧水素の貯蔵タンクの70MPa化があります。

図28 高圧水素貯蔵システムの70MPa化
図28 高圧水素貯蔵システムの70MPa化
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2003年モデルでは35MPaまで耐えられる容器でしたが,2005年モデルでは70MPaまで耐えられる容器に代え,貯蔵可能量を約30%増やすことに成功しました。
 加速性能の向上については,図29に示すスタック出力の向上が貢献しています。

図29 スタックの出力向上(63kW→90kW)
図29 スタックの出力向上(63kW→90kW)
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スタックは,2003年モデルと2005年モデルで同じ大きさですが,2005年モデルでは薄型セパーレータの採用により,セルピッチを狭くし,搭載セル数を約40%増やし,出力を63kWから90kWに向上させています。
 実証実験としては,感知試験その他で累計の走行距離が20万kmを超え,安全基準もかなりクリアしています。

さいごに

 自動車メーカーとしては,自動車用のエネルギー源は,濃度,種類,その他色々な面でますます多様化していくだろう,そして,それは多分,1つに収斂するものではないのではないかと考えています。そのために色々なエネルギー源や,それを利用したパワーソースを開発して,CO2排出削減と各国のエネルギーセキュリティに対応していく必要があると思っています。


求める燃費向上とエネルギー多様化

司会 エネルギーセキュリティへの高まりが石油価格の高騰を背景に進行する中で,これからの自動車の技術開発においては,CO2排出削減の燃費向上とエネルギー多様化が一番の焦点になってくると思っています。エネルギー多様化への対応では,グローバルな車産業を見据えた,地域内での技術開発の展開が重要になると思っています。

司会 この先もしばらくは石油の時代が続くと思いますが,過去100年以上にわたり内燃機関の中心はガソリンエンジンで,それは厳しい排ガス基準をクリアし,よりクリーンで成熟した技術になってきています。では,今後,どういう技術に進展していくのか,パネリストの方々にお話を聞きたいと思います。

二宮 午前中,大聖先生が「ガソリンエンジンであと3割ぐらい燃費を上げる技術はある」とおっしゃいましたが,信頼性やコストとの話を別にして技術のポテンシャルで言えば,そのとおりかなと私も思います。2〜3割燃費を上げるキーポイントは,軽負荷領域の燃費を高負荷領域並みまで上げていく方向だろうと思っています。
 低負荷と高負荷で燃費が違う理由の1つは燃料を燃やして得られる熱がどれだけ仕事に変わるかという熱効率が,低負荷だと低いということです。熱効率を上げるための将来技術としては,もっと実際の圧縮比を上げて燃焼させるために,空気を多く入れリーン(希薄)燃焼にして,点火前のガス温度を上げる,機械的に圧縮比を上げる,あるいは,燃料が燃えている時に燃焼室を高負荷状態にするために4気筒のうち2気筒だけを働かせるとかという技術が考えられます。
 空気を入れてやればやるほど,理論的に空気サイクルに近づいて熱効率が上がりますので,リーン燃焼というのは熱効率を上げるには非常に良い方法です。ただ,排気規制が非常に厳しくなった現在,NOxの処理が難しいということで,リーン燃焼は非常に肩身が狭くなっています。しかし,将来的にはHCCI(Homogeneous-Charge Compression-Ignition:予混合圧縮着火)のようなリーン燃焼とクリーンな排気を両立できる燃焼が可能になれば,2〜3割の燃費低減もガソリンエンジンにとって夢ではないと思います。また,それに向けて一生懸命技術開発をしているという段階です。

ディーゼルエンジンの燃費向上

司会 次に,燃費の優れたディーゼルエンジンの今後についてお話を伺いたいと思います。今,ヨーロッパで走っている車の50%はディーゼル車です。2006年8月17日には,日本でのディーゼル乗用車としては,ダイムラークライスラー社が日本の自動車メーカーに先んじて「Eシリーズ」を導入しました。日本ではディーゼルエンジンの乗用車は現在,全体の0.1%に過ぎません。この先,国の方策で最も厳しい排出ガス規制の「ポスト新長期排出ガス規制」をクリアすることが大きな課題になってくると思いますが,日本でのディーゼルエンジンの今後の,特に乗用車市場における展望について,大聖先生はどう見ていらっしゃるでしょうか。

大聖 ディーゼル車に対する「ポスト新長期排出ガス規制」はかなり厳しい規制です。排気の後処理も高圧噴射の精緻化もやらなければいけないとなりますと,燃費が良くてもランニングコストが高くついてしまいます。そうすると,消費者は経済的な車の方を選択することになると思います。

大聖 泰弘氏(早稲田大学理工学部 教授)
大聖 泰弘氏

 行政面で言いますと,例えばハイブリッド車や電気自動車のように税的なインセンティブをディーゼル車導入に付与するというのは難しい状況です。と言いますのは,一方でガソリン車が規制値の4分の1の低排出ガスを達成しているからです。確かに,長距離乗る方にとっては,ディーゼル車は非常に経済的なメリットがあると思いますけれども,そうでない場合には,ディーゼルのメリットは出てこない訳です。
 今夏,ダイムラークライスラー社が日本市場に投入した「Eシリーズ」ですが,私はドイツでこのモデルを1,000kmぐらい乗るチャンスがありました。乗ってみると,トルクの厚みはガソリンの比ではないですし,燃費も結構良くて素晴らしかったです。ただ,アウトバーンを走るような運転ができる場所は,日本ではものすごく限られていますので,当面,一般ユーザーは手を出しづらいと思います。
 ですから,2009年から始まるポスト新長期規制をどうやってローコストでクリアできるかという,その辺が大きなポイントではないかと思っています。

司会 ディーゼルの排出ガスが非常にクリーンになってきた背景には,低硫黄軽油の存在があると思います。現在,硫黄分が10ppm以下というサルファーフリー(超低硫黄)軽油が登場しています。世界で一番早く日本がこのレベルを達成していますが,この先,どこまで硫黄分を下げていくことが可能なのでしょうか。斎藤さん,お願いします。

斎藤 燃料側から言いますと,厳しくなる排出ガス規制への対応は完了しています。後は排出ガスがきれいなディーゼル車の登場を待つばかりとなっています。ガソリンについても同じです。
 1990年代は乗用車のうち6%ぐらいがディーゼル車だったらしいのですが,その当時の軽油の硫黄分は2,000ppmありました。それが今10ppmになっています。皆さんには是非ディーゼル車に乗っていただいて,乗り心地だけでなくて,軽油の匂いも嗅いでいただいて,どれだけ硫黄が低くなったかを感じていただきたいと思っています。
 ディーゼル車は,CO2排出削減効果が2割くらいあると聞いています。例えば,軽油とガソリンの比率が1割ぐらい変わると,CO2が200万トンぐらい減るということですので,サルファーフリー燃料を活用して,是非「ポスト新長期排出ガス規制」のクリアにチャレンジしていただきたいと思っています。そこからもっと先となりますと,自動車メーカーの方々からリクエストがある度に,燃料側として対応すべきところは対応するということで考えています。

エネルギー源の多様化

[天然ガス自動車の開発課題]

司会 天然ガス車は既に「ポスト新長期排出ガス規制」を達成しています。かつて東京都がディーゼル規制をする時に,「その代替は天然ガス車だ」と指摘しました。今,天然ガス車の導入台数は数千台の伸びにとどまっていますが,クリーンな排ガスという点では,天然ガス車にとって今が市場拡大のチャンスなんじゃないでしょうか。

池田 非常にチャンスだと思っていますし,追い風も吹いていると思っています。しかし,やはりイニシャルコストが高い,あるいはスタンドがないという欠点もありまして,年間4,000〜5,000台ぐらいの導入台数になっています。
 クリーンな排出ガスと燃費は,トレードオフの関係にあります。燃費を上げると排出ガス対策がかなり難しくなる。排出ガス対策をやっていこうとすると燃費向上が難しくなります。NGVの燃料である天然ガスはもともと非常にクリーンですから,そのトレードオフがある程度解決されています。NGVの排出ガスをきれいにするには,ディーゼル車やガソリン車の成熟技術でも「新長期排出ガス規制」および「ポスト新長期排出ガス規制」をもクリアできます。燃費との関係で,ディーゼル車が排出ガス対策で苦しくなる一方で,NGVの方はディーゼルサイクルまで取り入れようという展望もあり,これからご期待いただいていいのではないかと思います。

石油代替燃料の将来見通し

司会 世界的にエネルギーの多様化が進む中で,『新・国家エネルギー戦略』では,2030年で運輸部門における石油依存度(燃料に占める石油の割合)を80%まで減らすことを目標にしています。日本が2030年時点で20%を石油代替燃料に替えていくとなると,どんな数字になるのか,大聖先生からお話し願えないでしょうか。

大聖 乗用車の場合,燃費が向上するおかげで,現在の石油消費量を100とすると,2030年では,頑張れば60ぐらいになる,つまり4割ぐらい減るのではないかと思います。石油消費量を減らすことで,石油以外の自動車用燃料の消費量が変わらない,あるいは増えれば,石油依存度は下げることができます。
 燃費向上には,車の軽量化と利用のあり方,例えば,ITS(高度交通システム)やIT(情報技術)が貢献すると思います。
 代替燃料としては,バイオマス,天然ガス,GTL,それから電気を挙げることができます。近距離ですと電気自動車で十分だということが計算をやって明らかになっています。天然ガスと電気のいいところは家庭までエネルギーが来ているという点です。ですから,ユーザーも結構安心して使える面があると思います。ただ,ガソリン車と比較すると不便だという話になってしまいますが,リチウムイオン電池が安くなってくれば,電気のランニングコストが安いですから,2割は石油消費量を減らすことができるのではないかと思っています。
 競争があると思いますけれども,そこで大事なのはやっぱり経済性とか利便性,それから社会的な意味でのコストですね,社会経済性といいますか,そういったものもきっちり押さえた上で導入を図ることが必要だと思っています。

ハイブリッド車の見通し

司会 エネルギーが多様化する中での車の開発で,当面,日本ではトヨタ,ホンダを中心にハイブリッド車の導入が最も強く目を引いています。トヨタが2008年には新しいハイブリッド車を出してきますし,ホンダも2009年にはワールドワイドのハイブリッド車を出そうとしています。ハイブリッド車は1997年に導入してから10年になり,2010年には170万台という予想もなされています。この10年の間に,ハイブリッド車も大きく進化してきています。日産自動車はトヨタから購入したハイブリッド車をアメリカで販売開始します。この先のハイブリッド車のコスト面,効率面での課題を二宮さんから聞かせてもらえますか。

二宮 今のハイブリッドの一番の課題は原価です。それをいかに下げていくのか。中でも,インバータとバッテリーのコストダウンが課題です。インバータについては,小型化,集約化,そのためには,SiC(シリコンカーバイド)みたいな素子の革新が必要なのではないかと思います。バッテリーについては,リチウムイオン電池の方向だと思いますけれども,今のリチウムイオンをいかに下げていくかということで,各社が凌ぎを削っているところで,日産もかなり力を入れて開発をしています。
 原価以外では,ハイブリッド車は燃費がいいというところですけれども,それを更に広げていくというのがもう1つの課題だと思います。トヨタのプリウスを初めハイブリッド車は,バッテリーの充電レベルを50%なら50%ぐらいのところに設定しておいて,減速エネルギーをうまく回収して加速の時に使う,そういうものをアシストすることで非常にいいエネルギー効率を生み出しています。さらに,CO2排出削減効果を上げるためには,電気で走る領域を広げていくということが必要だと思います。そういう意味では,電池の搭載量を上げて外部電力から充電するという「プラグイン化」で更にCO2を下げる,クリーンにするということが次の大きな技術課題だと思います。それをやるにはやはりバッテリーのところをどうするのかというのが一番大きいと思います。

期待がかかるリチウムイオン電池

司会 ハイブリッド車も電気自動車も結局のところ,バッテリー技術が一番のポイントだと思います。今,リチウムイオン電池のエネルギー密度はニッケル水素電池の倍以上あり,急速充電できますので,バッテリー技術開発の流れがリチウムイオン電池に向ってきていることは事実です。国も来年度から車向けに新しいリチウムイオン電池を中心とした技術開発を予算化しました。東京電力は富士重工から電気自動車(EV)を3,000台購入して導入しようとしていますが,これはリチウムイオン電池の開発の成果だと思います。
 立花さんから,東京電力が導入していくリチウムイオン電池を中心にしたEVのお話を聞きたいと思います。

立花 かつて中小型のEVブームがありましたが失敗しました。東京電力も多くのEVを導入したのですが,散々な評判で,私自身,誰も乗らないで倉庫で眠っているのを見かけたことがあります。その失敗の反省から,東京電力と富士重工業(株)とで業務用電気自動車の共同開発が2005年9月にスタートしました。
 そもそも以前のブームの時になぜ失敗したかというと,「ガソリン車に対抗しよう」という大それたことを考えたからです。そこで,我々はEVが生きていける場所を探すことから始めました。東京電力は業務車両を約8,300台保有しているのですが,1回の出動当りの走行距離について,図30のようにその頻度を見ましたところ,特に東京,神奈川,千葉,埼玉といった首都圏では,走行距離100km以下が圧倒的に多いことが分かりました。そうしますと,3,000台ぐらいはEVに置き換えられるだろうと考えたわけです。

図30 東京電力社有車の走行距離
図30 東京電力社有車の走行距離

 我々が導入を進めているEV試作車には,リチウムイオン電池を車の底に積み込むことができます。最高速度100km,1充電走行距離80km,2人乗りという仕様ですが,80km未満の距離なら,人や物を乗せて走るための十分な車内スペースを確保できています。私も試乗してみました。バッテリーが重たいのですが,重たいのが下にあるので特にカーブを曲がるときの快適な感覚が新たな価値を生むのではないかと思っています。まずは,この試作車を2006年6月から10台配置し,実際の業務に用いて実証試験を行ってきました。本格導入に備えて,今年度中にさらに30台のEV試作車を導入する予定です。結果が良ければ,また値段についてメーカーと折り合えば,3,000台ぐらい買おうと考えています。現在,1台300万円なのですが,高くても買いたいという仲間がいれば,全体として値段も下がりますので,仲間を募っているところです。

司会 民間の「日本EVクラブ」が今年8月初め,筑波サーキットに隣接するコースでEVの24時間耐久レースを行いました。日本EVクラブは毎年,EVのレースを開催してきていますが,今年は東京電力が開発した15分で充電できる急速充電器を持ち込みました。舘内端EVクラブ代表は,その急速充電設備に「去年は鉛バッテリーを何台も持ち込んで急速充電したのだけれど,鉛バッテリーが壊れていった。今年は東京電力の急速充電器で24時間耐久レースの全部を賄えました。まったくEVの考え方が変わりました」と高く評価していました。それはリチウムイオン電池の性能の高さによるものだと思います。この先,二次電池の開発は,リチウム電池が本命になってくるのでしょうか。コストダウンなどを含め,今後のリチウムイオン電池の開発動向をどなたかお話しできる方はいらっしゃるでしょうか。

立花 会場にバッテリーを開発されている方がおられれば,最も適切と思いますが,おられなければ,東京電力の姉川氏にお願いしたらどうかと思います。

姉川 東京電力の姉川と申します。電池業界では,特に移動用では,開発の皆さんは随分前からリチウムイオン電池を本命と思って開発されています。今現在,もう結構いいレベルに到達していて,当社がもう一度電気自動車に力を入れてみようと思った大きなきっかけは,我々がレビューした時に,寿命,急速充電,それから安全性でかなりのレベルに達していたことです。改良の余地もまだまだあるように見受けられましたので非常に期待が持てると思っています。どこまで性能が向上するのか私自身も分かりませんが,一定距離での使用といった限定された用途には十分対応できると期待しています。

司会 ハイブリッド車にしろEVにしろ電池技術が1つの大きな鍵です。ハイブリッド車では高速充放電,EVは急速充電の技術が重要です。今後の技術開発の進み方は,ハイブリッド車における高速充放電のエネルギーマネジメント技術の確立によって,EVがさらに発展していくという二重構造になってくるのではないかと見ています。

エタノール

司会 エネルギー多様化の中で,CO2排出削減に貢献するバイオマスエタノールが話題になってきていますが,日本ではエタノールを3%をガソリンに混合した「E3」と,エタノールの「ETBE」(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)をガソリンに添加して使う2つの方法での導入が検討されてきています。「E3」は光化学スモッグを起こしやすい,相分離を起こしやすいという欠点が,「ETBE」は第二種監視化学物質として規制を受ける有害物質であるという欠点があります。両方の欠点を踏まえたうえで,石油業界は「ETBE」の製造を決めましたが,その経緯について,もう一度お話し願えないでしょうか。

[エタノール直接利用かETBEか]

斎藤 エタノールの使い方として,直接混合と「ETBE」への加工という2つがあります。
 直接混合の課題が3つあります。1番目に,水が混入して相分離が起こった場合,ガソリンスタンドのタンクの中でガソリンの品質が変化する。最悪の場合,ガソリンの代わりに水が給油されてしまう恐れがあります。2番目にに,水の混入を防ぐにはローリーにガソリンを積み込むときにエタノールを混ぜながら入れて出荷することになりますが,出荷したものがどんなものか確認できないという問題があります。日本では「揮発油等の品質の確保等に関する法律」(品質確保法)がありますから,末端のガソリンスタンドで品質を保証しなければいけません。従って,エタノールの直接混合をやろうとするならば,品質確保法の運用方法を変えていただかなければなりません。変えていただけたとしても,供給業者の責任として,品質が確認されていないものをお客様へ届けるというのはちょっと問題があると思います。そして3番目に,直接混合の場合は蒸発ガスが増えてしまいます。日本では光化学オキシダントの環境基準がほとんど達成されていないという状況にありますので,今以上に蒸発ガスを増やすというのは環境上問題だろうと考えています。
 一方,エタノールを「ETBE」にすることで,直接混合における「水による相分離」,「品質保証」,「蒸発ガス」の3つの課題をすべて解決できます。「ETBE」のもう1つの利点は,日本では恐らく供給量が非常に限定されたものになるだろうエタノールを日本に適した形で使っていけることです。エタノールとCO2の排出が少なく安定供給できるLPGを組み合わせて「ETBE」を作るほうが,限定されたエタノールの使い方として一番いいと思っています。

斎藤健一郎氏(新日本石油(株)研究開発本部 開発部長)
斎藤健一郎氏

 「ETBE」が「化学物質審査規制法」(化審法)で第二種監視化学物質に指定されましたので,色々とご心配の方々もいらっしゃるかと思いますが,全ての化学物質は大なり小なり人体へ悪影響があります。「ETBE」も使い方を間違えれば変なことになってしまいますが,ガソリンとして正しい使い方を確認した上で使っていけば,問題はないと思っています。現実に,ヨーロッパではそのように活用されています。
 一方,アメリカでは「ETBE」を使えない状況になっています。これは「ETBE」の類似物質である「MTBE」を混合したガソリンがガソリンスタンドのタンクから地下水に漏洩し,飲み水に匂いがついてしまったという事故が多発したためです。毒性が問題になるレベルまで深刻ではなかったのですが,事故が多発した当時,アメリカは日本の100倍ぐらい漏洩事故が起こっていたと聞いています。ですから,アメリカでは「MTBE」の使い方を間違ったと私は思っています。
 そういうことで,正しい使い方を確認して,その使い方をすれば,「ETBE」はガソリンとして問題なく使用できると考えています。

司会 自動車メーカーでは,日産,ホンダ,トヨタとも「E10」対応車が完了しています。日産は,FFV(Flexible Fuel Vehicle)でアメリカの「E80」への対応も確立しています。ブラジルでの「E100」へ対応のFFVも整います。FFVでの技術的課題はどういうところにあるのですか。

二宮 アメリカでは「E85」のスタンドの数はそう多くありません。たまに「E85」を入れ,それ以外の時にはガソリンを入れるというお客さんがほとんどです。ということは,ガソリンタンクに給油するたびにエタノール比率がかなり大幅に動くということです。ですから,燃焼時のエタノール比率を推定するというところが技術課題です。単位容積当たりの発熱量がガソリンに対してエタノールは6割強ですから,1馬力出すのにガソリンの1.5倍ぐらいの燃料を入れないときちんと燃えません。どのぐらいエタノールが入っているのかの推定は非常に大事ということになります。
 初期には,アルコールセンサーを付けて,混入比率を測ったりしていたのですが,現在では通常の空燃比センサーを使っています。多少燃料の吹き方を変えることで,燃焼時のエタノール量を推定するアルゴリズムをコンピュータの中に組み込んでおりまして,連続的にエタノール含有量が変わる燃料に対して燃焼を保証しています。
 ただ,エタノールは揮発性が高いですから,蒸発するとか,冷機時の排出ガスがやや多いとかの問題があります。ですから,排出ガスについては通常のガソリン車よりも気をつける必要があるのです。多少原価をかけて触媒を多くしなければいけない場合もあります。

セルロースベースエタノールの必要性

司会 アメリカではトウモロコシベースのエタノールを年間1,400万トン程度製造していますが,新しい国家ビジョンでは2012年に年間2,800万トンまで増やしていこうとしています。これは,アメリカがトウモロコシ栽培をこれまでの農業政策からエネルギー政策に転換している1つの証拠だと思います。遺伝子組み換え技術などで,2012年以降にはセルロース系エタノールをトウモロコシを上回る量で取り出そうとしています。日本国内では,間伐材とかからセルロース系エタノールを取り出す技術の開発,市場開拓を進めれば,エタノールを190万キロリットルぐらい確保することは可能だと思いますが,セルロースベースのエタノールの技術開発はどうでしょうか。

斎藤 なぜセルロースベースのエタノール技術開発を行うかを考えみたいと思います。今作られているエタノールのほとんどは,従来食物として栽培してきたサトウキビなどから作られています。他方,世界の最近の食糧生産は頭打ち状態に陥ってきています。一説によりますと,現在は年間約20億トンの穀物生産がこれ以上増えないということです。その一方で,世界人口は毎年7,000万〜8,000万人増え続けています。そういう中で,食物をエネルギー源にして良いのかという疑問があります。更に言えば,今,全世界で年間3,000万リットルの燃料用エタノールが作られていますが,いつまでも燃料を作ってる場合じゃないという気もしています。やはり,食物と競合しないセルロース,あるいはセルロースベースの廃棄物からエタノールを作っていけば,誰にも迷惑がかからないだろうということで,セルロースベースのエタノールに着目しているわけです。
 サトウキビなどから作るエタノールを「在来エタノール」と呼べば,セルロースベースは「非在来エタノール」ということになります。こちらの方はまだ何万キロリットルもできるものではないので,早く技術開発を進め,セルロース系を一人前のエネルギーにしてやった上で,量を見ながら使い方を考えていくことになると思っています。
  ただ,セルロースベースの廃棄物も動物の飼料になるという話も聞きます。1kgの肉を作るにはその7倍の穀物が必要ということなので,セルロースベースといえども場合によっては食糧問題に絡んでくるところがあります。そこら辺は, 食物の方とエネルギーの方とが対話をして,両方で取り合いにならないようにはしなければいけないと考えています。

バイフェーエル車の位置づけ

司会 エネルギーの安定供給と環境性という面では,エタノールと並んで天然ガスも非常に高い位置にありますが,日本ではNGVの導入がそれほど伸びていません。それを打破していくために,ガス協会でバイフューエル車導入のPRを行っています。現在のNGVは1回の充填では300kmも走れませんが,バイフューエル車で航続距離を500kmぐらいに伸ばすとか。これからのNGVの動向はどうでしょうか。

池田 NGVの欠点は,「航続距離が短い」,「スタンドがない」,「車両価格が高い」という3点です。図31がボルボ社製のバイフューエル車です。

図31 ボルボ社製のバイフューエル車
図31 ボルボ社製のバイフューエル車

ヨーロッパでNGVと言えば,ほとんどバイフューエル車のことを意味します。これは,床下にガソリンタンクと天然ガスタンクの両方を持っていまして,天然ガスで走って,天然ガスがなくなったらガソリンで戻ってこれるというものです。NGVは200〜300kmぐらい走れると言われますが,実際には100kmぐらい走るとガス欠が怖くなって戻ってきてしまうという話があります。これにすれば,300km走ってもガソリンで戻ってこられるということで,主に安くてクリーンな天然ガスで走っていただけば,天然ガスを目いっぱい使えるというものです。
 表3は,ヨーロッパ各国におけるバイフューエル車の販売価格です。

表3 イタリアにおける各種車両の価格比較
表3 イタリアにおける各種車両の価格比較

NGVよりも高いディーゼル車もあります。ガソリン車はやはり一番安いです。ヨーロッパでバイフューエル車が走っているのにもかかわらず,日本では普及してこなかったというのは,これまでガソリン車とNGVの両方揃って排ガス規制をクリアすることがなかったからです。しかし,「EURO4」という厳しい基準をクリアできるものが出てきているので日本でも導入してみたい,あるいは開発してみたいと思っているところです。
 図32はアジアの国々が頑張っていることを示しています。

図32 世界の天然ガス(CNG価格)の対ガソリンおよびディーゼルオイル比
図32 世界の天然ガス(CNG価格)の対ガソリンおよびディーゼルオイル比
(図をクリックすると拡大します)

白い部分は天然ガス(CNG)価格に対してガソリン価格が何倍になっているか。グレーの部分はCNG価格に対してディーゼルオイルの価格が何倍になっているかを示しています。イタリア,ドイツは,日本とほとんど変わりません。日本もそのぐらいの差額がついている状況ですので,航続距離が長いバイフューエル車が登場すれば,車両価格が少し高くても,日本で普及するんじゃないかと思っています。しかし,NGVの3つの欠点のうち,「スタンドがない」というのは今解決できていません。今は,スタンドがある周辺でNGVの導入を図っていますが,スタンドの数を増やしていくことが私どもガス業界の課題です。ガソリンスタンドも減っていく時代ではあるのですが,ガソリン業界,あるいはLPG業界と一緒になって天然ガススタンドの数を増やしていきたいと思っているところです。

結び−「究極のエコカー」に向けて

司会 広範囲にわたるお話をうかがいまして,今後20〜30年,高効率を追求するエコカーは,燃料電池車でも,EVでもなく,恐らくエネルギー密度が一番高い石油中心の燃料を使う車ではないかと思っています。それに向けて多岐にわたるパワートレイン(駆動システム)の開発がまだまだ出てくるのではないかと見ています。「究極のエコカー」に辿り着くには,燃料電池車あるいはハイブリッド車という一本道ではないのではないでしょうか。それはまさに多様なパワートレインがどう生き残っていくのか,そういう開発競争になっていくると見ています。トヨタの方は「適時,適地,適車」だと言っていましたけど,その通りだと思っていまして,開発が「適時,適地,適車」の3つのカテゴリーの中で技術の進化を図っていくことが今後の持続可能な車の発展につながっていくのではないかと思います。どうもありがとうございました。(拍手)


 
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