日本−スペイン 前半、先制ゴールを決め喜ぶ大津(左から2人目)=ハムデンパークで(沢田将人撮影)
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◇ロンドン五輪男子サッカー1次リーグD組 日本1−0スペイン
【グラスゴー(英国)松岡祐司】ロンドン五輪サッカー男子1次リーグD組の日本は当地で、優勝候補のスペインと対戦し、1−0で快勝した。前半34分、右CKからFW大津祐樹(ボルシアMG)が決勝ゴールを決めた。前半終了間際にスペインのDFが退場処分を受け、後半の日本は数的優位な状況で、決定機を何度もつかんだが追加点は奪えなかった。日本は29日の第2戦で、初戦をホンジュラスと2−2で引き分けたモロッコと対戦。日本はモロッコに勝てば、2000年シドニー大会以来の決勝トーナメント進出が決まる。
グラスゴーの空に叫び、「ハムデンパーク」のピッチに両拳をたたきつけた。前半34分の右CK。MF扇原が左カーブの美しい弾道を送った。大津が信じて飛び込む。体を引っ張られながら、投げ出すように右足を振る。「入れっ!!」。念じた球はGKデヘアの右足をかすめ、ネットを揺らした。
「得点を決めたいという気持ちが本当に強かった。決められてよかった。出られなかったメンバーのためにも、絶対に勝ちたいという気持ちが強かった」と語気を強めた大津。歓喜と悲鳴が交錯するスタジアムで、日本のベンチでは選手が総立ちとなり、背番号「7」の得点に震えていた。
欧州王者相手にも臆することはなかった。「自分の中では攻撃のアイデアはある」。脳裏に描いたイメージを力ずくで具現化してみせた。
強気で怖いもの知らずな性格の半面、ここ一番でずっと「勝負弱い男」だった。中学時代に所属した鹿島下部組織「アルテ」では、肝心の試合で風邪をひいたり、体調不良で欠場したり…。そんな不出来が響いてユース昇格を逃した。東京・成立学園高時代も公式戦前にコンディションを落として、仲間に頭を下げたこともあった。
高校時代の恩師、宮内聡総監督は言う。「あいつは小さいときからメンタルがひ弱だった。大一番の前にいつも体調を崩してしまう。『何とかしたい』という強い気持ちが、いつも反対に作用してしまっていた」
そんな男が、五輪の大一番で覚醒。昨年のボルシアMGへの移籍が転機だった。「ドイツでは毎日が戦闘。やられなければやられる。その刺激がたまらない」とは大津自身の言葉だ。技術が一級品の大津に、喜怒哀楽を封じ込めながらピッチに立つ毎日が求められた。必死に心を保ち、揺らがぬ精神を身につけた。
負傷のため、前半の45分間でピッチを離れたが、「ここで一回気を引き締めて、メダルを取りにいきたい」と力強く宣言。大津の劇弾が、スペインを奈落の底へと沈め、日本を「グラスゴーの歓喜」へといざなった。
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