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どうやら思考回路は、「3・11」以前のままのようだ。関西電力の八木誠社長が、高浜原発3、4号機(福井県)について、「優先的に再稼働する方向で国と調整したい」と述べた。大[記事全文]
今こそ、資源としてのウナギの保護に乗り出すべきだ。さもないと、私たちの食卓から消えることにもなりかねない。ウナギのかば焼きの値上がりが続く。原因は稚魚であるシラスウナギ[記事全文]
どうやら思考回路は、「3・11」以前のままのようだ。
関西電力の八木誠社長が、高浜原発3、4号機(福井県)について、「優先的に再稼働する方向で国と調整したい」と述べた。大飯原発3、4号機(同県)がフル稼働に入ったのを受けて、早くも次の原発の稼働に意欲を示したわけだ。
事業者の願望を語っただけと見過ごすわけにはいかない。
原発の安全規制は国の原子力安全・保安院を離れ、独立性の高い原子力規制委員会が9月にも発足する。そのことを、どう考えているのだろうか。
枝野経済産業相が「不快な発言」とし、「規制組織の成立を今は見守るべきだ」とくぎをさしたのは当然だ。
規制する側とされる側の逆転が起き、規制当局は電力事業者の虜(とりこ)となっていた――。国会事故調査委員会は、両者の関係を最終報告でこう表現した。
重要なことは今後も、実質的に自分たちで決めていくと関電が考えているとしたら、思い違いも甚だしい。
足元では、大飯原発の再稼働にすら疑問符がついている。
敷地内を走る断層が活断層である可能性が指摘され、関電は近く調査を始める。次の原発を考える前に、第三者を入れた徹底した調査が不可欠である。
さらなる原発の再稼働は、電力需給の点からも疑問だ。
梅雨明け以降、関西ではおおむね最高気温が31〜35度と、平年並みかやや高い日が続く。しかし供給力にしめる使用率は80%台。今のところ、原発ゼロでも乗り切れた水準だ。
八木社長は「需給ではなく、わが国のエネルギー安全保障を考えて」と語っている。
本音は「自社の安全保障を考えて」だろう。関電は4〜6月期の連結経常損益が、1千億円程度の赤字になる見通しだ。火力発電の燃料コストが主な要因となっている。
業績悪化に歯止めをかけるために、より多くの原発を動かしたい。そんな経営判断があるに違いない。
しかし、首相官邸前のデモに見られるように、脱原発を求める声は高まる一方だ。多くの人々が新たな社会を模索し、節電に必死に取り組んでいる。
昔のように原発に頼った経営はもはや成り立たない。経営を取り巻く環境が一変したことを前提に、原発以外の電源確保にあらゆる手を打ち、消費者の理解を得るのが、企業経営者の務めではないか。
3・11以前には、もう戻れないのである。
今こそ、資源としてのウナギの保護に乗り出すべきだ。さもないと、私たちの食卓から消えることにもなりかねない。
ウナギのかば焼きの値上がりが続く。原因は稚魚であるシラスウナギの3年続きの不漁だ。
日本は、世界のウナギの約7割を消費しており、保護に率先して取り組む責任がある。
その生態を考えれば、国際的な協調が欠かせない。ニホンウナギは3千キロかなたの太平洋で産卵する。幼生は黒潮に乗って運ばれ、日本や中国などの川を上って数年から十数年かけて成長し、産卵場所に帰る。
ニホンウナギの資源量は1970年代の1割程度にまで減った。乱獲に加え、生育の場である河川環境の悪化がある。
気候変動の影響もいわれる。エルニーニョなどの影響で産卵場所がずれるなどして幼生が黒潮に乗れず、東アジアに戻れなくなるとも考えられている。
卵から完全養殖する技術は開発が続いているが、コストも量も実用化にまだ遠い。当面は天然のシラスウナギをとってからの養殖が頼りだ。
日本と中国、韓国、台湾の研究者に業界代表も加わった東アジア鰻(うなぎ)資源協議会はこの春、緊急提言をした。漁獲を規制することが急務とし、とりわけ、産卵のため海に戻る親ウナギの一時的な漁獲制限を求めた。
つまり、食べるのは当面、養殖だけにしよう、というのだ。
日本での消費のうち、天然物は約0.1%だ。養殖物も味では負けない。天然物は将来、資源が回復したときの楽しみとしてよいのではないか。
シラスウナギ漁も、現在は、都道府県ごとに漁期を定める方法で制限されている。科学データに基づき日本全体で総合的に管理することが必要だ。
緊急提言は、河川環境の保全なども挙げている。
政府も中国など関係国との協議を始めた。10年以上にわたる協力の実績がある協議会とも連携してほしい。
東京大の研究チームは09年、天然ウナギの卵を初めて洋上で採ったが、その一生はなお謎に包まれている。謎のまま絶滅させるわけにはいかない。
ヨーロッパウナギはすでに絶滅危惧種とされ、ワシントン条約で国際取引が規制されている。米国は、アメリカウナギに加えてすべてのウナギの規制をするよう、提案する構えだ。そうなれば、日本など東アジア諸国への影響は大きい。
科学的な調査を踏まえ、国際的な資源の保護と利用の両立を図るモデルをつくりたい。