2012年07月26日

政府事故調の最終報告書を批判するA

私は、畑村洋太郎という人物を全く信用していない。最初から官僚の言いなりの報告書を書くと確信していたが、まさに「案の定」である。

敢えて評価するとしたら中間報告書では触れなかった福島第二原子力発電所(福二)の事故対応を明確に報告してくれたことである。
意識的なのかどうかわからないが、福島第一原子力発電所(福一)、福二の事故対応の「本文」はコピーできないようになっている。私の学習法は自分で打ち込んだテキストやコピーしたものをワードに貼り付け、「ページレイアウト」で右の余白を80mmに設定し、挿入したテキストボックスにコメントを記していくという方法で情報を知識化していくが、それができない。

一読しただけの感想は、「福二は知恵を成果に結びつけた」というものである。私は福二での安全管理講演で「想定することが事故を防ぐ」と繰り返し述べた。福二の事故対応の記録を見ると、まさに「次に起きる悪い状況を懸念して」というような表現が繰り返されている。
もちろん、事故時運転操作手順書に則っての対応であろうが、私の講演が少しでも役立ったのであれば望外の喜びである。

なぜなら、報告書には福一の対応が「失敗」と明記されているからだ。

報告書を読むといくつかのキーワードの存在に気付く。「主蒸気逃がし安全弁」「原子炉減圧」「原子炉注水ライン」「代替注水ライン」「低圧注水可能系統」などである。福二はかろうじて全電源喪失は免れたが2011年8月11日の東京新聞によると、増田尚宏所長は「人海戦術でかろうじて対応できた。人手が足りなければ無理だった。危機一髪だった」と話されているように、福一以上の事故との「格闘」の模様が最終報告書には記されている。

さて、福二の事故対応から東京電力の原発事故対応を類推してみる。
◆東電は福一を「捨てた」
東電本社は、被災後早い時期に「メルトダウンした」と確信したに違いない。報告書には、福二と東電本社とのやり取りが詳しく記載されている。驚くのは、11日の夜から12日にかけて復旧用のケーブルやポンプ、モーターを柏崎刈羽原子力発電所などから手配し始めているという点である。
報告書によると東電本部には高橋明男フェロー(特別研究員 大辞泉)がつめていた。私が講演をした時の福島第二原子力発電所長であり、その後柏崎刈羽原子力発電所長として中越沖地震を経験したまさに「現場人間」である。高橋フェローが本社側でできることを指揮していたことは容易に推察できる。

要約するとこういうことだ。

◇高橋フェローの技術論を聞いた東電幹部は、原子炉注水ラインが途絶えた福一はメルトダウンにより以後使いものにならないと早々に判断した。

◇福二を存続させることだけを考えた東電幹部は、福一のメルトダウンを隠し、福二の温存に全力を投じた。しかし、そのことが報道されると福一と対比されることになるので、これを隠した。

◇関連会社(三菱か日立か東芝)の作業員は福一から早期に退避していた可能性が高い(福二ではポンプ交換などの復旧作業に貢献している)。問題となっている「撤退問題」は、12日に水素爆発を起こし復旧の見込みがない福一の作業員を全員引き揚げさせたいという主旨であったと考えられる。

思想から行動がうみだされるのである。東電の「福二を死守することが第一、福一は捨てる」という思想から当時のさまざまな発言や行動が生み出されたのである。

それにしても、畑村委員会の調査報告書にはあきれる。最大の問題は福二の事故対応隠しである。事故から1年4か月も経てば「主蒸気逃がし安全弁」「原子炉減圧」「原子炉注水ライン」「代替注水ライン」「低圧注水可能系統」操作、維持において福二のような対応が福一でもできていれば15日の最悪の水素爆発は起きなかった、とは誰も考えない。実に巧妙である。

評価できることは「福二の事故対応を詳しく報告したこと」である。これは、他の原子力発電所でも「こうすればメルトダウンは防ぐことができる」ということを意味するからである。

福二では12日の零時ごろからベントの準備も始めている。欠陥原発と言われる同じGEの原子力発電装置に事故が発生した場合の新しいSOP「Standard Operating Procedure」(標準作業手順書)にいわば「取り扱い説明書」的な「放射性物質拡散防止作業手順書」を書き足すことにより、ベントの準備などの手順をマニュアル化できることになる。

その上で、訓練、訓練、また訓練である。そうすることにより、福一が圧力弁解放に失敗したような事象は起こらなくなるのである。

報告書はGEの責任問題には触れていないようである。ボーイング社の修理の失敗による日航ジャンボ機墜落事故同様に、福一の事故の責任もGEは一切取らないに違いない。しかしながら、日本には他にもGE製の原子力発電所はある。私は菅直人前首相や枝野経済産業相が再稼働に慎重なのは、GE製の原子力発電所が特に危険であると考えているからと捉えている。

単純化してまとめる。それは、極めて貧弱な機械装置の安全性を見誤った原子力発電所関係者は、事故対応のトレーニングができていなかった、そのことが大量の放射性物質の拡散につながったというものでる。まさにオートマ車しか運転したことがない人間が40年年前のマニュアル車を操作するようなもの、運転訓練を受けていない者は機械操作ができないのである。

posted by M.NAKAMURA at 15:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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