2006-12-23 オタク廃坑を掘り返したら幽霊が出た
同級生2のヒロイン達を、2006年から振り向いてみる
年末ということで本棚を整理していたら、恐ろしく古いノートが発掘された。私のオタ所業の詰まった、業の深いノートである。パラパラめくっているうちに同級生2の攻略記事を発見し、引っかかってしまった。フィールド上のいつ、どこに女性キャラクターがいるのか分からないという、既に廃れてしまった不親切なルールのなか、独力で一生懸命攻略した執着の痕跡が書き記されていた。折りしも季節はクリスマス。(同級生2の)クリスマスBGMが脳裏に蘇った。
「キャラクターの属性や記号」という分野において、同級生シリーズは(ときめきメモリアルとか籠の中の小鳥などと同様)少なからぬ影響を後世に残したと思う。だけど、今改めて見返すと、随分と荒削りなキャラ造型にみえたり、「ああ、この路線はあんまり後世のエロゲーに引き継がれてないのかな」と思う「枯れ筋」のようなものを見かけることになった。昨今のエロゲーヒロインと十年以上昔の同級生2ヒロインを比べれば、鯛や秋刀魚とシーラカンスを比べるような感覚に打たれるのも当然なわけだが、どういったキャラクターや属性や特徴が後世のエロゲーに拡散し、どういったものがマイナージャンルになっていったかを考えるうえで、偶にはご先祖様を拝んでみると面白いんだなって確認したので以下にそれを記してみることにする。
【同級生2のヒロイン達を、2006年から振り向いてみる】
懐かしさ満点のキャラクター達をみてみる*1と、10年の年月を痛感せずにはいられない。「荒いドット絵」、「電話」、「撫で回すようなマウスクリック」etc。逢坂凛を撫で回すようにマウスクリックできないことに憤慨したいおっさんオタのキモい回想はこれぐらいとして、同級生2のヒロイン達を、2006年に立っている現地点から見返してみるとどんな風にみえるのか、または、彼女達がどのように子孫達と関連づけられるのかメモってみる。
[追記]:キャラクターの立ち絵・概要についてはこちらのサイト→同級生2様がわかりやすくて読みやすいので、往時を振り返りたい人は如何でしょうか?
鳴沢唯:
血の繋がらない妹、「おにいちゃん」、ツインリボン、といった現在に継承される強力な記号群で完全武装したキャラクター。当時人気があったのも、このキャラが持っている属性群がどれもテンプレート化されていったことを考えれば、当然というかなんというか。ツンデレキャラとしての特性も持っており、彼女がエロゲー界に撒いた種はそこかしこに育っているようにみえる。鳴沢唯さんの直系子孫と呼べるキャラや、親戚筋にあたるキャラを21世紀の萌えキャラのなかに見出すことは、それほど困難ではない。
水野友美:
今みると眼鏡が1990年代テイストしていて時代を感じさせる。眼鏡属性そのものは、以前からみられ、現在もみられ、これからもみられるものだろう。それでもって、眼鏡サービスが行き届いている21世紀万歳。2006年現在、委員長キャラはバリエーション豊かなサブタイプがみられるようになったが、直球どころは、この友美タイプの頭が良くて責任感があって貞淑さを表に出したキャラクターだろう。勿論、こうした貞淑なイメージには、裏腹なエロさを引き立てる香辛料としての機能も含まれているわけだが、友美さんはそこもちゃんとカバーしている。例えば「キモオタ芳樹の肉人形になっちゃう友美」というイメージにはかなりそそるものがある。
篠原いずみ:
ショートカットの女の子がスポーツ好きだったり、男子のような言動だったり→だけど着物着ると綺麗→実は性格も女の子っぽい女の子だった!という、2006年からみれば分かりやすい構図のキャラ。同級生1の時の田中美沙にみられるように、当時既にスポーツ好きの粗雑な女の子がショートカットとは限らなかったにせよ、男子のような言動の女性キャラがショートカットであるという分かりやすさは、今もニードがありそうなものではある。唯や桜子ほどの影響はなかったかもしれないにせよ、なにげに現在のボーイッシュキャラの系譜と矛盾しない造形だったりしている。
南川洋子:
今みると立ち絵ガタイが良すぎでビビる。洋子さんの、「ガタイの良いバイク不良少女」という趣向は2006年の萌え記号見本市においては稀なものとなってしまっている。不良少女そのものはいなくも無いけれども、体ががっしりした不良女*2・バイク女というものは遭遇頻度が少ない。勿論、このことは洋子さんの魅力が乏しいが故ではないだろう。彼女自体はとても魅力的なキャラクターだ。しかし、彼女の面影を色濃く残したキャラクターを後世にみかけることはあまり無い。
舞島可憐:
アイドルと学校に逃げて保健室に...という、このストーリー展開自体がまるでテンプレートのよう印象。ただし、キャラの性格・振る舞い・服装などをみる限り、緒方理奈ほか多数の後続のアイドル属性キャラとの共通性というのはそれほど濃厚ではない。少なくとも、彼女が鮮烈な影響を後世アイドル属性に刻印したというほどではなかったようだ。
鳴沢美佐子:
鳴沢ママも、それ単体では非常にいいキャラには違いないが、決定的な属性テンプレートにはならなかったかもしれない。熟女そのものはエロゲー界に存在しないことはないが、もっと鬼畜なエロ女のほうが優勢で、美佐子さんのようなお母さんらしい面影のキャラが量産されているようにはみえない。...といいたいところだが、Kanonの秋子様の存在を思い出した。サブキャラとしてのママキャラなら、死に筋ではないかもしれない。
加藤みのり:
牛乳ビンの底みたいな眼鏡とアンバランスな三つ編みで「偽装」しているみのりさん。実際の彼女はストレート髪美人だが、そのことに気づくには幾らかフラグを進めるか、取扱説明書を読む必要がある。こういう「フラグが進まないと美人であることが分からないキャラ」、とりわけ序盤において何が良さなのか見えてこないキャラというのは、21世紀以降にはあんまりいないような気がする。「実は美女」キャラのシナリオって、話運びの良い物語に仕上げやすそうだけど、何か大人の事情が絡んでメインヒロインに抜擢しにくいのでしょうか?どうなんだろう?
とはいえ、フラグが進むと髪形が変わるキャラは最近かなり多いし、fateのキャスターのような「隠れ美人」もいるはいるわけで、みのりさんの筋を絶滅種認定するのはちょっと早いか。
田中美沙:
活発なポニーテールの女の子というテンプレートは、初代同級生の彼女から引き継がれているが、二十歳になった美沙さんは、どことなくバブルの夢の跡を残したようなキャラクターになっている。彼女そのものの「見た目」、とりわけポニーテール自体は死に筋になってはいないが、デートフラグ後の流れは、昨今のエロゲーには珍しいもので、端的に言ってバブル的な、1990年代的な何かである。
あと、キャラ属性そのものとはずれるが、「衝突が出会いのヒロイン」という彼女のようなフラグの立ち方は、しっかりその後も生き残っている。彼女が衝突ヒロイン達の先祖なのかは分からないけれど、少なくとも数多みられる衝突ヒロインの一人には違いない。
野々村美里:
バスガイド。あんまり影が濃くなかったような気がする。バスガイドはメイドやツンデレや妹ほどにはテンプレート化せず、ニッチな領域にしかならなかった。彼女の面影を21世紀のエロゲーで回想したことは殆ど無い。
都築こずえ:
ロリ属性自体は、オタの皆さんにじゅうぶんに支持され広がって現在に至る。けれども、ロリキャラ経験のスタート地点としてこのキャラを思い出す人はあまりいないんじゃないかなぁ。現在巷に流布しているロリキャラのテンプレートと、こずえさんの性格や振る舞いや造型にズレがありすぎるせいだろうか。確かに彼女は幼いけれど、ロリ属性というよりも素の子どもっぽさをそのままぶつけてくるような「変なリアルさ」があるせいか、現在のロリ属性の本流とは離れた存在のようにみえる。現在本流を為しているロリ属性は、どういう性格傾向であれ、とにかく男性側にとって制御可能な異性でなければならない*3。 ところが、このこずえさんはその制御可能な閾値を微妙に超えちゃってるぐらいには子どもっぽいのだ。『痕』の初音ちゃん辺りとはそこが違う。
安田愛美:
保母さんヒロイン。家庭的な保母さん、という綺麗どころを見事に体現したキャラとシナリオだが、その後保母という職業はキャラ属性としてはマイナーな部類に留まってしまっている。他の何人かのキャラにも言えることだが、キャラやシナリオが立っているか否かと、属性化・記号化してテンプレートになっていくか否かはイコールではなかったらしい。
片桐美鈴:
教師キャラ。この人も、ストーリー的にもキャラ造型的にも後日主流にならなかったっぽい人。教師キャラ自体は今でも多くみかけるが、美鈴先生のような大人っぽさを前景にうちたてた教師キャラに限って言うなら、21世紀に入って絶滅危惧種なんじゃないだろうか。シナリオ自体が「美鈴先生の恋愛が破綻していく緊張感のある展開→主人公が心の隙間を埋めて支えていく」ためか、美鈴先生には昨今の教師キャラが持っていがちな余裕・ふんわり感が少ない。かといってボケボケ系の先生キャラが持っているようなコミカルさもみられない。21世紀の先生属性と美鈴先生の傾向には、大きなズレがあるように感じられる。現在の教師属性の雛形とは大きくズレた位置づけになるんじゃなかろうか。
永島久美子:
久美子さんは、臆面も無いほどに田舎娘っぽさを発揮する。田舎娘もまた、属性としては無くもないものの、田舎娘に猫まっしぐらというほどに流行するには至っていない。このキャラにみられる特性が支持されてテンプレ化した、という印象はあんまり無い。
永島佐知子:
お母様についても同様。佐知子さんは(唯の母の)美佐子さん以上にストイックな、服装も完膚なきまでに熟女な、もう本当に熟女としかいいようがない熟女で、どう考えてもニッチな、ニッチな、昭和っぽいとさえ形容したくなるような、なんともいえないテイストを漂わせている。当然ながら、佐知子さんのようなタイプは今日では滅多にいない。
杉本桜子:
トリはやっぱりこの人。隠しヒロイン、病弱、ストール、「まるで死んじゃったかと思うストーリー」、などなど、後世のキャラ属性に与えた影響は計り知れない。こうした諸属性に、良質のテキストなりグラフィックなりが重なって、遂に桜子という凶悪な萌えモンスターが生まれたわけだ。同級生2屈指の人気キャラになるのもさもありなん。このキャラのストーリー展開は、今見るといかにもおやくそくで、ストーリーという点でも記号化が著しいが、それだけ彼女が支持された度合いが高かったんだ、と理解しておくことにする。
以上、改めてキャラを見返してみると、人気キャラにみられる諸属性が支持され、改良されつつも拡散して現在まで血脈を保っているんだなと気づくことが出来た。特に、「妹」「お兄ちゃん」「ツンデレ」の誉れ高い唯や、「病弱」「隠れ」「死を絡める」といったテンプレート形成に不朽の刻印を残した桜子の与えた影響は途方も無く大きそうにみえる。一方、洋子や美鈴先生などのように、現在みられる諸属性の直系の先祖とは離れた存在のように思えるキャラクターも混じっている。彼女達のシナリオの出来がとりわけ悪かったわけではないにせよ、直系の後継者を出さなかったヒロイン達は、オタクの潜在的ニーズとはズレが大きかった、ということだろうか。
2006年から同級生2を見返す時に「あれは、将来流行するキャラ属性のプロトタイプを試験する壮大な実験だった」という視点を導入すると、子孫をもてたキャラともてなかったキャラのギャップが色々みえてきて感慨深かった。同級生2に限らず、昔の色んなエロゲー・ギャルゲーのキャラクター達のなかで、好評を博したキャラが持っていた属性の幾つかがピックアップされ、洗練され、現在のキャラ属性のレパートリーへと繋がっている、ということだろう。個々のキャラがたとい消費され記憶から消えていくとしても、属性・記号・シナリオ・そのほか様々のものが継承されていくと捉えるなら、唯や桜子の面影を“子孫たち”のなかに見出すことが出来ると思う。彼女達が残していった血筋は、今も目の前のディスプレイの中に、より洗練された形で*4息衝いている。
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