シロクマの屑籠 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2008-01-29

「最低限のTPO」と口を酸っぱく繰り返しても無視される不思議

 

脱ヲタを実感する時 - 30代からの脱オタク

 

 上記リンク先、『30代からの脱オタク』の今回の記事を読んで改めて思ったのは、脱オタクファッションはあくまで「最低限のTPO」「何も足さない、何も引かない」に過ぎないという事を忘れてしまう人が不思議なほど多い、ということだ。

 

 私の知る限り、脱オタ・脱オタクファッションガイド、といった類のウェブサイトや書籍が宣伝してきたのは、「お洒落さんになる為の方法」ではなく「コミュニケーションにおいて、見た目で減点を食らいにくくする為の方法」であった。1990年代末の、ステレオタイプなオタク服がまだまだ見受けられた頃以来、脱オタ系サイトは「格好つける」とか「ファッショナブルな格好」といったものを提案してきたのではなく、服飾や衛生面で変な差別を受けないようにする為の手法を宣伝し続けていたと記憶している。言い換えれば、服飾を通してマイナスを被らないようにする方法が検討され続けていた筈であって、服飾を通してプラスのボーナスまで欲張ることは目指していなかった筈だ。

 

 にも関わらず、いつの間にやら「自分がお洒落かどうか」といった、服飾を通してプラスのボーナスを期待する方向に流れてしまう人が少なくない。いや、勿論そのようなボーナスが得られればありがたいことだと思うけれども、コミュニケーション上の問題をどうこうしたいだけなら、別にお洒落さんにまで行き着く必要なんてどこにもない。いわゆる人並みの服装、年齢相応の格好というやつで十分の筈だ。ある程度の時間とお金を支払う必要はあるだろうが、過剰に投資しすぎても効果はそれほど期待できないし、むしろその分をコミュニケーションの他の領域に投資したほうが効果的だと考えられる。そればかりか、服飾や髪型だけやたらに高価でお洒落であっても、コミュニケーションの実行機能や顔面に刻まれた年輪との間にギャップが存在すれば、逆効果にすらなりかねない。少なくとも男性の場合、コミュニケーションのそのほかの領域がまだまだ不得手の時に、過剰にファッションに金をかけすぎて、変なギャップを呈してしまうのは本来得策では無い、と自分は考える*1。服飾によるディスアドバンテージを解消してから先の、「服飾でライバル達に差をつける手法」までは脱オタはカバーしていない。そして、どうしても服飾でライバル達に差をつけたいというのなら、高い服やらユニークな服やらを見繕う前にやっておくべき・解決しておくべき事があるのではないかという気がする。

 

 しかし、誰がどれだけ口を酸っぱくして「脱オタはお洒落ではなく、単なるマイナスをプラスマイナスゼロにするだけなんだよ!」と主張しても、どうもそこの所は読み飛ばされるらしい。これは非常に不思議で、興味深い。プラスマイナスゼロにする為の服飾整備だと幾ら強調しても、脱オタ・脱オタクファッション的な行動をとる人は、ついついプラス評価を期待し目指してしまうようなのだ。そして、服飾費のインフレーションの罠や、過剰なお洒落とその他のコミュニケーション実行機能とのギャップの罠に落ちてしまうことさえままあるようだ。新たに制作される脱オタ的服飾整備マニュアルには、この、不思議なほど陥りやすい“脱オタ者の陥穽”についての記載も必要なのだろうな、と思う*2

 

*1:たとえ顔立ちが端正であったとしても、である。いわゆるイケメン顔をしていようとも、見てくればかり綺麗でコミュニケーションがグダグダでは、馬鹿ではない女性達はすぐに見抜いてそっぽを向いてしまうだろう。

*2:赤字でアンダーラインを引いておいたほうが良いかもしれない

crowserpentcrowserpent 2008/01/30 23:52  記事の趣旨それ自体には特に疑問はないのですが、シロクマさん自身、「脱オタ」という概念を本当に「最低限のTPO」として扱っておられるのでしょうか? 「汎用適応技術研究」のいくつかのテキストを読んでいると、どうも疑問に思える部分が少なくありません。
 例えば、シロクマさんが脱オタ症例として取り上げておられるhttp://www.nextftp.com/140014daiquiri/html_side/hpfiles/otaken/case02_3.htmでは、「脱オタ」活動を優先するあまり職場での仕事を蔑ろにし、それがもとで会社に致命的な損害を与えた事例が出てきています(しかも、そのことが「脱オタのためのやむを得ぬ代償」だと言っているように読める)。「脱オタ」を「コミュニケーションを円滑に進めるための最低限なすべきこと」の一貫とみなすのであれば、このような行動はどう考えても本末転倒としか思えません。

 シロクマさんとしては、このような「脱オタ」行動を、「脱オタ」本来の意義(最低限なすべきTPO)に則してどのように評価しておられるのか、お聞きしたいところです。

p_shirokumap_shirokuma 2008/01/31 18:53 >>crowserpentさん
 くだんの例には「遠回り」が多々含まれており、それは“本人にとっても周囲にとっても”明らかに副作用の強すぎる問題があったと思います。そして起こった出来事は、迷惑を起こすばかりか、当人のカルマとなって沈殿するものでもあります。

 なお、このエントリは服飾について焦点を絞ったものでした。服飾に関してはTPO、という話で済むと思っています。勿論それ以上のお洒落をするなという意味ではありませんが、脱オタクファッションという範囲のなかでは、高コストなお洒落は、必要ではないと思います。しかし、服飾以外についてはどこまでが必要ラインなのか、まだ自分には分からないところがあります。また、服飾以外のTPOと異なり、他人の媒介がなければそれは進行しないのではないか、という疑いはもっています。人との関わりのなかで、迷惑を回避することは勿論あって然るべきですが、人との関わりのなかでトライアンドエラーを行うなかで、自分がどこまで迷惑をかけ得るのかの評価は、なかなか難しいとも思っています。彼が悪意をもってそれらの出来事を起こしたというなら、まず真っ先に断罪の対象になるとは思います。もし、悪意無き営為の結果としてそうなったんだとしたら…勿論、それでも迷惑をかけたという事実は決してなくなりませんが…。

crowserpentcrowserpent 2008/02/01 01:27  まず最初にお断りしておきますが、私は「脱オタによって他人に迷惑をかける」ことを道徳的に非難したいわけではないんです。そもそも「脱オタは最低限のTPOである」という言明がどこまで成り立つものなのか、という点に疑問を感じるんですよ。

 コミュニケーションのために最低限なすべきこと、という点では、件の症例の人(Masao氏)は「脱オタ」前においても一通りクリアしていたように読めます。会社で重要な仕事を任されていたことなどを考えても、彼がそれほど極端にTPOを踏み外していたとは思えません。しかし、彼は「脱オタ」を始めてそれにのめり込んだことで、仕事をいい加減にするようになり、会社に損害を与えています。すなわち、「脱オタは最低限のTPO」どころか、「脱オタによって、それまで大丈夫だったTPOを踏み外してしまった」と言えます。この点を指して「貴方のおっしゃる脱オタの意義から考えると本末転倒なのではないか」と尋ねたわけです。
 Masao氏は「これまでの自分のコンプレックスが一気に噴出した」ことが「脱オタ」を始めた契機であるとしています。「最低限のTPO」よりも「自身のコンプレックスの解消」が優先されたわけです(繰り返しますが、それが悪いと言いたいのではありません)。「脱オタ」の第一の動機がそのような「コンプレックスの解消」であるとするならば、「必要最低限のライン」ではなく「プラス評価を期待し目指す」のは当然の帰結ではないのか?と思うのです。

 シロクマさんもまた、「脱オタ」の動機として「コンプレックスの解消」が大きなウェートを占めると考えておられるようです。コンプレックスというのは「周囲が特に気にしていなくても当人だけが気になっている」場合がよくあるわけで、その場合「何も足さない、何も引かない」ではコンプレックスの解消に何ら寄与しないでしょう。だとするならば、「脱オタ」という行為を「最低限のTPO」に限定して捉えるのは無理があるのではないでしょうか?

i04i04 2008/02/01 07:37 コンプレックスで意固地になると、コンプレックス状態を抜けようとアクセル全開フルスロットルにしがちだから『ほどほど』が視点からすっぽ抜けてしまうのかもしれないですね。

p_shirokumap_shirokuma 2008/02/01 08:48 >>crowserpentさん
 ですから、最低限のTPO、というのは脱オタク「ファッション」即ち服飾面に限ってのことです。その、コンプレックスの解消というやつを服飾に求めるなら、そりゃあ最低限とか言ってられないでしょう。しかし、多分服飾以外のところでは、最低限のTPOとか言ってられない部分ってあると思いますよ。

p_shirokumap_shirokuma 2008/02/01 08:51 >>i04さん
 この「ほどほどの欠落」というのは服飾面だけでなく、しばしばこのコンプレックスというか心的傾向というかを脱却する際に(または防衛によって糊塗する際)「すっぽ抜けやすい」「過剰になりやすい」点だと思います。このリスクについて、もっとよく宣伝しておいたほうが良いと改めて思い返しました。

crowserpentcrowserpent 2008/02/01 22:07 >シロクマ氏
 了解しました。私が一部誤読していたようです。
 シロクマさんのおっしゃっているのは、「脱オタ」という行為全般の中で「服飾」は「最低限のTPO」として以上の意義を持っておらず、ファッションの改善を以って「プラス評価」を求めるのは行き過ぎである(他の要素の改善がなければプラス評価は達成し得ない)という理解で良いでしょうか?

p_shirokumap_shirokuma 2008/02/03 10:56 >>crowserpentさん
 はい、自分としては、服飾という分野をもってプラス評価を求め過ぎても副作用が強くなるばかりではないか、という疑いを持っています(だからファッションを楽しむな、という意味ではないですけど)。ある程度までの投資はいいかもしれませんが、ある程度以上拘り過ぎても、「脱オタという行為全体」にはあまり寄与しないと思っています。