俺の所属するギルドは『ANGEL ENGAGE ONLINE』の中でも有名なギルドである。
別に自慢はしていないのだが、それなりの人数と一人一人の強さが異常である。例えば、あるメンバーが酔っぱらって操作を誤り、壁を素手でぶち抜くとか。喧嘩をしてて街を一つ崩壊させてしまったとかなんてもはや日常茶飯事である。
そんなギルドは運営から他のプレイヤーから危険視されているのが、俺はこのギルドが好きだ。
なんたって、初めて彼女と出逢った場所だから。
「今日は……七時三十分か、少し早く来すぎたな」
ルナとの待ち合わせは八時。約三十分以上も暇なので目の前にある巨大な城のような家、通称『魔物の住処』で時間でも潰そう。
ログインするのは二日振りくらいで、ギルドに足を運んだのは四日ほど前だったのでかなり久し振りな気もする。ちなみにルナとは別サイトのチャットでもよく話しているので、さほど二日も離れていたという実感は薄い。寧ろ、毎日会っている学校の友達レベルに親近感がある。
自分の背丈を遙かに凌駕する扉を重々しくもゆっくりと開き、中の様子を窺った。中には数十人を超える人達がワイワイと雑談や依頼、交流、情報交換のために数組集団となって会話を行っている。
扉を閉める音が妙に大きかったのか一同、俺が入ると同時に一旦静まり返る。
え? 俺、何かしましたっけ?
『あれが『夜想曲』のコウか、俺初めて見たぜ』
『たしかギルドの姫と謳われているルナの彼氏らしいじゃねぇか』
『何をぉぉ! 俺のルナたんをぉぉぉぉ!』
『止めておけ、お前の実力じゃもって数秒だ。ここは俺が――――』
『いや、俺が――――』
『俺が――――』
『お――――』
面倒な視線がギリギリと俺を指すので無視しておこう。そう言うのは相手にしない方がいい。
近くの六人掛けの誰もいないテーブルに腰を降ろして、暇なので装備の変更でもしておこう。
「あれあれ? 誰かと思ったコーちゃんじゃないですか!」
元気よくハキハキと伸び伸びとした声で俺の事を呼んだのは、このギルドの『右神』と呼ばれるほどの実力を持つ少女――――ヌルネルであった。
銀色短髪の透き通る髪質に、アバターとは思えないほどの表情豊かな顔、背丈は低く一目見れば小学生とまで思えるほど。しかし、実際は高校生らしくて容姿も格好も自分の趣味だと先日聞いた覚えが合った。
「ヌルネルか、久し振りだな」
「久し振りだよコーちゃん! 最近、顔見せないから飽きちゃったのかと思ったよー!」
「彼女がいるのに飽きるはずないって」
「ルナルナー? そう言えば今日はまだ見てないねー」
「八時に待ち合わせしてるからな? それよりもここ二日ほどインしてなかったけど、ルナの奴大丈夫だったか?」
それを聞いた途端ヌルネルの表情が一気に笑顔満開に輝き始める。後光が後ろにあるように錯覚する程その光は強さを増していた。
「それがね、聞いてよコーちゃん。ルナルナったらさコーちゃんがインしなかった二日間で合計十二の悪徳商法のギルドを潰したんだよー。これって凄くない? 運営からもご褒美として謝礼貰ったらしいよ?」
「悪徳商法ギルドねぇ……」
「……ま、これが善人だったら運営からお叱りでも受けて永久アンインストールされてたのによ」
「ん? ヌルネル何か言ったか?」
「何にも言ってないよコーちゃん!」
一瞬だがヌルネルの本当の声が聞こえたようだったのだがあれはどうやら錯覚だったようだ。人ってのはどんな姿になっても恨む人間だからなー、注意しておこっと。
その後、ヌルネルとの雑談をしているとヌルネルが狩りに参加するメンバーが揃ったらしいので、解散とした。ルナがインするまで大よそ残り十分と少しか、まだ暇だな。
そんな事を思っていると、『魔物の住処』の一番奥に存在するいわゆるSSランクの人のみ通行な可能の扉が今日は『OPEN』と看板が立っているのに気が付いた。
ちなみにSSランクというのは、レベルが六十以上、職業転生が二回以上の場合の人のみに付けられる勲章であって今の所では最高の地位である。
このギルドでは全員で二十名ほどSSランクになっており、俺とルナ、先ほどのヌルネルなど有力者はほとんどこの勲章を手に入れている。どれだけ苦労したのかは今となってはいい思い出だ。
「久し振りに入って見るか」
普段はルナと話して切り上げているので、あまりここに顔を出すことは無い。
通称『夢の部屋』とまで呼ばれているSSランク限定のとある一室、部屋は広く中は簡単なリビングのような設計になっているのがギルドマスターの提案だそうだ。
「こんにちわ……って、ミティオルしかいないのか?」
「いない」
部屋を一回りしてみるが居るのは、近くのソファーで体育座りをしながら仮想空間限定の小説を読んでいる――――ミティオルのみであった。
黒髪のショートヘアーでデザインの良い帽子を被っており、腰には自分の背丈を越す長い刀を差している。表情は常に無表情で、先ほどのヌルネルと最も仲の良いメンバーの一人なのだがあまり交友的ではなく実力だけでマスタ―に気に入られて、このギルドに居るという訳である。
実力はルナよりも強大であろう程の強さ。ちなみに『左神』と称されている。
俺はやることもないし、話す人もいないのでミティオルの隣に座った。もちろん本人の了承は得ている。というか、常に無表情であまり人と話さない故に声が小さい。
「何の本読んでいるんだ?」
「仮想空間内限定の小説。普通の少年と無口な女の子による恋愛小説」
「ふーん、面白いのかそれ?」
「わからない、まだ読み始めたばかりだから」
相変わらず淡々と放つ喋り方は機械のようだった。まあ、これ自体がゲームなので機械的とかあまり関係ないと思うけれど。
しばらく沈黙が続き、ふとミティオルが俺の方を向いているのに気が付いた。
目は丸っこく猫のような表情、愛想笑いでも十分に可愛いと思える顔、徐々に近づいてくる顔がとても近くて、いや近すぎてアバターの息使いが耳元をかすめる。
「危ない」
ミティオルがそう言うと、体を引き寄せ腰元に差している二メートルはある刀を引き抜き、正面の人に向かって突き刺した。
完全に話の見えない俺と抱きかかえられている事によって少しの間だけ回路が暴走を起こす。
「で、コウくんは何でミティオルと抱き合っているのかしら?」
背中から寒気が襲う。
この声には、ハッキリと聞き覚えが合った。彼女であるルナ、それも相当怒っている時の声。
「私とコウは愛し合っている。これでは不満?」
二丁の拳銃の銃口の片方に綺麗に刀の先を差し込み、撃てば暴発するようにしていた。ルナは軽く舌打ちをする素振りを見せると、ゆっくりと銃を降ろす。
「私はコウ君に聞いているのよ? アナタには関係ないわ」
「コウは今、私の胸におぼれている。それでは不満?」
「アンタはねぇ、いつもいつも私のコウくんを誑かしてぇぇ!!」
ルナの拳銃が二丁、二人をターゲットに絞り込む。片方は天地天命、片方は空絶白狐。どちらも攻撃力なら刀や剣の接近戦武器に後れを取らないほどの強さであることは重々承知。その連射でもくらえば流石のSSランクであるコウ、ミティオルが簡単に死ぬするのは目に見えている。
迅速な対応を取るために急速にミティオルから離れて、ルナの元へと駆け寄る。その時に二人に銃口が向いている拳銃はゆっくりと地面に落とし、決して撃たないようにと念を押す。
「何で、何でなのよコウくん! アナタはいつも色んな女とイチャイチャして!」
「誤解だルナ、それにイチャイチャはしたことが無い!」
「むー、言い訳は良いよ。別に私なんか……私なんか……」
彼女はとても嫉妬深い。故に意地っ張りで、泣き虫で時々弱い面々もある。
けれど、その全てがきっと好きなのだろう。どんなに女性プレイヤーと雑談をしても、どんなに女性プレイヤーと一緒に狩りをしても、どんなに女性プレイヤーとゴタゴタに巻き込まれても、ルナを忘れた事は無かった。
「ルナがいいんだ、ルナが俺の中で一番安心できる人だから」
「……え?」
「ルナがいるから毎日が楽しいし、ルナがいるから毎日がスリルだし、色々あるけど俺はルナの事が好きだよ」
「コ、コウくん……」
涙を拭いて、駆け寄ってくるそっと抱きしめてやろうと大きく手を広げ自分の手に彼女の感触があると感じられた瞬間、チクリと痛みが押し寄せた。
ゆっくりと彼女を引き、どういった現状なのか確認しようとするがすでに遅し。俺は彼女に倒れかかるように朦朧と足をふら付かせた。
これはルナのお得意技、嘘泣きと嫉妬。
『龍殺しの毒』と呼ばれる巨大な龍ですら一瞬で倒してしまう超レアな短剣。
ルナはあまりに嫉妬深いが故にその相手を殺すのではなく、俺を殺す。幾度となく何度でも『龍殺しの毒』を腹部に刺し続けた。
「次は本気で刺すわよ、コウくん♡」
「い……いやルナさん」
薄れゆく意識の中、俺はルナの肩を掴み最後の苦難を懺悔した。
「すでに本気で刺しとるやん」
死。
それは『ANGEL ENGAGE ONLINE』の既定上、PKによって殺されたプレイヤーは丸一日、ログインをすることが出来なくなる。
二日前、俺がルナに殺されたのでログインできなかった理由が明白である。
本末転倒的な奇特恋人、コウとルナは今日も平和に暮らしているのであった。
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