2009年 12月5日 土曜 午後10時〜10時43分
東京・秋葉原の小さな劇場には、毎日夕方6時を過ぎると、多くの若者が詰めかける。お目当ては、アイドルグループAKB48の公演だ。今、この劇場に、世界の大物プロデューサーが続々と訪問。その狙いはAKB48のビジネスモデルを海外で展開することだ。
マンガやアニメなど、クールジャパンとして海外で人気の日本の文化だが、今「アイドル」というコンテンツもファンを獲得しつつある。今、そのアイドルが150兆円ともいわれる世界の巨大コンテンツ市場を目指す。
今回番組で注目したのは、AKB48をプロデュースする秋元康氏。「フォーマット戦略」で海外に挑む。その戦略は、AKB48そのものではなく、そのコンセプトを世界に広げるもの。勝負の場は、世界の大物プロデューサーが集まる、フランスのコンテンツ見本市。アイドルをめぐる新たなビジネスは成功するのか。プロジェクトの舞台裏に密着した。
2009年9月、秋元は実力を試したいと、ニューヨークで単独ライブを行った。会場は、かつてマドンナもステージに立った名門のライブハウス。普段ステージの運営には、口を出すことのない秋元がこの日、メンバーに檄を飛ばした。「全力を出せ。君たちよりも歌がうまい、ダンスがうまい存在はアメリカにいっぱいいる。勝てることは一生懸命さだ。日本のアイドルはすごいという姿を見せて欲しい」。
会場には、800人を超えるファンが詰めかけた。2時間のライブは英語に翻訳した2曲以外、すべて、日本語。現地のファンも日本語で歌うほどの熱狂ぶりだった。ライブで出会ったサマンサ・ブロムリーさん(21)は小さな頃から、アニメを通じて日本の音楽が好きだったという。AKB48は3年前、インターネットで知った。以来、世界中のファンとネットで情報交換をしている。その魅力は、親近感、大勢の中から自分に近い女の子を見つけ、応援する楽しみだという。「一生懸命歌い、踊る姿は私たちのあこがれだ。アメリカのセレブはみな傲慢な感じだが、AKB48は積極的にファンと接してくれるのがいい」。
しかしアジアでは、日本を真似たと思われるグループアイドルが登場し、海外進出を始めている。台湾の「hey-girl」は秋葉原にいるメイドのようなコスチュームで歌い踊る。韓国の「少女時代」は韓国政府の支援を受ける。今年10月、東南アジアへの進出には資金の援助やプロモーション会場の提供を受けた。
ライバルの出現だけではなく、ビジネスのやり方にも課題がある。例えば、アメリカで人気のPuffy。2人を主人公にしたアニメ「HIHI PUFFY AMI YUMI」は、アニメ専門チャンネルで放送。初回の視聴率は開局以来最高を記録し、番組は110カ国以上に輸出された。しかし、収益の多くは日本に入っていない。アメリカ側がアニメ化を提案・制作し、著作権を抑えたからだ。プロデューサーのサム・レジスター氏は言う。「アメリカは常に、世界展開を視野に入れ、様々なメディアから多くの収益を上げられるよう、戦略を練る。日本はたくさんのキャラクターを持っているが、目先のヒットばかりを追い、戦略がない。多くのチャンスを失っている」。
こうした課題を克服しようと、秋元が取った戦略が「フォーマット販売」だ。フォーマット販売とは、AKB48のアイデアやスタイルを、権利として売る方法だ。秋元の構想は、世界の主な都市にパリ48やNY48など、現地の人たちでフランチャイズチームを結成するものだ。
この手法はTVの世界で始まったもの。「クイズミリオネア」は日本を含む100カ国以上に販売され、100億円を超える利益を生んだ。スタジオセットや音楽、司会者のセリフまで、フォーマット化した。
一方、日本がフォーマットを輸出したケースも多い。フジテレビの「料理の鉄人」は、アメリカで「アイアンシェフ」と名前を変えて放送されている。世界でも早くから海外販売を行ってきたTBSでは、輸出の際「フォーマットバイブル」と呼ばれる文書を作る。そこには、制作に必要な期間や人数、スタジオセットのデザインや小道具、さらには出演者の選び方まで詳細に書かれている。これさえあれば全く同じ番組が作れる。 過去に例がないアイドルのフォーマットは、法律的な権利としてどこまで認められるのか分からないため、骨格作りは弁護士と相談しながら進められた。
その結果、フォーマットの主な内容は以下のようになった。AKB48は「チームA」、「チームK」、「チームB」という3つから成り立つ。これに乗っ取り、定員16人の3チーム制を敷く。3チームの下に研究生を置き、昇格や卒業など、サバイバル競争を行う。制服を着用し、楽曲はすべて秋元康のものを使用する。名前は「○○○48」とする。劇場での公演をベースとした「会いに行けるアイドル」というコンセプトを持つ。
フォーマットを作ることで、ニセモノを防ぎ、著作権などの権利も確保することが狙いだ。
AKB48のフォーマットが出品されたのは、10月上旬。フランス・カンヌで開かれた、世界最大の映像コンテンツ見本市・MIPCOM。ここではテレビ番組からインターネットまで、様々なコンテンツが取引される。今年は、世界的な不況の影響から「安くて面白いソフト」が求められた。
この場に、メインゲストとして招待された秋元は、ライブを中心にしたフォーマットの可能性をアピールした。「ライブはテレビでは見られない、1回しかみられないコンテンツ。劇場に多くのお客さんが見える形でいるため、スポンサーも取りやすい。人気を全国に広げる役割がテレビ。テレビと一緒にやればデジタルコンテンツが発生し、さらに利益が生まれる」。メディアコンサルタントのピーター・バザルゲッテさんは、このフォーマットを評価した。「AKB48のコンセプトは非常に面白い。劇場、つまりライブの要素と、オーディションというテレビ番組の要素をあわせもつ。現在、テレビ業界は広告収入が減り、番組はデジタルの手法でコピーされてしまう。ますます業界は、ライブに目を向けている。マドンナが今回、レコード会社ではなくライブのイベント会社と契約したのも、その表れだ」。
秋元は自ら、世界のバイヤーとの商談に臨んだが、新しいフォーマットはなかなか理解されなかった。魅力を感じつつも、初めて見るフォーマットをどうビジネスにつなげればいいか、戸惑っていた。景気の後退もあり、バイヤーは簡単に制作できる、従来のテレビ番組のフォーマットを求めていた。
見本市への参加を決めた際、秋元はAKB48のライブ実施にこだわった。実物の魅力が伝わらなければフォーマットも売れないからだ。秋元は、ライブ実現のため、派遣費用をすべて負担した。演奏後、会場からは拍手。商談の結果は、日本で待つことになった。
見本市から2ヶ月あまり。現在、秋元の所には、7~8つの制作会社やテレビ局などからフォーマット購入の打診が来ている。番組ではアイドルフォーマットの輸出を見たが、すでに車や工業製品などを見ると、アイデアを知的所有権として輸出し、成功している例もある。世界の中でも、日本は優れたオリジナリティーを持っており、足下にチャンスは多い。新興国が日本の得意分野を浸食し始めた今、アイデアで日本はどう食っていくのか、真剣に検討する時期に来ている。
マンガやアニメなど、クールジャパンとして海外で人気の日本の文化だが、今「アイドル」というコンテンツもファンを獲得しつつある。今、そのアイドルが150兆円ともいわれる世界の巨大コンテンツ市場を目指す。
今回番組で注目したのは、AKB48をプロデュースする秋元康氏。「フォーマット戦略」で海外に挑む。その戦略は、AKB48そのものではなく、そのコンセプトを世界に広げるもの。勝負の場は、世界の大物プロデューサーが集まる、フランスのコンテンツ見本市。アイドルをめぐる新たなビジネスは成功するのか。プロジェクトの舞台裏に密着した。
2009年9月、秋元は実力を試したいと、ニューヨークで単独ライブを行った。会場は、かつてマドンナもステージに立った名門のライブハウス。普段ステージの運営には、口を出すことのない秋元がこの日、メンバーに檄を飛ばした。「全力を出せ。君たちよりも歌がうまい、ダンスがうまい存在はアメリカにいっぱいいる。勝てることは一生懸命さだ。日本のアイドルはすごいという姿を見せて欲しい」。
会場には、800人を超えるファンが詰めかけた。2時間のライブは英語に翻訳した2曲以外、すべて、日本語。現地のファンも日本語で歌うほどの熱狂ぶりだった。ライブで出会ったサマンサ・ブロムリーさん(21)は小さな頃から、アニメを通じて日本の音楽が好きだったという。AKB48は3年前、インターネットで知った。以来、世界中のファンとネットで情報交換をしている。その魅力は、親近感、大勢の中から自分に近い女の子を見つけ、応援する楽しみだという。「一生懸命歌い、踊る姿は私たちのあこがれだ。アメリカのセレブはみな傲慢な感じだが、AKB48は積極的にファンと接してくれるのがいい」。
しかしアジアでは、日本を真似たと思われるグループアイドルが登場し、海外進出を始めている。台湾の「hey-girl」は秋葉原にいるメイドのようなコスチュームで歌い踊る。韓国の「少女時代」は韓国政府の支援を受ける。今年10月、東南アジアへの進出には資金の援助やプロモーション会場の提供を受けた。
ライバルの出現だけではなく、ビジネスのやり方にも課題がある。例えば、アメリカで人気のPuffy。2人を主人公にしたアニメ「HIHI PUFFY AMI YUMI」は、アニメ専門チャンネルで放送。初回の視聴率は開局以来最高を記録し、番組は110カ国以上に輸出された。しかし、収益の多くは日本に入っていない。アメリカ側がアニメ化を提案・制作し、著作権を抑えたからだ。プロデューサーのサム・レジスター氏は言う。「アメリカは常に、世界展開を視野に入れ、様々なメディアから多くの収益を上げられるよう、戦略を練る。日本はたくさんのキャラクターを持っているが、目先のヒットばかりを追い、戦略がない。多くのチャンスを失っている」。
こうした課題を克服しようと、秋元が取った戦略が「フォーマット販売」だ。フォーマット販売とは、AKB48のアイデアやスタイルを、権利として売る方法だ。秋元の構想は、世界の主な都市にパリ48やNY48など、現地の人たちでフランチャイズチームを結成するものだ。
この手法はTVの世界で始まったもの。「クイズミリオネア」は日本を含む100カ国以上に販売され、100億円を超える利益を生んだ。スタジオセットや音楽、司会者のセリフまで、フォーマット化した。
一方、日本がフォーマットを輸出したケースも多い。フジテレビの「料理の鉄人」は、アメリカで「アイアンシェフ」と名前を変えて放送されている。世界でも早くから海外販売を行ってきたTBSでは、輸出の際「フォーマットバイブル」と呼ばれる文書を作る。そこには、制作に必要な期間や人数、スタジオセットのデザインや小道具、さらには出演者の選び方まで詳細に書かれている。これさえあれば全く同じ番組が作れる。 過去に例がないアイドルのフォーマットは、法律的な権利としてどこまで認められるのか分からないため、骨格作りは弁護士と相談しながら進められた。
その結果、フォーマットの主な内容は以下のようになった。AKB48は「チームA」、「チームK」、「チームB」という3つから成り立つ。これに乗っ取り、定員16人の3チーム制を敷く。3チームの下に研究生を置き、昇格や卒業など、サバイバル競争を行う。制服を着用し、楽曲はすべて秋元康のものを使用する。名前は「○○○48」とする。劇場での公演をベースとした「会いに行けるアイドル」というコンセプトを持つ。
フォーマットを作ることで、ニセモノを防ぎ、著作権などの権利も確保することが狙いだ。
AKB48のフォーマットが出品されたのは、10月上旬。フランス・カンヌで開かれた、世界最大の映像コンテンツ見本市・MIPCOM。ここではテレビ番組からインターネットまで、様々なコンテンツが取引される。今年は、世界的な不況の影響から「安くて面白いソフト」が求められた。
この場に、メインゲストとして招待された秋元は、ライブを中心にしたフォーマットの可能性をアピールした。「ライブはテレビでは見られない、1回しかみられないコンテンツ。劇場に多くのお客さんが見える形でいるため、スポンサーも取りやすい。人気を全国に広げる役割がテレビ。テレビと一緒にやればデジタルコンテンツが発生し、さらに利益が生まれる」。メディアコンサルタントのピーター・バザルゲッテさんは、このフォーマットを評価した。「AKB48のコンセプトは非常に面白い。劇場、つまりライブの要素と、オーディションというテレビ番組の要素をあわせもつ。現在、テレビ業界は広告収入が減り、番組はデジタルの手法でコピーされてしまう。ますます業界は、ライブに目を向けている。マドンナが今回、レコード会社ではなくライブのイベント会社と契約したのも、その表れだ」。
秋元は自ら、世界のバイヤーとの商談に臨んだが、新しいフォーマットはなかなか理解されなかった。魅力を感じつつも、初めて見るフォーマットをどうビジネスにつなげればいいか、戸惑っていた。景気の後退もあり、バイヤーは簡単に制作できる、従来のテレビ番組のフォーマットを求めていた。
見本市への参加を決めた際、秋元はAKB48のライブ実施にこだわった。実物の魅力が伝わらなければフォーマットも売れないからだ。秋元は、ライブ実現のため、派遣費用をすべて負担した。演奏後、会場からは拍手。商談の結果は、日本で待つことになった。
見本市から2ヶ月あまり。現在、秋元の所には、7~8つの制作会社やテレビ局などからフォーマット購入の打診が来ている。番組ではアイドルフォーマットの輸出を見たが、すでに車や工業製品などを見ると、アイデアを知的所有権として輸出し、成功している例もある。世界の中でも、日本は優れたオリジナリティーを持っており、足下にチャンスは多い。新興国が日本の得意分野を浸食し始めた今、アイデアで日本はどう食っていくのか、真剣に検討する時期に来ている。