ちなみに第18期の軍の中枢である党中央軍事委員会のニューフェイスとしては、やはり胡錦濤派の童世平(海軍上将)、房峰輝(陸軍上将)、次期国家主席の習近平氏と親密な劉源(劉少奇の息子、総後勤部政治委員、上将)、劉暁江(胡耀邦女婿、海軍政治委員)の名前が候補にあがっている。劉源上将は今年春に失脚した薄熙来氏を支持していたおかげで、軍事委入りが危ぶまれていたが、劉少奇の息子というブランドと習近平氏の強い押しがあって、有力候補に残ったという。しかし、全体的に胡錦濤派勢力が勝りそうだ。さらに言えば、海軍勢力が幅をきかせそうだ。
静かに実効支配を強化していけばいい
人事の予想は得意ではないので、このくらいにしておくが、この政権交代の時期に、日本がどのような心の準備というか、対策を講じておく必要があるか、ということを少し考えてみたい。言うまでもなく、東京都の尖閣諸島購入の問題もある。
尖閣諸島については、結論から言うと、実効支配強化をやっておくなら今のタイミングしかないだろう。つまり、中国の政権交代が無事完了し、新政権が安定してからの方がやりにくい。解放軍海軍が南シナ海方面の実効支配強化を完了させてからではなおさらやりにくい。自国の海軍力が日本を上回っていると自信を持ってからでは、絶対にできない。
東京都は尖閣諸島購入のためにあっという間に13億5000万円以上の寄付を集めることに成功したので資金問題はクリアしたと言えるだろう。なら、さくっと買ってしまえばいい。野田政権はわざわざ、できもしない国有化などと言い出して、中国さまを挑発する必要もない。島の所有者が誰にいくらで自分の土地を売ろうとも自由なのだから、中国政府には「これを阻止することは国内法上できない」と言うだけでいい。粛々と測量し、開発し、静かに実効支配を強化していけばいいのだ。
丹羽宇一郎・駐中国日本大使が英フィナンシャルタイムス紙に「(東京都が尖閣諸島購入を実行すれば)日中関係に重大な危機をもたらす」と日本政府の本音をうっかり代弁してしまったため、ずいぶん世論にたたかれ、一時帰国せざるを得なくなったが、たたかれるのも大使の仕事のうち。政府は、そうなんです、ぜんぶ石原慎太郎都知事のせいなんです、というそぶりをしておけばよかった、と私は思う。
情けない話だが、実際、国有化論を主張し出すと、中国としても「単に所有者がAからBに変わるだけで、中国の領土であることは変わりない」という建前がきかず、黙っていられなくなってくる。その時、軍事衝突の可能性も辞さない覚悟をもって、日本政府が国有化を推し進められるか。できないのであれば、都知事のアイデアに黙って乗っかっていればいいものを、と正直思う。