３８歳・イチロー「刺激求めた」志願のヤンキース電撃移籍

ヤンキースでの初打席を待つ背番号３１のイチロー（共同）

　◆マリナーズ１―４ヤンキース(２３日・シアトル）　マリナーズのイチロー外野手（３８）が日本時間２４日、ヤンキースにマイナー２投手との交換トレードで電撃移籍した。会見終了から約２時間半後、「８番・右翼」でマリナーズ戦に先発出場すると、３回の初打席で中前安打。すぐに二盗を決めるなど、新天地の門出を勝利で祝った。「環境を変えて刺激を求めたい」とメジャー１２年目で移籍を志願した安打製造機。世界一２７度の名門で、ワールドシリーズ制覇へ再スタートを切った。

　イチローがこれまでとは逆の三塁ベンチから、ヤンキースの一員として初の打席に向かった。３回だ。０１年から１１年半もプレーしてきた本拠地のファンが次々と立ち上がる。２万９９１１人は力強い拍手を送り続けた。

　「ここではいろんなことがあった。ああいう反応を目の当たりにすると、（頭の中が）真っ白になる。あの瞬間に感激した」

　４５秒間のスタンディングオベーション―。ヤンキースのヘルメットをとって掲げ、２度ゆっくり頭を下げて感謝の気持ちを示した。２６２安打の大リーグの年間安打新記録を作った０４年とまったく違う感情だった。

　渡米から１２年目、イチローには最も長い一日だった。移籍会見を終え、３時間後に始まった試合で３回に右腕ミルウッドから中前安打。直後に今季１６個目の盗塁を決めた。

　「（体が）すごく重くて自由自在に動く感じではなかった。（初安打の）あの瞬間に解き放された」

　メジャー通算２５３４本の安打製造機は、移籍会見では目を腫らして声を詰まらせながら、自らが志願したトレード事情を明かした。

　「オールスターブレーク（球宴休み）にボクなりに考えた結論は、２０代前半の若い選手が多いこのチームの未来に自分がいるべきではない。自分も環境を変えて刺激を求めたい。それなら早く去るべきだと」

　マリナーズのリンカーンＣＥＯ（最高執行責任者）の話によると、数週間前にイチローサイドから「自分をトレードに出して、投手を獲得した方がいいのではないか」と打診があったという。若手に経験を積ませた方が、チーム再建に役に立つと知っていた。そこから今回のトレードが実現した。

　背番号は下位打線に入る自らの立場を自覚し、「特別な番号」の５１番でなく３１番を選択。さらに右肘手術で復帰が絶望な昨年の盗塁王・ガードナーの穴を埋めるため、メジャーで初めて左翼を守る。１０月で３９歳。走塁や守備では世界一２７度を誇る名門チームで依然トップレベルだ。イチロー自身も、そして日本で見守る野球ファンが期待を込めるワールドシリーズ出場に向かって、走り始めた。

　◆ニューヨーク・ヤンキース　１９０１年に旧ボルティモア・オリオールズとして創設、０３年にニューヨーク移転。ハイランダーズを経て１３年にヤンキースと名称変更。２０年にＲソックスからＢ・ルースを獲得し、２１年にア・リーグ初優勝。旧ヤンキー・スタジアムが完成した２３年に初のワールドシリーズ制覇。メジャー記録の５年連続（４９～５３年）を含め、メジャー最多の世界一２７度。リーグ優勝４０度。Ｌ・ゲーリッグ、Ｊ・ディマジオ、Ｍ・マントルら殿堂入り選手を多数輩出。本拠地は新ヤンキー・スタジアム（収容５万２３２５人）。０８年からＪ・ジラルディ監督が指揮。

　◆イチロー（本名・鈴木　一朗＝すずき・いちろう）１９７３年１０月２２日、愛知県生まれ。３８歳。愛工大名電高から９１年のドラフト４位でオリックス入団。９４年に日本プロ野球初のシーズン２００安打。ポスティングシステム（入札制度）で０１年にマリナーズ移籍。１年目に首位打者と盗塁王を獲得し、ＭＶＰと新人王に輝いた。２度目の首位打者となった０４年は２６２安打で大リーグのシーズン最多安打記録を更新。昨季は１８４安打で、メジャー移籍から１０年連続で達成していた２００安打が途切れた。０１年から１０年連続ゴールドグラブ賞＆球宴出場。今季年俸は１８００万ドル（約１４億４０００万円）。１８０センチ、７７キロ。右投左打。既婚。