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鈴木:なんにしても、補償をどうするかは非常に難しいところです。ファーストサーバの約款は補償の限度額をサービス利用料の総額とするものです。これはパブリッククラウドでは一般的な契約ですが、重要なデータを預けているユーザーからしてみれば納得できないでしょう。情報の資産価値がまったく考慮されていないからです。本当はデータという貴重品を預けているのだから保険を掛けるべきですが、現状では保険会社も対応できていません。
──保険金で一時しのぎはできても、事業の継続という点では難しいケースもあります。
鈴木:そもそも事故を未然に防ぐ効果は期待できます。保険会社の約款の中にバックアップ体制についての項目を入れるのです。バックアップしていなければ保険金が下りない、とすれば強制力が出てきます。
現状では、IT部門がバックアップしたいと言っても、お金が掛かるからと承認がおりないこともあります。そういった場合は外部からの強制力が重要です。
──バックアップへの無理解の根本には、事業にとって重要データとわかっているものを、どう扱うべきなのかという問題があります。
鈴木:そもそも情報の資産価値を計るのはとても難しい。大量のデータが蓄積していくなかで、どれが重要なデータなのか見分けが付かないというのが、経営層にとって不安なのかもしれません。またデータは整合性がないと意味がありません。例えば顧客の情報だけ取っておけばいいわけではありません。
──その通りですが、そこでどう判断するかが経営の本質です。そこでデータ消失のリスクを見ないというのは、押し入れに一時的に怖いものを押し込めてるだけに過ぎません。。
鈴木:リスク認識が甘くなっている点は事業者側の責任も大きいです。ファーストサーバと同時期に富士通の館林データセンターで停電事故がありましたが、あまり情報が出ていません。こちらの方ももっと追求されてしかるべきだと思います。
クラウドサービス事業者というからには情報開示は社会的な責任です。その点、Amazonはよくわかっていると思います。こちらも大規模な障害が起きましたが、経過も含めてきちんとレポートを公開しています。事故そのものへの批判も出ますが、一方でユーザーも学べることが多い。
──Amazonの動きは緩やかな啓蒙活動でもあり、同時に株式市場に置けるIRの安定性、透明性にも通じる感覚です。
鈴木:グローバルな大規模ベンダーに関してはそこをきちんと考えているし、彼らはまさにそれが事業モデルに折り込まれています。ですが、国内についていえば館林の件を見る限り、潜在的なリスクが高いと判断せざるをえません。
業界全体を考えれば、リスクをユーザーに押しつけるのではなく、事業者側が頑張りながら、ユーザーに付いてきてもらう相互発展しかありません。ユーザー側も、現状では不幸な事故が起きうる状況だということを理解しつつ、保有する情報資産をある程度何かしらの価値に換算して、それが事業にとってどのくらい大事なものなのかを考える必要があります。双方の努力を通じて、業界全体を健全にしていくしかないのです。
渡辺 聡(わたなべ・さとし)
NECソフト、インターネット企業を経てソフト、サービス分野を専門としたコンサルタントとして独立。2008年にクロサカタツヤ氏と共に情報通信、メディア産業を中心として企業の経営支援、財務支援、事業開発支援を行う「株式会社 企(くわだて)」を設立。現在、同社代表取締役。ソフトウェアサービス、大規模システム構築(ERP)などSI分野からインターネットサービスまでを主にカバーしている。主著に、「マーケティング2.0」「アルファブロガー」「RSSマーケティングガイド」など。
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