教育考現論:ポスト3・11の学びとは/その30 「希望」語る教育長
2012年02月02日
学校をまるで教育サービス提供の場と見立てるような市場原理に傾斜した新自由主義の風潮が幾分弱まってきたように思う。潮目を変えたのは東日本大震災だ。被災地での学校を拠点とした絆の大切さ、児童生徒や保護者が単なる消費者になってしまえば教師との信頼関係も失われることに人々が気付き始めたからだろう。
そんなことを考えながら、都心にも雪が積もった翌日、さいたま市に桐淵博教育長(58)の講演を聞きに行った。教育長室を昨年訪ねたとき、中学の数学教師だった桐淵さんから、かつて担任したクラスで生徒や保護者と交わした何十冊もの「学級通信」ノートを見させてもらい、信頼を大切にしてきた人だと感じていたからだ。
午後7時、若い教師や教職志望の大学生ら139人が待つ「教師力パワーアップ講座」の会場にノートの束を抱えた桐淵さんが現れた。教職に就いたころ衝撃を受けた吉野弘さんの詩を紹介しながら、「魂の話をしよう、という問題意識に共鳴した」と振り返り、当時を「熱いけど未熟で何度も教師をやめたくなりました。でも、それを支えてくれたのが子どもたちです」と語りかけた。
あの「学級通信」が閲覧用に回ってきた。黄ばんだノートに細かい文字が見える。
≪学校生活と家庭の“和”が出来た事を心から感謝いたします≫
これは保護者からの言葉だ。卒業間近の3年生に桐淵さんが送った一文もある。