【2012年07月 更新】
尾瀬沼1周で一喜一憂。
広い空に気持ちが緩む
会津鉄道 会津高原尾瀬口駅】
バスを降りたところにある沼山峠休憩所。まずは少し身体を標高に慣らしてからスタートしよう
福島、新潟、群馬、栃木の4県に接している国立公園「尾瀬」。そこは標高1400~1700mで、本州では最大の高層湿原であり、四季折々で表情を変える壮大な自然が楽しめる日本有数の景勝地だ。長きにわたり多くの人を惹きつけている尾瀬の魅力はどこにあるのだろうか。尾瀬ウォーキングを体験してみよう。
目指すのは国立公園のなかにあり、ハイキング初心者から上級者までが楽しめる幅広い人気の尾瀬沼。東武鉄道から野岩鉄道を経由して会津鉄道の会津高原尾瀬口駅を降り、会津バスで沼山峠バス停まで140分ほど。一般車両が通行できない御池~沼山峠間は30分おきにシャトルバスが運行している。
途中の山あいには迫力あるブナの原生林が見られた。ブナ平というらしい。バスの運転手さんが教えてくれた。リスとかたくさんいるのかな。
上りの際には進行方向に向かって左側の席に座ることをおススメする。
尾瀬といえば湿原に木道が敷かれ、水芭蕉をはじめとしたさまざまな植物をゆっくり鑑賞しながらのお散歩・・・・・・というイメージがあると思う。
確かにそれは間違っていない。
間違ってはいないのだが、今回あるフレーズが浮かび、終始それが頭から離れなかった。
いろいろな意味で、「尾瀬をなめるな」だ。
もちろんいちばん言いたいのは自分自身に対してだが。
ここが尾瀬沼への入口。峠越えの登り口
峠越え。階段がなくなって木道坂道になったり、また階段になったり
沼山峠途中の展望台。尾瀬沼が一望・・・・・・というが、チラッとしか見えない。ここで景色を見ていたら高齢ご夫婦に抜かされた
標高1700mからのスタート
まずは服装チェックを
沼山峠のバス停に到着。尾瀬沼へ向かう登り口があるので、すぐに勇んで歩き始めた。あとで知ったのだが、これはよろしくないらしい。沼山峠バス停はすでに標高1700mにある。まずはある程度この標高に身体を慣らしてからスタートするのがいいとのこと。
このときの服装は、たまたま早朝のバス車内が少し寒かったので半袖シャツの上にジャージを着ていた。
これは正解。
いきなり始まる上り階段は樹林の中に設置されたもので、枯れ木や虫も多いのだ。
しかし同じバスで来たやや高齢のご夫婦や若いカップルは、完全に登山スタイルでストックなども持っている。それにひきかえ、ジャージの下はカジュアルな半袖シャツだし、不向きなデニムを履いてきてしまった。
「尾瀬をなめるな」だ。
「私たちはゆっくり行きましょうね」と道を譲ってくれるご夫婦がいるかと思えば、ちょっと休憩して景色を見ていたらあっという間に追い抜いて行くご夫婦もいる。毎度のことながら、70歳前後のハイカー夫婦の健脚には驚かされる。
尾瀬をなめていたために、「こんなはずでは・・・・・・。イメージと違う」とひとりごちて、すでに息が荒くなっていた。
大江湿原に出た瞬間。「ほえー」と声が出てしまうのは初めて来た人だけかなあ
ここから右折すれば左回りのコースへ行ける。右折せずに「尾瀬沼ビジターセンター」を目指す
「尾瀬沼ビジターセンター」。立ち寄るべし
ビジターセンター近くの売店。帽子やストック、スパッツなども売っている
「長蔵小屋」。ここに宿泊すれば、尾瀬沼1周でも2周でもできるのかな
眼前の大江湿原に立ちすくむ
「来てよかった」
上りから下りを歩き、スタートして約40分。「はあはあ」言っていた身体が、一気に元気になった。
大江湿原に出たのだ。
それまでの林の中とは一変、視界が大きく開けて木道が遥か前方へと伸びている。
「これは気持ちがいい」
思わず声が出た。
木道から離れた森ではさまざまな鳥たちが気持ちよさそうにさえずっている。前後左右からうぐいすの声が聞こえる。尾瀬のうぐいすは行儀が良い鳴き声だ。遠くから響くように聞こえるカッコーの鳴き声は、久し振りに聞いた。
湿地からはゲロゲーロと蛙の合唱も聞こえる。
かなり気分を良くして進んだ。この時点で、「尾瀬に来てよかった」とさえ思えてしまった。
ニッコウキスゲやワタスゲ、コゴミなどを足元に見ながら歩く。身体から毒が抜けていくような気すらする。しばらくすると尾瀬沼が現れ、右手には燧ヶ岳(ひうちがたけ)が見えてきた。
すっかり元気いっぱいになって歩き、大江湿原を越えると「尾瀬沼ビジターセンター」に到着。
ここでは尾瀬の植物やさまざまな生き物についての解説などが展示されている。鳥の名前や鳴き声も知ることができるし、テンやオコジョの糞なども見られる。初めて来た人は立ち寄ったほうがいい。
近くには売店もあるし、トイレもある。長蔵小屋やキャンプ場などの宿泊施設もある。
ビジターセンターの前からも燧ヶ岳がよく見えるが、さらに木道を進むとビューポイントがあるらしい。
三平下の方向へ進む。
10分ほど歩くと右手に尾瀬沼と燧ヶ岳がよく見える場所に出た。水もキレイに見えるし、確かにここが絶好のポイントかもしれない。
前を歩くご夫婦も携帯電話で盛んに撮影していた。
さらにそこから20分ほど歩くと、三平下の尾瀬沼休憩所に着いた。ベンチもあるので少し休憩。
ここでUターンして大江湿原へと戻るのもひとつのコース。日帰りにはこのコースがオススメだ。
もう少し余裕がある場合は、ビジターセンターへ戻ってから尾瀬沼の北側を沼尻休憩所まで歩いてUターンしてくるのも、ひとつのコースだ。
この日は朝一番にスタートできたので、思い切って三平下から小沼湿原へと向かう右回り一周コースへと進んでみた。
道がなくなったりする沼の南側コース
こんなところを通る。大丈夫。美人さんひとりでも通れる道だ。なめてかかるとキツイけどね
「沼尻休憩所」。ひと休み。飲食ができる。ここでも水を買わなかったのがあとで大変なことになる
「沼尻休憩所」を過ぎると気持ちのいい木道へ
日陰のコースはツライ
でも抜けたら天国
休憩所からコースへ入るところに、「ぬかるんでいて滑りやすい所もあるので注意」というようなことが書かれていた。
イヤな予感・・・・・・。
コースはすぐに高低差のある道になった。林の中で陽もあまり差さない。木道はあるのだが、階段になるところも多い。さらに階段すらなくなる場所もある。日陰になり木道が腐って朽ちてしまっているところもあるようだ。
木の根が思いきり道を塞いでいたり、「迂回路」と書かれた看板に従い何もない山道を上り下りするような場所があったりする。
周囲に人がいないので、「よいしょ・・・・・・よいしょ・・・・・・」と小さな声が出てしまう。
すれ違う人に、「こんにちは~」と涼しい顔で挨拶をするのだが、心の中で、「この先は大変な道ですよ~」と忠告してあげていた。しかし、そこからさらに進むとまた高低差が激しい道に出くわし、「さっきの人たちはこんな所を通ってきたのか~」と、見えるはずもない後ろへ進んだ人たちを振り返り、畏敬の念を抱いたりしていた。
はっきりいって、この道はオススメしない。
「尾瀬をなめるな」。
膝と腿がパンパンになったころに小沼湿原へ出た。日陰の山道から比べるとまるで天国のようだった。その先に沼尻休憩所があり、燧ヶ岳にもっとも近づいた。ここから尾瀬沼の北側をまわって大江湿原まで出た。約3時間の1周コース終了。
実は尾瀬沼にもっとも近い檜枝岐(ひのえまた)村にある旅館の方に言われたことがある。
「日の当たらない南側を歩くのはそれほど楽しくない」
なので、
「では1周すると何があるんでしょうか?」と聞いた。
「達成感です」
きっぱり言われた。
なるほど納得。「1周したぞ」という気持ちと足の疲労が残った。
尾瀬沼を左回りすると、後半にあの苦しい南側を通ることになる。それは、よりきついかもしれない。達成感を求めて1周するならば右回りをオススメする。
もうすぐ1周
沼山峠からシャトルバスで下りた御池。ここでは食事もできるしお土産も買える
「尾瀬御池ロッジ」。日帰り入浴もできる。よほど疲れたなら入るもよし。余裕があるなら無理に入らなくてもよし。もちろん入った。入浴料500円+タオル200円
1周後に峠越えすることを忘れずに
水分補給も絶対に忘れずに
そこからバス停に戻らなければいけない。約1時間半かかる・・・・・・。帰りもやはり大江湿原は気持ちよい。ただ、鳥の声は朝に比べるとかなり減っていた。やはり朝イチに歩くのがいいようだ。
そしてまた上り下りの沼山峠越え。
すでに太陽も高く上がりかなり汗もかいている。実はここまで水分を摂っていなかった。休憩所の売店では水も売っているので買うべきだった。最後の下りではかなりへばっていた。
休憩所へ戻り水を飲んだときに、
「あれ? ひょっとしたら九死に一生を得た?」
と感じてしまった。水分補給はしっかりするべし。気をつけよう。
「尾瀬をなめるな」。
バスを降りてから5時間後の帰還だった。
余談をひとつ。
一本道なので、ウォーキングをしていると逆回りの人たちとすれ違う。老若男女、年齢層もさまざまで、若い女性ひとりのハイカーも多かった。
そんな尾瀬をひとり歩く女性はおしなべて美人さんだった。なぜだろう。理由はわからない。機会があれば研究してみようと思う。
「尾瀬をなめるな」。
また、後日知り合いの山ガールカメラマンに、尾瀬で筋肉痛になったと言ったら白い目で見られた。「普通はならないでしょ」と。
「尾瀬をなめるな(初心者は)」。
〈夜行列車「尾瀬夜行23:55」〉
朝一番の尾瀬沼へ
●http://www.tobu.co.jp/2355oze/
〈尾瀬 長蔵小屋〉
●http://www3.ocn.ne.jp/~chozo/
〈尾瀬の玄関口 檜枝岐村〉
●http://www.oze-info.jp/
※「東武鉄道で行く東武沿線温泉情報サイト 電車でおんせん旅」にて紹介(2012年8月以降)
写真・文/はるやまひろぶみ