強まるオスプレイ配備への反発 現実離れした日本の要求 (1) 型により大きく異なる事故率
WEDGE 7月23日(月)13時25分配信
米海兵隊が今年8月から沖縄県の普天間飛行場に配備を予定している垂直離着陸輸送機MV-22、いわゆる「オスプレイ」をめぐり、日本では一大騒動となっているようだ。今月、アジア外遊の際に東京を訪れたクリントン国務長官が野田佳彦総理大臣や玄葉光一郎外務大臣と会談したときも、この問題が話題として言及された。早ければ今月末にも森本敏防衛大臣が訪米して、本件についてパネッタ国防長官と協議するほか、オスプレイに試乗する可能性もあるという。
◆騒動の原因は?
そもそも、オスプレイ配備は何がそんなに大騒ぎになっているのだろうか。最大の原因はオスプレイの「安全性」についての疑問であるとされる。民主党の中で安全保障にもっとも理解がある議員としてアメリカでもよく知られている前原誠司政調会長(元外務大臣)が「民主党の総意だ」としてルース駐日米大使にオスプレイ配備延期を申し入れてしまうほどだ。
オスプレイは開発中に大きな事故が続き、その度に話題を集めてきた。飛行実験中の事故で死亡する乗員が後をたたないので、「未亡人製造機(widow maker)」というありがたくないニックネームまで頂戴したほどだ。2007年に実戦配備されてからも、すでに数度、事故を起こしている。2012年に入ってからは、4月にモロッコ沖で訓練中だったオスプレイが墜落し、搭乗員4名のうち、2名が死亡、2名が重傷を負った。6月にはフロリダ州で訓練飛行中だったオスプレイが墜落、搭乗員5名が負傷した。さらに今月11日には、負傷者は出なかったものの、ノースカロライナ州で海兵隊ニューリバー基地から離陸したオスプレイが同州のウィルミントン国際空港に緊急着陸した。
これだけ事故が多い航空機を人口が密集している沖縄県の普天間飛行場や、普天間に配備する前に試験飛行が行われる予定の山口県の岩国飛行場に配備することへの反対の声が、今年に入ってから事故が相次いだことから高まってきたのだ。特に、離着陸時の事故発生の多さが、懸念を呼んでいるようだ。
ただし、2011年6月に国防総省がオスプレイの沖縄配備を発表した時点で、沖縄県はすでに「普天間基地の固定化につながる」として反対の姿勢を打ち出していた。加えて今年に入って飛行事故が2度、緊急着陸が1度という状態が生まれていることから、試験飛行が行われる岩国飛行場を抱える山口県でも反対の声が高まってきた、というのが実際の流れのようだ。もともと、普天間飛行場移設が遠のく原因になりかねない、という理由で配備に反対していたところ、追い討ちをかけるように安全性についての疑問が再浮上した−−というのが実情ではないだろうか。
◆オスプレイってどんな飛行機?
問題のオスプレイだが、そもそも、どのような飛行機なのか。そして、オスプレイは、日本のメディアで喧伝されるほど危険なものなのか。
オスプレイは1980年のイラン大使館人質事件の教訓として「敏捷に垂直に離着陸できる新しいタイプの航空機が必要」という米国防総省のニーズに応える形で開発された新型機だ。分かり易く言えば「ヘリコプターのようにも、通常の飛行機のようにも飛行できる航空機」である。
開発が始まったのは1981年だが、国防総省が正式に本格的量産を決定したのは2005年(初期量産は1994年に認められた)、実際に部隊配備され実戦運用が始まったのは2007年、と開発開始から25年近くが経過している。現時点で、国防総省は合計485機のオスプレイを調達する予定で、うち360機を海兵隊が、50機を空軍が、48機を海軍が購入予定だ。ただし、海軍への導入の具体的予定はなく、現在は海兵隊と空軍のみが使用している。
◆型により事故率も異なる
オスプレイは確かに、開発中に事故が多かった印象がある。開発開始から本格的量産が決定されるまでに要した年数は25年あまり。その間、1991年、1993年、2000年にそれぞれ、大きな墜落事故が発生し、30名あまりが命を落としている。これらの事故はいずれも機体の構造上の欠陥が墜落の一因である可能性が疑われたため、原因が究明され、対応策が講じられるまでの間、それぞれの事故後3カ月、1年、1年半の期間、全機飛行禁止措置が取られた。「未亡人製造機」と揶揄されたのも、この頃のことだ。
一方、2007年に実戦配備された後に発生した墜落事故については、いずれも、機体の構造上の欠陥が原因ではないとある程度早い段階で判明したため、飛行禁止措置は取られていない。ちなみに、今年の4月と6月の墜落事故の後も、7月11日の緊急着陸後も、飛行禁止措置は取られていない。
オスプレイの事故に関する報道を見る際に注意しなければならない重要なポイントがある。一口に「オスプレイ」といっても、実際には空軍型(CV, 特殊作戦用)、海軍型(HV, 捜索・救難用)、海兵隊型(MV, 輸送用)の3種類(うち現在実戦配備されているのは空軍型のCVと海兵隊型のMVのみ)あるのだが、日本の報道ではこの3種があたかも同一のものとして扱われているということだ。機体の90%は共通なのだが、残り10%の仕様はどのような作戦目的に使用するかで異なっている。
しかも、型により事故率が著しく異なるのだ。たとえば、空軍型(CV)と海兵隊型(MV)を比べると、CVの事故率は飛行時間10万時間に対して13.47件なのに対して、MVの事故率は同じ期間で事故率1.93件になっており、その差は歴然としている。ちなみに、今回導入が予定されているのは、海兵隊型(MV)、つまり、事故率が低い方だ。
※つづく⇒「100%の安全はない」
著者:辰巳由紀(スティムソン・センター主任研究員)
最終更新:7月23日(月)13時25分
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