遺言書がない場合には、故人の財産は法定相続人に承継され、その具体的な分割方法(誰がどの財産を承継するか等)は相続人に委ねられます。
そこで、ご自分が亡くなった後に財産の分割方法に希望がある場合、例えば、法定相続人ではない人に財産を遺したい、ある相続人に法定相続分を超える財産を渡したい(あるいは渡したくない)、ご自分の経営されている会社の株式を事業承継者にのみ株式を相続させたいなど、財産の分割方法にご希望がある場合には、法的に効力のある遺言書を作成しておくことが必要です。
遺言書を作成しなかったために、あるいは、作成方法や時期が不適切であったために、ご自分の意思が遺産分割に反映されないことがあります。遺言書の作成の際には、ぜひ、専門家のサポートをご利用下さい。
以下では、よくある失敗例をご紹介します。
(1)時機を逸した例
「今は元気だし、もう少し年を取ってからでいい。」と考えて遺言書の作成を先送りにされている方も多いでしょう。しかし、いざ体調が悪くなると、「こんな時に遺言書を作らせるのは可哀想」と周囲が遠慮しがちです。そして、手をこまねいているうちにいよいよ危険な状態になって慌てて遺言書を作成すると、遺言作成時にご本人の判断能力が失われていたとして、せっかく作成した遺言書が無効になってしまう危険があります。このように、後から振り返って考えると、元気なうちに遺言書を作ってもらっておけばよかったと後悔されるケースが後を絶ちません。
(2)遺言書の記載方法を誤った例
遺言書の作成方法には法律上厳格な定めがあります。それに反すると、たとえ遺言書の意思が明かであるようにみえる遺言書であっても法律上は無効です。
例えば、以下の遺言書はすべて無効です。
(3)遺言書が遺産分割協議に反映されない例
せっかく法律上適式な遺言書を作成しても、これを発見した相続人が不都合に思い勝手に遺言書を破棄する場合があります。逆に、遺言書が発見されないまま遺産分割協議が終了することもあります。
当事務所では、遺産を誰に渡したいかを迷っている段階、渡したい相手や分配の中身は決めたけれど、どのような文言の遺言書にすればよいかわからない段階等、それぞれの段階に応じてご相談を承ります。
遺言者の方のご要望、相続人との関係、事業をされている方の場合には事業内容や承継のご計画等をじっくりとお聞きしたうえで、事後の紛争をできうる限り回避し、適切な手段を構築するための方途としての遺言書の内容を策定してまいります。
遺言書の作成にご関心のある方は、お気軽にご相談下さい。
(1)口頭で伝えるだけでは足りません
遺言の内容が問題となるのは遺言者が死亡した後です。つまり、その時点では遺言者の意思を直接に確かめる手段がありません。そこで、法律は、遺言について厳格な方式を要求しています。法律の定める方式と異なる遺言は効力がないとされてしまうので、十分な注意が必要です。
信頼している人に口頭で言っておけば十分、とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。ただ、残念ながら、口頭で伝えるのみでは、法的に拘束力のある遺言とはなりません。相続人が故人の意思を無視することは制限できません。
つまり、予め法律上の方式に則った書面による遺言書を作成しておく必要があります。遺言書は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれかの方法で行われることがほとんどです。このほか、死亡の危急が迫った場合の特別な方法もありますが、緊急時の対応を検討されるよりは、最初から通常の方式の遺言書を作成されることをお勧めします。
次項以下で、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の概略をご説明します。
(2)自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言をする人が、全文、日付、氏名を自署し、押印して作成する遺言を言います。簡単に作成でき、費用がかからないのが利点です。
反面、記載方法の誤りが発生しやすく、せっかくの遺言が無効になる例も散見されます。また、遺言書の存在を遺族に知られないまま分割協議が行われてしまう、あるいは、遺言書の内容が一部の相続人に不利な内容の場合等に、遺言書を発見した相続人や関係者が隠匿・破棄するおそれも否定できません。家庭裁判所での「検認」を経なければならない点もご留意下さい。
検認とは、遺言書を発見した人が家庭裁判所に自筆証書遺言を持参し、相続人全員に呼出状を発送した上で、裁判所で遺言書を検認してもらうという手続です。これは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など、検認の時点での遺言書の内容を明確にしておいて、事後の遺言書の偽造・変造を予防するための手続です。封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いのうえ開封しなければならないことになっています。
検認手続きを経ないで遺言を執行したり、家庭裁判所外で相続人が遺言書を開封したりした場合には、5万円以下の過料に処される場合がありますので、ご注意下さい(民法1005条)。
(3)公正証書遺言
公正証書とは、証人2人以上の立ち会いのもと、遺言者が公証人に作成したい遺言書の内容を伝え、公証人がそれを文章化することで作成される遺言書です。専門家である公証人が作成に関与すること、遺言者及び証人それぞれが署名押印することなどから、自筆証書遺言に比べて内容や効力について疑義が生じにくくなります。
遺産の額等に応じた作成費用等がかかりますが、公正証書の原本は公証役場にて保管されますので、遺言者以外の人による改ざんや隠匿のおそれが排除できます。自筆証書遺言に比べて、安全性、確実性の高い遺言方法であるといえるでしょう。
どうしても自筆証書遺言で遺言書を作成したいという特段の事情がなければ、公正証書遺言を作成されることをお勧めします。
(4)秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言者が遺言の内容を第三者に知られないようにして遺言書を作成したい場合に用いられる方法です。
遺言者が作成した書面(自筆でなくてもかまいません。)を封に入れて封印し、証人2名の立ち会いのもと、公証人に提出します。公証人とは、提出された日付、遺言者の氏名・住所等を封紙に記載し、遺言者及び証人二名が署名・押印します。この手続きにより、その遺言書が遺言者本人のものであることを明確にできます。
もっとも、公証人が遺言書の文章の起案に携わるわけではありませんので、遺言書の内容や記載方法に法律的な不備があれば、無効となってしまうおそれはあります。
また、自筆証書遺言と同様に家庭裁判所での検認の手続きが必要です。
法定相続人(兄弟姉妹を除く)には、法律上、遺産相続において最低限度の相続分を確保する権利があります。これを遺留分と呼びます。遺言により、法定相続分と異なる形で相続させることや、法定相続人以外に財産を与えることが可能ですが、遺留分を侵害された人は、侵害相手に対し、遺留分の減殺請求ができます。
たとえば、遺言者に2人の子ども(A、B)がいて、この2人のみが相続人であるとします。この場合、A、Bは、遺産の4分の1をそれぞれの遺留分として主張することができます。
仮に、遺言者がAに全ての財産を相続させる旨の遺言を残したとしましょう。この場合、Bは、Aに対し、4分の1を自分に渡すよう請求することができます(遺留分減殺請求)。
このように、遺言者の死亡後に、AがBとの紛争に巻き込まれてしまい、紛争を回避したい遺言者の意向が損なわれる場合があります。遺留分を有する相続人には遺留分相当額を最低限相続させることも考慮したほうがよい場合がありますので、ご留意下さい。