逮捕状請求における撤回について
榎 久 仁 裕
1 はじめに
2 請求の不備の形態
(1) 形式的な不備の請求形態
(2) 実質的な不備の請求形態
3 撤回を肯定する根拠と否定する根拠とその検討
4 捜査観からのアプローチ
(1)弾劾的捜査観からの帰結
(2)糾問的捜査観からの帰結
5 撤回の時間的限界
6 結びにかえて
1 はじめに
逮捕状発付については、ほぼ100パーセントに近い割合で発付されており[1]、その却下や撤回の割合は僅かなようである。外見的には逮捕状の発付については何らの問題がないようであるが、数パーセントの割合で却下される逮捕状請求とともに事実上、「暗数的に計上されない却下」と同視される逮捕状請求の撤回という極めて重要な問題[2]があることが、看過されているような感がある。逮捕状は一般市民の身柄を拘束するという合法的な人権制約であり、一般市民にとってはかなり重要な問題である。逮捕状請求において撤回を許すということに関しては裁判官の司法的抑制という役割が強く期待されるところである。そこで本稿は、逮捕状の請求における撤回の許否について、肯定的な立場[3]から問題を取り上げて、考察を試みるものである。つまり僅かな割合で却下されまたは取下げられる逮捕状請求に対して「撤回」という概念を肯定することが出来るかという考察である。
逮捕状請求における撤回については、従来学説ではその請求行為についての性質から論じられてきた。つまり逮捕状請求の撤回については、刑事訴訟法、刑事訴訟規則に何らの規定が存在しないため、これを解釈論で補ってきたと思われるのである[4]。そこで従来の学説を基に捜査構造論からの視点を含めて検討するとともに撤回の時間的限界について検討してみたい。実務でも捜査機関から逮捕状の請求がなされ、その後、その令状請求の撤回の申し出があることがしばしばあるようである[5]。この撤回の申し出については、それぞれ理由があるが、形式的不備を理由とするもの、実質的不備を理由とするものとに大きく2つに分類することができると思われる。例えば形式的不備というものには単に請求書に誤記があったというものから、疎明資料について誤記があったというもの、疎明資料につき捜査官の押印が欠けていたというものなどがある。実質的理由とするものは、疎明資料の追加をしたい場合や否認していた被疑者が自白したので自白調書を追加したい場合などである[6]。時に裁判官による請求に対する却下を免れようとする意図があるものなどがある。例えば、令状請求がなされ裁判官による判断がなされるにあたって裁判官は補充的書面を捜査機関に求めたり、また捜査機関に直接、請求の理由や必要性を聴取したりすることができる[7]。その段階で「取り敢えず、撤回をさせていただきたい。」という申し出などが典型である。すなわち、令状の必要性または発付の要件が欠けている請求である。問題は刑事訴訟法そして刑事訴訟規則等において、逮捕状請求の撤回規定が存在しないという点である。発付の条件や却下の条件の条文は存在するのであるが、撤回については何らの規定が存在しないのである。しかし実務では多くの裁判官は撤回を許しているのが現実のようである。理由や根拠は様々である。
2 請求の不備の形態
まず逮捕状請求の撤回を捜査機関が申し出る形態として前述のとおり次の2つの形態に分類できると思われる。
(1)形式的な不備の請求形態
この場合は、請求の不備が明らかなのであるから、撤回を肯定しても問題ないようであるが、形式的な不備といえども撤回の意図や原因は様々であり、この撤回についての考察が必要になると思われる。つまり形式的不備であると即断して撤回を許すことは、安易な請求の濫用につながる一つの原因にもなる危険があり、やはり撤回の是非を考察する必要があると思われる。ただ、実質的不備の場合に比べて、相対的に撤回の是非を判断し易いということは、ある程度、肯定できると思われる。
(2)実質的な不備の請求形態
この場合、実質的な不備を理由とする却下を免れようとする意図のもと撤回を申し出る場合があり、特にこの場合が問題となる[8]。しかし捜査機関が捜査の発展から新たに被疑者や目撃者から供述を得られる状況になったり、また新たな証拠が発見されたりした等、時間的には僅かな時間ではあるが、捜査の進展がある場合に一度、請求を撤回して再度、逮捕状請求書の添付資料として追加する意向がある場合など、多くの理由がある。こういった実質的不備を補完しようとする場合などが本来の撤回の問題になると思われる。
3 撤回を肯定する根拠と否定する根拠そしてその検討
(1)肯定する根拠
捜査は機動的かつ発展的なものであり、逮捕状請求の理由や根拠または必要性は流動的に変化するものであるから、撤回は許されるべきである。法または規則等に規定が存在しないということは、裁判官の裁量に任されていると解釈すべきである。逮捕の必要性等が請求後になくなり請求そのものにその必要性が消滅したのであれば、むしろ捜査機関は積極的に撤回することが刑事訴訟法の令状発付における謙抑性に馴染むものである。また撤回によって被疑者等の権利を害するものではない。つまり請求そのものは捜査における一当事者の問題であり、撤回するかしないかはその一当事者の捜査機関の意思を尊重するべきである。撤回を許しても違法とまでは言えない[9]。こういったことが肯定される根拠となり得ると考えられる。
(2)否定する根拠
一度、請求がなされたのであれば裁判官は、その許否を判断するべきである。撤回を許すと令状請求の濫用となる。つまり安易または恣意的[10]な請求が行われてしまう。法または規則等に撤回規定がないということは、撤回を許していないと厳格に解釈するべきである。撤回を肯定すると手続きの安定性が害される。逮捕状の請求が却下されて、再度これを請求する場合、その旨の記載をしなければならない(法199条、規則142条1項8号)ことになっている。もし撤回を肯定すれば、この趣旨が没却される[11]。こういったことが根拠となり得ると考えられる。
(3)検 討
平野博士は、当事者の訴訟行為を訴訟追行行為(裁判所に対して判断を求める行為)と手続行為(訴訟追行行為のための手段とするもの)とに分類し、さらに訴訟追行行為を基本的訴訟追行行為と従属的訴訟追行行為に分類し、訴訟追行行為の撤回は撤回を許すことの利益と不利益を比較衡量しなければならいとし、訴訟追行行為は裁判官の判断が出るまでは撤回ができるとして撤回の許容性を否定しない[12]。通説は逮捕状の請求行為を手続形成行為とし、また平野博士は従属的訴訟追行行為に属するとする。
肯定論、否定論の両者はともにかなりの説得力ある根拠を示していると考えられる。しかし立法論としてはともかく解釈論としてはそれぞれ決定的な論拠を見いだせない状態になっているのではないかと思うのである。逮捕状請求という行為に着目してその行為の性質を分析することも大切ではあるが、両者の考察には刑事訴訟法における捜査構造論からの見地から分析することも必要であると思われる。つまり逮捕状請求も刑事訴訟手続という大きな流れに沿ってなされるものであるから、訴訟構造論そして捜査構造論を排斥して検討することは回避されるべきである[13]。訴訟構造論という枠内においては、その訴訟における請求行為が如何なる性質を呈しているかが問題となるが、逮捕状請求の撤回という行為は捜査構造論の中でも論じられるべき性質のものであると思うのである。確かに訴訟構造と捜査構造という一連とした流れは否定できないが、捜査構造論という特別な枠内での特殊事案が存在することを否定してはならないと思われる[14]。平野博士が分類する訴訟追行行為を基本に私見としては、平野博士が提唱する比較衡量の要素の中に捜査構造論を加味して、逮捕状請求の撤回の是非を考察してみたいと思う。
4 捜査構造論からのアプローチ
捜査構造論における議論としては、大きく分類すると捜査の性質を糾問的に解するものと弾劾的に解するものがある[15]。以下、その捜査観からの帰結を考察してみたいとと思う。
(1)弾劾的捜査観からの帰結
一般的に、弾劾的捜査観からは逮捕状の性質は命令状と解されている。つまり逮捕状が発付されれば、捜査機関はその執行を余儀なくされることとなる。つまり逮捕状を執行するかしないかの裁量は捜査機関にはないということになる。しかしこの命令状説は純粋に命令状である[16]と言われているのではなく条件付命令状だとされている。つまり事情その他の状況の変化があれば逮捕しなくても良いという条件付命令状であるとするのである[17]。そう考えると、請求した後、裁判官が判断している間に事情の変化があれば、必要性のない逮捕状の請求として、捜査機関は撤回することが義務になると思われる。条件付ということの反射的な作用として必要性を喪失した請求は撤回するべきであると考えるからである。その帰結として捜査機関が逮捕の必要性がないことを把握しているのであれば、請求の撤回はむしろ義務的なものであると考えられる。しかも捜査機関の撤回という概念を認めないのであれば、裁判所としては却下の裁判をなさざるを得なくなる。必要性がなくなった逮捕状の請求は、捜査機関としては、その旨の上申書なりを裁判所に提出して撤回の申し出をするべきであるという帰結になると思われる[18]。つまり逮捕状の性質が条件付命令状であるから、捜査機関が撤回の申し出[19]をすることは義務ではないかということである。一方で裁判所は請求資料から逮捕状の発付の要件が具備されている場合でも、捜査機関からの撤回の申し出がある場合、逮捕状の発付をする必要がなくなると考える。つまり捜査機関からの撤回の申し出の中で逮捕状発付の必要性がなくなったことの記載があれば、裁判所は不必要な逮捕状を発付しなくてもよいということになる。撤回という概念を肯定すれば、不必要な逮捕状を発付することがないという令状発付の謙抑性に資することになると思われる。結果的に撤回を認めれば請求そして却下の申し出[20]という自己矛盾の請求が生じる危険がなくなり、裁判所側において逮捕状発付についての判断をする必要がなくなるという訴訟経済的利益(判断をする必要がなくなるという利益)を得ることができると思われる。
(2)糾問的捜査観からの帰結
また一般的に、糾問的捜査観からは逮捕状の性質は許可状と解されている。つまり捜査機関は逮捕状の発付があっても、その執行は捜査機関の裁量に任されるということになる。従って逮捕状の請求をしたが、その撤回をするということは、許可請求の取消を求めるという意味で肯定されるのではないかと思われる。逮捕状の請求をするかしないかは捜査機関の裁量であり、またその後、必要性がなくなったとする判断も捜査機関に存すると考えられるからである。逮捕状請求が捜査段階における一当事者の問題であるならば、その必要がなくなったことを理由とする撤回という概念も否定されないと考えられる[21]。逮捕状発付の司法的抑制という基準をクリアすれば、撤回も自由にすることができるということが糾問的捜査観の帰結であると思われる。
小 括
弾劾的捜査観から逮捕状を条件付命令状と理解し、また糾問的捜査観から逮捕令状の性質を許可状と理解しても、両者の見解からの考察の結論は、撤回を許容することができるということになると思われる。逆に表現すれば両者の捜査構造論からの帰結からも理論的に撤回という概念を肯定することの有益性が認められるということである。従って撤回を肯定するか否かは逮捕状請求の濫用[22]等を抑制するという意味で司法的抑制という機能が大きく働く場面であり被疑者が被告人になり最終的に判決を受けるという流れの中での、最初の身柄拘束であるが故に裁判所は実効的な司法的抑制[23]の機能を大いに働かさなければならない場面であると言える。そう言った意味でも捜査機関からの逮捕状請求の撤回という概念を認めて、裁判官に認容または却下だけでなく撤回を認めるか否かの裁量権をも認めるべきではないかと思われる。その裁量権を認めることこそ司法権の独立そして本質的な司法的抑制を堅持することに資するものであると考える。
5 撤回の時間的限界からの考察
糾問的捜査観そして弾劾的捜査観から逮捕状請求の撤回は許されるとした場合でも、そこには時間的な問題があると思われる。つまり司法的抑制という実質的基準に適合しているかいないかという判断に裁判官が入っている時に捜査機関からの撤回の申し出があっても、時間的問題からその実質的不備を理由に却下が可能ではないかという問題があるということである。これは訴因変更の時間的限界という問題に酷似しているが、訴因変更は対被告人の攻撃・防御という問題に重点が置かれることに対し、逮捕状請求については司法的抑制と訴訟経済という問題であり、相対する者は存在しない。これらを考慮しながら時間的限界として以下のような段階を想定して逮捕状請求の撤回の許否を考えてみたいと思う。
(1) 逮捕状請求がなされ受付行為が完了し、裁判所書記官が形式的審査に入っていない場合。
この場合とは、捜査機関が逮捕状の請求をして、裁判所書記官または裁判所事務官が受付をし、令状事件簿に登載することを終えた場合である。
単に受付をしたという段階であるので、撤回は許されると思われる。裁判官に請求書や請求資料が送付されていない段階だからである。つまり裁判所は形式的審査すら入っていないと評価できると思われるからである。訴訟経済そして司法的抑制という機能を働かせる必要のない段階であり、捜査機関の意思を尊重する段階であると思われる。しかし裁判官の同意は得ておくべきである[24]。単に受付行為が完了したからといって裁判所書記官の権限で撤回を許すということは、越権行為である[25]。
(2) 裁判所書記官が形式的審査に入っている場合。
この形式的審査というのは請求書の記載の不備や添付資料の脱落などの審査である。
この場合は、その不備が大きいものであったり、また不備の箇所が多いものであったりする場合は、請求の濫用の抑制という司法的抑制の機能の一部となることもあるので却下の対象になる場合があると思われるが、そういった場合でなければ、原則、裁判官の同意のもと撤回は許されると思われる。
(3) 裁判所書記官が裁判官からの包括的かつ実質的に請求資料の審査を指示されていて、その裁判所書記官が実質的審査に入っている場合。
この場合は、裁判所書記官は裁判官の補助者として本来、裁判官がするべき審査をしているのであるから、裁判官の審査と同一に考えても差し支えないと思われる一方で、やはり裁判官ではない裁判所書記官の判断に過ぎないという理由から形式的審査に近い実質的審査であり、裁判官の実質的判断には含まれないという考えも成り立ち議論が残るところである。しかし裁判所書記官は裁判官の仕事を補助し時に協働的に職務を遂行する事実があるということを考えれば、また裁判所書記官は裁判官の命に従い職務を遂行しなければならないことを考えれば、裁判官の包括的指示に基づく裁判所書記官への実質的審査権の移譲であるから裁判官の実質的審査の内に含まれると考えても良いと思われる。従って以下(4)の考え方と同一の結論を採るべきである。
(4) 裁判官が実質的判断に入っている場合
裁判官が逮捕状の発付をするかしないかを、判断しているまさにその最中という場合である。
裁判官の判断が長引いている時に、捜査機関が却下を推量して、撤回を求める場合や刑事訴訟規則第143条の2により、裁判官が逮捕状請求者に対して事情聴取等をした時に、捜査機関が請求の却下を推量して撤回を求める場合などがある。こういった場合は、実質的に却下を免れる為の撤回であり、これを認めるべきではないと考える。即ち却下を回避するための捜査機関による潜脱的撤回と解される。この場合は既に裁判官の実質的判断は訴訟経済という利益をかけて判断しているのであり、裁判官の引き続いての審査の結果、却下ということになれば撤回は認められないと解される。つまり司法的抑制という機能を裁判官が作動させての結果であるので、撤回は許されないと考え、その反対に発付の要件が具備されていると判断されれば、発付する必要はなく撤回を許すべきであると考えるのである。
(5) 裁判官の判断が終わっている場合
裁判官が審査を終えて、逮捕状の発付をするか否かについて結論を出している場合である。
この場合は上記(4)の結論と同じある。
小 括
逮捕状撤回が許されることを前提に、これらの5つの時間的段階での裁判所としてとるべき処置を考察してみた。訴訟経済という意味では民事訴訟における訴訟係属の問題が大いに参考になると思われる[26]。しかし逮捕状の請求という行為は捜査機関と裁判所という関係があるだけで相手方が存在しない行為であるという意味では民事訴訟とは大きく異なり、また逮捕状請求がなされ発付されれば、その後の逮捕状の執行という段階で被疑者の存在が考慮されるという意味[27]では司法的抑制という概念が働き、この場合においても民事訴訟手続とは大きな違いを呈する。つまり令状の発付における司法的抑制という問題は、民事訴訟法における訴訟経済と比較して優先的に考慮されるべき機能であると思われる。
6 結びにかえて
捜査構造論から逮捕状の撤回は許されるかという検討を試みたとともに、撤回の時間的限界という見地から逮捕状の撤回の是非を検討してみた。捜査構造論からの検討においては撤回が許されるという結論となったが、時間的限界という考察からは、各段階での検討が必要であると思われたので、各段階における検討をしてみた。撤回という行為論そして捜査構造論からの検討が横断的な検討であるならば、時間的な限界からの検討は縦断的な検討と言える。また形式的不備のケースでは訴訟経済や司法的抑制という機能は大きく働かないのであり、裁判官の同意は要するものの比較的、逮捕状の撤回を許すことは可能であると考えられる。しかし実質的不備の場合はその判断には慎重であるべきである[28]。裁判官が実質的審査に入った場合は逮捕状の撤回は原則的に許すべきでなく、ただ裁判官が発付の要件が揃っていると判断した場合にのみ撤回を肯定するべきである[29]。従って裁判官は実質的判断に入ったら、逮捕状の発付の是非の最終的判断をすることが要求されると思われる。令状事務においては、刑事訴訟法や刑事訴訟規則または裁判所法等に規定されていないことがよく発生すると言われるが、令状事務の迅速性や機動性を考えると、即断することが強く要求されるものであると思われる。そのためにも、ある程度の予測を立てて、如何なる対処をするかという基準を設定しておくべきでる。つまりある程度の画一的な基準が必要とされるということである。多種多様な事件についての逮捕状の請求においての捜査機関の様々な要望に対して、裁判所としては一定の基準を設定して対処するべきではないかと考えるのである。しかしそれは裁判官の独立を害するものであってはならず、裁判官の職務遂行の一助となる基準であり令状発付の機動性、密行性、そして正確性とともに司法的抑制に資する基準となるべきものでなければならないと考える。これは逮捕状の請求の濫用から国民(被疑者)の身体の自由を守るという意味でも憲法の理念に適すると考えられる。それとともに可能な限り裁判官の判断の幅を広げるということは、つまり逮捕状請求の撤回という概念を認めるということは、裁判官の独立、司法権の独立という意味とともに、逮捕状発付における本質的な司法的抑制という意味においても憲法の理念に適合するものである。
[1] 最高裁判所司法統計によると平成17年における全国の裁判所においての通常逮捕状の発付件数は128296件であり、却下件数が33件、そして取下げ件数(撤回)が811件である。
[2] 本来ならば請求却下のケースであるにもかかわらず、「撤回」として処理されるという問題である。
[3] 最高裁判所事務総局刑事局監修『逮捕・勾留に関する解釈と運用』13頁(司法協会、1995年)によると逮捕状の撤回は多数意見として肯定されている。『刑事裁判資料85』75頁(最高裁判所)においては請求における不備な点を指摘して、撤回を許すことは望ましくないとしている。
[4] なお却下の理由としての規定は刑事訴訟法第199条第2項に存在する。
[5] 例えば新関雅夫・佐々木史郎『増補令状基本問題・上』88頁(判例時報社、2005年)
[6] 被疑者を任意同行した場合にあるケースである。
[7] 刑事訴訟規則第143条の2「逮捕状請求者の陳述聴取等」を根拠とする。
[8] 訟廷執務資料昭和28年刑事首席書記官のブロック会議においてもこの問題が指摘されているが、「裁判所としては、防止の方法はないのではないかと思う。」という回答になっている。また裁判所としては請求の謄本を保管しておくべきことが指摘されている。つまりこの問題は長年にわたっての問題点であることが伺われる。
[9] 最高裁判所事務総局刑事局監修『逮捕・勾留に関する解釈と運用』13頁(司法協会、1995年)
[10] 例えば新関雅夫・佐々木史郎ほか『増補令状基本問題上』89頁(判例時報社、2005年)
[11] 新関雅夫、佐々木史郎ほか『増補令状基本問題上』90頁(判例時報社、2005年)
[12] 平野龍一『刑事訴訟法』36頁(有斐閣法律学全集、1982年)
[13] 本稿においては捜査構造論が問題となる。
[14] つまり訴訟構造における当事者主義と捜査段階における弾劾的捜査観という流れはあるがこの流れの中においても捜査段階における特殊な問題、すなわち令状発付の機動性、密行性、正確性、安定性等の問題が存在するということである。
[15] 周知のようにこの2つの捜査観によって「令状の必要性を判断するのは、捜査機関か令状裁判官か」そして「被疑者の身柄拘束中における取調べ受忍義務の有無」また「被疑者と弁護人との接見制限の限界」などに差が生じると考えられている。例えば田宮裕『刑事訴訟法』47頁(有斐閣、1997年)、寺崎嘉博『刑事訴訟法』80頁(成文堂、2006年)
[16] 純粋な命令状とするならば、それは裁判所が自ら捜査をし、その結果、捜査機関に逮捕状を発付するという現行の刑事訴訟法と矛盾する手続となると思われる。つまり令状請求そのものが職権発動を促すものに過ぎなくなる。これは現行の刑事訴訟法が予定しているものではないと思われる。現行刑事訴訟法が逮捕状の請求権を捜査機関に付与していることを考えれば、逮捕状の執行の必要性がなくなればその執行の必要性はないという条件付の命令状だと解さざるを得ない。
[17] 例えば田宮裕『刑事訴訟法』82頁(有斐閣、1997年)、渡辺直行『刑事訴訟法講義』33頁(成文堂、2005年)
[18] 裁判所は逮捕状の必要性がなくなったことを知り得ない。
[19] これは撤回したい旨の「上申書」という形をとらざるを得ないと思われる。逮捕状の性質を命令状と理解するからである。
[20] この申し出が裁判所の主導ということになれば、問題が残ると思われる。つまり請求や取下げそして撤回等は捜査機関の意思ですべきものであり、それを受ける裁判所の方からこれらを促すことは刑事訴訟法等の本質からは許されないことである。
[21] つまりこの撤回も一当事者の問題であると思われる。
[22] 「逮捕状の試験的請求」ということが捜査機関によってなされるということも想定できることである。
[23] 形式的な司法的抑制であるならば、却下すれば良いが、実質的な司法的抑制という意味では、その柔軟性が求められると思われる。柔軟性がある司法的抑制から真の捜査の適正が生まれると考えられる。それ故に「撤回」という概念が肯定されるべきである。
[24] 令状担当裁判官から、事前にこの段階においては裁判官の同意は必要ないと包括的に裁判所書記官に指示がある場合は例外である。
[25] 民事訴訟における支払督促制度のような場合には、裁判所書記官の判断行為であるので、裁判官の同意は必要ないが、刑事手続という厳格性を求められる手続においては裁判官への連絡、同意は必要であると思われる。
[26] 民事訴訟手続における第一審での実務では被告側に訴状送達がなされれば、訴訟係属になる。
[27] つまり身柄拘束という重大な人権の問題である。
[28] 裁判官は司法審査に入り訴訟経済を使用して司法的抑制という機能を行使している。
[29] 発付の要件が具備されていても、不必要な逮捕状は発付されるべきでない。