テーマ:ピアノ奏者のジストニア
10月30日は、岡山から、mixiで仲良くしているみゆゆんさんが上京されていました。
彼女もまたジストニア(右手第1~4指)をもっていて、しかも私とほぼ同じような時期に発症しておられます。
私のジストニアは、「鍼灸」「ロルフィング」「ピラティス」と「奏法のリニューアル」を行い、現在も継続中ですが、この半年で劇的に良くなった感じがしていて、まだ100%ではないにせよ、「こうやって続けて行けばどうやらいいらしい」という、最初のとっかかりみたいなものを確実に掴んだという自信はあるのですが、そこがまだ五里霧中のなかにいるみゆゆんさんに、なにから一体どう伝えていいのか、ネットの向こうにいる(実際に数百キロの物理的距離がある)悩んだり苦しんだりしている彼女に対して、その「伝え方」としての困難さも感じていました。
そうこうしているうちに、彼女がついに、アヤコ先生のところにレッスンに一度来てみたい!とおっしゃられまして。
確かに1回でどうなる、というところも無くはないのですが(私も、「とっかかりが掴めたかも」と思うまでに10回ぐらいアヤコ先生のところに行ったわけだし、それを1回で、というのは困難なのはわかっているのですが)、でも、それでもその1回でなにか方向性の欠片でも、欠片が無理なら粉でもいいから、何か掴んでくれるかもしれないという気もしていて。
ぜひぜひ、と、お取り次ぎいたしました次第です。
で、めでたく今日の上京。
1月のグランミューズ西日本の入賞者演奏会以来の再会でした。
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結論からいくと、私が思っていたよりも症状が軽くて(実際、もっとひどい状態を想像していた)、彼女いわく「今日は特別に調子がいい」日だったようですが、それにしても、まったくリハビリの最初すら出来ないという状態では少なくともなくて。いやいや、まだまだ、なんとかなりますよ、そう思いました。
しかも、私が横でだまってみていてすら、
あ・・・・ここだわ・・・・
と分かる問題点がけっこうハッキリしていて。
少なくとも、アヤコ先生が口を開く以前に私がみてすら分かる、ジストニアに共通する問題点だけでも解決できたら、大分ちがうと思うんですよね。
自分の復習という意味でも、横で見学させていただいてもの凄く勉強になりました。あらためて、みゆゆんさんに深くお礼申し上げたいと思います。
いまは便利な時代なので・・・・
みゆゆんさん、ちゃんとビデオカメラ用意されていたので、とりあえず私はカメラ係として、ちょっといろいろ動かしたりとかしていたんですけど、何度もレッスンに来れない分、ビデオで後から復習してくれたら、きっとレッスン3回分ぐらいは何とかなろうかな・・・と思います。
そして改めて、アヤコ先生が何をいわんとしているか、というようなことが、いま、こうして振り返ってみれることで、いろいろ繋がってくるものがありました。
先日他界した、アップルの創始者であるスティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学の卒業式の有名なスピーチで
『あなた方は、未来を見て点と点をつなぐことは出来ないけれども、
過去を振り返ってはじめてそれらをつなげることが出来るのです。
だからあなた方は、将来、その点と点同士が何らかの形でつながる
ことを信じなければなりません。』
という言葉を残しているようですが、私の今日の状態はまさにその言葉その通りでした。その時は、ただ意味の分からない点でした。でも、こうしていま、自分の立場にあると、その点と、いまある点が、はっきり線でつながることに気付けるというか、線が見えてしまうのです。
アヤコ先生ご自身についても、彼女はいずれ、日本で有数の『ジストニアの回復期リハビリを教えられる指導者』として、その特異な立場をもつ人として有名になっていくのではなかろうかという予感めいたものを感じているのですが、改めて、彼女の懐の広さであったりとか、そうしたものを感じて、なんとなくじーんとしていた茜でありました。
本当に、ジストニアのリハビリは、「いままでが当たり前だった、無意識だったことの1つ1つを、見直す→直す」ことであり、膨大な時間がかかります。
しかし、この道を行く以外に、根本的な方法はないと私はいまは確信を持っています。
音楽家の局所性ジストニアは、何らかのきっかけで、脳に誤った神経伝達回路が出来てしまい、本来すべき動きではない動作がインプットされてしまった状態に陥っていると言われています。
その結果、指が巻き込んでしまったりして弾けません。
脳の病気です。
でも、脳そのものに何か「出来ている」訳では在りません。写真をとっても何もありません。あくまで神経伝達回路が混乱しておかしくなってしまっているというのが、いまのところ言われている病像です。
しかしながら、なぜ、その誤った神経の伝達回路の書き換えが起こってしまうのか、については、今の所まったく解明されていません。
ゆえに、この疾患は、「原因不明」なのです。
指の動作をしようにも、今までと同じやり方では、指が巻き込んでしまいます。ですから、「まったく新しい奏法」を身につけ、それを上書きするということによって、再び弾けるようになる可能性がでてくるのです。
パソコンで、インストールしたソフトが壊れました、というときは、一旦初期かして、再度インストールすればいいのですが・・・・脳の中でその再インストールを行う、というのが、我々の今、チャレンジしている事です。
奏法を変える、ということはそういう意味なのです。
また、複数のジストニアに精通する治療師の先生たちは、この局所性ジストニアという病気が、脳(中枢)の病気であるのは確かにしても何らかの、もっと”末梢”の問題として『きっかけ』『トリガー』があって発症しているに違いない、という結論でほぼ一致しているように思われます。
ジストニアの患者さんが、ほぼ例外なく極度の肩こりを抱えており、また腱鞘炎や外傷を過去に患った指にジストニアが好発することからも、脳に誤った神経回路が勝手に書き換えられてしまうようになった「きっかけ」は、必ずなにか末梢にポイントがある、つまり脳の病気なんだけど最初の最初の発端は脳ではなく、首なのか肩なのか肩甲骨なのか腕なのか手首なのか、どこかしら末梢に問題があったはずだ、ということのようなのです。
従いまして最近、私は、「この疾患は脳の病気だと言われているけど、脳”だけ”の病気というわけでもないようだな」という印象を抱いています。(敢えて、専門医の皆様に喧嘩をふっかけるような言葉だけど。w)
中枢神経(=脳)だけではなく、末梢(=首、背中、腕、手首、指などなど)に必ず問題がある。
従って、奏法を全取っ替えするという作業をしつつ、体全体を見直し、ジストニアになったトリガーとなった問題点を洗い出して行かねばならないというのが、我々には必要になっているわけです。
メールでやりとりをしたドイツのジストニア研究者に言われたことなのですが、ジストニアから復活を果たすことに成功した(完全完治例)演奏者たちは、間違いなく、ジストニア発症以前よりも、演奏技術が格段にあがり、本人たちも「過去の自分なら困難だった曲がジストニアが直ったころには楽に弾けるようになった」と言うのだそうです。
実はアヤコ先生もまったく同じ事をおっしゃっておられました。
なので、それこそ、点と点をむすぶ、というスティーブ・ジョブズの言葉じゃないですけど、我々は未来に向かって点と点を結ぶことはできず、過去を振り返った時に初めて点と点は線になりうるのでありますから、それを信じて突き進むしかないと私は思います。
さらに、それこそレオン・フライシャーや、ミッシェル・ベロフのような名ピアニストですらこの病気になるわけです。彼らは当然名だたる音楽院で「脱力」とかなんてとっくのとうに学んでるわけですよね。 それでも罹るわけです。
なので、私は「正しい弾き方」というよりも「正しい体の在り方を踏まえた弾き方」というのが正解かなと思っています。
ベロフもフライシャーも、音楽的な意味合いでの弾き方はちゃんと正しかったんだと思いますよ。だって彼らはちゃんと教育を受けた名ピアニストですから。でも、彼らの弾き方は「彼らの体の正しい在り方にのっとった弾き方」ではなかったんだと思います。 だからジストニアになったわけです。
そこが大きな問題なんじゃないかな。