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α900 は、どういうユーザーに使ってもらう意図で作ったのでしょう? 田中 「α900 はソニーα一眼レフカメラのフラッグシップ機です。ターゲットユーザーとしてはプロあるいはハイアマチュアのいずれでしょう?」
上田 「ハイアマチュアがメインですね。もちろんプロの方でも用途に合えば使っていただける機能、性能は十分に持っていると考えています」
田中 「どういうところに重点をおいてハイアマチュア向けに作られたのでしょう? 金属ボディであるとか、ファインダーの視野率にこだわるとか?」
上田 「写真に思いをこめて使っていただきたいというのがこのカメラで一番やりたかったところです。たとえばファインダーには相当力を入れたのですが、そのファインダーを覗いたときに 『いい作品を撮ろう』 と思っていただけるように仕上げたつもりです。作品づくりをよりモチベートするような、そういう部分を大切にしたいと思いました」
田中 「先ほど、プロも用途によっては十分に使えるとおっしゃいましたが、どういう用途でしょう」
上田 「風景やポートレートでしょうか。α900 の2,460万画素のいいところ、それと手ブレ補正のいいところ、カールツァイスの描写のいいところ。そういうところは、そのカテゴリーのプロの方々にはご理解いただけると思います」
田中 「逆に言うと、手荒く扱うことも多い報道カメラマンにはちょっと合わないかな、というわけですか」
上田 「もちろん一眼レフは精密機器ですからご配慮はいただきたいですが、充分にしっかりしたカメラに仕上げていますので、それほどご心配いただかなくてもだいじょうぶと思います。たとえば秒10コマの連写とかは狙っていませんから。たしかにそういうところは正直ちょっと弱いと思います」
田中 「シャッターの耐久性はどれぐらいでしたっけ?」
安原 「10万回をクリアしています。もちろん10万回ギリギリという意味ではなく、余裕を持った実力があります」
田中 「そうですか。他社のフラッグシップに比べるとちょっと少ないのかな」
安原 「ハイアマチュアの方を意識して作りましたので、ボディサイズの小ささだとか軽量なところは重要と考えました。プロ向けなら多少大きくて重くても、あまり問題にならないかも知れませんけれども」
田中 「小型軽量を目指したと。それにしては、使ってみた印象ではそんなに軽くて小さいカメラではなかったなあ…」
安原 「そうですか? 比較論なのでどれと比べるかにもよりますが…」
田中 「D3 やEOS-1Ds Mark III とかと比べて軽いとおっしゃってるんじゃないですか?」
安原 「いいえ。画素数やカメラとしての基本性能を踏まえた同じクラスのカメラと比べて小さくて軽いボディに仕上がっている、と思っていますけれど」
田中 「D700 と比べてα900 のほうがあきらかに小さくて軽いという印象はしなかったですけどねえ」
上田 「D700 に比べると大きさはそれほど変わらないですが、重さは100g 以上軽いようです」
安原 「ニコンさんの発表されているデータからは145g 軽いです」
田中 「そうか…わかった、ぼくはツァイス・レンズを借りてそれをずーっと使っていたからかな、あの重くて大きなレンズを」
上田 「そのツァイスがα900 本来の性能を引き出してくれるのですが、ツァイスのレンズは性能や品質へのこだわりが強いがゆえに重たいのです」
田中 「そうです、そういうことでした」
安原 「50mm F1.4 で比べていただければ、ボディの軽さを体感していただけたと思います」
田中 「ほんとだ、いま初めて軽いレンズをセットしてα900 を持ったけど、いやあ、それほど重くはないですね。失礼しました。まあまあ軽いんだ。それにホールディング性もよいです」
2,460万画素のメリットは、具体的にはどんなところに出るんですか? 田中 「ところで、ちょっと変な質問しますけど、α900 の撮像素子は35mmフルサイズですが、最初のコンセプト、というよりこのカメラのコンセプトを決定する前に35mm判より少し大きな、いや中判カメラという意味じゃないですよ、35mm判より “ひとまわり” か “ふたまわり” 大きな撮像素子を使おうといったアイディアはなかったですか?」
上田 「いいえ、それはなかったです。まず、既存のαシステムを生かして最高の物をつくろうということでした。レンズの互換性やマウントの互換性は避けて通れませんから」
田中 「わかります。でも従来のαレンズはクロップして使えばよいじゃないですか。でもツァイスのレンズは、イメージサークルが35mmフルサイズより大きいはずですよね…」
上田 「とくにそういうわけでもないんですけど・・・・。それはレンズが大きいからですか (笑)」
田中 「はい、すんません、変な質問しました (笑)。企画がスタートしたときには、もう撮像素子は2,460万画素CMOSと決まっていたのですか?」
上田 「撮像素子とカメラ、どっちが先と言うのは難しいですね」
田中 「じゃあ、カメラの企画開発と平行してCMOSセンサーもいろいろ話をしながら作っていったと…」
上田 「まさにそれがソニーです。撮像素子も自社でやっていますので、設計、企画、半導体の部門がコミュニケーションをとりながらベストな解を目指して開発しています」
田中 「α900 が2,460万画素の35mm判フルサイズで、α700 がちょうど半分の1,224万画素のAPS-Cサイズ相当です。この画素数の違いは、具体的に画質としてどこがどんな風に違うものなんですか?」
水口 「おおざっぱに言いますと、MTFなどで周波数特性を考えていただいた場合、同じプリントサイズで鑑賞したら、APS-Cと35mmの比の分、単純に言うと1.4倍ぐらい高くなると言っていいと思います」
田中 「簡単に言うと1.4倍、画質が良くなっていると」
水口 「そうですね。周波数的な軸で見るとそういうことになると思います」
田中 「画素ピッチに関しては、フルサイズのα900 とAPS-Cサイズのα700 と比べるとほぼ同じなんですか?」
水口 「実際には微妙に違うのですが、ほぼ同じと考えていただいてもいいと思います」
田中 「それにしては、高感度時のノイズが相当に違いますね。α900 のほうが段違いにいいじゃないですか。それはいったいどうしてなんですか」
水口 「撮像素子、画像処理ともに改良できる部分は行っています」
水口 「それと、さきほどの話と同じで、同サイズのプリントで鑑賞した場合は、さらに差がつきます。ノイズが高い周波数に移りますので、α900では人間の目には感じにくくなります」
田中 「それはどういうことですか?」
水口 「簡単に言うとノイズが細かくなるのです。同じサイズにプリントする場合、拡大されてもα700 のノイズよりもα900 のノイズのほうがより小さく、そのために目立たなくなる」
田中 「α900 のほうがノイズが細かく見えるんですね」
水口 「そうなんです。ただし、ピクセル等倍で見た場合は、もちろん関係なくなりますが」
田中 「ということは、これは高画素のひとつのメリットなわけですね」
水口 「そうですね」
水口 「先ほど出た、画素ピッチはほとんど同じまま撮像素子全体の面積が増えたという効果です」
田中 「なるほど、よくわかりました。ところで、画像処理エンジンの Bionz (ビオンズ) ですけれど、α900 はデュアルですね、贅沢に2つ使っていますが、これはなぜなんですか。1つじゃだめなんですか」
水口 「24メガピクセルを5コマ/秒で撮るというのは本当に大変なことなのです。これだけのデータ量を処理しようと思うと、ひとつでは足りない」
田中 「Bionz を2つ使ったことでかなり余裕が出てきたわけでしょ。2,460万画素の5コマ/秒だけじゃなく、ほかの処理でもスピードアップができているんですか」
水口 「基本的には画像処理のところでパワーを発揮しているということになります」
田中 「ノイズリダクションなどは?」
水口 「ノイズリダクションも含まれます」
田中 「ひっくるめて、ですか」
水口 「はい」
田中 「ということは、ISO感度6400でノイズリダクションを一番強めにしても5コマ/秒のスピードはまったく変わらないということですか」
水口 「ノイズリダクション強の場合は少しかかります」
フルサイズ撮像素子と手ブレ補正の両立はたいへんだったでしょう 田中 「手ブレ補正なんですが、APS-Cサイズの撮像素子に比べて重量が約1.5倍重くなったんですね。1.5倍という数字はたいしたことはないように思えますけれど、これを効率よく動かすのはいろいろ大変だったんじゃないかと思うんです、大変だったでしょ?」
安原 「大変でした。普通にやったら1.5倍じゃ済まないです。面積が2倍だと重量も2倍になってしまうのです。すると当然パフォーマンスがさらに要求されて手ブレ補正機構を駆動する部分が大きくなってしまう。設計当初から手ブレ補正ユニットをいかに軽くするか、これが大きな課題でした」
田中 「軽くして1.5倍なんですね。でも1.5倍重いとなると動かすのに一苦労、止めるのにはもっと苦労を要する」
安原 「試作を何回もやって、この性能まで持っていったのですけれど、最初はほとんど動かない。そこからのスタートでした」
田中 「え!動かない? これまでAPS-Cで動かしていたのに、ですか」
安原 「はい。1.5倍の壁はそれほど高いんです」
田中 「でしょうねぇ。α900 はとかくファインダーばかり注目されていますけど、ぼくはフルサイズセンサーの手ブレ補正の完成にも大いに注目したいですね」
安原 「とにかく完成までは大変でした。ボディ内手ブレ補正は、いまではソニーαのスタンダードな装備になってしまっているのでそれほど注目されないのですが、技術としては大変でした。フルサイズセンサーを動かすというのは非常に大変なことなのです」
田中 「どんなところに苦労しましたか」
安原 「重くなるとそれなりのパワーを必要とするので、アクチュエータ自体を大きくしなければならない。そこに投入する電力も上げなければいけない。すると発熱の影響やカメラ全体の電力バランスなど、もう一度全部を見直さなければならなくなる。なおかつ手ブレ補正に必要な動作スピードが出ないとダメですし、いろいろなパラメータを何度もチューニングし直しました。APS-Cサイズで動いたからフルサイズも、というわけにはなかなかいかないのです」
田中 「何も知らない人は簡単に動くだろうと思う。けれども次元が全然違う?」
安原 「違いますね」
田中 「アクチュエータ、これは新しいモーターですか?」
安原 「機構は従来と同じ圧電素子によるアクチュエータなのですが、フルサイズ用に大きく、パワーアップして、必要なスピードとストロークを稼ぐようあらためて開発しています」
田中 「機構上で従来のAPS-Cサイズ用から変わっている部分はありますか。新しい補正の機構を取り入れたというような」
安原 「機構自体の大きな変更はありません。いかに軽くするか、というところの改善はやっています」
田中 「どこを軽くしたんですか」
安原 「材料を変えたり…。金属を使っていた部分をなんとかプラスチックにできないか、とか」
田中 「強度とかは大丈夫なんですか」
安原 「大丈夫です」
田中 「CMOSセンサーのほうも軽くしたり…?」
安原 「もちろんです。撮像素子を何グラムに重さを抑えられませんか、という目標を最初に出しました。撮像素子と手ブレ補正ユニットがトータルで何グラムになれば、なんとか動かせますよとか、そういったところが出発点です。ソニー内部でやっているデバイスなので、開発当初から重量に関しても要望を出して進めてきました」
田中 「するとフルサイズの手ブレ補正の完成には、かなり長い開発期間がかかった?」
安原 「手ブレ補正が動くようになるまでが結構長かったです」
田中 「途中で、これはあかんな、と思ったことはないですか」
安原 「個人的には思いました (笑) これは無理かなぁという気も」
田中 「そんなに大変だったんですか! もうセンサーは動かさないでやろうじゃないかとか、この際だからレンズ内手ブレ補正にしようかとか (笑) 」
安原 「そこまでは考えませんよ (笑)、ボディ内手ブレ補正でないとソニーの一眼レフにならないので。そこはなんとかやりきるしかない」
田中 「ところで、これはぼくが心配していただけなんですが、手ブレ補正の動作によってαレンズを使ったときにイメージサークルからはみ出しちゃうんじゃないかと。それは問題ないんですか?」
安原 「問題ありません」
田中 「昔のα、ミノルタ時代のレンズでも?」
安原 「我々にも同じ懸念があったので、一番に検証しました (笑)。大丈夫です」
田中 「どのレンズも大丈夫。広角も望遠も? くどいですけど (笑)」
安原 「はい、大丈夫です」
光学ファインダーについて、視野率100%を含めて良いところを教えてください 田中 「視野率100%のファインダー。これはα900 の大きな売りですよね。作るの大変だったでしょう。かつてはミノルタα-9 で視野率100%のカメラを作っていたけれど、それからだいぶ経つし、ソニーのαになる前には、途中ちょっと一眼レフカメラの開発に中断があって…」
帯金 「α-9 を超えるファインダーを作ろうというコンセプトで進めました。こだわった点は4点ありまして、視野率と倍率、明るさと像の鮮鋭度です。α-9 ですとフィルムカメラなので撮像素子が動くことはないんですが、α900 だと手ブレ補正のために撮像素子が動くので、どこをターゲットにして視野率100%を達成しようかというところから進めました。視野率をあわせるのはファインダー側に視野枠調整機構を持っていて、その枠を動かして撮像素子の撮影する領域と視野とを重ね合わせるという方式をとっています」
田中 「あ、そうか。フィルムカメラの視野率100%と大きな違いは、とくにα900 の場合は手ブレ補正で撮像素子が、つまり実画面が動くということですね」
帯金 「そうです」
田中 「動いても、なおかつ100%を確保している。つまり視野率100%は、CMOSのセンター位置でビチッと決めているんですね」
帯金 「そうですね」
田中 「昔のミノルタ α-9 とは方式が違うんですか」
帯金 「基本的な方式は同様なんですが、調整機まわりの技術が格段に進歩しています。機械がやった方がいい部分と人間の手でやった方がいい部分とを切り分け、調整の精度を大きく上げています」
田中 「それは組立工程での調整の話ですよね」
帯金 「はい。そうですね」
田中 「視野率はわかりました。倍率は0.75倍ですね」
帯金 「0.74倍です」
田中 「キヤノンEOS-1Ds Mark III は0.76倍ですよ。それでアイポイントは両方とも20mmですね、1Ds のほうがわずかですが大きく見える」
帯金 「見比べるとそうかも知れません。倍率だけを考えると数値上キヤノンさんのEOS-1Ds Mark IIIの方が大きいですね」
田中 「でもニコンのD3 が0.7倍だから、それよりはだいぶ上がっていると」
帯金 「そのほかに、他社のファインダーと比べて0.2EV以上明るいという実測値で出ています」
田中 「そうか、ファインダーが明るいんだ、クリアに見える」
帯金 「はい。明るさでは他社のファインダーより明るくすることが出来ました」
田中 「この明るいファインダーは、どのようにしてできたんですか?」
帯金 「焦点面以降の全部の面に高品質のARコートを施しています。ひとつひとつの光学部品で明るさが失われるのを低減しています」
田中 「以前伺った話で感心したんですが、ファインダー光学系で色収差などいろいろな収差をどんどん減らしていった。だから非常にクリアに見えるようにできたんだと」
帯金 「はい。ミノルタα-9 とα900 を比べたときに負ける要素があったらいけない、と、徹底的に補正をかけていきました。設計的な補正ですね」
田中 「大きなペンタプリズムがあって、その下にコンデンサーレンズ。それと接眼面のところに光学系。ペンタプリズムはともかく、コンデンサーも大切、ファインダー光学系も非常に大切なのですね」
帯金 「そうです」
田中 「アイポイントに効いてくるのはファインダーの光学系。明るさとか像のクリアさはコンデンサーレンズのほうですか」
帯金 「明るさは、各光学部品すべてにコーティングをしているということ、コンデンサーレンズには歪曲の収差補正の役割を持たせ、像の鮮鋭度は接眼光学系で収差補正を担っています」
田中 「ファインダー倍率を上げるには、ペンタプリズムを大きくすればいいんですか」
帯金 「逆でして、ペンタプリズムは小さいほうが倍率を上げやすい。ただし小さくしすぎると画面の周辺部分がケラれたりしますので、ちょうどバランスの良いところを探して今の大きさになっています」
田中 「α900 のファインダーを覗いたとき、ぼくがメガネをかけているせいなんですけれど、画面の周辺までイッパツで見渡せないんですよ。だからアイポイントがもうちょっと長ければいいなと思ったんですけれど、アイポイントを長くすると倍率が下がっちゃう?」
帯金 「はい。そうです」
田中 「で、ぼくには原因がわかったんです。このアイピースカップですよ、悪いのは。なんでこんなにごっついの。これ外したらものすごく良くみえる」
帯金 「ただ、それがなかったり薄かったりした場合、接眼部の横から入ってくる光が撮影時に邪魔になってしまうということもありますので。アイポイントと余分な光をカットすることのバランスを考えてこの形にしました」
田中 「質問の順序が逆になりましたが、どうして視野率100%にこだわったんですか。かなりハードルは高かったと思うんですよね」
上田 「そう・・・ですよね。言ってみれば視野率100%は各社さんフラッグシップの証といいますか、そのクラスでしかできていないレベルのものです。撮られる方にファインダーを信頼してもらうためには、やはり100%というのが基本だと。なにが撮れるか、しっかりフレーミングしていただくために100%は大事なものだと思います。本当は全部のカメラでできたらいいんですけれど、このカメラではぜひやりたかった」
田中 「もしα900 が視野率98%だったら、魅力半減かも知れませんね」
上田 「それは・・・つくりませんし(笑)」
田中 「初めから作る自信があったわけですね」
上田 「というか、企画の担当者としては開発側につくってもらわなきゃ (笑)」
田中 「開発する側も、やればできるんですよね。他社もそうですけど、ダメだと思っても、やれば何でもできるんですよね、やろうと思えば。フルサイズセンサーの手ブレ補正だってそうじゃないですか」
安原 「このカメラを見ればそうなりますね。やればなんでもできるかなと (笑)。視野率100%もそれがすべてではなくて、視野角であったり鮮鋭度であったり明るさだったり、それらがトータルでこのファインダーの魅力だと思います」
上田 「数字はわかりやすいんですね。倍率の0.74倍も」
安原 「数値で表しにくい性能はカタログで表現しにくいですが、視野率100%だと、このファインダーはきっといいんだな、と思ってもらえて、さらに覗いていただければ完成度の高さに納得していただけると思うんです。こうしたファインダーを作るのはなかなか難しいですけれど」
ライブビューを搭載しなかった。その理由は? 田中 「たとえば、光学ファインダーの視野率100%にそんなにこだわらなくても、ライブビューなら簡単に100%にできるのだから、ライブビューで100%でも良かったのではという意見もあったに違いない。ライブビューの機能がないのはどうしてなんですか?」
上田 「ライブビュー機能を搭載していないという意味では時代に逆行しているようにとられるかもしれないのですが、けれども光学ファインダーの良さというのをとことんまでやったらここまでのものができるぞ、と証明したかった。ライブビューにはない光学ファインダーの良さを。ファインダー越しに見た被写体との一体感といいますか、引き込まれるといいますか…。そういうところをα900 のファインダーだったら感じていただけると思うんです。そこをまず表に出したかった、というのが理由です」
田中 「うーん、いい話だなあ。せっかくいい光学ファインダーがあるんだから、このファインダーを見て良い写真を撮れと。ライブビューなんてあんな子供だましのものはこのカメラには入れないぞ、ということですね、いさぎよいなあ」
上田 「いやちょっとそこまでは (笑)」
田中 「でも、その意気込みはそれはそれとして、どうしてライブビューを搭載しなかったんですか、ほんとうのところ。いま仰ったこともものすごくよくわかるんです。でもそれとこれとは話が違うんです。いまこの時代、ライブビューがあるのとないのとではだいぶ違う。ライブビューがあるととても便利に撮れるシーンもあると思う。贅沢なことを言いますが、素晴らしい光学ファインダーにライブビューもあればどれだけ良かったのにな、という気はします」
上田 「現在の一眼レフとして光学ファインダーはとても大事な要素だと思います。α900 のファインダーを実際見ていただきたいですし、そのファインダーで撮って欲しい、ファインダーでフレーミングしていただきたい。まさにその思いでつくったカメラなんです」
田中 「ぼくは、ファインダーを覗いて撮影をするというのは、やっぱり一眼レフの一番基本のスタイルだと思う。ライブビューは本当に非常に便利な機能だと思ってよく使っていますが、やっぱり一眼レフの基本は顔にカメラを密着させてファインダーをしっかりと覗いてフレーミングするもんだと思います。α900はその基本をあらためてぼくたちに知らせてくれたカメラという気もします。だからソニーは、もっと思いきって、このカメラにはライブビューなんていらないんだぞ、と自信満々言いえばいい。α900は、その素晴らしいファインダー覗いて撮ってなんぼのカメラなんだよと、
皆さんにもっとハッキリと言って欲しいです(笑)」
上田 「はい (笑)」
インテリジェントプレビューはできれば保存もしたかった 田中 「ライブビューの話との関連で聞こうと思っていたんですが、インテリジェントプレビューという機能がまったく新しいコンセプトで入っていますね。プレビュー画面で、簡単に言えばカメラ内RAW現像みたいなことができる。でも残念ながらその処理した画像が保存ができない。どうして保存するようにしてくれなかったんですか」
水口 「これもいくつか理由があるんですが。怒られるようなことから先に言います (笑)。やっぱり撮影という行為を大切にしたいと思うのです。カメラ本体では撮影以外の行為よりもまずは撮影に集中していただきたいと考えました。で、もうちょっとちゃんとした理由を言います。露出をシミュレーションする機能はゲインをかけて明るくしたり暗くしたりするわけですが、その処理によってノイズも持ち上がりますので良い画質で保存することができません。もうひとつの理由は、クイックに設定を変えてすぐにその結果を見てただきたいので、高速処理に適した小さなサイズの画像を作って表示しています。そういうこともあって、そのまま保存するようにできていない部分がある。つまり、そういう風なレスポンスの話と露出でノイズが増えるのを保存してもご期待に沿える結果を提供できませんので」
田中 「いやあ。水口さんが今おっしゃった話、納得できますね。一番最初に言われた 『撮るという行為を大切にしたい』 というのが。撮るときにやっぱりそういうしっかりした気持ちで撮って欲しいと」
水口 「ということなんです」
田中 「だから、なんかこう、このカメラを使ってぼくが一番印象に残ったのは、『なんてストイックなカメラなんだろうなあ』 って。じつはそういうことなのね。話を戻してインテリジェントプレビューですけれど、撮った後の画像を自分で操作をして保存をするということは納得の上でやるわけだから、ノイズが目立とうがすべて覚悟のうえ、いいんじゃあないですか。いまの機能だと、せっかくいろいろと画像調整して、うまくいった、これで保存したい! と思ったときに保存ができない。撮った後の画像を加工して保存できる機能があるといい。ぜひ次の機種では」
水口 「そうですね。プレビューと後処理みたいなこととを分けて考えて、そっちはそっちで考えるといった方法もあるかと思います。それと、インテリジェントプレビューで行った設定はそのまま撮影すると撮影時の設定として自動的に反映されますので」
田中 「後処理でかりに画質が悪くなっても、それはユーザーが納得ずくでやるわけですから。ぼくね、インテリジェントプレビュー、これを最初に見せてもらったときに、なんだこんな子供だましのものって思ってたんですけども (笑)。この前ヒマだったんで、あれこれ使ってたんですよ。そしたら、Dレンジオプティマイザーの効果がものすごくよくわかりますね。そこで保存できればもっと良かったのにね (笑)」
α900 のAFシステムについて説明してください 田中 「AFの9点プラス10点アシストAFですけれど、これ、どういうものか教えてもらえますか。9点プラス10点アシストというのはどんな風にアシストしているんですか」
安原 「基本的にワイドエリアAFでしかこのアシストは機能しません。ワイドエリアAFで被写体がいろいろなところにいく場合はアシストも使いながらより的確に被写体をとらえる。ローカルエリアAFの場合はひとつひとつのエリアがより絞り込まれた明確な面積の方がが使いやすいと思いますので、そのときには周囲のアシストは機能せず、ローカルエリアの範囲のみでAFをします」
田中 「測距性能としてはアシストエリアもローカルエリアもほぼ同じと考えていいんですか」
安原 「中央のF2.8センサーは別ですが、それ以外は同じと考えていただいてかまいません」
田中 「でも、自動選択9点AFにしたときもLED が点灯するのはローカルエリアだけで、アシストは一切点灯しませんね」
安原 「アシストは点灯しませんが、内部の処理としてはアシストも使いながら測距しています」
田中 「アシストを使うことによるメリットは?」
安原 「より広いエリアがカバーできます」
田中 「少しでも中抜けがないという」
安原 「そうですね。あるエリアで抜ける場合があったとしてもアシストでちゃんと拾えますし」
田中 「測距精度を高めるということにも役立っていますか。9点か、あるいは19点かで測距精度もだいぶ異なるのでしょうか。さらにAFスピードとか」
安原 「純粋な測距精度に大きな差はありません」
田中 「スポットAFを使っているかぎりはアシストセンサーはまったく作動しない」
安原 「はい。勝手に作動してしまって、本来合わせたところと違うところでピントが合っても困ると思うので」
田中 「じゃ、ぼくの場合はスポットAFしか使いませんから、まったくの宝の持ち腐れか」
安原 「スポットAFしか使われない方には恩恵はあまりないかも知れません」
田中 「でも、とはいえ被写体が動いているとき、クルマなどを撮るときは自動選択9点AFに切り替えることがありますから、まったく宝の持ち腐れということはないですけどね。そうそう、α900 のワイドエリアAFは単純な近距離優先ではないですよね? もうちょっとインテリジェントにピントを合わせてくれますよね」
安原 「そうですね」
田中 「被写体のコントラストだとか。いろいろ見ながらピント位置を最終的に決めている」
安原 「はい。単純な至近優先AFではないです」
田中 「α900 のAFはかなり自信のあるAFですか」
安原 「従来からの飛躍的な改善とは呼べないかもしれませんけれど、地道に、精度などいろいろな部分を改善しているつもりなので、そこはぜひ評価いただければと思います」
田中 「怒らないでくださいね (笑)。AFだけはミノルタ時代から変わってない気もします。もうちょっと頑張って欲しいなぁと思いました」
安原 「コメントは差し控えさせてください」
田中 「いや、AF性能がどうのこうのじゃないですよ、他社のAFがあれこれすごく良くなっているんですよ。でも、あいかわらず昔のミノルタのAFのクセが…」
安原 「コメントは差し控えさせてください」
田中 「ぼくがα900 で期待していたことのひとつはAFだったんです。もとをただせばAFを一番最初にやったじゃないですか。だからもっと面白い、新しいAFを搭載してくるんじゃないかと期待していたんです。1つここで聞きたいことがあるんですが、どうしてAF微調整機能というのが入っているんですか。AFがしっかりできていれば微調整機能など要らないんじゃないですか」
安原 「お客様のお好みもありますし、100%拡大が容易なデジタルフォトという背景もあって他社でも搭載されて評価されているようですので、お客様からのご要望にお応えさせていただきました」
田中 「通常はこれを使う必要はあまりないと考えていいわけですね」
安原 「基本的には微調整なしで使っていただくというのが前提です」
田中 「そもそも初心者が微調整やったってねえ。何が原因なのかってわかってないとね。レンズもカメラも悪くなく、自分の撮影技量そのものに問題があるのに、AF微調整したってね。どうしようもないじゃないですか。ピントが合わないピントが甘いっていったって撮るほうがヘボだからピントが甘いってこともありますね。なのに微調整やられたらめちゃくちゃじゃないですか」
2EVステップの露出ブラケティングが初登場ですね 田中 「オートブラケティングの機能のなかに、2EVの3コマオートブラケットってあるんですけど、これって何に使うんですか」
上田 「2EVのステップなんて通常撮影ではまったく使わない段数ですね。ただ、一部の方がHDR (ハイダイナミックレンジ) という写真合成をされる。そういうときに2EVステップぐらいで撮影できる機能が入っていると便利だ、という要望をいただきまして。入っていても使い勝手が悪くなるわけではないので、それならお応えしようということで搭載しました」
田中 「それで? 2EVステップで3コマ撮った画像をα900 に同梱されている添付ソフトかなにかで処理できる?」
上田 「それはサポートしていません」
田中 「なーんだ、入れて欲しかったですね。せっかくこういう面白い機能を入れたんだから、やっぱり最後まで面倒みてやって欲しいなあ。ぼくはそれができるソフトを持っていますけれど、普通の人にやれって言っても。Photoshop が使える人はなんとかやっちゃうでしょうけれど」
上田 「Photoshop でものすごく作り込まれる方とか、海外のソフトウェアメーカーで自動で生成するソフトとかもありますね」
田中 「初めてですからね、2EVのブラケットを入れたのは。それは評価しますが、ソフトも入れておいてあげれば完璧だったんじゃないかな」
上田 「はい。検討させていただきます」
田中 「Dレンジオプティマイザーですけれども、α700 と比べてどういう点が変わりましたか。すごく良くなった印象ですが」
水口 「Dレンジオプティマイザーアドバンスの効果、いわゆる覆い焼きのように部分的に階調をコントロールする効果が適用されるシーンが拡大されました」
田中 「シーンのシャドー部の領域をはっきり見極めることができるようになった、と。もっと明確に?」
水口 「これまで判別していたシーンに加えて、さらに効果的なケースが判別できるようになったということなのです」
田中 「ちょっと効き過ぎるぐらい効くような感じですが、α700 と比べて。勝手な想像なんですが、α900 のノイズレベルと関係があるのではないですか? シャドー部を持ち上げるわけだからノイズが目立ってくる。でもα900 ではカメラのノイズレベルがかなり良好になったので、思いきってどんどん上げられるようになったのかなと」
水口 「そうではありません。個々のケースに対して効果を強めたのではなく、データ分析の精度が上がったことにより、効果を適用すべきと判断するケースがより多くなったということなのです」
田中 「ぼくがだいぶ違うように感じるのは “マニュアルモード” もそうなんですけど」
水口 「マニュアルで設定できる 『レベル設定』 に関しては、基本的にはα700 とほとんど同じなのです。その部分は変わっていません」
田中 「Dレンジオプティマイザーの “オート” が良くなっている?」
水口 「はい」
田中 「それにしても、マニュアルでやるとシャドー部がかなり出てくる。これはまずいなと思って。自分のイメージよりもちょっとふわっとシャドーが出てくることがあったんですよね。基本的な質問なんですが、Dレンジオプティマイザーというのは、簡単に言えばシャドー部を持ち上げ、ハイライト部はほとんどいじってない。ダイレクトにはいじっていないのですよね」
水口 「ハイライトも意識してより再現できるように画像処理的に補正している部分はあるんですが、シャドー部に比べたら効果は全然少ないです」
田中 「画像処理でハイライト部をいじることができるんですか」
水口 「画像処理でできる範囲のことはやっています」
田中 「露出はまったく下げていない?」
水口 「はい」
田中 「でもシャドー部に比べるとほんのわずか」
水口 「相対的には少ないことになります」
田中 「あとはハイライト部のダイナミックレンジを広げる機能かなんかが、もうひとつあれば磐石ですね。でもそれももうすぐですね (笑) 。他のメーカーがどんどん入れてきていますもんね。例のやりかた、ペンタックスだとかキヤノンのやり方でもいいと思うんですよ、ちょっとアンダーめに撮って…」
水口 「より作画意図に応えることができ、かつトータルでより高画質な結果が得られるように今後も検討は続けていきます」
基準感度はISO200? ずっとISO100で撮ってましたぼくは 田中 「 ISOオートを選ぶと、ISO100 からではなく ISO200 からになっちゃうのはどうしてですか?」
水口 「 ISO100 だとダイナミックレンジが少々狭くなってしまうんです、通常モードより…」
田中 「そうか、基準 ISO感度は ISO200 なんですか」
水口 「はい。ISO200 からが通常の感度領域になります」
田中 「そうか、そうか」
水口 「ですから ISO100 は拡張領域扱いです」
田中 「それで ISO100 と 125 と 160 に上下線の表示が」
水口 「そうです」
田中 「それでか〜、わかった」
水口 「撮像素子の特性では ISO200 ぐらいから使うのがベストなんですが、ISO100 もいろいろ使える用途があるということで」
田中 「だったらユーザーが機能拡張のようなものを選んでそれをオンにしたときに広がるようにしても良かったんじゃないですか」
水口 「そういう提供の仕方もありますね。使われる方は使われるのだから、これでいいかなと…」
田中 「ぼくはすっかり勘違いをしていて、ISO100でずっと撮っていました。お恥ずかしい…。ISO100 が基準 ISO感度だと思っていたんです。それで、どうして上下線がついてるのかなって」
上田 「実はα700 から、ISO200 が基準なんです。α700 のときは ISO100 に下線を入れていなかったんです。そうすると ISO200 がベストということが伝わりにくかったので、今回は下線を入れるようにしたんです」
田中 「機能拡張モードでユーザーが明確に選べた方が納得ずくでいいと思います。それと、ISOオートのときに、ISO感度の数値がファインダーにも背面モニターにも出ないんですね? どうして出さないんですか。これは困っちゃう。いまどれぐらいの感度で撮れてるのか、どれぐらいの感度なのかさっぱりわからない。出さない理由は?」
水口 「理由はとくにないんですが。オートを選んでいただいたらお任せくださいということです」
田中 「α900 はそんなレベルのカメラじゃないでしょう。もうひとつ、APS-Cサイズと16:9 が撮れるんですが、文句が2つあるんです。ひとつは範囲を示すトンボがものすごく見づらい、細くて。もっと見やすくしてほしい。なんであんな遠慮がちで上品なトンボなんですか」
安原 「そもそもファインダーが売りということで」
田中 「邪魔しちゃいけないと…?」
安原 「常に目に入ってしまうものではないですか。画角を決めるうえでは必要なんですが、ファインダーの見えをスポイルすると折角のファインダーが台無しになってしまう…。いろいろ悩んだ末、結論としてファインダーの見えの方を取ったのです」
田中 「たしかに、そう言われてみればそうですね。APS-Cとか16対9を使わない人たちには邪魔なだけですもんね。見にくいことと、もうひとつは切り替えたときにわからないこと。撮ってみないとわからない」
安原 「背面の液晶モニターでしかわからないですね」
田中 「そうですよね。撮ったときに」
安原 「切り替わったときに背面液晶には表示はされるんですけれど、ファインダー内には表示されないです」
田中 「ファインダー内に情報が出ると良かった。下に情報窓で」
安原 「そうですね」
田中 「それはそうと、APS-Cと 16対9のクロップ切り替えが、メニューのなかでずいぶん離れていますね。日本とアメリカぐらい離れてる (笑)。なんで隣り合わせにしなかったんですか」
上田 「そうですね」
田中 「隣り合わせにしておくともっとわかりやすかったのになぁ。アスペクト比を選ぶみたいな感じで。まぁいいです、本当は不満ですけれども。RAW現像ソフトのイメージデータコンバーターのSRがVer.3 になりました。何が大きく変わりましたか」
水口 「パッと見てすぐわかるのは、ユーザーインターフェースです。見かけも使いやすさも向上しました」
田中 「使いやすくなりましたね」
水口 「他には、レンズの周辺光量補正機能を搭載しました」
田中 「それ難しいです。やってみましたがすごく難しい」
水口 「調整の自由度を高めるために、手動で、いろいろな補正パターンを組み合わせられるようにしたので、慣れるまでは少し難しいかもしれません」
安原 「あと、Dレンジオプティマイザーの効きがVer.2 よりよく効くようになりました」
田中 「そうそう。いままでは何をやっているのかわからなかった」
水口 「アプリケーション側のDレンジオプティマイザーのアルゴリズムを改良しています」
α900 で撮るときは背筋が伸びる、それぐらいストイックなカメラですね 田中 「最後に総合的な印象を言わせていただくと、このα900、滅茶苦茶いいカメラですね。ぼくの想像以上でした」
安原 「ありがとうございます」
田中 「同時にEOS 5D Mark II やD700 も使っていたんですが、α900 のほうにすごく魅力を感じました。はっきり言えば好きなカメラですね。初めて見たときにはね、なんでライブビューがないんだとかいろいろ思ったけれど、使ってみたらそんなのはもうどうでもいいじゃないかって (笑)。このカメラには良い意味でのこだわりが “あんこ” のように詰まっている感じ。ものすごくストイックなカメラで、それがいい。写真というのは、こういうカメラを使って、しっかり撮らなければいけないぞって言われているような気がしました。α900 を持って構えると、こう背筋がピッと伸びる感じ。だから、ものすごくいい写真が撮れそうな気がしました。実際、いい写真も撮れましたけどね (笑)。いっぽうのEOS 5D Mark IIとかD700 は優等生的。絶対に失敗しないカメラですね。仕事でどちらを使うかっていったら、迷うことなくEOS 5D Mark II やD700 を使うでしょう。けれども自分の好きな写真を撮るんだったら文句なしにα900 ですね。その時は必ず、少々重くてもツァイスかGレンズを選びますけど」
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※所属・役職は取材当時
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