ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  菅野のサッカー 作者:SO
武藤景子のちから
真っ直ぐ家に帰るにはまだ時間が早い。商店街を歩きながら、どこか寄り道かと思案していると背後から「ねえ」と女の声がして振り返る。すぐに胸の谷間に視線が向かってしまう程、破壊力のある豊満なバストが、深々とした谷間を形作っている。見入ってしまった自分に気づいて、素早く、顔に目を向けた。可愛らしいが知らん顔。
「誰ですか」
「さっきのゲームセンターにいたんだよあたし」
 丸顔で鼻がツンととがっている、大きな瞳は愛くるしい。ぷっくり厚めの唇を器用に動かしてニコッと百点満点の笑顔を見せた。
「キミ、歩くの速過ぎ! やっと追いついたよ。ってか、まだ心臓バクバクだよー。あ、追いかけて疲れてってわけじゃなくて、空飛べる人間がいるなんて信じられなくてテンション上がり過ぎで興奮マックスで心臓バクバク、ね!」
「ああ……」
 口数は多いが、声質は心地良い。スリルを味わった直後は、性的興奮が増すという実験データをテレビで拝見した事があったが、喧嘩直後だからか、目前の謎の女を抱きたくてしかたなくなってきた。
 思惑が届いたのか女が距離をつめてくる。一歩また一歩……
「え」
 女が俺にたどり着く流れそのまま、背中に腕を回して、抱き締められた。
「なにを…」
 女が耳元に口を当てて
「武藤景子だよあたしの名前」と言った。
 耳朶に吸い込まれる女の名前。体の裏側がぞくぞくと寒気に似た感覚を覚える。
 景子の頭を両手で抑えて向かい合う恰好にして、キスをした。
「俺は、菅野正道だよ」
「よろしくね、菅野君」
 柔らかな雰囲気で景子が微笑んだ。俺の中では、なかなかアグレッシブなタイミングでキスをブチかましてやった気でいたから、興奮するなり驚くなりのリアクションがあることを期待していた。なのに全くの平常だったことに俺は驚き、女が成熟している予感を覚えた。
「どっか行こうよ」
 景子が上目使いで俺を見ながら言った。
「どどっかって」
 声がうわずる。この下から見上げる構図。人によっては絶望的に醜く見えてしまうだろうが、景子の場合は全く違った。この顔で言われたら、何を言われても断れない、そんな気がした。このままあと二秒増しでみつめられ続けたら、確実に勃起して、そのどっか、に着くのが遅くなったろう。勃起前に顔を平らにした景子が、
「それは追い追い……あるこっ!」
 そして、こちらが次の言葉を口から発声させる前に手を取られ、景子に引っ張られるようにして我等は歩きだした。
 
 あっという間にラブホテルに入った我々は今、少し熱めの湯船に一緒に浸かっている。背中にやわらかな感触がある。景子の胸の感触だ。部屋に入ってすぐ、風呂に一緒に入る事を命じられて今に至るので、いまだに、景子の胸を手で触れられずにいる。
「なあ、胸触りたいんだが」
「なあんだ。お触りしたかったんなら、早く言えばいいのに」
「だって、さっき触ろうとしたら、先お風呂! って言われて拒まれちゃったから」
「それは、先お風呂だったからだよ」
 そう言うと景子は、俺の体を反転させた。湯船に浮かぶ、大きな白い丸二つに目が釘づけとなる。美雪も決して小さくはないのだが、ここまでの迫力は持ち合わせていない。
「いいよ触ってー ほーれ!」
 おどけて言う景子が体を浮かせると、水面に胸二つが顔を出した。
「すげえピンク……」
 ぷくっと突起した乳首に手が伸びた。
 はじめ全体を覆う様、次に乳首を摘まんで愛撫開始。
 体をエビの様にのけ反らせて身悶える景子の姿は、美雪と比べものにならぬ程敏感で、大胆な反応に思えた。性に対しての欲求が強く感じられる景子の姿は非常に好ましく思えた。あらためて、セックスという行為が二人プレイなんだなあと実感する。片一方だけが大いに燃えあがっていてもセックスは面白味に欠け、盛り上がりに欠け、快感度も貧弱だ。美雪との行為に大きな不満はないものの、美雪は性欲が幾分弱いと感じる部分があり、若干だが盛り上がりに欠けるのも事実。俺の性欲が百だとすると美雪のそれは四十くらいの印象である。ところがこの景子ときたら、乳首を軽く責めただけでこの悶え様だ。全身から性欲のエナジーが溢れ出ているかのようにみえる。さらに感心するのは、身悶える程の快感を得ながらも、俺の股間に腕を伸ばし、上下にしごきはじめているのだ。この、食らうばかりじゃ飽き足らず、自らも食らわせたいとする精神性に俺は、景子の人並外れた、逞しいばかりの性欲を見た。
 乳首責めを止めると、景子が俺に体をぶつけてきた。数刻前に栓を抜いたので、浴槽内の水は、我等の腰以下にまで下がり、水を省いた直接的な肉体接触が開幕して……
 
 ベッドから天井を見上げる。5時間に及ぶ武藤景子との戦いは素晴らしくも壮絶で、今は頭の中が真っ白で思考能力が働かない。壁も白、隣で寝る全裸武藤景子の肌も白で、ベッドのシーツも白、景子の顔も俺の白濁で真っ白だ。真っ白の連想ゲームをし終えたあとに意識が飛んで眠りに落ちた。

 部活に出る。ボールを蹴る。マリオが睨んでくる。無視をする。意味を感じない練習を繰り返す。大好きだったサッカーへの取り組みが丸っきり、無気力なものへとなってしまった。ふと、痛烈な悲しみが心を覆った。旅先で不意に感じるホームシックみたいな感じで、サッカーが大好きだったころを思いだした。
 部活を終えると一人、森の中へ入っていった。ひと気のない奥の方へ歩くと、声を上げて泣き叫んだ。喉が飛ぶほどに声を張って泣き叫び続けた。このまま、死ぬの、と死を意識する程に錯乱した。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。