つなぐ 希望の木
災難を乗り越えてきた木々を、都内に訪ねた。
【社会】3D邦画しぼむ 今夏、1本のみ2009年の米SFアドベンチャー映画「アバター」が大ヒットし、国内でも大ブームとなった、映像が立体的に飛び出す3D作品。だが今夏は日本映画からほとんど消えた。通常の2Dの映画に比べて製作費が割高で、それに見合う集客を見込めず、映画製作・配給会社が手を引き始めたためだ。3Dが根づかない日本の映画風土を探ってみた。 (石原真樹、小田克也) 東宝、松竹、東映、角川映画の四社は二〇一〇、一一年の二年間で、邦画の3Dを十五本程度公開したが、今年は四本にとどまる。 四社が七、八月に公開する夏休み映画は計十四本。3Dはなく、現在は五月公開のホラー映画「貞子3D」(角川映画配給)の上映が続くだけだ。 人気シリーズ四作目の「BRAVE HEARTS 海猿」(東宝配給、公開中)は、前作は3Dでも上映されたが、今回は2Dのみ。製作に携わるフジテレビの臼井裕詞チーフプロデューサーは「3D用を作っても以前ほどの熱狂はなかったのでは。こんなに早く(邦画から)3D熱が冷めるとは思わなかった」と語る。 ハリー・ポッターなど外国映画の3Dに客が入っても、邦画に入らない。三月公開の「ウルトラマンサーガ」(松竹配給)は、上映した全映画館の40%で3Dにしたが、興行収入に占める3D上映の割合は25%。「一本あたり五千万とも一億円ともいわれる3Dの製作コスト」(松竹映画宣伝部パブリシティー室の山中正博室長)に見合う結果を出せなかった。 ◇ 東映映画宣伝部の相原晃部長は「米国映画と違って、邦画はドラマ性が強い」と述べ、映画を作る側にとって邦画は3Dに不向きとみる。 邦画は、人間ドラマを丁寧に描いてきた歴史がある。代表例が小津安二郎監督の「東京物語」(一九五三年)だろう。 年老いた周吉(笠智衆)は、長男長女に冷たくされ、戦死した次男の妻・紀子(原節子)に内心では好感を持つ。だが互いに気づかい、控えめに振る舞う。日本人が本来持ちながら、見失いがちな精神が描かれる。夫を失い、寂しいであろう紀子の心中を思う周吉の温和な表情が印象的だ。 小津監督は、身近な日本家屋の暮らしを撮った。また、溝口健二監督はカットせず撮り続け、人物を浮き彫りにした。 そして小津にとっての原節子、溝口にとっての田中絹代…。巨匠監督たちは女性に憧れ、その存在を意識したと思われる。 フランスの社会派、ロベール・ゲディギャン監督は小津監督を敬愛し、その魅力を「シンプルな力強さ」と語る。絞り込んだ映像美は、3Dのような過剰ともいえる昨今の演出とは対極にある。 むろん日本の監督たちも巨匠の精神を受け継ぐ。山田洋次監督は小津監督への尊敬の念から「東京家族」に取り組んでいる。 こうした映画的風土に慣れ親しんできた観客の側にとっても、SFや戦闘アクションといった男性的でスピード感のある世界、また、ファンタジーのような壮大な空想的世界で力を発揮する3Dを、日本映画で見せられるのは、しっくりこないようだ。 日本人とは何か。落ち着いて考えようとする3・11後の心理も、人を驚かせる3D映像の回避につながっているのではないだろうか。 ただ角川映画の今安玲子プロデューサーは「ホラーやSFなど企画と合えば可能性はある」と話す。「貞子3D」は興行収入十三億円を超えてヒットしている。 映画が誕生したのが一八九五年。リュミエール兄弟がパリで「ラ・シオタ駅への列車の到着」を上映し、汽車がこちらに向かってくる、と観客が逃げ出したエピソードは有名だ。3Dは、それ以来の革命といわれるが、邦画に根づく気配はない。 PR情報
|