生きられる社会へ:生活保護の今 「不正受給」取り締まっても 保護必要な人は減らない
毎日新聞 2012年07月23日 東京朝刊
人気お笑い芸人の母親の生活保護受給を批判する報道を機に「不正受給の取り締まりを強化すべきだ」という声が高まっている。一方、不正をなくそうとするあまり、行政がさまざまな理由をつけて保護を受けさせない「水際作戦」を行った結果、保護を受けられなかった人が餓死する事件も相次いでいる。そもそも「不正受給」とは何なのか。そして「本当に必要な人にだけ給付を」と、簡単に言い切ることはできるのか。【稲田佳代】
◇貧困から抜け出せる仕組みを
収入の多い子を持つ親が生活保護を受けている、働けるのに保護を受けている、保護費でパチンコをしている−−。「不正受給」について、こうしたイメージを持つ人も少なくないだろう。だが実際は、これらのどのケースも「不正」には当たらない。
収入の多い家族がいても、本人が困窮していれば、保護を受けられる。家族の扶養は、生活保護の要件ではない。また、生活保護は憲法25条の「生存権」に基づく制度で「無差別平等の原則」があるため、働ける年齢の人でも、困窮していれば保護を受けられる。さらに、保護費は使い道を限定しておらず、やりくりの範囲でパチンコをしても「不正」とは言えない。
では、どういうケースが「不正」なのか。
生活保護法78条は、うそをつくなど不正な手段で保護を受けた人に対し、自治体がその額を徴収できると定めている。10年度は約37億円が返還された。