白鵬(右)を寄り切りで破り全勝優勝した日馬富士(山田欣也撮影)
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◇大相撲名古屋場所<千秋楽>
史上初となった横綱、大関の千秋楽全勝対決は、大関日馬富士(28)=伊勢ケ浜=が横綱白鵬を寄り切り、6場所ぶり3度目の優勝を決めた。日馬富士は初の全勝優勝で名古屋場所は昨年に続き、2年連続の賜杯。9月9日初日の秋場所(東京・両国国技館)で綱とりを懸ける。
鬼の形相で横綱を寄り切った。日馬富士は立ち合い、もろ手で突いて白鵬の上体を起こし左から強烈な張り手を一発。主導権を握ると左上手を引いて頭を付ける。苦し紛れに白鵬が左上手を探りに来たところを「ここが勝機!」とばかり一気に前へ出た。切れ味、スピード、パワーと横綱を圧倒。史上初の横綱VS大関による千秋楽全勝対決に決着をつけた。
「とにかく強く当たろうと。あとは流れ。自分の立ち合いをしっかりやろうと思っていた。今日の一番は何が何でも勝ちたかった。まあ、良かったです」
今年2月のトーナメント相撲で右手中指の靱帯(じんたい)を痛めた。なかなか引かない痛みに先場所は千秋楽でやっと勝ち越しを決めたほど。今場所前には「もう半年だよ。こんなことなら折れた(骨折)方がマシだった」と愚痴すらこぼれた。
そんな苦悩の日馬富士を救ったのは先場所千秋楽の2日後。5月22日に生まれたばかりの次女ヒシゲジャラガルちゃんの存在だった。表彰式後の支度部屋でまだ首も据わっていないまな娘を妻バトトールさん(25)から渡され、抱き上げると大声で泣かれてしまい思わず苦笑いした。
「2人目が生まれた。神様からの贈り物。もちろん(次女が誕生したことで)巻き返したい気持ちはありました」
全勝優勝と次女誕生。二重の喜びに包まれ、関係者とともに万感の表情で万歳三唱する日馬富士は「自分がいい相撲をとることで周りの人たちが喜んでくれる。それを想像するんですよ。応援してくれる皆さんがいるからスポーツマンは頑張れる」と頭を下げた。
白鵬の横綱昇進時、同じモンゴル人で、同じ立浪一門の日馬富士は周囲に勧められた横綱土俵入りの太刀持ちを断った。「すみません。自分は大関になりますから」。初土俵が1場所早い兄弟子という意地もあったが、この強いハートが幕内で2番目に体重の軽い日馬富士を支えている。
「横綱はなりたいからなれる地位じゃない。運命によってなるべくしてなるもの。1日1日、努力するしかない」
北の湖理事長(元横綱)が「次は綱とりの場所になる」と断言した9月の秋場所。大関昇進時の口上で述べた「全身全霊」の思いを込めて夢の綱をとりにいく。 (竹尾和久)
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