今井さんはその後、無錫市内の日本人街に店を移した。2階建てで、1階が厨房とカウンター、テーブル席、2階が座敷という大きな店だったが、一時ほど企業進出の勢いがなくなり、駐在の日本人が減ったことなどから、店もヒマになった。
そんなある日、他の仕事もあって従業員らに任せていた店に久しぶりに戻って驚いた。何と5、6人の従業員が近くの寮を勝手に引き払い、店内の座敷に住み込んでいたのだ。床に荷物を置き、雑魚寝し、食器の洗い場を風呂代わりに使っていた。店がヒマで座敷も使わなくなったし、ここに住めばタダだ、とでも思ったのだろう。あきれる今井さんをヨソに彼らは悪びれた様子もなかった。
ほかにも、従業員が売り上げをちょろまかしたのでクビにしたが、翌日も平然と店に出てきた▽グラスや食器を洗うシンクでモップを洗っていた-といった光景も目にした。まさに何でもあり。いや、実(じつ)さへ取れば、細かいことは気にしないというべきか…。
そんな彼らにあきれ、驚き、怒りを覚える一方で、日本人にないものを持っているという点で関心もし、学ぶところも多いと感じた。「彼らは確かに繊細さはないが、バイタリティーや一途さを持っている。ビジネスや商売はダイナミックで思い切りがいい。“ゆとり”の中で育ってきた日本人が中国と競争してもこのままでは絶対勝てない。ハングリーさが違う」