店はテーブル席を中心に70~80席。日本人スタッフ2人と中国人の従業員20人弱で始め、カレーグラタンやハンバーグ、トリの唐揚げ、サシミなどの和洋食を提供。母国の懐かしい味を求めてくる現地駐在の日本人ビジネスマンらで連日にぎわった。
ところが、中国での商売や生活は一筋縄ではいかなかった。日本では考えられないようなことが平然と起き、「毎日がカルチャーショック」。
最初に洗礼を浴びたのはオープン前年、視察に訪れたときだった。深夜、空路到着した上海浦東国際空港で無錫行きのバスを待っていると、一台のタクシーが近付いてきた。そして運転手がこう言う。「無錫行きのバスは途中で事故を起こした。タクシーで行くしかないからこれに乗れ」。初めての中国。不安になりながら乗ったものかどうか迷っていると、そのうちに当のバスが何事もなく入ってきた。
すぐにウソをつかれたと分かった。ところがその運転手、バツが悪そうな表情をするのかと思いきや、平気な顔。他人をだましても当然、自分は悪くない…という態度は、その後、中国で暮らして嫌と言うほど見せつけられた。
ワイロは当たり前、カネがすべて…というのもまた中国の“常識”だ。オープンに向けて店の建築工事を進めていたときのことだ。スプリンクラーを設置する必要から、今井さんは役所に行き、水道管の位置を尋ねた。すると、「道をはさんだ向かい側から引け。水道管はそこにしかない」との返答。それだと工事費がかさむ上、工事中は道路の通行を止めるから、補償費もいる。「困ったことになった」と思ったが、役人に現金を渡して頼んでみたところ、態度が一変。ニコニコしながら、工事現場近くの水道管の位置を教えてくれた。