国の改革で昨年10月に廃止された独立行政法人「雇用・能力開発機構」の施設で、都道府県への業務引き継ぎの道筋が示された全国86カ所の職業訓練施設の移管が全く進んでいない。同機構は「無駄遣い」の象徴としてやり玉に挙がり、歴代内閣が「地方や民間への移管を」と主張したが、現状は別の独立行政法人による運営という“看板”の付け替えにとどまり、今後の見通しも極めて不透明だ。
兵庫県内の移管対象施設は3カ所。離職者への技術指導などをする「職業能力開発促進センター」(ポリテクセンター)が尼崎市と加古川市、専門知識や高度な技術を学ぶ「職業能力開発短期大学校」(ポリテクカレッジ)が神戸市中央区にある。
尼崎市のポリテクセンター兵庫では、嘱託を含む約85人の職員や施設、設備は、同機構からほぼそのまま、現在運営する独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」に移された。カリキュラムも変わっておらず、年約3千人に上る訓練生への影響も出ていない。職員らは「何の変化もなく職員の不安だけが大きくなった」と漏らす。
雇用・能力開発機構に関しては、「聖域なき構造改革」を掲げた小泉内閣の2004年に独立行政法人へ移行。08年の麻生内閣では同機構の廃止を閣議決定した。
民主党中心の政権に交代してからも、鳩山内閣は事業仕分けの俎上(そじょう)に載せ、地方や民間への移管をさらに進めることを求め、菅内閣は同機構の廃止法案を可決させた。
ただ、こうした政府方針に対し、同機構や業務を引き継いだ「高齢‐機構」を所管する厚生労働省は反対し、国による運営を主張し続けた。
同省は昨年6月、ようやく移管に向けた具体的な条件を提示。受け入れに前向きな自治体もあったが、移管に伴う国からの補助の上限が2年との内容に、「恒久的な国の補助を」との都道府県側のニーズと大きな隔たりが生じており、移管が進まないのが現状だ。
兵庫県の担当者も「新たな財政負担を負う余裕はなく、受け入れられない」との姿勢。一方、同省職業能力開発局は「移管条件については、予算上の問題もあり、当面は緩和する方針はない」とする。
(小川 晶)
【雇用・能力開発機構】
1961年、訓練を通じた雇用機会の創出などを目的に「雇用促進事業団」として設立。職業訓練施設の運営や、雇用促進住宅の管理、事業主への助成などを業務とした。2004年に特殊法人から独立行政法人に移行したが、運営コストなどが問題となり、運営していた「私のしごと館」(京都府、10年閉館)が毎年10億円以上の赤字を出し続け、「無駄遣い」や「厚労省の天下り」と批判を浴びた。有識者らによる検討会での議論を経て、同機構は11年10月、廃止された。
(2012/07/22 08:00)
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