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【杉山茂樹コラム】五輪を前に、綺麗事を強要するな

WBCに不参加の決議をした日本プロ野球選手会に賛同する意見が多く聞かれる中で、反対の声も少なからず渦巻いている。

「やっぱり金ですか」。「日本代表としてのプレイは、お金ではなく名誉のはず」。「お金が理由では共感できない」等々、その理由の大半はお金だ。「ギャラの取り分の多い少ないに拘るのは、スポーツマンらしくない、ファンを無視した行動」というのである。

共感できない意見だといわざるを得ない。彼らはアマチュアではない。プロ選手だ。プロ選手がお金に拘ってどこが悪いのか。プレイにはリスクがつきものだ。そこで万が一怪我でもしたら、誰が保証するのか。

選手は普段からギリギリのところでプレイしている。大半の選手が不安を抱えながらプレイしている。日本代表に選ばれそうな選手だって例外ではない。そのポジションは永遠ではないのだ。ちょっとしたことをきっかけに、一流から並の選手に転落する。引退に追い込まれることもある。スポーツ選手とは、かなり危うい職業なのだ。ファンを名乗るなら、そうした選手の立場をもう少し尊重すべきなのではないだろうか。待遇面にも気を配ってやるべきではないだろうか。

お金で揉めることを潜在的にお金に汚いと思っている人は数多くいる。スポーツマンに対しては特にそうだ。それに日本代表とか日の丸が絡むと、その傾向はさらに増す。名誉であって「仕事」という概念は持つべきでないという。

それに関わる人すべてが、手弁当でやっているなら分かる。そこにお金が一切絡んでいないのなら、選手もボランティアでやるべきだが、現実は全く違う。いかなるスポーツイベントにも大なり小なり産業的な価値が付随する。お金儲けを企てようとする人たちが、その周辺に群がることになる。みんなでそれにしゃぶりつこうとする。

わかりやすい例がメディアだ。もし日本がWBCに参加すれば、高視聴率が見込める。新聞や雑誌の販売部数も伸びる。ネットのヒット数も伸びる。今回の不参加表明は、なにより彼らにとって苦々しい、不都合な話になる。その肩を持とうとするメディアが少ないのは、当然といえば当然だ。

そのメディア報道を受けて一喜一憂するのがファン。

もし日本がWBCで不甲斐ない負けを喫すれば、多くのファンは落胆する。チャンスに凡退した選手、打ち込まれた投手は批判の矢面に立たされる可能性がある。しかしそのためには、選手がそれに相応しい待遇を受けている必要がある。「仕事」としてそれに関わっている必要がある。ボランティア同然の立場でプレイしている選手に、批判を浴びせかける行為は筋違い。お安いギャラで世間のさらし者されるスポーツ選手を悪く言うことは、まさに道理に反する行為になる。

そうした中で五輪が始まろうとしている。

その出場選手の多くはアマチュアだ。いわば趣味としてプレイをしている選手といっても言い過ぎではない。「なでしこジャパン」はその典型的な存在になる。昨年来、コマーシャルに出演したり、テレビのバラエティ番組に出演する選手もいるが、そこで得るギャラなどは雀の涙。注目度に見合った金額ではない。彼女たちもまた、不安定な環境の中で選手生活を送る立場の弱い選手たちだ。

というわけで、僕は「なでしこ」の選手たちについて、プレイの評論は避けるようにしている。同じサッカーでも男子と異なるスタンスで向き合うようにしているが、ロンドン五輪で、万が一メダルなしという結果に終われば、ケチをつける人は必ず現れるだろう。「なでしこ」の行く末が案じられて仕方がない。結果が出なかったときの世間の反応がいまから心配になる。

事実、五輪では、これまでそうした声を何度となく耳にしてきた。「国民の税金を使っておきながら」とまで言い切ったワイドショウの女性コメンテーターもいた。

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