放射線の利用
1895年にレントゲン博士がX線を発見して以来、放射線は様々な分野で利用されています。最も私達が放射線を利用しているのが医療関係で、病気の検査や 診断さらには治療にも利用されています。
下の表は放射線が使われている主な分野です。
X線検査 大型機器の非破壊検査 いろいろな病気の診断 溶接検査 ガンの治療 厚みの測定 食品の保存 グローランプ、夜光時計 食品の保存 化学分析、微量元素分析 品種改良 水流の調査 化合物の合成 火災報知器 プラスチック等の性質の改良 害虫駆除 年代推定
私達の毎日の生活の中で、放射線が利用されているものの例を以下に示します。なお、自然界に存在する放射線については放射線の 話を参照して下さい。
1)害虫駆除(ウリミバエの駆除)
平成13年11月3日の午後9時15分から放送されたNHKテレビの人気番組「プロジトX」で放送された「8mmの悪魔vs.特命班・最強の害虫、野菜が危ない」をごらんになりましたか。この番組では、沖縄県で発見されたウリミバエを放射線を使って根絶する様子をわかりやすく説明していました。ウリミバエは日本の南西諸島や小笠原地域の他にオーストラリアやメキシコなどに生息する虫で、久米島、宮古島などを経由して沖縄本島に上陸したものと考えられています。
このウリミバエ8mm程の小さな虫ですが、はキュウリ、ナス、カボチャ、スイカ、ピーマン、ニガウリ、ゴウヤ等殆どの野菜に入って中身を食べるために、腐ってしまいます。さらに、ウリミバエは繁殖力が旺盛で、1匹の親は1度に1000こ以上の卵を生むと言われていますので、短時間で飛躍的に増加してしまいます。
このままウリミバエを放置すると、ウリミバエは日本本土にまで広がり、日本の野菜が壊滅的な打撃を受けたでしょう。そのため、当時の農業通産省を中心として、1970年代にウリミバエの撲滅作戦が開始されました。最初は強力な殺虫剤を使用しましたが、ウリミバエはなかなか減らず、殺虫剤を続けていると、かえって抵抗力が強くなり、効かなくなりました。さらに、環境汚染の問題もあります。
そこで考えられたのが、放射線によるウリミバエの駆除で、大量の放射線(具体的には医療などにも使われているコバルト60を使用)を大量のウリミバエの幼虫に照射して、不妊化させました。これらの不妊化したウリミバエをウリミバエの生息する地域で放ち、不妊虫と交尾させます。そうすると不妊虫ですから卵は出来ません。これを繰り返すことによって、ウリミバエは次第に減少していき、ついには根絶させることが出来ました。
このコバルト60によるウリミバエの撲滅作戦は久米島等で実験的に開始され、4年以上の歳月をかけて310億匹の不妊虫を使い、1990年にはウリミバエの根絶に成功しました。八重山諸島では1990年から毎週4000〜8000万匹の不妊虫を放ち、1993年にウリミバエの根絶宣言が発表されました。
現在では、沖縄名産のゴウヤやニガウリが日本各地の食卓を飾っていますが、これらのものを食べられるのはコバルト60によるウリミバエの撲滅作戦のが成功したおかげです。
ウリミバエ
2)病気の検査・診断・治療
医療においては放射線は検査や診断、さらには治療に盛んに利用されています。このうち、我々が一番利用しているのが胸のX線検査と歯が痛くなったときに歯医者さんが取る歯のX線検査でしょう。X線検査は身体や歯にX線をあて、体を通り抜けたX線を写真撮影して体や歯の状態を調べます。1回の胸のX線検査で0.06ミリシーベルト程度の放射線を受けます。
この他にもバリウムを使用する胃や腸の検査 、心臓や血管の状態を調べる血管造影検査、さらに体の横断画像を作成するX線断層撮影の普及によりガンをはじめとする種々の病気の早期診断に威力を発揮しています。
また、ガンの治療にも放射線は使われています。ガン細胞に対しては殺傷能力が高く、健康な細胞への影響が少ない放射線を使います。現在、多くの病院で広く利用されているのはエネルギーの高いX線か、コバルト60などの放射性同位元素から出るガンマ線です。
日本人が医療で1年間に受ける放射線の量は平均で1.8ミリシーベルト程度です。
X線断層撮影
3)日常生活における放射線の利用
私達の日常生活の中にも放射線を利用した多くの製品があります。例えば蛍光灯のグロー放電管、夜光時計、煙感知器やカメラの内臓ストロボなどに放射線が使われています。
蛍光灯のグロー放電管の中には放射線を出す放射性同位元素プロメシウム147が入っています。このプロメシウム147から出るベータ線の電離作用により、スイッチを入れるとすぐに放電が起こり、蛍光灯が素早く点灯します。
夜光時計の文字盤や針にもプロメシウム147が塗られており、それから出るベータ線により発光します。
学校、病院、デパート、ホテル、映画館などの公共施設では火災報知器を取り付けるように義務つけられています。この火災報知器には煙感知器が接続されており、煙感知器には放射性同位元素アメリシウム241が使われています。
アメリシウム241から出るアルファ線により一定の電流が流れています。この中に煙が流れ込むと、煙により電離電流が減少するので、煙の発生を知ることができます。
グロー放電管が付いた蛍光灯 | グロー放電管 |
4)食品への照射による殺菌や発芽防止
生鮮食品は輸送や貯蔵中に腐食したり発芽したり、虫に食われたりします。放射線を食品に当てると発芽を防止したり、成熟を遅らせたり、殺虫や殺菌をすることができるので、流役立ちます。通や消費の安定に役立ちます。
世界保健機構(WHO)などは多くの食品に放射線を照射して、問題のないことを確認しており、現在では40カ国以上の国で80種類にも及ぶ食品に放射線が照射されています。
日本ではジャガイモの発芽を防止するために放射線の照射が行われています。
5)考古学に応用されている放射線
考古学の世界では遺跡や遺物がいつ作られたかを調べることは大変重要です。 放射性同位元素は一定の半減期で時間経過とともに放射能は減少します。年代推定は炭素14が使用され、炭素の量と炭素14の割合を測定すると、古代人の遺跡などから発見された炭や木片の年代を推定することができます。また、屋久島の屋久杉の年代もこの方法で推定されました。