社説
総選挙前夜/選択軸掲げ、説明尽くせ
4年前は政権交代に期待したが、その政権党は分裂した。今度は消費税増税に慎重だった候補も増税を掲げそうだ。かといって、「増税反対」だけを叫ぶ候補を支持していいのか。自分の1票はどうしよう−。 近づいている次の衆院解散・総選挙に向けて、多くの有権者がこんな思いを強くしているのではないだろうか。 野田佳彦首相の政権基盤は消費税増税で修正合意した民主、自民、公明による3党体制に依存する部分が大きくなった。民主党を除名された小沢一郎元代表らは新党「国民の生活が第一」を発足させ、反増税を旗印にする。そこに他党が絡む。 民主、自民両党がそれぞれ、政権を懸けて競う二大政党制が崩れ始めた。次の衆院選は小選挙区制が導入されて6回目となるが、政党の存在意義を問う選挙になりそうだ。 東北の衆院25選挙区を見ても、戦いの構図が激変する選挙区は多く、戸惑いを感じる有権者が多いだろう。 民主党を離れ小沢新党に入った現職が立つのは、現段階で青森1、2、岩手2、4、秋田3、福島1、2の7選挙区。いずれも、分裂前は民主と自民の激突構図が固まっていた。 これらの選挙区で民主党は対立候補を擁立する方針だ。逆に小沢氏の地元・岩手の1、3区には、離党届を出さずに民主党に残った現職がいる。小沢氏が対立候補を擁立することが想定され、骨肉相はむ争いになる。 政党政治の混迷を反映する選挙区もある。仙台市の宮城2区では、現時点で民主、自民、共産、新党きづな、みんなの党、たちあがれ日本の計6党が入り乱れるかつてない構図になっている。 ここも民主党公認だった現職がきづなに移ったためで、同党宮城県連代表の参院議員が「刺客」としてくら替え立候補する。民主党支持層は「分裂選挙」を強いられることになり、当選ラインが下がることを見越して各党が挑む。今後、公明党や社民党の参戦があってもおかしくないほどだ。 肝心の解散風は強まりそうで強まらない。首相周辺は6月末、自民党幹部に「今秋までに衆院選が行われる」と早期解散に応じない意向を伝えた。ただ衆院議員の残り任期はほぼ1年。解散をめぐる与野党攻防は激しさを増している。 総選挙まで少しだけ時間があるとするなら、与野党を問わず立候補を予定している現職、新人に求めたい。 消費税増税や原発再稼働の是非に代表される選択軸について、「必要」「反対」という単純な表明だけでなく、自身の政治信念を含めて有権者に丁寧な説明を繰り返してほしい。 顧みれば2005年の郵政選挙、09年の政権交代選挙では、一種の「熱気」に支配されていた。熱が失望に変わるのに時間はかからなかった。今度は政党と候補の主張を冷静に聞き分け、政治の潮流を見極めたい。前哨戦はもう始まっている。
2012年07月22日日曜日
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