(cache) 田中茂

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連載８１

2008/10/01

今こそ各種健康保険の一元化を

　　
　先月、トラック輸送の大手企業、西濃運輸の健保組合が解散するというニュースが報じられました。
社会保険の制度は１８８３（明治16）年、ドイツのビスマルクによって制定された疾病保険法がその端緒とされています。

　もともとは働く人たちやその家族の医療費を支えることを目的に設立されたもので、大手の健保組合は全国各地に保養所を設けたり、ボーリング場を作るなど、組合員の健康福祉向上にさまざまな事業を展開してきました。

　しかし、現在はそれらも閉鎖されているところが多く、西濃運輸のように、若年層の従業員数が多い企業の健康保険組合を中心に、続々と解散するだろうという懸念が広がっています。
　
　なぜかといいますと、４月に始まった高齢者医療制度は、実は、75歳以上の人が払う保険料の「年金からの天引き」ばかりか、健康保険組合でも、高齢者医療への拠出金が大幅に増えるという悪影響を及ぼし、２００８年度は約１５００ある健保組合の９割弱が赤字に陥る見通しとなっています。つまり、高齢者医療費の増大化を、現役世代の健保組合が支えられなくなってきたのです。
　
　健康保険組合連合会（健保連）の集計によると各健保組合の経常収支合計から、08年度の赤字額は６３００億円と見込まれ、これ以上負担が膨らむと政管健保に移った方が得と考える健保組合が増えるだろうといわれています。
　
　政管健保（政府管掌健康保険）とは、国（政府）が直接運営する健康保険で、主に中小企業が加入、西濃運輸もこちらに移行する予定です。
同じように健保組合を解散し、政管健保に移行する企業が続出すれば、今度は政管健保の財政が著しく悪化するのではないかという憶測も広まっています。
　私は、このような状況を見るにつけ、全国統一の、新健康保険組合を作る必要があるのではないかと考えるに至りました。
この案は、元医師会長の武見太郎先生が提唱されていたもので、１９７８年に、当時の自民党が武見太郎会長との協議を踏まえて、政府提案により「健康保険法改正案」を国会に提出しました。

　しかしこの案は、健保連や財界から健保組合の存在を否定するものとして猛烈な反対を受け、結局、健保法改正法案は、２度の廃案を経て１９８０年に成立しましたが、全国的に一つの健康保険に統一する案は全く審議されずに終わりました。
　
　当時は企業の健康保険組合の隆盛期で、今のように赤字運営を余儀なくされるということはなかったのです。
　
　しかし、ここまで医療費が高騰し、健康組合の存続が危ぶまれる今こそ、国がすべての健康保険を一つにまとめ、患者に利する保険システムができれば、どんなに無駄が省けて合理的かと思う次第です。
　
　これは夢物語ではなく、現在も国民皆保険体制を維持し、中央集権型の医療保険が運営されていますから、政府が本腰を入れれば可能な改革です。
　
　日本の医療保険制度は、一見すると各制度が分立しているように見えますが、全国統一の審査支払い機関の存在や、全国一律の診療報酬体系、画一的な保険給付など、保険者の分立や保険料率の算定方法を除けば、既に一元化されていると見ることもできます。
　
　企業の健保組合は、健康保険法上、「本来国が行うべき健康保険事業を、国に代わって行う」、すなわち代行機関と位置付けられています。
　
　市町村の国民保険事業についても、１９６１年からの国民皆保険体制の基盤として始められました。
裕福な大企業傘下の健康組合と、政管健保に頼る中小企業との格差が大きいなど、複雑で不合理な現行の制度を改善するために、今こそ全ての健康保険を合併させる時期ではないかと思われ、厚生労働省に一考を求めたいと思います。
　
　なお、ＥＭ―Ｘ予防医学研究所では健康全般に関するご相談を、随時受付けています。（℡０４８―４６１―２００９）

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