EMX 朝霞厚生病院 むさしの苑 みよし園 田中茂
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連載 80 2008/09/01 高齢者負担、急増の時代を憂う
  
 先月から、朝霞厚生病院では患者さんたちに向けて、車の無料送迎サービスを始めました。
前日までに電話で予約すれば、車椅子用リフトのついた、10人乗りの専用車で自宅前まで送迎するというシステムです。
 
 最近の、高齢者に対する国の施策には、いろいろと問題があり、不満を感じております。
今年の4月から、75歳以上のすべての高齢者を対象に導入された「後期高齢者医療制度」は、それまで子供の扶養者となっていた老父母がその枠組みから外され、少ない年金から保険料が天引きで徴収されることになりました。
 
 とくに国民年金保険の加入者の方々への経済的な負担は相当大きく、その上65歳以上の方で、年額18万円以上の年金受給者は、年金から介護保険料も差し引かれます。
 
 そういう方々の負担が少しでも軽くなる手助けができないかという発想から生まれたのが、この無料送迎サービスです。
朝霞厚生病院を受診される方でしたら、どなたでも遠慮なくご利用ください。
 
 さらに、国がどれほど高齢者や障害者などの弱者に対して、厳しい政策を強いているか調べてみました。
 
 平成18年4月からの診療報酬改定では、必要に応じて受けなければならないリハビリ医療が、原則として発病から最大180日までに制限されてしまいました。個々の患者の病状や障害の程度を考慮しないで、機械的に日数のみでリハビリを打ち切るという改定が行われたのです。
 
 そのときも今回の「後期高齢者医療制度」と同じように、唐突に実施された感がありました。障害や病状には個人差があり、同じ病気でも、病状により、リハビリを必要とする期間は異なります。
また、リハビリを受けられないことで、生活機能が落ち、命を落とす人もいるでしょう。
リハビリは単なる機能回復ではなく、社会復帰を含めた、人間の尊厳の回復とも言える大切な医療手段です。
 
 障害を負った患者さんたちは、この制度によって、寝たきりになる人も多く、大幅な診療制限になっている現状は、なんとかしなければならないと思われます。
 
 さらに今年の10月からは、所得のある70歳以上の高齢者の、医療費自己負担額を2割から3割に引き上げることや、療養病床に入院する70歳以上の高齢者の方々を対象に、食住費を自己負担にするなどの方針も決められました。
 
 そのほか、医療の療養型ベッドを25万床から15万床に減らし、介護保険適用の療養病床13万床を全廃するなどという、高齢者排除の施策も予定されています。
 
 一方、8月5日付の朝刊に「75歳以上の入院基本料、報酬減額を凍結」と言う記事が掲載されました。
今年の10月より、75歳以上の高齢者が90日を超えて入院する場合は、それまでの1万5550円から9280円に減額される予定でした。
 
 ところが医療現場からの「診療報酬が引き下げられると病院は収入減で採算が取れなくなり、患者を無理に追い出さざるを得なくなる」などという声があがり、厚労省が方針を転換し、減額案は凍結されたと言う記事でした。
病院経営も大変な時代ですので、医師である私には理解できますが、日々、困っている高齢者の声にはなかなか耳を貸そうとしない国の姿勢が見えて、いかがなものかと思われます。
 
 これらについては、社会的にも、患者負担を増やして医療にかかりにくくさせている施策であると、批判の声が大きくなっています。
余裕のある人はいいのですが、爪に火を灯すように暮らしている多くの年金生活者には、長生きをするなと言っているようなものでしょう。
以前は高齢者医療の自己負担額はゼロでした。高齢者を優遇することこそ本来の福祉であると、私は思います。
 
 なお、EM―X予防医学研究所では健康全般に関するご相談を、随時受付けています。(TEL048―461―2009) 

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