絶対ナル孤独
タイトル:絶対ナル孤独
作者:九里史生
サイト:WordGear
URL:wordgear.x0.com/novel/index.htm
場所:web novel --> 絶対ナル孤独
ジャンル:オリジナル
「絶対ナル孤独」
読みました。
SAOの作者による、一次小説。オリジナルものです。面白い。なかなかすごいです。私感ですが、基本センスは10年くらい前の良くできたラノベって気がします。SAOもMMORPGベースというのはおいておいてラノベとしてのセンスは10年前の小説って感じだったんですが、ゆえに個人的は共感できます。面白い。
オリジナル小説にありがちなんだけど、私の軟弱な「オタク脳」だと、導入部分が結構敷居が高くてしんどいんだけど、一度作品に入るとかなり面白いです。面白いと言うよりすごいというのが正直な感想かもしれない。
自分が最近読んだラノベ中では「断章のグリム」に雰囲気が近いかな。あれはファンタジーだっただけど、それのSF設定版みたいな印象を受けたです。トラウマが異能に変わっているところなどはソックリだと思います。まぁ、すごく私個人の主観的な印象なんだけど。でも、その設定がかなり良いです。微妙に生かし切れてない気がするが。
で、ストリーなんですが。いわゆる現代ファンタージに相当します。異能バトルです。もしかすると、分類してしまうと、結構SF的です。超能力とか科学とかでSF的な設定を出しつつというと、最近では「とある魔術師の・・・」などの一連のシリーズだと思うのですが、アレは科学考察的には結構似非というか結構リテラシーが低いというかいい加減で、どちらかというか魔術というか「言葉遊びから作られる理屈っぽさ」で構成される科学・魔術だと思います。そんなわけで比較するのは間違っているし、アレはアレで風呂敷がでかいと気持ちよいのですが・・・
超電磁砲とかみるように、微妙に風呂敷が狭い場合は非常にせせこましい解釈しかされてなくてストレスがたまる。あれは、電気ビリビリと磁石ですよ。雷と砂鉄が関の山です。小学生の考察かよっって突っ込みです。アレはアレで良さはあるのですが。
とにかく、この作品だと、わりと普通に自然に科学考察している。科学的というか論理的というか、わりと自然です。
たとえば、熱を防ぐ能力があったとする、相手の攻撃を遮断する能力です。物理的攻撃を防ぐにもいろいろ考え方があるにせよ、これはおいとおいて・・・でもこの場合、燃えさかる炎の中、つまり実際に酸化反応している物質などを遮断しても、空気を遮断しても、輻射熱、つまり電磁波の放出を防げるか?などまで考察している。電磁波を防げるというレベルと、燃えさかる炎を遮断するということは物理的には全く異なります。
作者は、炎ということと熱と言うことなどを曲がりなりも初等的にはきちんと理解してます。高校化学と物理をきっちりと消化されている。もしかすると大学の一般教養レベルです。
そんな感じの異能者バトルなんだけど、一見すると炎をあやつる能力者なんだけど、誰もがそう思っていたのだけど、実は紐解くと、本質的にはその人の能力は「酸素」を操る能力だったりとかしてます。
これにより、「燃焼」を操る能力者として攻撃者側は対応していたのに、急激に酸素濃度を下げられて攻撃者側は一気に昏倒するとか、作品中でのバトルの味付けと謎付けに結びついている。
このあたりの「化学」的な考察に基づく異能バトルは、理屈付けが自然でいいです。一言で炎と割り切ってない。さらには、酸素を操る能力と言うことを応用して、化学的な現象を解して強力な攻撃をしたりとかできます。
そういう意味ではある意味、脂がのったときの鋼錬のエドの戦い方みたいです。TV版終盤のノリ。
能力が本質的に同じでも、練度が違うと起こすことの出来る物理現象が段違いになるところも良いです。そこいらがきちんと認識されていいるところが良い。どこぞの超電磁だと、本質的に同系統の能力でも別の物理現象を発現させるだけで別の能力と区分されている。重複しまくりのひみつ道具のドラえもんか!!と突っ込みを入れたくなるのだが。こちらだと、きちんと「能力の本質」と「能力から生み出される物理現象」を区分している。これがすばらしいです。かなり良いです。
たとえば、分子間の結合を「切る」能力者がいるのですが、練度が低いと普通に鋭利に物質を切ることが出来る程度の能力なんだけど、その能力を突き抜けると、物質の相転移現象までコントロールできたりしている。作者様、わかっている。すげーです。
そしてさらに、能力の本質の区分にしても分子間の結合を「切る」と一口にいっても、分子間の振動を制御する側からのアプローチと、分子間力を制御できる(たとえばvan der Waals力とか)能力の違いで、その能力者のその応用範囲の違いを表現していたり。なんども口にするが、スゲーの一言です。ここいらの現象を知っている人からするとあたりえのことなんですが、この手のラノベで表現してくれたのはあまりみた記憶がないので。なんといいますか、フラストレーションがものすごく解消されました。
それに、驚いたのは、メタマテリアルなどの現代の最先端のサイエンスでもホットなネタを応用して透明化現象に説明をつけたりしてます。負の屈折率の話。裏には負の誘電率ネタがあると思うのが、作中ではそこまで出てこなかったのだけど。とにかく、普通の人はメタマテリアルとか知らんと思う。すごいです。
で、理屈っぽさだけではなくて、それらを「異能バトル」としてうまく見せているところがすごいです。風呂敷の広げ方と、うんちくと、理屈っぽさがいいバランスです。おもしろい。そして底辺には厨二病的なところが見え隠れしている。科学「っぽさ」を、バトルのリアリティと緊張感と謎に利用している。
必ず原因と結果があって、頭脳でバトルをする。そこいらのセンスというか見識の広さはすごいと思います。そこいら、敵の能力を予想して、敵の真の狙いや、敵の真の能力が実はキーワードになっていたりとか。なかなか見事です。
そんなわけで、なんかスゲーなーと思ってしまった。個人的には、もうひと味欲しいとは思うが。
各章ごとに話が完結なんだけど、個人的にはエロゲー的にもっと悲惨な話、これでもかっ!ってくらいの悲しい話で話の落ちを作ってくれると、能力のきっかけとなるトラウマをこれでもかってくらいに抉ってくれると、最高だったのに・・・・そういう意味では、よいと生ぬるいです。物語もぬるい。感動がない。ドラスティックな展開がない。謎が少ない。1話1話のテーマもぬるい。キャラの立て方というか、トラウマの使い方とか見せ方とか、その手の物が弱い。そこいらが現代的ではない感じです。10年くらい前のセンスだなと思う。ついでに割と淡々としている。この淡々とした感じと燃えない・萌えない感じは、20年くらい前の朝日ソノラマかもしれない(笑)
ポテンシャルは感じるのでもうひと味欲しい。残念賞です。まぁ、それはいいのかもしれないが。そこいらが不満でもあるが、何にせよなかなか特色のある作品だったと思います。グットジョブです。おっさん、感動しました。
作者:九里史生
サイト:WordGear
URL:wordgear.x0.com/novel/index.htm
場所:web novel --> 絶対ナル孤独
ジャンル:オリジナル
「絶対ナル孤独」
読みました。
SAOの作者による、一次小説。オリジナルものです。面白い。なかなかすごいです。私感ですが、基本センスは10年くらい前の良くできたラノベって気がします。SAOもMMORPGベースというのはおいておいてラノベとしてのセンスは10年前の小説って感じだったんですが、ゆえに個人的は共感できます。面白い。
オリジナル小説にありがちなんだけど、私の軟弱な「オタク脳」だと、導入部分が結構敷居が高くてしんどいんだけど、一度作品に入るとかなり面白いです。面白いと言うよりすごいというのが正直な感想かもしれない。
自分が最近読んだラノベ中では「断章のグリム」に雰囲気が近いかな。あれはファンタジーだっただけど、それのSF設定版みたいな印象を受けたです。トラウマが異能に変わっているところなどはソックリだと思います。まぁ、すごく私個人の主観的な印象なんだけど。でも、その設定がかなり良いです。微妙に生かし切れてない気がするが。
で、ストリーなんですが。いわゆる現代ファンタージに相当します。異能バトルです。もしかすると、分類してしまうと、結構SF的です。超能力とか科学とかでSF的な設定を出しつつというと、最近では「とある魔術師の・・・」などの一連のシリーズだと思うのですが、アレは科学考察的には結構似非というか結構リテラシーが低いというかいい加減で、どちらかというか魔術というか「言葉遊びから作られる理屈っぽさ」で構成される科学・魔術だと思います。そんなわけで比較するのは間違っているし、アレはアレで風呂敷がでかいと気持ちよいのですが・・・
超電磁砲とかみるように、微妙に風呂敷が狭い場合は非常にせせこましい解釈しかされてなくてストレスがたまる。あれは、電気ビリビリと磁石ですよ。雷と砂鉄が関の山です。小学生の考察かよっって突っ込みです。アレはアレで良さはあるのですが。
とにかく、この作品だと、わりと普通に自然に科学考察している。科学的というか論理的というか、わりと自然です。
たとえば、熱を防ぐ能力があったとする、相手の攻撃を遮断する能力です。物理的攻撃を防ぐにもいろいろ考え方があるにせよ、これはおいとおいて・・・でもこの場合、燃えさかる炎の中、つまり実際に酸化反応している物質などを遮断しても、空気を遮断しても、輻射熱、つまり電磁波の放出を防げるか?などまで考察している。電磁波を防げるというレベルと、燃えさかる炎を遮断するということは物理的には全く異なります。
作者は、炎ということと熱と言うことなどを曲がりなりも初等的にはきちんと理解してます。高校化学と物理をきっちりと消化されている。もしかすると大学の一般教養レベルです。
そんな感じの異能者バトルなんだけど、一見すると炎をあやつる能力者なんだけど、誰もがそう思っていたのだけど、実は紐解くと、本質的にはその人の能力は「酸素」を操る能力だったりとかしてます。
これにより、「燃焼」を操る能力者として攻撃者側は対応していたのに、急激に酸素濃度を下げられて攻撃者側は一気に昏倒するとか、作品中でのバトルの味付けと謎付けに結びついている。
このあたりの「化学」的な考察に基づく異能バトルは、理屈付けが自然でいいです。一言で炎と割り切ってない。さらには、酸素を操る能力と言うことを応用して、化学的な現象を解して強力な攻撃をしたりとかできます。
そういう意味ではある意味、脂がのったときの鋼錬のエドの戦い方みたいです。TV版終盤のノリ。
能力が本質的に同じでも、練度が違うと起こすことの出来る物理現象が段違いになるところも良いです。そこいらがきちんと認識されていいるところが良い。どこぞの超電磁だと、本質的に同系統の能力でも別の物理現象を発現させるだけで別の能力と区分されている。重複しまくりのひみつ道具のドラえもんか!!と突っ込みを入れたくなるのだが。こちらだと、きちんと「能力の本質」と「能力から生み出される物理現象」を区分している。これがすばらしいです。かなり良いです。
たとえば、分子間の結合を「切る」能力者がいるのですが、練度が低いと普通に鋭利に物質を切ることが出来る程度の能力なんだけど、その能力を突き抜けると、物質の相転移現象までコントロールできたりしている。作者様、わかっている。すげーです。
そしてさらに、能力の本質の区分にしても分子間の結合を「切る」と一口にいっても、分子間の振動を制御する側からのアプローチと、分子間力を制御できる(たとえばvan der Waals力とか)能力の違いで、その能力者のその応用範囲の違いを表現していたり。なんども口にするが、スゲーの一言です。ここいらの現象を知っている人からするとあたりえのことなんですが、この手のラノベで表現してくれたのはあまりみた記憶がないので。なんといいますか、フラストレーションがものすごく解消されました。
それに、驚いたのは、メタマテリアルなどの現代の最先端のサイエンスでもホットなネタを応用して透明化現象に説明をつけたりしてます。負の屈折率の話。裏には負の誘電率ネタがあると思うのが、作中ではそこまで出てこなかったのだけど。とにかく、普通の人はメタマテリアルとか知らんと思う。すごいです。
で、理屈っぽさだけではなくて、それらを「異能バトル」としてうまく見せているところがすごいです。風呂敷の広げ方と、うんちくと、理屈っぽさがいいバランスです。おもしろい。そして底辺には厨二病的なところが見え隠れしている。科学「っぽさ」を、バトルのリアリティと緊張感と謎に利用している。
必ず原因と結果があって、頭脳でバトルをする。そこいらのセンスというか見識の広さはすごいと思います。そこいら、敵の能力を予想して、敵の真の狙いや、敵の真の能力が実はキーワードになっていたりとか。なかなか見事です。
そんなわけで、なんかスゲーなーと思ってしまった。個人的には、もうひと味欲しいとは思うが。
各章ごとに話が完結なんだけど、個人的にはエロゲー的にもっと悲惨な話、これでもかっ!ってくらいの悲しい話で話の落ちを作ってくれると、能力のきっかけとなるトラウマをこれでもかってくらいに抉ってくれると、最高だったのに・・・・そういう意味では、よいと生ぬるいです。物語もぬるい。感動がない。ドラスティックな展開がない。謎が少ない。1話1話のテーマもぬるい。キャラの立て方というか、トラウマの使い方とか見せ方とか、その手の物が弱い。そこいらが現代的ではない感じです。10年くらい前のセンスだなと思う。ついでに割と淡々としている。この淡々とした感じと燃えない・萌えない感じは、20年くらい前の朝日ソノラマかもしれない(笑)
ポテンシャルは感じるのでもうひと味欲しい。残念賞です。まぁ、それはいいのかもしれないが。そこいらが不満でもあるが、何にせよなかなか特色のある作品だったと思います。グットジョブです。おっさん、感動しました。