(cache) 田中茂

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連載７６

2008/05/01

問題の大きい長寿（後期高齢者）医療保険

　今年の４月から75歳以上を対象に後期高齢者医療保険がスタートしました。
ところが開始直後に、ネーミングが対象者に失礼だという声があがり、「後期高齢者」を「長寿」と改名したのです。名前は変っても中身は全く変りません。「姥捨て保険」とか、「高齢者を孤立させる、死期を早める保険」などという意見が多く、私もこの保険制度は少しも高齢者の立場に立っていない、むしろ、差別的な制度と思われ、早急に年齢による差別を無くし、現行の国民皆保険に戻すべきであると考えています。
　
　社会保険庁による平成16年度の「国民年金による老齢年金受給金額（年額）の表」を見ますと、全体では年額72万～84万円を受給している層が一番多く、平均63万円となっています。
ただ、年金の加入期間が短い女性の場合はさらに低く、女性全体の８割が年額36万から84万円でした。
　
　一方、厚生年金の受給額は、加入期間と給与に比例し、国民年金の基礎年金に加えて厚生年金部分が支給されますから、平均で１９８万円、国民年金の約３倍になっています。
ただ、ここでも男女差があり、男性の平均２２８万円に比べ、女性は平均１３２万円。約７割が年間60万～１５６万円で、国民年金の受給とあまり変わりません。
　
　さて、「長寿医療保険料」は75歳になったとたんに、少ない年金額の中から自動的に天引きされます。
その上介護保険料も引かれ、さらに医療費は今まで通り１割が自己負担（市町村によって異なる）となりますから、一人暮らしの老人、とくに女性の高齢者には大変な負担がかかるということになります。
また、４月９日の新聞に、「これまでの市町村の運営を離れて、都道府県単位の広域連合が運営することになり、市町村独自に行っていた減免制度が廃止されることになった。名古屋市では、それまで、月額保険料が４７００円の人が２９１００円に上がるケースも」という記事が載りました。このように自己負担額が以前より高くなる懸念も出てきています。
　
　もう一つ、新制度には「主治医制」が導入されます。
これまで整形外科、耳鼻科、眼科、内科といくつもの科に通っていた人が、主に内科の医師を主治医とし、その医師に診療計画を立ててもらい、医師の指導の下に受診するシステムです。
診療報酬は１ヶ月６０００円という一定額が決められ、患者の主治医と連携して入院治療をした病院に診療報酬を加算する方針が決まりました。
入院中も患者の日常生活能力や認知機能、意欲などを多角的に評価して主治医と情報交換すれば報酬が加算される仕組みです。
また、退院後を見越して在宅介護をする人と情報を共有した場合や、主治医との情報交換の場に歯科医や薬剤師が参加した場合も加算する方針となっていて、地域の主治医が患者の入院後も医療を提供できる環境を整備するのが狙いといわれます。
　
　厚労省は、１人の患者が複数の医療機関を受診するのは、無駄な検査や薬の処方につながる恐れがあるとし、「１人の患者に１人の主治医を」と奨励しています。
しかし、医師らは「診療報酬が定額だと、必要な検査がされず、重病になるおそれがある」「お年寄りの大半は、糖尿病や白内障、腰痛などいくつもの病気を持っている。
一つの医療機関だけにかかれというのは無理がある」などと指摘。全国各市の医師会からも「患者の自由な医療機関の受診が制限される」といった反対表明が相次いでいるようです。
　
　急速な少子高齢化の進行と老人医療費が増加しているなか、厚労省はなんとか医療費を削減しようとしているのでしょうが、75歳以上の方々に十分に理解されないまま、この制度が発令されてしまったことも、大きな問題であると思われます。
　
　なお、ＥＭ―Ｘ予防医学研究所では健康全般に関するご相談を、随時受付けています。（℡０４８―４６１―２００９）

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