(cache) 田中茂

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連載７４

2008/03/01

死滅した神経も再生可能に。ｉＰＳ細胞の研究に期待

　
　昨年の11月、京都大学の山中伸弥教授がヒトの皮膚細胞から人工多能性幹細胞（ｉＰＳ細胞）を樹立したというニュースが新聞各紙に報じられ、私もその夜のテレビで、インタビューを受ける教授の話を聞いていました。

　これはすごいことが起こったと、そのとき大いに感銘を深めたことを覚えています。
　
　山中教授の研究は、皮膚の細胞に４つの遺伝子を導入すると、皮膚細胞の形態が変わり、万能細胞といわれるＥＳ細胞と同様の能力を持つ細胞が作られる、これがｉＰＳ細胞です。
　
　今まで研究されてきたＥＳ細胞（胚性幹細胞）は、私たちが母親の胎内で生命を受けた時期の、大もとの細胞で、細胞分裂を繰り返しながら頭部や腹部、手足、内臓などが形作られていきます。
つまり、体のすべての細胞に育っていく多能性（万能性）を保ち、ほぼ無限に増殖が可能な細胞です。
ただ、受精卵からしか作れないため、倫理的な問題が大きいこと、患者へ移植すると拒絶反応が起こるなど、さまざまな問題を抱えています。
　
　その点、ｉＰＳ細胞は自分の皮膚から作れますので、細胞の移植（臓器移植ではない）により治療が可能になる重い病気、糖尿病、脳の神経系の脱落による疾病、脊髄損傷、心筋梗塞などの治療に大きな希望がみえてきました。
　
　以前から壊れた神経細胞は回復しないと言われてきましたが、自分の細胞を使って神経細胞が再生できれば、神経の損傷、破壊などが修復されます。
　
　つまり失われた視力や聴力が回復し、目が見えて、耳も聞こえるようになる。脊髄損傷で麻痺した腕や足も動くようになる。夢のような話ですが、その実現は目の前に来ています。５～６年後には、臨床応用されるのではないかと思っていました。
　
　そうしましたら、つい先日、２月４日の朝刊に、神戸市の理化学研究所（和光市の同研究所の分所にあたる施設）の発生・再生科学総合研究センターの成果が紹介されました。　
同センターの網膜再生医療研究チームと京都大学などが、人間のＥＳ細胞から網膜の視細胞や網膜色素細胞などを作ることに成功したそうです。
　
　網膜色素上皮細胞とは、眼の奥にある網膜の一番外側の膜で、ものを見る働きを担う、重要な部分です。
　
　今後は細胞の機能や拒絶反応を調べ、移植治療での利用が可能かどうか安全性を確かめる動物実験が行われると解説されていました。
　
　その記事には山中教授が、皮膚などの体細胞に遺伝子を入れて作ったｉＰＳ細胞が注目を集めているとも報じられ、神戸市の理化学研究所は、山中教授から提供されたｉＰＳ細胞でも、網膜細胞の分化に成功したと付記されていました。
　
　私はこれにも驚いたのです。11月に世界で初めて人間の皮膚から万能細胞が作られ、それがもう他の研究機関に提供され、網膜細胞の分化に成功したというのですから。　
今後の再生医療の研究は、ＥＳ細胞からｉＰＳ細胞にとってかわるようになると確信しました。
　
　国内には３万人の患者がいるとされる網膜色素変性や、高齢者の主な失明原因である「加齢黄斑変性」などの治療にも、おおいに貢献する研究です。神経の損傷による失明であれば、目が見える時代がくるのです。
　
　ｉＰＳ細胞の研究を進めている山中教授はいずれノーベル賞を受賞するに違いありません。
　
　厚生労働省も多額の研究費を提供し、教授らの万能細胞研究に全面的な支援を行っています。
　
　今後は、神戸の理化学研究所のように、日本全国の再生医療を研究している機関にｉＰＳ細胞が次々に提供され、さらに研究が推進されることでしょう。
　
　私が医師としての第一歩を踏み出したのは慶応大学の大脳生理学教室でしたが、今、そこでも後輩たちが、この再生医療の分野について熱心に研究しています。
医学の進歩に驚くとともに、この素晴らしい研究の行方を見守ることができることを幸せに思えます。

　ＥＭ―Ｘ予防医学研究所では健康全般に関するご相談を受付けています。（℡０４８―４６１―２００９）

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