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連載６６

2007/07/01

神経細胞の再生も可能にする再生医療の研究に期待したい

　このところ「ＥＳ細胞の解明進む」「再生医療の臨床応用が可能に」などの文字が紙面を賑わせています。
ただ、一般のかたがたには何がどうなのか少々分りにくい。
そこで今回は、私なりの解説を試みたいと思います。
　
　ＥＳ細胞は「胚性幹細胞」といい、私たちが母親の胎内で生命を受けたときに、まだ目や耳や手足などが形成されない時期の根幹となる細胞で、細胞分裂を繰り返しながら頭部や腹部、手足、内臓などが形作られていくわけです。
つまり、体のすべての細胞に育っていく大もとの細胞といえるでしょう。
　
　今後の研究によってはパーキンソン病などの脳の細胞の培養が可能になったり、火傷の痕の皮膚の移植等も自由にできるようになる、さらに将来は各臓器の移植が可能になるともいわれています。
　
　つい先日も和光市の理化学研究所の分所にあたる、神戸市の理化学研究所の発生・再生科学総合研究センターの研究グループが、人間の胚性幹細胞（ＥＳ細胞と同じ）から１００％の効率で神経細胞を大量に作り出すことに、世界で初めて成功したと報じられました。
　
　また、慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授は１９９８年に大人の脳にも神経幹細胞が少々残っていることを発見し、パーキンソン病やアルツハイマー病、てんかん抑制などと関わりのある種々の神経細胞を作り出しました。
その後は神経幹細胞を治療に役立てるという課題を重要な目標として研究を重ねており、この研究はこれらの病気の治療法を飛躍的に前進させてきました。
　
　私が大脳生理学を研究したのは、岡野教授と同じ慶応大学医学部の大脳生理学教室です。従って私は岡野教授の不肖の先輩という事になる。彼は世に抜きん出た大脳生理学者だと思われ、その真摯な研究態度に敬服し、及ばずながら寄付という形で再生医療の研究に協力してきました。
　
　以前から、壊れた脳細胞は回復しないと思われてきましたが、それが再生できる事実を発見したのも彼らです。
交通事故などの脳の損傷で、手足が動かなくなった患者さんの数は年間10万人といわれています。
その運動障害も、脳神経を回復させることで動くことができるようになり、前述のパーキンソン病に限らず脳梗塞、アルツハイマー病、脊髄損傷など、たくさんの難病もこの神経再生の研究によって回復する日は近いと、ますます期待感が膨らみます。
　　
　一方、京都大学医学部の高橋政代博士は網膜色素変性症の診療に力を入れています。
この病気は遺伝子の異常から網膜にある視神経の細胞が壊れていく病気。最初は暗い所で目が見えにくくなり、やがて視野が狭くなり視力が徐々に落ち、早い人で30歳、遅くても70代には失明することが多いといわれています。
根本的な治療法はなく、患者さんたちはみな、失明の恐怖を抱えているのが現状です。
この病気を治すために、高橋博士は視神経細胞の再生と移植の研究を進めているのです。
　
　このほかボクシングの選手は打ち合う際にグラブが目に当たる可能性が高く、網膜はく離にかかりやすい。
これにも再生・移植の研究が役に立ちます。
そのほかの理由で視神経の障害から失明した人も視神経を再生・移植すれば視力が回復する、「ＥＳ細胞を応用した再生医療」とはそういう研究なのです。
しかし、現在のところはいずれも実験動物を用いた成果ですが、五年以内には人間への応用が可能になるのではないかと予測されています。
　
　私の医学的出発は「大脳生理学」ですから、今回の基礎医学の分野における研究の進歩については非常に興味深く、今後も注目していきたいと考えています。
　
　ＥＭ―Ｘ予防医学研究所では健康全般に関するさまざまなご意見ご要望をお待ちしています。（℡０４８―４６１―２００９）

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