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連載６４

2007/05/01

４月１日に交付されたがん対策基本法

　今、わが国では年間約60万人ががんにかかり、32万人が亡くなっています。
依然として脳卒中や心臓病を抜いて、死亡者数は第一位で、しかも年々その数は増える一方です。
　
　ところが米国では、１９９０年代からがんの死亡率が低下し始めました。
それはニクソン大統領の時代（１９７１年）に国家がん法を成立させ、がんの研究を奨励し、原因の究明、予防や治療対策などに膨大な予算を投じてきたからです。
　
　今はがんの原因にはウイルスより遺伝子の関与が大きいとされていますが、現代の先進的な遺伝子研究の土台もこの国家的な施策によって築かれたといえるでしょう。
さらに国民に対しては徹底した禁煙対策とがん検診を、国を挙げて推進し、診断技術や治療法の進歩も加わって、がんによる死亡者が減少してきたのです。　　
　
　例えば米国の18歳以上の女性で過去３年間に子宮頚部細胞診を１回でも受けたことがある人の割合は、現在80％を超えています。
　
　しかし、日本ではどうでしょうか。市区町村検診の対象とされている胃がん、子宮頸がん、乳がん、肺がん、大腸がんの平均検診受診率はたった17％です。　職域検診や人間ドックを含めても30％には達しないといわれ、個人で受ける検診の実態が調査できていないことも、今後の課題でしょう。
　
　がん検診でがん死亡を減らすためには少なくとも対象人口の70％以上が検診を受ける必要があります。
米国もヨーロッパも２０１５年までにがんによる死亡減少を目指そうと、禁煙対策、それに子宮頚がん、乳がん、大腸がんに対する検診を積極的に推進しています。
　
　そこで国は２００４年４月からスタートした第３次対がん10か年総合戦略を立ち上げ、この中にようやく「がん検診の普及」が重要なテーマとして位置付けられました。
　
　さらに、昨年の６月には「がん対策基本法」が成立し、今年の４月から施行されています。２０１４年までにがんで亡くなる人の激減を図ろうと、検診に対する国レベルの積極的な取り組みが始まったのです。
　
　この基本法に目を通しますと、基本理念の中に「がん患者がその居住する地域に関わらず、等しく科学的知見に基づく適切ながん医療を受けることができるようにすること」という項目があります。
　
　確かにがんに関する専門知識や技術に長けた医師の数は少なく、東京や大阪、京都などの大都市に集中していて、全国津々浦々の患者さんたちが、同じレベルの診療を受けられる状況にはないようです。
　
　とくにがんの痛みは耐えがたく、持続的に患者さんを苦しめますが、その痛みをとるための方策に詳しい緩和ケア医の養成は急務であると思われ、医療の地域格差は一刻も早く解消されるべきでしょう。
　
　また、「がん予防・早期発見の推進」の項では「国及び地方公共団体はがん検診の方法等の検討、がん検診に関わる医療従事者に対する研修の確保など、検診の質と受診率の向上に資するよう～」という記述も見られます。
　
　例えば罹患率の増えている乳がんの検診状況をみても、アメリカでは既に約40年前からマンモグラフィが導入され、検診率は80％近くにのぼっています。ところが日本では年間５％にも達していないという状況です。　
　
　どんな病気も早期発見・早期治療こそが、治癒への近道なのです。もちろん、食生活の改善、適度な休養、ストレス対策など、生活面での取り組みも重要です。
　
　今回のがん基本法の施行に当たり、行政と市民の皆様の健康への熱心な取り組みが始まれば、検診率の低下も改善され、米国のような死亡率の低下も夢ではないと思います。
　
　各自治体による受診率の向上への取り組みを大いに期待したいものですが、市民の皆様も、自分の体をがんや生活習慣病などから守るために、ぜひ年に１回の検診を受けることを心がけてほしいと思います。
　
　ＥＭ―Ｘ予防医学研究所では健康全般に関するさまざまなご相談を受け付けています。ご意見ご要望をお待ちしています。（℡０４８―４６１―２００９）

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