原文入力:2010-03-10午前10:29:58(5543字)
日帝徴用 ルポ作家 林
脱走朝鮮人 助けた父親の影響
鉱山現場体験のために大学辞退
労務課長・巡査まで探し出し取材
'筑豊坑夫塚’等 50冊 出す
日帝の強制動員被害状況を追跡する韓国人が、彼の名前を知らないと言えばまだ初歩段階を抜け出せていないという言葉を聞くかもしれない。林えいだい(77),職業はドキュメンタリー性ルポを書く作家だ。彼が書いたり編集した本は50冊余りに達する。主題も徴用で炭鉱に連行された朝鮮人,自殺特攻隊,軍隊慰安婦,二重徴用,シベリア抑留者,サハリンでの朝鮮人虐殺などとても多様だ。著書の題名と内容を簡略に紹介するだけでも新聞一面では足りないほどだ。
彼の得意技は粘り強い取材だ。被害者だけでなく加害者側に立った人、何か隠そうとする人々にも数十回でも訪ねて行き口を開くようにさせる。強制連行に関する資料収集も同じだ。通常の接近では何の結実もない場合、道徳的に是非素地がある方式も厭わなかった。
去る1月19日午後、福岡県,田川市にある作業室に彼を訪ねた。数年前から肺疾患を病んでいるのに執筆の手を休めずにいた。書斎の梁にはこれから書く本の題名を書いた紙が懸っていた。彼は病魔と戦う患者だとは到底信じられないほど荒々しく激しい声で話した。多作の原動力は何だろうか? 一般記者とは違い一つの主題を捉えれば10年かけても食い込むという彼の口から‘徹底して’‘必死に’取材するという言葉が何度も出てきた。
-かなり以前から会いたかったが闘病中という話を聞いてインタビュー申請を躊躇していた。お元気そうに見える。
"いや。朝も病院に行って酸素吸入をしてきた。左肺がほとんど機能していない。それでも以前より少しマシな方だ。"
-数十年前から朝鮮人強制連行に関する本を書いてきたが何か理由があったのか?
"生まれ育ったところが田川市から8km程離れた香春町(かわらまち)という山地だ。幼い時から筑豊の炭鉱地帯に連れてこられて逃げる朝鮮人たちを見ていた。炭鉱から脱走した朝鮮人たちが列車に乗って行けば、駅でみな捕えられた。日本語を話すことができなかったり、抑揚がおかしかったりするために、すぐに駐在所へ連絡が行った。私の故郷は朝鮮人たちが鉄道を降りて山道に入る逃走経路にあった。労務管理者や巡査に捕えられた朝鮮人は、その場で半死になるほど殴られた。逃げた朝鮮人たちは服を見れば分かった。服の色が三井炭鉱系は紺色であったし、三菱は藍色だった。左棟には強制連行時の一連番号が付いていた。脱走が絶えないので1942年頃、村長がおかしな朝鮮人がいたら駐在所に連絡しろとの回覧板を家ごとに回したことを思い出す。"
-父親が朝鮮人を助けて苦難に会ったと言ったが。
"父は日本がロシア革命に干渉するために米国,英国などと共にシベリアに派兵をした1918年8月、小倉(現在は北九州市に編入)連隊の兵士だった。その頃‘米騒動’(日本政府がシベリア出兵を行うとし、米購買に出て商人らが買い占め売り惜しみをして米価が暴騰するや日本全域に広がった民衆暴動)が起きた。門司港で乗船を待っていると中隊長が筑豊で騒動が起きたので、筑豊出身は一歩前へ出よと命令した。筑豊出身は再び小倉に戻り、残った兵力が派遣され鎮圧した。当時山口県,宇部市では死傷者が数十人発生した程に深刻だった。事態が落ち着き小倉連隊は船に乗りウラジオストックへ移動したが、父は軍隊が国民を射殺するという事実に衝撃を受けたと言う。
2年ぐらい過ぎて、父はシベリアで反乱軍闘争を行い逮捕され、軍法会議にかけられた。上等兵から二等兵に降格され、ハバロフスク部隊の重営倉でひどい凍傷にかかった。後ほど解放され原隊復帰をしたが、休日に沿海州の朝鮮人の村に立ち寄りハルモニたちがキムチを塗ってくれ凍傷が良くなったと言う。父親はそこで朝鮮語を習った。ロシア語も話したし帰国してからはエスペラント語を習いもした。"
-父親が特別高等警察に連行され拷問にあったというが、経緯は何か?
“私の家は神社の儀式を執典する神官を代々引き継いできた。父は毎朝ご飯と浄水を持ち神社に参拝した。後継者修行をさせるとして私を連れて行った。神官は村の行事を主管するので、住民たちの尊敬を受ける地位だ。村から令状を受け取り入隊する軍人がいれば、神社で出征軍人祈願祭を必ず行った。神官を中心に村の人が皆集まり‘武運長久’を祈った。小学校の全校生が花を持ち軍歌を歌い行進をして国防婦人会の所属女性たちも参加した。
43年4月初め、祈願祭の席で村長が天皇のために必ず命を捧げてこいと挨拶した。だが反戦平和主義思想を持っていた父は‘必ず故郷の妻子の元に帰ってこい、決して無駄死にをしてはならない’と話をした。その場に巡査もいた。その夜、父が警察署特高に連行された。母が小学校4学年だった私を連れ駐在所に行き、どういう理由かと尋ねたところ‘思想が悪い’という話を聞いた。私の考えでは父が匿い逃げさせた朝鮮人が3百〜4百人に達するが、結局それが発覚したためだと思う。昔から食べ物を探し回る人々は神社や寺刹の床下で一日夜を過ごしたりした。朝鮮人も同じで、ある時は神社に20人もいる時もあった。父は彼らにおにぎりと着替えを与え、朝鮮語で逃避方法を教えてあげた。朝鮮に帰るために関釜連絡船に乗るため下関や博多側に行けばほとんど捕まってしまうので、日本に縁故者がいればそこに行くよう斡旋した。朝鮮人たちが捕まれば、警察が逃走経路を調査するので、父の行動がばれたようだ。”
-父親はどうなったか?
“村に神官がいなければ武運長久を祈る式典ができず困ったことになるの。村長たちが警察署を訪ねて行き、父を解放してくれと交渉した。連行されて1週間後に出てきた父はどれほど大変だったのか、家の階段を上がることもできなかった。傷が腫れ石鹸も使うことができず、糠でからだを洗って差し上げた。重湯もとれず寝ていたが5月3日に息をひきとった。葬儀の前夜、兄弟や親戚が集まって‘通夜’の儀式をすることが慣習だが、特高がすぐに火葬しろと言った。野原で木薪を持って私が火をつけた。特高は国賊だからと葬儀を行わないようにさえた。村で葬儀さえ出来ないようにするのはひどすぎるのではないかという批判が出ると、結局1ヶ月後に‘村葬’を行った。村葬は村議会の議決を経なければならない。出征軍人儀式を行わなければならないので11才の幼い私が神官の役割をした。そばの村の神官から身振りを習い、難しい漢字の祝文を読めないので母が平易な日本語で書いてくれたものを読んだ。中学校に入ると正式に資格を取り、1952年に早稲田大学に入学するために村を離れる時まで神官を務めた。その後は母が神官を88才までした。”
-8・15後にはどうなったか?
“こちらで中・高等学校に通ったが暮らしが貧しかったので裸足で歩き回っていた。‘地獄の渓谷’を通ったりしていたが、父の縁で朝鮮人たちと仲良くしていた。朝鮮人たちが呼んでホルモンを焼いてくれたり酒を飲んだりしていたためか私は酒が強い。”
-地獄の渓谷とは何か?
“炭鉱で働き負傷した朝鮮人が追い出されれば行く所がないので、山と山の間の湿気が多いところに住みかを定めた。暮らしにくいところだが同胞たちが集まって集団居住村になった。朝鮮人たちは酒を飲めば日帝時や戦後に苦労したことなどを打ち明けたが私はそれをおもしろく聞いていた。いつか落盤事故などの話をして、そんなことを書いてみなさいと言ったところ、教育を受けたこともないのに、どのやって書けというのかと言いました。自分たちの人生について本を百冊でも書けるだろうに、習えなかったと言われて…。その時から文を書くことに関心を持った。中学校1,2学年の時は新聞記者になりたかったのかもしれない。
この頃とは違って、東京の大学に進学した大学生が村に降りてくれば、遊びに行って話を聞いたりした。学生運動や社会情勢,朝鮮人問題などについて話が出た。中3の時、早稲田大に行こうと決心しお金を貯め始めた。当時、同胞たちは鉱山監督局の許可なしに石炭をこっそりと掘る‘タヌキ掘り’をしていた。地表に石炭鉱脈があれば、人一人がかろうじて入れるくらいの穴を掘って入る。夏休みに同胞たちと一緒に仕事をしてお金をたくさん稼いだ。”
-どうしてルポを書き始めたのか?
“早稲田大に通い、鉱山現場を体験するために4年の時に辞めた。郷里に戻って近隣地方自治体の公務員として働き、公害問題などに対する社会教育を担当した。1970年に職場を辞めカメラ一つを持って現場を歩き回った。”
-初めは公害問題を扱った本を出したが、朝鮮人問題を初めて扱った本は何か?
“筑豊抗夫塚(1978年出版)だ。坑内に直接入り仕事をしなければ体験ルポを書くことはできない。私は現場主義者で家にはあまりいなかったし、炭鉱住宅団地に入って仕事をして暮らした。団地に1000人が暮らしていれば一人ずつ訪ねて行き会った。そのようにして顔が知られて親しくなれば、古いアルバムの中の写真や機密文書を持ってくる人がいる。日帝時の鉱夫宿舎や入所の時に撮った撮影写真はそのようにして入手したものだ。一般鉱夫だけでなく、彼らをこき使った収容所舎監,労務課長や請願巡査(訳注:炭鉱が県に請願して配置を受けた巡査)なども尋ね歩いた。これらを併せて取材しなければ絶対に正しい記録を書くことはできない。悪いことをたくさんして8・15後しばらく逃亡していた人々なのでひたすら隠そうとした。これらの口を開けさせるのは女口説くよりもっと難しいだろう。(笑)韓国にも40回程行った。台湾も10年かけて取材することがあり、この前行ってきた。”
-韓国語をできないと言ったがどのように取材をするのか?
“私が会う人は概して老人たちなので日本語で話す。韓国に行く度にまた挨拶に行き人間関係が広くなった。”
-敗戦直後、日本政府や企業が敏感な資料を全て焼いたと言ったが、資料の障壁をどのように克服したか?
“何かあると思えば夜中に事務所にこっそり入って探すこともした。昼間に行って丁重に話をすれば絶対に見せてくれない。8・15後に焼いたかないと言い逃れる。そんな風に苦労して資料を集めて出したのが<戦時外国人強制連行関係史料集>(1990・91年刊行,4部に分かれ計8冊)だ。250セットを刷ったが非常に貴重な原資料だ。道義的には問題があるということもできるだろうが、その程度にしなければこういう史料集を出すことはできなかった。知人を通じて韓国外国語大学校図書館に一セットを寄贈したことがある。”(確認してみると現在、韓国外大龍仁分校図書館に保管されている)
-2005年に<重爆特攻「さくら弾」機>という本を出したが、日帝が重爆撃機も自殺攻撃に投じたのか?
“日本軍部は戦争末期に戦闘機の神風攻撃でも米軍の進攻を防げないとし、航空母艦や戦艦を一気に撃沈することができるよう重爆撃機特攻隊を編成した。4式重爆撃機を改造し何と3トンの超大型爆弾を積めるようにしたのがサクラ弾機だ。九州,福岡県の大刀洗飛行場に配置したが、出撃を控え特攻隊員たちが送別会をした45年5月22日夜、サクラ弾機一機に火災が発生した。憲兵は朝鮮人 山本伍長を容疑者としてすぐに逮捕した。山本は終戦1週間前の45年8月8日に銃殺刑に処された。私が取材したことでは朝鮮人であるからと何の証拠もなしに罪をかぶせたようだ。”
-右翼にはあなたの本を綿密に分析する専門担当チームがあるという話があったが。
“本が出れば半年程度は忙しい。無言の脅迫電話がきたり、かみそりなどが郵便で配達される。こちらに訪ねてきたりもする。私が集めた資料は近隣の嘉麻市に設立され碓井平和祈念館に全て送り、ここには複写本だけを置いている。火災や事故で消失する憂慮がないので安心だ。私は両親を誇らしく思っているが、親戚の中には日帝時に朝鮮に行き大地主になったり、総督府官僚をした人もいる。ある意味では朝鮮侵略の共犯者だった。それに対する日本人としての責任を負わなければならないという思いもある。”
-喉が嗄れて疲れているように見える。大丈夫か?
“ここまで訪ねてきてくれたのに話さなければ。遺言のような感じ….”
それ以上は質問できなかった。林は現在<筑豊 軍艦島-朝鮮人強制連行を見て回る>の校正刷を見ている。来る4月上旬に出版予定という。 <2部終わり>
田川/文・写真 キム・ヒョスン論説委員 hyoskim＠hani.co.kr
林略歴
1933年生まれ
早稲田大中退
ノンフィクション作家
著書<強制連行・強制労働-筑豊朝鮮人坑夫の記録>(1981),<女たちの風船爆弾>(1985),<清算されない昭和>(1990),<忘れられた朝鮮人皇軍兵士>(1995),<台湾高砂義勇隊>(1998)
平和・協同ジャーナリスト基金賞など受賞
原文: http://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/409155.html 訳J.S