築50年のUR団地を、リビタという会社でシェア型賃貸住宅にリノベーションし、管理運営している「りえんと多摩平」という物件をご紹介します。
5棟の団地の中の2棟をシェア型として再生しました。
真ん中の棟は「アウラ多摩平の森」という菜園付きの賃貸住宅、右側の2棟が「UR多摩平の森」という高齢者住宅で、1つの敷地の中に、シェア型住宅に住む単身の若い方と、ディンクスからファミリーくらいの方、高齢者の方が住んでいます。
1階が共用部で、ランドリーやトイレ、シャワー、キッチン、ダイニング、リビングがあります。
2棟合わせて142室。共用部には家具、家電、鍋や皿などのちょっとしたキッチングッズなどがそろえられており、そういうものを持たなくてもすぐ生活できる環境になっています。
特徴的なのが、「たまむすびテラス」での交流です。
住民間の交流だけではなく、街区全体での交流や、地元の自治会との交流も生まれています。
高齢者住宅の方々が企画した餅つき大会に、おじいちゃんおばあちゃんでは餅をつくのがしんどいということで、シェアハウスの若者が呼ばれて手伝ったり、大きな敷地内にテントを張ってアウトドア活動をしたり。
また、テラスを利用して住民の方だけでヨガ教室を行うなど、知識やスキルの共有みたいなことも行われています。
実は、笹本くんが設計で関わっているので、建築的な部分の補足をお願いします。
まず言葉ですが、ルームシェア、シェアハウス、ゲストハウスなど、いろいろな言葉があります。
我々の知る限りでは、定義はないというのが結論です。これらの言葉が海外で通じるわけではないし、国内的にコンセンサスがとれた決まりがあるわけでもありません。
その中で、実態とは違う解釈をしてしまうことにより、不動産オーナーさんや不動産事業者さんが間違ったものをつくってしまうということがよく起こります。現実に不幸だし無駄でもあるし、社会的にもすごくマイナスです。
我々が「シェアハウス」という言葉を使わないのは、そういう齟齬が起こるのをできるだけ避けるためです。
インターネット的な面でいえば、SEO屋(※サーチエンジンの検索結果ページで、Webサイトが上位に表示されるように細工や工夫する業者の中で、悪質な業者のこと)に乗っ取られやすいということもあり、ひつじ不動産では「シェア住居」という、絶対皆が検索しないような、ちょっとダサめのワードをつけ、そこにしっかりした定義づけをしています。
我々が思うシェア住居の定義は、「入居者同士の交流を十分に楽しむことができる、屋内の共用設備を備えた住まい(住宅)全般の事」です。
たとえ風呂トイレ共同だったとしても、リビングやダイニングがない場合はサイトに載せられませんとお話ししています。
その中で徹底的に違うのが、DIY型運営と事業体介在型運営という、運営管理や事業の枠組みによる違いです。シェア住居はここで大きく2つに分かれます。
DIY型は、仲良し2~3人が集まってマンションなどを借り、家賃を折半して、その後のことも全て自分達でやっていくスタイル。
事業体介在型は、従来の賃貸アパート、マンションと近い枠組みをもとに、共用部があって、そこに入居者同士の交流がある住宅を扱っていく、従来型の延長線上にあるもの。管理会社などが入っているタイプです。
ひつじ不動産は事業体介在型ですが、DIY型と事業体介在型は、成り立ちも性質も、借主貸主双方にとって大きく違います。
入居者にとっての、DIY型シェア住居のいちばんのメリットは、とにかく非常識なくらい安くなる場合があるということです。
ファミリー向けに貸すものを単身者で割っていくので、一人あたりの賃料が安く、高木さんのように六本木でも6万円余りで住める場合もあります。
また、机ひとつにしても、自分でホームセンターへ行って板を買い、削ったり足をつけたりして作れば、愛着もわくし醍醐味もあります。飛び抜けた強いメリットがここにはあると思います。
デメリットは、契約の仕方にもよりますがほとんどの場合、生活者自身が賃貸経営をしているのと同じ状態になってくる点です。
稼働率変動に伴う低リスクを、生活者自身が直接的に負います。最近もこれで破綻した子が、Twitterで寄付を募っているのを見かけました。そういうことになりかねないのが現実です。
あくまで素人がやっているので、予想していなかったコストもかかってきます。裏を返せばそれが醍醐味でもありますが、醍醐味があるということはそれだけ大変でもあるのです。
事業者にとっても、運が良ければ家賃保証を勝手にしてくれますし、簡単ですごくいいのですが、予測不能という怖さがあります。人がどんどん入れ替わってしまうので、誰に貸したかわからないというような話も聞きます。
ただ、こうしたことを事前に予知することはほとんど不可能です。
貸し側にも借り側にとっても、ハイリスクハイリターンの選択肢と言えます。
一方、事業体介在型は、普通としか言いようがありません。
簡単に言うと、DIY型の非常にリスキーな部分に、事業者が適切に関わることによって、普通の家にするシェア住居です。
高稼働であれば儲かるし、稼働率が下がればつらいけれど、これは全て事業側の話です。入居者サイドは、6万円で入ったら何があろうと契約期間中は6万円です。
裏を返せば、特別安くはないという場合が多いです。事業特性的に安くできない場合が多く、安いなら安いなりの品質になります。
シェア住居の楽しさや、いろいろな人に会えるといった良さも、丸ごと持ってます。空間が広いというのもありますが、いずれにしても自分達で全てを自由に決められるわけではありません。
いわゆるマンションの管理契約みたいに、入居者の規約というのがほとんどの家にあり、それなりの範囲内で楽しむことになります。
総合的に、事業体介在型は誰にとってもミドルリスクミドルリターンの選択肢。比較的バランスがいいのが特徴です。
シェアハウスは単身物件が多いイメージがあると思いますが、ここでファミリー向けの事例をご紹介します。正確にはシェアハウスではないのですが、シェアハウス的なものとして。
まず1つ目が、スウェーデンやオランダに多いコレクティブハウスという住まい方です。
シェアハウスと何が違うかというと、各家に台所や浴室、トイレがあって完結している点。
子育てや食事を作ることを共同化するという、ワークのシェアがあるところが特徴的です。
この物件は63室くらいあり、週4回の食事会に週2回の掃除当番があります。月に1回、5時間ご飯を作ると、残りの15回は何も作らずに家で食べることができることになります。
他にも、204世帯で芝生の大きなスペースを囲っている物件、太陽光エネルギーや廃棄物の再利用しなどのエコロジカルな暮らしをしている物件もあります。
シニア限定のコレクティブというのもさまざまあるようです。
次に日本の事例をご紹介しましょう。
これは世田谷区経堂から歩いて15~16分くらいの、とあるマンションの屋上です。環境共生をコンセプトにしたコーポラティブハウスで、緑の環境をシェアしている事例です。
気温30度の汗ばむ日でも、緑の中に足を踏み入れるとひんやりとしていて、部屋によっては夏でも冷房のない暮らしが実現しているようです。
ちょっとしたお庭では、子ども達が秘密基地をつくっていたり、建物の間でパーティが開かれることも。
シェアハウスではないのですが、シェアの可能性がいろいろあると思い、ご紹介をさせていただきました。
ひつじ不動産の物件だけでこれまで1万6000人が住み、年々伸びています。
住んでいる人達は普通の人で、学生さんはほとんどいないという特性があり、クリエイターも中にはいるでしょうが、マジョリティではありません。ソーシャル世代も実はターゲット層からかなり外れています。
シェア住居の多数を占めている人は、もっと上の世代です。
シェア住居の歴史は長く、1980年くらいにワンルームマンションが発明された裏側で出てきています。もともとは外国人向け住宅です。
最近、これをちゃんと言わない人が多くて腹を立てているのですが、現代のシェア住居の基盤になっているのは、完全に外国人向け住宅、ガイジンハウスとかゲストハウスと呼ばれていたものです。
日本では1980年くらいから下宿や長屋が都市部にたくさん供給され、企業は寮をたくさんつくりました。
外国人も増えてきたのですが、外国人というだけで部屋を貸してもらえないというのがずっと続いていました。
そういう中で、彼らに貸していった人達がいます。下宿や寮を、リノベーションなどをしないで貸していったのがシェア住居始まりです。
インターネットの登場などで、そこに日本人が流れ込んでいくというのが1990年代半ば以降起き始め、それがだんだん加速して、いつの間にか日本人ばかりになったというのがマーケットの流れです。
ひつじ不動産ができた2005年には、シェア住居は国際交流が云々の話がほとんどで、まだゲストハウスなどと言われていました。
建物も、味があって素敵だけどあまりきれいではなく、普通の人にはちょっときつい感じでした。
1年くらいすると、普通の賃貸と同じくらいきれいというのを売りにする物件が出始めます。その後、普通の日本人、特に女の子が、シェア住居に大量に入ってきます。
そういったった中で2007年、格差社会報道が起こります。
バブルでホリエモンがブイブイ言わせていた一方で、取りこぼされ、格差社会の下に行ってしまった人達が、家も借りられなくてシェアで住もうということです。
その裏側でもう1つ起きていたのが、リビタさんなどのような本格的なデザイン物件の登場です。普通の日本人に向けて、シェア物件ならではの価値を訴求したいという志でつくられた物件が出てきます。
この時に出てきた物件ってすごくいいものがあるのですが、その一方で格差社会、貧乏と強く結びつけられ、2008年にサブプライムなどで景気が悪くなると、派遣切りとかとも紐づけられて、当時は本当に大変でした。
物件は増えているのだけど何かかみ合わない状態で、業界紙では「ねじれ現象」などと表現したりしていました。
2009年も混乱は続いていて、ひつじ不動産のウェブサイトもこの頃に、今のカッコイイ感じに変えています。
それまではしょぼくれた感じだったのですが、さまざまな混乱を経験し、わかりやすい話をしないと普通の人には届かないということがわかってきたのです。
幸い、素敵なデザイン物件がたくさん出てきていたので、そういうものを意識的に前に出していくということを、この頃からやっています。
2010年くらいになると報道が収束していき、すごくいい状況が出てきます。
安全面、運営面、全部にわたってすごく品質が上がり、普通の人達が普通にいいと思って住み、だいたいの人がすごくいい体験ができるという状態が出てきたのです。その後、不動産屋サイド関心が過熱してくる部分もあるのですが。
僕らはこのマーケットを広げるのが仕事なので、普通の人向けに「シェアは怖くないよ」という本を出したり、いろいろな調査をやったりして現在まで来ています。
ここで、最新のシェア物件をご紹介します。
渋谷区神宮前にあるTHE SHARE(ザ・シェア)という物件で、築48年の役目を終えた独身寮を複合施設へ再生したものです。
1階はカフェがあったり、地域FMみたいな情報発信拠点のような機能もあり、人がたくさん集まる場所になっています。
2階が12㎡からのスモールオフィスとシェアオフィス。
固定席でブースが主のものと、フリーアドレスで月2万1000円から借りていただけるものをご用意しています。
コンシェルジュサービスもあり、宅配便を受け取ってもらうこともできるので、独立したての方や、サテライトオフィス的に使うサラリーマンの方も増えています。
3~5階がシェア住宅になっていまして、家具や冷蔵庫もついています。キッチン、シャワーなどは共同です。
6階と屋上には、共用のキッチン、ダイニング、その奥にライブラリーラウンジと呼んでいる本をシェアしているスペースとシアタールーム、屋上があります。
お住まいの方は24時間使えますし、オフィスをご利用の方々も、平日の昼間に限ってお使いいただけます。24時間人がいてにぎわっているスペースになっています。
この物件の新しいところは、立地もあると思うのですが、ここにきたらおもしろい人に会える、おもしろい体験ができるとの期待感を持っていたり、自分の知見を広げたりというイメージでお住まいの方が多い点です。
新しい展開としておもしろいと思った事例を持ってきました。今、僕のところで進めている2つの新築シェアハウスのうちの1つです。
13戸の小さいシェアハウスで、木造になります。
もともと量産されていた寮などでは、1階に共用部があって2階は住居、などと決まってしまいますが、全体を自由に設計できると、共用部と個室の関係をかなり自由に設定できます。
すごく特殊な方法なのですが、1階の一部に半層の隙間をつくりました。これによって1階が1.5層になったり、上の階が1.5層になったりして、複雑につながっています。
階段もたくさんあり、下から上って、ちょっと小上がりに行って、さらに上がって個室があったり。吹き抜けもつくり、2階にも共用部をつくってあるので、結果的にすごく立体的になっています。
大きい建物や多世帯の場合はまた別ですが、13戸くらいならばむしろ特徴ある空間のほうが埋まる場合もあります。
勿論、全部がそうであるべきだというのでは全然ありません。ただ、特徴を出しやすいというのも、シェアハウスのおもしろいところです。
やや否定的な数字になるかもしれませんが、シェアハウスについて、PDJでアンケートをとったのでご紹介します。
東京、大阪、愛知を対象に、20~60代の人を200人ずつ、男女半々をピックアップしました。
「シェアハウスに住んだことがある」もしくは「住んだことはないが訪問したことがありますか?」という質問に対して、「過去に住んだことがある」3%、「訪問したことがある」4.8%。
経験者は、住んでいる人も合わせてまだ約8%くらい。訪問したこともない人がほとんどです。
また、「共有する暮らし方」についてどの程度興味があるかも聞きました。「興味がある」5%、「どちらかというと興味がある」23%で、興味がある人とない人の割合は3対7くらいです。
僕はマスに開いていかなくてもいいと思っています。住まい方は完全に好みの世界ですし、住み心地がいいのが一番ですから。
住宅であってお祭りじゃないという話を、よくさせていただいているのですが、見た目にわかりやすいシェアの瞬間、おもしろい瞬間というのは、パーティをやってるときだったりします。皆が笑顔で盛り上がっているような。
住宅の機能において、そういう風にテンションが上がっている時間はすごく短く、住宅の本丸はそこではないと僕は思っています。
日常的なちょっとした時間をどれだけ豊かに過ごせるか。そういうことの方が本丸で、シェア物件の非常におもしろいところは、つくり方ひとつ、やり方ひとつで、ごく普通の時間もちゃんと豊かになるという点です。
普通に1人で暮らすよりも、他の入居者の気配がそこにあることがその体験を変えていくというか。そこにすごく価値があると思うのです。
シェア物件と空き家の関係は、割と突っ込まれがちなところです。
ただ、シェア物件があってもなくても、家は余っています。ものすごく余っている状態の中でそれをどうするのか、という話だと思うのです。
放置しておいても、壊してもいいのかもしれないけど、他のやり方はないのか。
シェア物件はその使い方の一例をきちんと見つけた、というとらえ方をしたほうがいいのかなと思います。そこを評価するべきだと。
ただ、そのときにすごく気をつけなきゃいけないこと、考えなきゃいけないことは、事業体介在型シェア物件が増えてきている背景には、実はすごく地道で繊細なモノづくりの努力がたくさんあるということです。
普通の人がフラっと来て住んでも違和感がない住宅づくりというのは、一朝一夕でできることではなく、実はすごく日本的なまじめなモノづくりの積み上げがあるのです。
それが機能した結果として、住宅に共用部があったり人と人の接点があったり。これからストックを活用していかなきゃいけないというときに、思いつきでできることではなく、そういうモノづくりを育てていくことが絶対必要です。
その1つのいいサンプルとしてシェア物件がある。ストック問題に関しては、1つの光というか、ヒントになっていくものだと思います。