04 PDJ-Lab #04 2012.7.12 トーキョーよるヒルズ@六本木

第1部 PDJ論

対談の内容はこちら 動画はこちら

対談テーマ PDJ世代のシェア意識について 三浦 展 高木 新平 安藤 美冬 刈内 一博

第1部 PDJ論

第2部 PDJ会議

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10年後のシェアハウスについて 参加メンバー50音順 北川 大祐  高木 新平 安藤 美冬 猪熊 純 刈内 一博 木内 玲奈 笹本 直裕 茅野 達郎 林 宏昌

第2部 PDJ会議

刈内 一博刈内さん
今回は、カルチャースタディーズ研究所の三浦展さん、トーキョーよるヒルズ編集長の高木新平さんとともに、「PDJ世代のシェア意識について」対談します。
皆さんは普段、どういったものをシェアされていますか?
PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議

バブル期に子ども時代を過ごし、一人部屋を与えられてきた若い世代は
生活は自分だけのスペースで一人でするもの、という誤認がある。
でも、外に出れば一人になれるのだから、家こそ複数の人がいた方がいい。
もう一度、暮らし自体を考え直してみる時かもしれない

guest_0402高木さん
あらゆるものをシェアしています。
今日ライブをやっているこの会場が、僕が住んでいるシェアハウス、トーキョーよるヒルズで、プライベートや所有するということをなくし、あらゆるものをパブリックにシェアするということをやっています。
guest_0401三浦さん
僕は物のシェアってしていない。息子と靴下をシェアするくらい(笑)
基本的に所有世代なので、物についてはあまりシェアしないね。
安藤 美冬安藤さん
今日は後ろによるヒルズの立派な書棚があるということで、ブックシェアの話を。
私は本棚3段分に収まる本しか所有しないというマイルールを持っていまして、自分が読み終わっておもしろかった本は、ちょくちょく人にプレゼントして、本を回すように気をつけています。
刈内 一博刈内さん
先ほど高木さんがおっしゃった通り、今回のPDJ-Labはトーキョーよるヒルズからお送りしています。
高木さん、トーキョーよるヒルズについてご説明いただけますか。
guest_0402高木さん
僕はこのトーキョーよるヒルズというシェアハウスを基盤に、企業のブランディングなどのビジネスをしながら、生活実験をしているフリーの人間です。
トーキョーよるヒルズは名前の通り、昼夜逆転で作業をしてアウトプットしていこうという家です。 PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議

イベントを週1回くらいで行っていて、これまでの1年間に2000人くらいの人間が訪れた謎の家。それがどんな風にできたかというところからお話ししたいと思います。
僕は今24歳です。リーマンショックの時に就職活動をし、広告代理店に入り、その後にTwitterやFacebookを始め、情報との接し方が変わってきた1年目、3.11の震災がありました。
そんな中で、世の中の前提が変わってきている気がして、いろいろわからなくなり、会社を辞めようと思いました。

でも、辞めるとお金も人との交流も減ります。そういうものを日々の豊かさと言うならば、それを担保するために、家を1つのコミュニティにしちゃおうと考え、会社を辞めそうな友人を5人集めて、六本木に3LDKのマンションを借りて住み始めたのです。
住んでみたら、皆、朝まで何かやっていたんです。会社に勤めながら。
そういう風に夜な夜な会社以外で作業する場というのが世の中にはなくて、ならばそういう場をつくろうと考え、マンションをパブリック化するようになりました。

1人に1部屋という形ではなく、作業部屋で作業をし、寝室には二段ベッドが2つあって、そこで4人が寝ています。女の子も住んでいて、女子部屋もあります。
基本的にリビングを解放区としていて、今日もここには知らない人ばかりです。そんな3LDKの使い方をしていて、家賃は1人6万円くらいです。

PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議
guest_0401三浦さん
六本木でワンルームマンションを借りるより、ずっと安いね。
guest_0402高木さん

そうなんです。
僕は会社を、トーキョーよるヒルズを始めてから2カ月後に辞めたのですが、辞めたことをブログに書いたらすごく反響があったんです。
そのため、まわりから「博報堂を辞めた人」って見られるようになってしまいました。
自由を求めて会社を辞めたのにこれでは困る。でも他に所属してないから肩書きをつけられない。だったら住んでいる場所自体を1個のメディアにして、「トーキョーよるヒルズ編集長」と名乗ろうと思いました。

名刺を作ったりステートメントを変えたり、何かサービスを作ったりしているうちに、メディアと組んだり、雑誌に取り上げられるようになっていきました。編集長と名乗ったせいで、僕自身もどんどんメディアに取り上げられていくようになり、今年6月には田原総一郎さんや安藤美冬さんにも来ていただいて、「よるヒル超会議」というトークセッション型ライブ中継イベントもやりました。
14万人くらい視聴があって、トーキョーよるヒルズはもう1つのメディアだと感じました。

写真は年越しの風景で、本当に家族みたいに住んでいます。
家族みたいなんだけど、誰かが仕事を持って帰ってきたら一緒にやったりすることもあり、だから仕事仲間であり家族でもあります。

PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議

トーキョーよるヒルズも、ファーストプレイスでもありセカンドプレイスでもあり、いろいろな人が交流する場でもあるということで、1,2,3の要素を掛け合わせたシックスプレイスっていう、僕が勝手に名前をつけた1個の新しい場所になっています。
こういうことを暮らしのクリエイティブとしてやっているというのが、トーキョーよるヒルズの紹介であり、僕の自己紹介です。

guest_0401三浦さん
僕は物はシェアしないのだけど、こういう風に場所のシェアや経験、趣味、関心のシェアはすごくやりたいと思う。
若い人はそれを本当にすぐやってしまえるからいいね。
刈内 一博刈内さん
高木さんはここ1年で、ずいぶん人生が変わったのではないですか?
guest_0402高木さん
人生は変わっていないけれど、暮らし方、働き方、そういうもの自体のイメージの幅は広がりました。
僕の場合は暮らし方と働き方、両方とも生活の中に共存しているのですが。生活は生きる活動ですから。
刈内 一博刈内さん
あと何年くらい続けるイメージですか?
guest_0402高木さん
マンションの限界を知ったので、次は一軒家で、お店と家の間のようなものをやってみようかなと。
実は9月か10月くらいに始める予定なんです。楽しみにしていてください。
安藤 美冬安藤さん
トーキョーよるヒルズはやめてしまうのですか?
PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議
guest_0402高木さん
僕はやめます。
皆、会社を辞めるタイミングに入ってきて、起業をしたメンバーはオフィスのような感じで使うなど、ここに求めるものが皆変わってきたのです。
僕は別のメンバーとまた新しい暮らしを、一軒家で挑戦したいなと思っています。
刈内 一博刈内さん
プライベートがどんどん露出していくわけですね。
guest_0402高木さん
僕の持論は「外に出れば1人になれる」です。
渋谷のスクランブル交差点もめちゃくちゃ人がいますが、「ヨォ」と声をかけ合うことなんてないじゃないですか。1人になりたいなら外に出ればいい。
帰る場所としてホームがあって、むしろそこにいろいろな人がいれば、鬱にもならないし、落ち込んだりもしないと思う。ホームの仲間がなぐされめてくれるから。
僕らはバブル期に子ども時代を過ごし、一人部屋を与えられ、生活は一人の狭い部屋でするもの、自分のスペースを持つものという誤認がある。だから暮らすときも、ワンルームか実家かという選択になりがちです。
でもそうではなく、家こそ複数の人がいて外は一人、それでいいと思うんです。
guest_0401三浦さん
バブル世代はダブルベッドに憧れた世代と言われた(笑)
トーキョーよるヒルズは2段ベッド2つに4人で寝ている。
ダブルベッドから2段ベッドへという流れだね。おもしろい。
guest_0402高木さん
一人で暮らすというのは、長い歴史の中で見るとここ最近のこと。だからそれ自体が異常だと思うんです。
戦後のモデルの中で出てきたもので、歴史から見ると、本来生活と仕事は一致していたし、産業革命前であれば生活と芸術も一致していた。
そういう風に、もう1回暮らし自体を考え直さなきゃいけないと思うんです。

昔は誰もがアパートや団地に住み
分譲マンションや一戸建てを買うのが正しいと、疑わずに思っていた。
でも本来は、収入やライフスタイルで、そのときにちょうどいい形を選べばいいんだ

刈内 一博刈内さん
先ほど三浦さんが、「ここは場所のシェアだ」とおっしゃいましたが、日本では場所のシェアとして、他にどういうものがあるのでしょう?
PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議
guest_0401三浦さん

シェアハウス、シェアオフィス、コワーキングとかいろいろあるけれど、高木くんが言っているのは、どちらかというと住み開きですね。
(※住み開きとは、自宅を代表としたプライベートな生活空間、もしくは個人事務所などを、本来の用途以外のクリエイティブな手法で、セミパブリックなスペースとして開放している活動、もしくはその拠点のこと)

これまでにもプライベートな空間をパブリックにしようとしてきた動きは、常にあったんです。
たとえば同潤会アパート。その最後の建物が江戸川アパートといって、神楽坂にあったのですが、住民同士がカルチャースクールを開いていたんです。住民が講師になって。有名な映画監督や小説家も住んでいたから、そのレベルも高かった。
戦後、アメリカの一戸建て政策が日本に入ってきて、マイホームや個室があることが豊かであると洗脳された。すべてが間違いとは思わないけれど、それが絶対に正しいという風に洗脳されたのは事実で、本当はそうじゃない形がいろいろあっていいわけです。
こういう話をすると、おっちょこちょいな人が「皆そういう暮らしをするのがいいのか」とか言い出すじゃない。そういう問題ではないんだけど(笑)

昔は選択肢がなくて、最初は下宿したり、アパートを借りたり。そのうち、できればワンルームマンションがいいと思うようになった。
団地に住んで分譲マンションや一戸建てを買うというのが、本当にいいと思ったんだよね。疑いもせずにそれが正しいと。
ただ、本来は自分の収入やライフスタイル、その他のいろいろな理由から、そのときにちょうどいい形を選べばいいわけ。
高木くんだって10年後に田園調布に一戸建て買うかもしれないし(笑)

guest_0402高木さん
もし買っても、皆で住みます(笑)
PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議
guest_0401三浦さん
一人で住んでも、それは裏切りでもなんでもなく、そのときに必要な住み方をすればいいと思う。そこのところはあまり原理主義になる必要はないと思います。
今は20歳で結婚する人もいれば、40過ぎて結婚する人などいろいろ。1人1人状況が違うのだから、そのときにちょうどいい住まい方を探せばいいのです。
それなのに、住宅を供給する側が画一的なところが問題。画一的にした方が大量生産できるからね。

もう物には困ってない中で、それよりも
誰かとコミュニケーションすることの方が豊かだと、皆が思い始めた。
結局、皆、何かを交換したがっているのではないだろうか?

刈内 一博刈内さん
今回は住宅だけでなく、もう少し幅広い、広義の「シェア」について対談していきたいと思います。
本は物のシェア、家は場所のシェアですが、物や場所以外のシェアもあるのでしょうか?
guest_0402高木さん
シェア自体が全て、なんらかのコミュニケーションをするために発生しているから、そう考えると何でもシェアになりうると思います。
guest_0401三浦さん
究極的には人をシェアしたいのだと思います。
その人がこれを読んだ、その人がこれを進めていた、その人がこの場所に住んでいたとか。
そこが重要になってきて、それに類する人が集まる。その集まった人といろいろな経験や知識をシェアすることが、究極的な目的だと思うのです。
PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議
guest_0402高木さん
今は物があふれ、もう物には困ってない中で、それよりも誰かとシェアして、コミュニケーションや発見、会話が発生することの方が豊かだと思い始めたということですね。
安藤 美冬安藤さん
最近関心があるのが、スキルのシェアなんです。
たとえば、私はツイッターの発信が得意なので、そういったものをスキルとして提供する代わりに、ネイルをやってもらったり髪を切ってもらったり。
お金じゃない小さなスキルの交換を、インターネットを介してやり取りできればいいと思うのです。等価交換として。
高木さんは、そもそも貨幣についてどんなふうに感じていますか?
guest_0402高木さん

シェアって、無駄なものや本当はお金を払わなくてもいいものを、何らかの形で交換し合うことだと思うのです。
そう考えたとき、お金は、お金がないと成立しないもののためだけのもの。
たとえば、後輩におごるときにはお金が必要じゃないですか。手料理を差し出すのもちょっと違う(笑)
一方、僕はほとんど物を買わないので、お金で買うこと自体の割合は減ってきている気がします。つまり、場面場面で必要とされているならお金を払うという感じです。
先週、京都に行っていたのですが、京都に着いた瞬間に「誰か泊めてくれる人いませんか?」とTwitterでつぶやいたら、5日間くらいずっとシェアハウスなどを提供してもらいました。この2年くらい、宿にお金を払っていないと思います(笑)

また、京都から帰るときにはお金がなくなってしまい、「誰か僕の新幹線代出してくれたら、僕のシェアハウスの経験やノウハウを全部しゃべります」とつぶやいたんです。
そうしたら、本当にある人がシェアハウスに人を集めてくれて、新幹線代を出してくれました。

guest_0401三浦さん
結局、皆、交換したがっているんだね。
PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議

『第四の消費』で語られている第一、第二、第三の消費社会とは
今までの「私有財産をどれだけ増やせるか」を拡大してきた社会。
第四の消費社会は「ソーシャル」で、それはまさに「つながり」を意味する

刈内 一博刈内さん
三浦さんは著書『第四の消費』の中で、消費社会を四段階にわけていらっしゃいます。それについて簡単にご説明いただけますか。
guest_0401三浦さん

その前にさっきの質問の答えを今、思し出した(笑)
物のシェア以外に何があるでしょうという話だけど、僕が今はまっているのは「拾い物」です。
ちゃんとしたお店で骨董品を買うと何十万もします。でも、よく道を見ていると、なかなかいいと思われる物を捨てている人がいるんだよね。骨董品的なものを。
古道具屋にあれば1万2000円はすると思う物があり、拾ってちゃんと家に置くと、やはり1万2000円に見える。そうことを楽しんでいます(笑)
つまりこれは時間差シェア。顔の見えないシェアです。

話を戻しましょう。
僕は4月に『第四の消費』という新書を書きました。
今日の話も、このPDJプロジェクトのテーマもそうだと思うのですが、今までとは豊かさの基準が変わってきています。
若い世代にとっては、親の世代が豊かだと思っているものが別に豊かではない。むしろリスクや面倒くささを感じたり、お金かかる割に大変だ思うようなことになってきています。
そのことはマーケッターとしてこの14〜15年、ずっと感じてはいたのだけど、10年前に言っても誰も信じませんでした。
「最近の若い人は車を欲しくないんです」と言っても、車メーカーの人は「いや、いい車を出せば絶対買う」と。 住宅メーカーの人は、「家を買わないはずはない。いい家をつくれば必ず買う」と言っていたのだけど、実際はどんどん買わなくなっていきましたよね。
ようやく、一般の大手企業にもそれが現実としてわかる時代になってきたので、そういうことを長い時間の流れの中で整理したいと思いました。

PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議

僕は30年間、新しいトレンドを見つける仕事をしてきたのだけど、企業は新しいものをなかなか認めようとしない。それで感じたのは、企業の人は新しい市場に対応したいのではなく、自分のビジネスモデルを変えたくないということ。
それなら、「100年の流れの中で今こうなっています」と言おうと考えたのです。
消費生活が100年たちました。今までの100年と全然違う100年が始まろうとしているのではないですか。
今の20代・30代の行動は、あなたにとっては理解できない不思議な行動に見えるかもしれないけれど、大きな世紀の変わり目ですと…。
それが『第四の消費』の狙いであり主旨です。

内容を簡単に言うと、第一、第二、第三の消費社会とは、ずっと今までテーマになってきた「私有財産をどれだけ増やせるか」を拡大してきた社会。どれだけたくさんの人がそうなれるかがテーマでした。
この間、日本の人口は4000万人から1億2000万人の3倍に膨れ上がり、しかも増えたのは若い人でした。だから成長するに決まっていた。
でも、これからは高齢化になり、人口も減っていきます。単に暮らす分には物を買わなくても豊かに暮らせる時代になったとき、今30歳で、これから30年後に60歳になる人は、これまでと全然違う30年を生きようとするはずだよね。それが第四の消費社会である、ということです。

刈内 一博刈内さん
拝読したところ、第一の消費社会が戦前頃で、国家主義というかナショナリズム。
第二の消費社会がその後の家族主義、ファミリー志向で、家族のために消費をする時代。
第三の消費社会がインディビジュアル、個人主義であると。
その次の第四の消費社会はソーシャルである、と書かれています。この場合のソーシャルとは、具体的にどういう意味ですか?
guest_0401三浦さん

ソーシャルというのは、まさに「つながり」と訳していいと思います。
ソーシャルを「社会的」と言うと、何のことだかわかりませんが、ラテン語でソキウスは「仲間」という意味です。つまり、高木くんがトーキョーよるヒルズでやっていることは、まさにソーシャルなんです。
今、社会は我々の目にとらえられないほど巨大なブラックボックスになっています。
消費税も原発も、どうしようもないような巨大な問題で、我々は国や社会をうまく変えることができないでいます。

でも、本来ソーシャルとはそんな巨大なものではなく、仲間です。自分でどうにかできる範囲のソーシャル。 今は大文字のソーシャルがあまりに巨大でブラックボックス化してしまったので、もう手に追えない。それに対して、ある意味シェルターとして自分のソーシャルを持ちたい、1人1人が自分のソーシャルを、社会を、持ちたいということだと思います。

PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議
guest_0402高木さん
いざなぎ景気(※1965年11月〜1970年7月までの57カ月間続いた好景気)の時に流行ったCMのコピーに、「大きいことはいいことだ」というのがあります。(※1968年に放送された森永製菓のエールチョコレートのCM) でも、今まわりを見ていると、「小さいことはいいことだ」なんです。
どんどん数が増えていくことが喜びというよりは、もっと小さくて実感できる、むしろ濃さの方を求めている。
『第四の消費』に書かれてる、アメリカ志向やヨーロッパ志向がどんどん日本志向、さらには地方志向になっていくというのも、つながってると思います。
guest_0401三浦さん
第一から第三の消費社会までは日本の近代化時代で、今おっしゃったように、ライフスタイルの標準化という意味では西洋化です。
でも、今の若い人は、最初から生活スタイルが洋風ですよね。
そうすると、それが偉いとかかっこいいとは思っていない。全部がフラットになっていて、銀座の物も地方の物も、パリの物もバリの物も同じ価値を持っています。
このフラット感も第四の消費社会の特徴だと思います。

今はどんどん世代差がなくなってきている時代。
だから世代向けではなく、もっと感性や価値観で商品が作られてもいい。
同時に歴史を振り返り、過去の生活から学ぶことも大切。
人の知恵が、そこにはあると思うから

刈内 一博刈内さん
疑問として出てくるのは、それが時代論なのか世代論なのか、ということです。
高木さんの友達の中では「小さいことがいいことだ」という話がありましたが、それは時代だからなのか、若い人だからなのかがよくわからないのです。
PDJとは26~36歳くらいの世代。高木さんさんは今24歳で、下の「ゆとり世代」です。三浦さんさんは53歳で「しらけ世代」と言われた世代。ポスト団塊ジュニアを挟んだ上と下の世代の方々にとって、PDJ世代との間にシェア意識との差を感じることはありますか?
安藤 美冬安藤さん
私は実は世代論には懐疑的です。
前職の集英社では、宣伝部でコバルト文庫の担当を2年くらいしていました。ティーンズ文庫なので、もともとは18歳前後の女の子が対象だったのですが、コバルト文庫が歴史を重ねるにつれて読者層も上がっていきました。
つまり、世代じゃなくて志向で区切られていて、乙女チックなものが好きな人であれば、10代にも40代にも読まれていたんです。
PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議
guest_0401三浦さん

近年の傾向としては、そういう流れがあります。
今はどんどん世代差がなくなっていて、むしろ若い世代ほど戻ってしまっている。古い世代に近くなっているということすらあります。
でも、そうはいっても車を売るときに、その車の感性がわかれば18歳でも68歳でも買っていいのだけど、その感性をわかる人は何人いるか数えるときに、20代30%、30代35%とわからないと計れません。
世代論がなぜ必要かというと簡単で、想定する商品が売れる量を計るために必要なんです。

でも実際は、世代差は出にくい時代になっている。
だからもっと感性や価値観で商品が作られた方がいいのだけれども、企業からするとそれは面倒くさい。感性の分からない人が偉くなっているし(笑)
感性が豊かだと社長にはならない。だからダメなんだけどね、日本の会社は。

guest_0402高木さん
貿易自由化の時に、本田総一郎さんはちゃんと自由化を受け入れて成長していったわけじゃないですか。
シェアもソーシャルメディアやラインとかも、とりあえずやってみるみたいなことが、たぶん大事。そうすると、今までこう思っていたけど意外とよかった、という感覚もあると思うんです。
逆に僕らは歴史を知る必要があると思う。
文化が豊かだったといわれている江戸時代は、人間が一緒に暮らしていたり、生活と仕事が一緒だったりします。そういうことは知る必要があると思うのです。やはり知恵がそこにはあるから。

会社は変わらない。だから住まい方を変えたり
違う業種の人に会って世界を広げ、全体を変えていくことが必要かも。
時間をシェアしたり、労働と役割をシェアできるところに
新しく豊かな文化も生まれてくる

刈内 一博刈内さん
三浦さんの本にも書かれていますが、2055年には日本の人口が9000万人弱に減り、そのとき一番多い年齢は81歳。超高齢化社会です。
世界的にも例のないペースで日本社会がシュリンクする中で、PDJ世代は消費や生産の中核になって、社会を支えていかなくてはいけない世代です。
そのPDJ世代が今後、どういったシェア意識をもって暮らせば、より豊かに暮らしていけるのかについても話したいですね。
PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議
安藤 美冬安藤さん

今の日本で最も乏しいと思うのが、時間のシェアです。
私、今朝まで台湾に行っていました。妹が台湾の第三の都市・台中で学校の先生をやっていて、妹を訪ねてきたのですが、不思議なことに、平日にもかかわらず、家族連れのお父さんをあちこちで見かけました。
妹に聞いたら、まだ日本ほど企業がなく、小さな個人商店主がたくさんいるため、平日でもレストランは家族連れで満杯なのだそうです。

日本は8割くらいが会社員でしょうか。
平日は仕事をしていて、会社に決められた時間にランチをし、正月やお盆などの大型連休に一斉にレジャーの時間を取り、決められた時間に通勤する…。
そういうことも時間のシェアという意識を持って皆で直していけば、皆が快適なライフスタイルを送れるようになると思います。

guest_0402高木さん
京都でシェアハウス泊まっていたとき、不思議なことに、夜中までしゃべっていても誰も終電を気にしなかったんです。
なぜかと思ったら、皆、自転車だったのです。小さい町だから。
東京では盛り上がっていても、「ごめん終電だから」って帰るじゃないですか。でも京都は満足するまでいる。そっちの方がいいですよね。
guest_0401三浦さん
うん。そこから文化が生まれるよね。
PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議
guest_0402高木さん
お金と同じくらい時間に縛られ、すごく忙しくなって、こうじゃなきゃいけないとなること自体が、かなり豊かさを減らしてしまっていると思います。
たとえば子育てにしても、何人かで暮らせば、毎日とられていた時間を調整して、空いた時間を作ることができるかもしれないですよね。
guest_0401三浦さん
やはり役割のシェアだと思う。
つまり、生産は20代、30代、40代、50代の男が23時まで残業して行うものという前提に立つと、それをできる人は、働き盛りの男だけになってしまう。でも、働くのは1日4時間でもいい、週3日でもできることをやりましょうとなったら、女性も主婦も、子育て中でも81歳でもできるんです。
労働と役割のシェアを進めていけば、ずいぶん風通しがよくなって不満がなくなると思います。
guest_0402高木さん
僕らの世代でいうと、まわりは皆、会社の仕事以外のこともやっています。でも服務規程があるから隠していて、そのためにどんどん生産性も下がってしまう。
だけど、会社の仕事以外のこともどんどんやり、会社も拘束しない方向になっていかないといけないと思うんです。
刈内 一博刈内さん
理屈は分かるのですが、世の中のほとんどの人はサラリーマンで、その雇われている個人として今のお話を聞いていて、何をしたらいいかが見えてこないのですが…。
guest_0401三浦さん
会社が一番変わりにくいよね。きっと。
会社は変わらないから、だから住まい方を変えたら何かが変わったり、他を変えていくことで全体が変わっていくということはあると思います。
PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議
guest_0402高木さん
今、ソーシャルランチもあるから、一番小さいランチから変えてみるのもあると思います。
いろいろな人と食べてみたり、ホームパーティしてみるとか。
guest_0401三浦さん
お昼は会社の人とは食べない、とかね。
安藤 美冬安藤さん
それ、私も会社員時代に実践していました。
自分を変える、一番身近なやり方ですから。
guest_0402高木さん
やはりコミュニティが1個だけというのは健康じゃないから、そういうものをいくつか持って接点を広げていくことじゃないでしょうか。
若いやつらは皆、無意識的にやっていると思います。皆、会社以外の個人名刺を持っていますから。 そういう意味では名刺をつくるのもいいと思います。
刈内 一博刈内さん
それも1つの手ですね。それを広げていくと、今のルールや制度みたいなものもいずれ変わっていくのではないかと…。
guest_0401三浦さん
ランチに限らず、できるだけ違う業種の人に会うのもいいですね。
その点、シェアハウスには違う仕事、業界、職種の人が来ます。シェアハウスのいちばんの魅力はそこだと思いますよ。
PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議
安藤 美冬安藤さん
シェアオフィス借りるのもいいんじゃないですか?
いろいろな人とつながる機会も持てます。私が入居している表参道のシェアオフィスにも、会社員の方が何人かいますよ。
guest_0401三浦さん
会社は、課長や部長という役割の居場所に慣れすぎています。
それでもいいんだけど、一方で、自分の趣味や関心による居場所もつくり、居心地をよくするということも大切だと思う。
そういう場づくり、ひとつのきっかけとして、シェアハウスがあると思います。
刈内 一博刈内さん
今、人は時間に縛られすぎているのではないかという視点から、もう少し「時間をシェアする」ことを考えてみようという意見が出ました。そして、制度やルール的な問題、周囲からのラべリング、偏見みたいなものもあって、なかなか変わりにくい社会になっているのではないかという話がありました。
そういった中で、たとえばランチを会社外の人といっしょに食べたり、シェアオフィスを借りてみたり、居場所みたいなものを人と一緒につくるという考え方を用いることで、サラリーマンでも明日からできることがきっとあるのではないかということですね。
最後に、ゲストのお二人から視聴者の方に、「明日からでもできるシェアした方がいいもの」を1つご紹介いただけますか。
guest_0401三浦さん
僕は先ほど話した拾い物です。
夜に歩くといろいろなものが落ちています。おすすめですよ。
guest_0402高木さん
分かりやすいところで言うと、家に誰かを招くということじゃないかな。知ってる人でもいいと思います。
僕が一人暮らしをしてるとき、家に全然人が来なかったと思うんです。でも、友達1人だけでも来ると、場的にも物的にも時間的にもシェアされます。
それは会社とも違うし、家族とも違うものだから、まずやってみることがいいと、まじめに語るとそう思います。
PDJ-Lab #04 第1部 PDJ会議