


刈内さん
第2回目は、チームラボ代表の猪子寿之さんをお迎えして、「PDJ世代の働き方」について対談したいと思います。
猪子さん、安藤さん、猪熊さんは、3人それぞれに違う働き方をしていますね。
ゲストの猪子さんは大学を卒業された後、企業に就職されることなく、すぐに独立されています。安藤さんは出版社で7年間、いわゆるサラリーマンをされた後に独立されています。猪熊さんは設計事務所を構えながら、大学で教鞭もとっていて、2つの仕事をされています。
なぜ皆さんはそういう働き方を選ばれたのでしょう?
仕事に自分の幸せを求めるか、価値を生み出すことを目的にするか。
誰もがその相反するその2つの中で、バランスを取っているのだと思う

猪子さん
僕の場合は、大学に入った頃にインターネットが出てきて、情報化社会が始まるみたいな感じがありました。
何か文化的なことを情報化社会でやりたいし、テクノロジー的なこともやりたいと思ったのだけど、ビジネスモデル的なIT企業にはあまり興味がなかったので、選択肢として自分で始めるしかなかったのです。
もしかしたら選択肢があったのかもしれないけど、ないように思えたのと、あとは単純に友達と一緒にいたかったんですね。就職すると友達といられなくなるから(笑)

安藤さん
24歳のときに新卒で就職したのですが、私も正直に言うと他に選択肢が思いつかなかったというか…。
別に独立起業するほどのスキルや才能、気概があったわけではないし、それを志向していたわけでもなく、結婚などの道があったわけでもなくて。
第一志望は映画産業でしたが、広告代理店などいろいろ受けました。その中でたまたま出版社にご縁があり、入社したという感じです。
ただ、入社して間もない頃から、30代になったら自分で仕事をしてみたいと思っていました。20代は会社員で頑張って、30歳からは何か違う道を模索したいと。
それは、高卒で会社を立ち上げた祖父や、銀行をセミリタイアして不動産投資で成功している叔父など、身近な親戚の影響だったと思います。

刈内さん
一般の学生がしているように、就職活動をされていたのです

安藤さん
はい。まったく同じように。
大学4年の夏に留学に行ったのですが、その前の春に就職活動をして、留学から帰国後にもう一度やり、翌年の春にまたやっているので、合計すると80社くらい受けました。

安藤さん
やっと受かったのが2社。
もう落ちまくりで。

猪熊さん
僕は今、大学にいて設計の授業をやっていますが、そういうモデル自体はよくある建築家のタイプの1つなので、何かおもしろいことをやるために…という感じではありません。
ただ、こういうやり方が魅力だと思っている理由として、できることがそれぞれ違うということがありますね。
個人の仕事では何を言っても自由で、責任も自分にあります。でも、大きく社会に対して働きかけるというときには弱い場合が多い。
大学は、求められる成果が定まっていて、「よくやっている」と必ず評価してもらえるわけじゃありません。
反面、やはり波及力はあります。自分が考えるこれからの社会について、学生達に伝えることができ、面的に広がっていく魅力はあります。
そういう意味では、できることが異なることを両方やっている、という魅力はすごくあります。

猪子さん
何が幸せかという視点で言うと、やはり人間は知的好奇心を常に満たすとか、いろいろな関係の中でゆるくつながるとか、そういう方が楽しいよね。
そういう選択の方が、きっと人は幸せになりやすいと思う。
一方、全然違う視点として、どういうスタイルが価値を生みやすいかというと、何かに集中した方が価値を生みやすいんだよね。
何にでも興味がある方が人間的に素晴らしいと言われるけど、統計的には、好奇心がすごく狭い人間の方が圧倒的に社会において成果を出すんだよね。
そういう意味で、どっちがいい悪いではなく、どういう生き方がいいかは、目的によって違うかもしれない。

猪熊さん
猪子さんはどっち派ですか?
チームラボは社員200人くらいの大きい会社で、コラボレーターは社内に抱えますよね。それはある意味、集中型というか、ゆるく広がる感じではないですよね。
でも、先ほどの「友達とやりたかったから」というのは、ゆるくつながるのが好きな生き方のような気もするし。

猪子さん
誰しもその相反する2つの中で、バランスを取っているのだと思う。
たとえば、大学の教諭と個人事務所と、さらに超大手のゼネコンの建設部に入って設計を任せられたら、それはそれですごく楽しいじゃん。
でも、あまりに増えすぎると1つ1つの価値が下がりそうということもあるわけで、そういう中で誰もがバランスを取っているのだと思う。
自分がどっちかという質問は難しくて、バランスの中で自分の会社をやりながら、会社が成長すればいろいろな人も入ってくるし…。
ずっと高校の親友と2人というのは、前はそれでもいいと思っていたけど、今考えるとぞっとするよね(笑)

猪熊さん
200人という数はちょうどいいですか?
増えたらもっと楽しいのに、という感じですか?

刈内さん
それ聞いてみたいですね。

猪子さん
増えたら楽しいよね。

猪熊さん
それいいですね。
まさに自分の哲学あっての会社にガンガン人が増えて、それがクリエイティビティにつながる…。

猪子さん
たとえば、今の22〜23歳の子はデジタルネイティブみたいな感じだから、彼らの視点はすごく新しいし、技術の身につけ方も違うし、1年目や2年目の人と仕事をするのは楽しい。
何を言ってるか全然わからなくて、俺もよくそう言われるけど(笑)、でも、何を言っているかわからない理由が全然違うんだよね。欠損の仕方が。
あ、それは個人的な問題か(笑)。
コミュニケーション能力をつけて、この新しい欠損の仕方に対して理解力を高めようって思う。
どんなに短くしても7時間くらいは働くのだから
そっちをおもしろくした方がいい。
ワークライフバランスではなく、ワークライフブレンドで

安藤さん
猪子さんみたいに、哲学を持つことはすごく大事だと思います。
私は就職活動中、企業で働くという選択肢しかなかったけれど、今は働き方も選べるじゃないですか。
仮に会社員であっても、たとえば刈内さんがなさっているように、社内でも社外でもいろいろな人とつながって、プロジェクトを立ち上げる人も出てきています。
どんな風に働きたいかは、結局、どんな風に生きたいか、大事にしているものの優先順位をつけているか。哲学だと思うのです。
猪子さんを見ていて、遊んでいるように仕事している人だなと(笑)。まじめに遊んで真剣に仕事しているみたいな感じ。
私も“ワークライフブレンド”とよく言っているのですが、 “ワークライフバランス”とは違い、仕事も遊びもあまり境界がなく、両方とも楽しむという風に考えています。

猪子さん
わかる!
ワークライフバランスという言葉、超嫌い(笑)

安藤さん
10年前に、オランダのアムステルダムに留学していたのですが、そこはまさにワークライフバランスの発祥というか、提唱している場所。なので、当時からそれをずっと意識してきたのですが、独立して思うのは、両方とも楽しむのがいいじゃん、みたいな。
頑張って働いて、空いた時間で好きなことをやろうというのは、あまり好きじゃない。
そういう意味でも、働き方が変わって来ているのではないかな。

刈内さん
境界線をなくした方が楽しいですか?

安藤さん
楽しい!ですよね。
(と、猪子さんへ)

猪子さん
たしかに、そういう切り分けは一番よくない。
どんなに短くしても7時間くらいは働くのだから、そっちをおもしろくした方がいい。
けっこうすごいシェアだもんね、7時間くらい…僕は働いてないのかもしれないけど(笑)

安藤さん
ある女性の経営者がおっしゃっていたのですが、ワークライフブレンドでいくと、仕事をしている時も、バケーションの時も、友人と食事をしている時も、楽しい時間を過ごしつつ、仕事につながるアイデアを考えたり、それが仕事に生きるということが、けっこうあると思うのです。飲み会から仕事が生まれたり。
自分の人生におけるすべてのコンテンツや要素が、結果、仕事につながって、それで貢献できる可能性を秘めているというのは、いいんじゃないかなと思うのです。

刈内さん
実際には、それをできる人とできない人がいるのではないかな。
肉体労働者の方が遊びと仕事を区別せず、夜、飲み屋に行って新しい仕事の話になるかといったら、なかなか難しいのでは?

猪子さん
西洋的にとても合理化され、システムで分割されているようなところだとそうかもしれないけど、日本の仕事はほとんどがそこまで分割されてないから。
たとえば同じ建築でも、大工さんは建築家と肉体労働者とが明確に分かれてないので、手を動かす人が考えるみたいな仕事の仕方はできると思う。

安藤さん
私は車が運転できないので今はなれませんが、カリスマなタクシーの運転手になれるかも、と思うことがあります。
というのは、タクシー運転手さんの仕事って、あまり差別化されていないから。
でもたまに、雑誌やテレビでカリスマタクシー運転手さんが取り上げられますよね。英語が抜群にうまくて話がおもしろくて、海外のセレブの指名が絶えない京都のタクシー運転手さんとか、アンプなどの音楽機材を車に積み、ジャズを聴かせたりして人気とか。
差別化を図ろうと思えば、いくらでもクリエイティブなアイデアを出しておもしろくできると思う。

猪子さん
タクシーの運転手さんがなぜ差別化できないかというと、法律で禁止されているから。

安藤さん
個人タクシーであっても?

猪子さん
いろんな制約がたくさんあるんだよね。
何を言いたいかというと、すべての人は楽しめるチャンスと自由があるけれど、多くの場合、第三者がそれを邪魔しているということ。
それは個人ではあらがえないので、そういう仕事からは逃げたほうがいいかも。

安藤さん
でも、そういうことも含めて、働き方のクリエイティビティを高める余地はまだあると思いますね。
人は、働かなくなると遊ばなくなる。
土曜より金曜の夜の方がよく遊び、日曜の夜にはテンションが低くなる。
仕事は「義務」とされているけど、本質は別のところにあるんじゃないかな?

刈内さん
そもそも皆さんは、なぜ、何のために働いていますか?

猪子さん
生活のために。どうせ生活のためなら楽しい方がいいし、価値を提供しやすい分野の仕事がいいと思った。
はじめは生活のためにお金が必要なのだけど、それが次の仕事のために変わり、よりおもしろい仕事をしようと思うと、よりお金が必要だったりする。
お金にならないこともずっとやっていきたいし。

安藤さん
自分のために働くのもあるし、皆のために働くこともあるし、自分に集まってくる人達のために働くこともあります。
仕事を発注するのであれば、当然、お金を払える自分でいなければいけないわけだし。
ただ、もっと根本的なところで言うと、単純に働かないとおもしろくなかったんですよ。
私はサラリーマン時代の26歳のときに、体をこわして半年間休職したのですが、すごくつまらなかったのです。仕事がない状態が。

猪子さん
カタールという国は、天然ガスのおかげでめちゃくちゃ豊か。働かなくていいほどなので働いていないのだけど、だから皆、遊ばないんだよね。
人は働かなくなると遊ばないんだな、と思った。
ずっと家でテレビを観ていたりして、夜の町には誰もいないの。そして家を買ったり、車を買ったりしている。

安藤さん
富豪って、そっちの方向に行くのかな。
今、ロシアも、特にモスクワがすごくうるおっていて、20~30代で、天然資源で儲けている人達がたくさんいるらしいのです。
そして、カルティエなどのラグジュアリーなブランドに自家用ジェット機の内装を頼んで、数億円かけた、数十億円かけたという違いで競い合っているとか。

猪子さん
日本人も、土曜より金曜の夜の方がよく遊んでいるよね。日曜の夜にはテンション超低いじゃん、みんな(笑)
テンションが下がるんじゃないかな、仕事をしていないと。
あと、人間には無意識に「自分の力で生きていかなきゃいけない」というのがあって、にもかかわらず、「自分は1人では生きていけない」ということを知っているから、友達を超好きになるのだと思う。
自分で生きていかなくてよくなると、たぶん友達も好きではなくなると思う。普段はそれほど論理的には考えていないけど。
自分は生きていかなければいけないから好奇心があり、でも、絶対に生きていける保障があって、生活も完璧だと、無意識に好奇心も減ると思うんだよね。
さっきの話のように、仕事が遊びだという状況になれば、好奇心も知らない間に広がっていくし。

安藤さん
ホント、そう思いますね。

猪熊さん
そういう意味で言うと、働くことがなぜ義務なんですかね。逆に。
これは、誰かがどこかのシンポジウムでお話しされていたことなのですが、たとえば、自分の両親を介護している人がいます。それがAさん。Bさんも介護しています。
この場合、お金は生まれませんよね。
そこで、お互いの両親を介護し合い、お互いに同じ額を払ったと。
すると、お金が生まれるから、GDPにも換算されて仕事という認定を受けます。
お互いの両親を介護し合うと義務を果たしていて、自分の両親を介護していると義務を果たしてないという、不思議なことになるのです。
仕事って、そもそも何のためにやるのかなと。憲法で義務として決まっていますけど、なんか別のところですよね。
お金を生まなくても何かのために、誰かのためにやっている時に、ある種の充実感があったりもする。

安藤さん
「ボランタリー経済」って言いますよね。
田坂広志さんの『目に見えない資本主義』という本に、そこが詳しく書かれています。
たとえば、母親が自分の子供を育てる行為も、究極的に非経済モデルだと思うのです。
報酬を受け取っているわけではないけれども、それをやっているという…。

猪熊さん
「義務」と言ってさせる国の方が、たぶん古いんじゃないかな
オフィスを持つか持たないではなく、どういう仕事をするか
どういうライフスタイルを追求していきたいかによって
ワークスタイルを選び、変えていく必要がある

刈内さん
今度は職場についてお伺いします。
安藤さんは1つのオフィスに限定しないで複数の場所で仕事をこなす、ノマドワークスタイルを貫いています。
猪子さんと猪熊さんは事務所を構えて、ノマドワークスタイルではありません。
どうしてそういうスタイルを選んでいるのか、お伺いできますか?

安藤さん
どういうスタイルを選ぶかは、たぶん、どういう仕事をしているかによっても変わると思います。
さっき言いかけたことですが、労働をしたくてもできなかった半年間の休職期間、つくづく自分は、仕事をしていないと退屈なのだと思い知りました。
そして、自分の居場所があるって大事だと思いました。社会の中での居場所を見つける、居場所をつくる行為が、働くことだと思ったのです。
先ほど刈内さんが、「1つの場所に限定せず」と言ってくださいましたが、決してオフィスを持たないことが大事なことではないのです。実際、表参道にオフィスはあります。机が1つだけですが。
今後、海外に出ていくとか、結婚して出産するとか、自分のライフスタイルが劇的に変わった時に、その変化にすぐ対応できるようになるべく固定費をかけない。私なりの理論として、あえてそういう身軽なスタイルをとっているのです。
結局それは、どういう仕事をしているか、どういうライフスタイルを追求していきたいかによって、変えていく必要があると思います。

猪子さん
僕らはチームでものを考え、チームで何かをつくるので、物理的に離れると…まあスカイプで仕事ができるという人がいるけど、スカイプと物理的に一緒なのとでは情報量が半端なく違います。情報量が多ければ多いほど効率がいいですから。
同じチームで比較的長く働いた方が、行間が埋まり、文化の集積が高くなると思っているので、そういう意味で同じ場所で働くというスタイルをとっています。

猪熊さん
他にも数がいないとできない職業って、いっぱいあると思います。
たとえば新幹線をつくる仕事も、相当な人数が「あ・うん」の呼吸で進めていかないと無理ですし。
全体が有機的に動いていないと解決し得ない問題は、たくさんあると思います。そういう意味では、最後はやはり業種によるのかな。

刈内さん
実際には、仕事は1人ではできないと思うのです。
フリーランスでやっていても、クライアントはいるわけですし。
仕事をする上での人付き合いやネットワークを、どういうふうに築いたらいいのか悩んでいる人は多いと思うのです。
それについては、皆さんはどう考え、日ごろどう取り組んでいらっしゃいますか?

猪熊さん
人間関係ですか。根は人見知りなので疲れるときはありますが、それほどストレスはないですね。
たぶん場所が複数あるので、大学で「これは失敗した!」ということがあっても、半日くらいで切り上げて事務所の仕事に移ったり、人に会いに出ることも多いので、いつの間にか忘れているというか。
再び大学の仕事に戻った時にはフレッシュな気分でガッと入り込むので、そういう意味ではストレスがたまらない働き方になっているのかもしれません。

猪子さん
僕は何も考えてないかもしれない(笑)

安藤さん
今は好きな人としか仕事をしないので、そういうのはないのですが、人間関係については会社員の時の方が悩んでいました。上司や同僚、後輩には恵まれていたのですけど。
会社だけが自分のコミュニティと限定すると、1つの失敗やいろいろなことで苦しくなるので、積極的に外の人とつながろうと思っていました。
会社にいた最後の1年くらいは、たぶん会社の中で誰よりも外の人と会っていたと思います。
月に100人以上、年間で1500人くらいに、自分でアポをとって会いに行っていましたから。会社の仕事とは全く別で。
単に会うだけではもったいないので、そこでお会いしたwebのデザイナーさんや編集プロダクションの人、IT関係の人と新しい企画を作るなどして仕事に還元する、ということをしていました。
外に積極的に出ることで、「ここで上手くいかなくても、自分には外の世界がある」という、感情の逃げ道というのでしょうか、そういうものに上手く使っていた気がします。

刈内さん
安藤さんも比較的人見知りの方ですよね

安藤さん
もともとはすごい人見知りで、ひとりで過ごしている方が…。

刈内さん
猪子さんは全然人見知りじゃなさそうですよね(笑)

猪子さん
俺は人見知られます(笑)

刈内さん
USTREAMを観てくださっている方も、会場のオーディエンスの方も、それぞれ悩みを抱えながら仕事をされていると思います。
最後に、今、この社会を生きている働く方々に対して、何かアドバイスを頂戴できますでしょうか?

猪子さん
そういうのできないよ、俺(笑)
言って、代わりに。

猪熊さん
僕ですか?(笑)
仕事の話なら安藤さんじゃないですか?

安藤さん
プレイハード。
プレイは「遊ぶ」という意味もあり、「プレイハード」という言葉、すごく好きなのです。
一生懸命働いて一生懸命楽しむみたいな感じ。

刈内さん
今日はありがとうございました!