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WWFの活動

ヨーロッパウナギの輸入規制はじまる

日本でも消費されてきたウナギの一種、ヨーロッパウナギの国際取引が、3月13日から規制されることになりました。ヨーロッパウナギは近年、乱獲による減少が報告されており、IUCNのレッドリストでも絶滅の危機が指摘されています。ウナギの資源保護と、その消費のあり方が今、問われています。

ウナギが取引の規制対象に

日本の川にも生息し、日本人にとってなじみの深い魚のひとつ、うなぎ。しかし、日本人が食べているウナギは、国内に生息するニホンウナギだけではありません。

ウナギ属(Anguilla.sp)に分類される魚は、世界に15~17種いるとされていますが、食用になっているのは、そのうちの4種。
その1種であり、日本でも輸入、消費されてきたヨーロッパウナギの国際取引が、2009年3月13日から、ワシントン条約によって規制されることになりました。

この取り決めは、2007年6月に開催された第14回ワシントン条約締約国会議で、ヨーロッパウナギをワシントン条約の「附属書2」に掲載する決議を受け、決まったものです。

食用になっているウナギ4種
・ヨーロッパウナギ(Anguilla anguilla)
・ニホンウナギ(A.japonica)
・アメリカウナギ(A.rostrata)
・オーストラリアウナギ(A.australis)

絶滅の危機にあるヨーロッパウナギ

取引規制の背景にあったのは、ヨーロッパウナギの深刻な減少です。増加の一途をたどってきた、世界的なウナギの消費の圧力をうけてか、この20年ほどの間に、ヨーロッパウナギは激減。

北大西洋の海洋環境と漁業に関する政府間機関「国際海洋探査委員会(International Council for the Exploration of the Sea)の調査によれば、ヨーロッパ12カ国の19の河川で漁獲されたウナギの稚魚(シラスウナギ)の量は、1980年~2005年までに、平均で95~99%減少していることが明らかになりました。

2008年には、IUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)」にも、「CR:近絶滅種)」として、その名が記載されました。この「CR」は、野生生物の危機の度合いを示すランクの中でも、最も危険性が高く、絶滅に近いとされるランクです。

日本のウナギ消費への影響は?

日本は世界でも屈指のうなぎの消費国です。
しかしこれまで、日本の輸入統計では、輸入したウナギを全て「食用うなぎ」としてきたため、それがヨーロッパウナギなのか、アメリカウナギなのか、輸入された海外産のニホンウナギなのか、知る術がありませんでした。

このため、ヨーロッパウナギの正確な輸入量はわかっておらず、今回の取引規制が、日本国内のウナギの消費や流通に、どのような影響を及ぼすかも、まだわかりません。

それでも、ヨーロッパウナギが日本に輸入されていることは、間違いのない事実です。
日本で問題になっているウナギの産地偽装事件でも、DNA調査の結果、国産として売られていたウナギの中に、中国に運ばれ、そこで養殖された「中国産」ヨーロッパウナギが含まれていたことが、明らかになっています。

天然ウナギを使う「養殖うなぎ」

今回の規制は、養殖うなぎにも、影響を及ぼす可能性があります。
うなぎは現在のところ、卵から完全に養殖する技術が、まだ完全に確立されていません。研究は進められていますが、少なくとも、商業的に成り立つまでには至っていないのが現状です。

「養殖うなぎ」として、売られているものも、実はウナギの稚魚(シラスウナギ)を捕まえ、これに餌を与えて育てたもの。もとは、自然の海の魚です。

つまり食べられている食用ウナギは、その生産量のほぼ全てを天然のものに頼っている、ということです。

しかも、世界で生産されている食用ウナギの約9割以上は、この養殖生産によるものです。世界全体の総生産量が増加し、一方で養殖のための「種苗」、つまり元になる、シラスウナギの漁獲が減る中、その商品価値も非常に高くなりました。

食用うなぎの世界総生産量と養殖生産量
(1970~2006年)

世界で生産される食用ウナギの総生産量は、年々増加する傾向にあります。その約97%は、養殖ウナギが占めています。
出典:FAO Fishstat, total production and aquaculture production (1970-2006)

国際取引にかかわる問題

トラフィックの調べでは、ヨーロッパにおける2000年から2001年までの、ヨーロッパウナギのシラスウナギの平均取引価格は、1キロあたり281米ドル(約3万2000円 / 当時1ドル=114.90円)。
非常に高い商品価値を有しており、このことが特に、ヨーロッパ南部などの一部の地域で、密漁と違法な取引を引き起こす呼び水となっています。また、その背後には犯罪組織の関与も疑われています。

ヨーロッパウナギ最大の国際取引のルートは、ヨーロッパからアジアに向けた、養殖用の種苗としてのシラスウナギの輸出。
こうした国際取引の現状もまた、ウナギ資源の不適切な利用を引き起こし、ヨーロッパウナギを減少させる、大きな要因となっているといえるでしょう。

日本に求められる、適切な取引手続きと管理

今回始まった、ワシントン条約による輸入規制は、取引を全面的に禁止するものではありません。

しかし、この条約の附属書2に掲載されたことによって、ヨーロッパウナギの国際取引には、輸出国の管理当局が発行する輸出許可書、または、一度輸入した国の再輸出証明書が必要となり、その取得のための手続きや管理などが求められることになります。

また今後、日本に「生きているうなぎ(活鰻)」を輸入する場合には、経済産業大臣の発行する「確認書」などの書類も必要となります。その際には、輸入するウナギがどの種のウナギなのか、学名や和名、原産国などを明らかにし、申告しなくてはなりません。

こういった管理が徹底されれば、従来の貿易統計では明らかにできていなかった、ウナギの種類や原産地、その輸入量などがそれぞれ明確になり、ヨーロッパウナギがどれくらい輸入され、消費されているのかも、明らかになるでしょう。

水産資源を持続可能な形で利用していくためには、漁業や、漁獲された魚の輸出入が、実際にどれくらいの規模で行なわれているのか、また、違法な行為が無いかどうかをチェックすることが必要です。
ヨーロッパウナギに関する国際取引の規制は、まだ現状がわかっていない、他の水産資源の利用や取引を考える上でも、今後参考となることが期待されます。

ヨーロッパウナギについて

バルト海や地中海沿岸のヨーロッパ諸国と、大西洋に面した北アフリカ沿岸諸国、および北大西洋に浮かぶカナリア諸島、マディラ諸島、アゾレス諸島、アイスランドなどの河川や湖に生息します。
一生のほとんどを淡水で過ごしますが、成長した個体は海へ下り、大西洋のサルガッソー海で産卵することが知られています。親魚は産卵を終えると死亡します。
孵化した稚魚(レプトセファルス)は、海流によって運ばれ、沿岸の河口域に達するころには、透明な身体をした「シラスウナギ」に成長し、多くは川を遡上して淡水域で成長します。

ウナギが減少している原因は、過剰な漁獲以外についても指摘がなされています。トラフィック・ネットワークは、2003年に発表した報告書の中で、漁業による影響に加え、生息地の消失や、産卵のための海への回遊への障害、汚染、寄生虫や病気の伝染などが、ウナギ減少の一因になっていることを指摘しました。

トラフィック・イーストアジア・ジャパンのサイト

2009年3月13日
ヨーロッパウナギが国際取引の規制対象に

2009/3/23

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