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怪しい話U−95

「コンビーフ」

 コンビーフと言えばGIの戦後文化、あるいはノザキないしは明治屋(笑)。

 実は、”ノザキのコンビーフ(1948)”と言いながら、ノザキという名前の会社は合併で無くなり、合併後は作ってるのが日東ベストで販売が川鉄商事という事になっていましたが、さらに2004年10月1日に川鉄商事とエヌケーケートレーディングは合併し、JFE商事株式会社として新たにスタートしています。

 意外に数奇な運命を送っている”ノザキのコンビーフ”はこれを書いている時点ではJFE商事株式会社の食品部門である川商フーズ株式会社が販売しているようです。

* 川鉄商事は2004/10/01に事業毎の会社分割を実施し、食品事業を運営する川商フーズ株式会社、半導体事業の川商セミコンダクター株式会社、不動産事業の川商リアルエステート株式会社になった ・・・ が、めんどくさいのでノザキのコンビーフということでここでは話を続けます。

 ちなみに、川鉄商事はアメリカ(1911年に蟹缶をGEISHAブランドで売ったのが始まり)、ヨーロッパ、中近東、アフリカ、アジアの国々でカニの缶詰なんかを販売していたんですが、未だにブランド名はGEISHA。

* 現時点のGEISHAブランドの缶詰類は川商フーズ株式会社の扱い。

 こんなところで、「日本といえばゲイシャ」というステレオタイプを広めている人がいたわけだなと(笑)。

* ゲイシャの缶詰といえば戦前に鮭の缶詰を造って売りさばきカナダや米国と揉めたという米国側の記録映画があったりします・・・が、それとGEISHAブランドが同じ物かどうかは不明。

 それはともかく、ノザキのコンビーフには数々の伝説があり、ゴールドコンビーフ(米沢牛)、ゴールドコンビーフ(松坂牛)、牛肉大和煮ゴールド(米沢牛) という一般人が見たこともないような缶詰を一缶1000〜1800円程度の価格帯で出荷していました(実話)。

 もっとも、この一般人には手が届きそうもない価格帯の牛肉缶詰シリーズが看板に偽り有りの品質表示違反で農林水産省から指導を受けたことがあります。

 厳密には「ノザキ」ブランドの高級コンビーフに銘柄牛以外の牛肉を使用しながら表示していなかったということなんですが、農林水産省は製造元の食品会社である日東ベストと川鉄商事など販売元2社にJAS法違反で業務改善を過去に指示したことがあります。

 その時に対象となった商品は「山形県産米沢牛コンビーフゴールド」「松阪牛コンビーフゴールド」など3品目でしたが、銘柄牛100%使用のような表示でありながら、中国産の冷凍牛肉や国産乳牛の肉を使用していた事が発覚しています。

 まだ何割か混ぜていたというのならカワイイのですが、摘発当時の「米沢牛」缶に米沢牛は100%使用されておらず、松阪牛も2割程度だったそうで、値段のことを考えるとかなり悪質だなと。

 JAS法というのは日本の農産物を利用した食品などの規格を定めたもので、例えば(100%同じ原料を使用する場合を除き)原材料の割合を表示することなどを定めていたりもします。

 なお、日東ベスト側は「銘柄牛は脂が多く、切ったときに形崩れしやすいので他の牛を使った。割合表示をすべきだったが、100%の方が売れるのでそのままにしてしまった」と弁解しているのですが、割合表示をしたら0%の商品もあったわけですしねえ?

 もっとも、国内で少々売上が落ちたとしても、長年の中国に現地工場や食品事業のノウハウを持ち多角化も進んでいる企業体なので、さほどこたえるとも思いませんが、ま、ブランドは失墜したなと。

 ちなみに、ノザキコンビーフ伝説として語られるのは「ノザキの山形県産米沢牛コンビーフ ゴールド」と「松坂牛コンビーフ」の2缶。

 まことしやかに一缶3000円のコンビーフ缶があるとか囁かれているのだけれど、そこまで高額なコンビーフ缶はノザキに限らず確認できませんでした・・・セレブ御用達のような店でないと置いてないのかも知れませんが(追跡中)。

 まあ、ゴールドコンビーフに関しては”脂っこくなく安物のコンビーフより食べやすい。さすがゴールドだけある”と違いが分かる食通が語っていたりするわけですが、中国牛でそこまで言わせていたとはノザキブランドの魔力恐るべし。

 最上級の黒毛和牛の名誉のために書いておくと、確かに一流の黒毛和牛の霜降り肉の場合、脂はしつこくないのですが、一度熱処理をしてしまうと当然溶けだしてしまいますので缶詰で成形するのは難しいと思います。

 なにしろ、上質な霜降り肉の場合、生肉を指で触っていると指先の体温で霜降りの脂が溶けだしてしまうくらいデリケートな上に箸で裂けるほど軟らかいものなので、加熱はほどほどにして生に近い方が美味しくいただけるかと思います。

 ・・・ 本当に美味しい一線級の国産農産物を一般庶民が食べることは既に難しくなっているんじゃないかなと私なんかは思います。

 いずれにせよ、コンビーフそのものは塩漬けの牛肉(corned beef)のことでcorn beefという言い方や綴りも存在していますが、保存食の一種であり高尚なものではありませんし食味はどうしても落ちます。

 疑問に思っている人もいるかと思いますが、牛肉とそれ以外の馬や羊や兎なんかを混ぜて使っている場合は”ニューコンビーフ”と明記することが義務づけられていますから、コンビーフとニューコンビーフは別物ということになります。

 日本のニューコンビーフは、実質は馬肉缶詰だという話があるのですが、競馬で夢やぶれたサラブレッド達が主原料というもっともらしい都市伝説のネタになっています。

 幸い、今のところかもしれませんが、夜な夜なスーパーの床をニューコンビーフの缶詰達が走り回っているという怪異談を耳にすることはありません。

(2004/11/17)


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