7月17日、大津地裁。
厳しい暑さの中、裁判所の前にできた長蛇の列。
いじめで自殺した生徒の両親が、大津市などを相手に起こした裁判の傍聴券を求める人々だ。
その中に、生徒の両親と同じ思いを持つ人もいた。
(Q.今回の裁判、どういう思いで傍聴されますか?)
<小林恵さん>
「もういじめは絶対なし。いじめだけでなくて、子どもの自殺をもっと考えて欲しいです」
滋賀県守山市で飲食店を経営する小林恵(こばやしめぐむ)さん。
3年前、当時13歳だった、長女の愛由さん(当時13)が、飛び降り自殺した。
原因は何も思い当たらなかったが、その後、愛由さんが携帯電話のサイトに日記をつけていたことを知った。
<小林恵さん>
「『今日の部活は、ずっと自殺の方法を考えていた』と書いてあるんですよ。こんなこと書かないですよね」
学校で何かあったのではないか…
今回の事件を受け、そんな思いを強くしている。
<小林恵さん>
「毎日何でやろ何でやろ、という落ち込みしかない。何にも手につかないというか」

自殺した男子生徒の両親や祖母も、異変には全く気付かなかったという。
<男子生徒の祖母>
「うちのお客さんがここきて、『おばちゃん、色んな噂聞くで』、それまで知らんやん全然。なんで死んだんかなと思ってな、はじめは泣いてばっかりやわ、かわいそうでなあ」
男子生徒が飛び降り自殺したのは、去年10月。
その後、家族は同級生の保護者などから、いじめの存在を次々と知らされ、中学校に調査を求めた。
学校側は6日後、全校生徒860人を対象にアンケートを実施。
そこには、陰湿ないじめの実態が綴られていた。
「昼休みに毎日、自殺の練習をさせられていた」(アンケート)
「手をひもで縛られ、口を粘着テープでふさぎ、歩け、走れと命じていた」(アンケート)

暴行を目撃したという回答は150件に上った。
実際、多くの生徒が、その現場を目撃していた。
<中学校の生徒>
「トイレで殴られたり、服脱がされて写真取られたり」
<中学校の生徒>
「カツアゲされたり、虫を食べさせられたり、思いっきり蹴られたりしてました」
だが、学校側は・・・
<市教委の会見・7月14日>
「いじめられているという認識については、あまりないのです。いじめという認識を持っていなかった」

なぜ、いじめのサインは見過ごされたのだろうか?
いじめを受けていた男子生徒を、救うことはできなかったのか。
自殺の6日前、同じクラスの生徒から担任の教師に、いじめの通報があったという。
<中学校の校長・7月14日>
「『トイレでいじめられている』と女の子が通報をしてきました。2人(男子生徒と同級生)の話を聞くと、『2人でけんかをした』と。この行為はけんかと(判断した)」
当時の学校側の判断に批判の声も上がる一方で、この時点で、いじめを疑うのは難しいと指摘する専門家もいる。
<大阪大学大学院(教育学) 小野田正利教授>
「ケンカだと認識したというのも、あながちその状況では分からなくもない、学校側からすると。私が担任だったら、『まあ仲の良かった4人が』という感じですね。2か月くらいの間に急激に(いじめが)起きているのが、今回のいじめの特徴だと思います」

市教委は自殺の翌月、アンケート結果を受けて「生徒はいじめを受けていた。自殺との因果関係は判断できない」と発表した。
だが、「いじめ」を認めたことで、その後の調査は難航する。
去年11月。
中学校の体育館で行われた保護者説明会。
校長以下、10人の職員が出席。
最初に校長が「いじめを認めた」経緯を説明し、質疑応答の時間が設けられた。
まず、男子生徒の父親が思いを語った。
「いじめを一番知らなかったのは、私といじめていた子の親。自殺の本当の原因を知りたい」(男子生徒の父親のコメント)
その後、いじめに関わったとされる同級生の保護者も意見を述べた。
「男子生徒は最後まで学校に来てます。うちの息子にいじめられるのが嫌なら学校には来ません」(同級生の保護者・父親のコメント)
「アンケート調査の情報は偏ってます。いじめという判定を取り消してもらいたい」(同級生の保護者・母親のコメント)
それに対して学校側は…
「仲が良い時期もあったが、最近急激に変わって一方的にやられたところがあった」(学校側)
同級生の保護者から、再び反発の声が上がる。
「それは推測ですよ。推測」(同級生の保護者・母親のコメント)
「文科省の定義に当てはめると、いじめがあったと断定せざるを得ない」(学校側)
「文科省にいじめの定義が間違っていると訴えてください」(同級生の保護者・母親のコメント)
「ご意見はいただきます」(学校側)

説明会は4時間近くに及んだ。
その後、いじめに関わったとされる同級生らは、学校側の聞き取りを拒否。
調査は打ち切られた。
では、なぜいじめを受けていた男子生徒は、悩みを打ち明けなかったのか。
寝屋川市の中学校で長年、生徒指導に携わり、現在は現役教師を指導する兵庫県立大学の竹内准教授は、自らの経験をもとに次のように指摘する。
<兵庫県立大学 竹内和雄准教授>
「いじめられてるという情報が入ったので、担任の先生に事情を聞いてもらった。すると、その子が全然いじめられてると言わない」
いじめを受けた側が、自らいじめを告白することは極めて希だという。
<兵庫県立大学 竹内和雄准教授>
「加害者のところにいって、(いじめを)やめろと言ったら、陰でやられるから」
「どうしたらいいと言ったら、学校に行きたいから廊下に座っといてとか、弁当をそこで食べといてとか、一緒に迎えにきてとか、それ全部分かったと言った、そうしてくれるんやったら話すわと言って、いじめられてる状況しゃべりだした」

本人が話そうとしないため、気付きにくいとされるいじめのSOS。
その思いは、周囲の生徒も同じだった。
<男子生徒の同級生>
「何回か(いじめの)現場を見ていたから、『なんであそこで止められなかったのか』と思いましたし、自分も(いじめの)被害にあいたくないので。そこでひとこと言えなかったので、今では自分も悪いとみんな思っている」
なぜ、いじめに気付くことができなかったのか。
悔しさを募らせる男子生徒の祖母。
あの日、変わり果てた姿で対面した孫の顔が、今も忘れられない…
<男子生徒の祖母>
「きれいな顔していて、『家に帰ろうか、早よ帰ろう』と言っても目を開けてくれない。どこもどうもない、そのままの顔やった。『早よ帰ろ、早よ帰ろ』と言っても目を開けへんから帰られへん」
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