この世は今日も愉快かな (上条信者)

このサイトを知って衝動を抑えきれずに書きました。
にじファンでもあんまし評価されなかったうんこみたいな作品ですが、皆さまのお暇を潰せれば幸いです。



あなたへ贈る恋~ジャーマンアイリス~




さて、もしもの話をしよう。

君は一般人だ。特筆した経歴は見当たらず、しかし君はかけがえのない日常を謳歌していた。
両親は君を愛していたし、君も両親を愛していた。友人と呼べる程親交を持った知己と充実した青春時代を共に過ごした。
平凡だが、すばらしいと、幸せだったと君はひそかに満足した人生を送っていたと自負していた。

そんな君に一つの転機が現れた。
君が過ごした人生の中ではありうべきでない、世にも名状しがたき常識とは掛け離れた出来事だ。
一部界隈ではそれを題材にした小説や二次創作が溢れている。
世に言う“転生”と呼ばれる超常的で理解しがたい現象だ。
その表現は様々だ。神と呼ばれる存在に出会った後で、反則じみた“能力(ギフト)”を受け取ってしまったり、突然訳も解らずに気付けば見知らぬ場所に置き去りにされていたり、あるいは“リセット”と言うべき状況に陥ったり・・・。
ともかくそれらをきっかけに、彼あるいは彼女は二度目の人生を歩むという物語が始まるわけだ。
意気揚々と“原作”と呼ばれる世界へ干渉すべく行動するかもしれないし、危険と関わるべきでないと再び平凡にひっそり過ごすかもしれない。
それらは自由だ、どのように過ごしてもそれは彼等の人生であり、選択した結果なのだから。
しかし総じて彼等に言えるのは、もはや彼等は“正気”や“普通”とは無縁だということだ。
世界を越えた代償なのか、それとも別の何かの作為によるものか、いっそ清々しいまでに“常識”と呼べる行動とは足掻けば足掻く程かけ離れて行く彼ら。
逃れられぬ、運命に引き込まれていく。
そんなどうしようもない物語だ。

そうして元・彼あるいは彼女は“世界”へと生まれ落ちた。
何を成すのも自由だ。前世の記憶を得ていようが、“原作”の知識を持ち合せようが、所詮それは人生の土台でしかないのだから。
“何”を成すのか?チート?内政?ハーレム?俺TUEEEE?
可能かもしれない、不可能かもしれない。しかしそんなことはやってみなければわからない。
なぜならそこは、かつて夢見たかもしれない創作世界なのだから。
そして彼あるいは彼女が、“世界”と自身の異常を認識した時、初めにこう思った。

「なんかすごいことできる気がする!」

彼あるいは彼女の元の思考が平凡だったかは、今となっては知る術はない。





人生はおもしろい。素直にそう思う。
空は青いし、星は輝くし、太陽は暖かくて、季節は巡る。それら全てが緻密に計算し尽くされたがごとく、しかし全くの無作為に自然と存在している。
そんな地球と呼べる惑星に産まれ、人間という生き物として、私はここにいた。

「・・・・・・」

見上げると吸い込まれそうな程綺麗で、だけどそこには無慈悲なくらい生き物がいない蒼穹の世界。
ただ見上げているだけで、自分という殻を投げ捨てて、どこまで飛んでいってしまいたいような気分になる。
無性に手を伸ばしてみるが、その差は少しも埋まらない。
どこまでも永く続く、その先に広がる無限の宙。

「・・・ッ・・・ッ」

もう少しで届きそうな、そんな気がしてしまうから。背を伸ばして、両手をいっぱいに広げて、つま先で立ち上がる。
しばらくそうやっていると、そこは遠い場所なのだという現実を理解してしまう。
諦めて背伸びをやめてしまう。だけど、どうしようもなく見上げてしまうのだ。
この世界(・・・・)の事を知る私が、ここじゃないどこかへ憧れてしまうから。

「・・・・・・」

そろそろ朝日が昇る。今日から私はこの世界で最も重要な兵器(・・)を学ぶ為の学園のある、かつて前世と言える過去の故郷である日本へ行く。
曖昧な、自分の名前すら解らない不可思議な夢と大差のない知識だが、だけど確信を持っている、私はかつてここじゃないどこかに居たと。

「『超人(ツァラストゥラ)実験個体(ファゾスティア)20番(ツヴェルフ)』、また屋上(ここ)に居たのか」
「・・・・・」

振り返ると、自分の飼い主(・・・)である研究所の担当研究員の一人が立っていた。

「今日から日本へ異動になる、準備は済んでいるのか?」
「・・・・・(コクッ」

“ISによる人間機能の拡張及び可能性の模索”、それが私に与えられたこの世界での存在理由だ。
IS、正式名称インフィニット・ストラトスと呼ばれる宇宙空間での活動を想定、開発されたマルチフォーマム・スーツである。
従来の兵器を凌駕した“白騎士事件”を発端に、急速に各国での兵器としての研究、開発の進められてきた、パワード・スーツとしての側面もある。
コアの生産方法、全容の詳細は未だブラックボックスであり、篠ノ之(しののの)束(たばね)博士が生産を中止した時点での467機を絶対数とし、アラスカ条約によるISの運用協定や取引の規定、技術共有化などの国際法を制定したことによって、大小国問わず抑止力としてISを保有することになった。

私の産まれたここは、そんなISを保有することができた研究所の一つだった。
産まれたその時から訓練を受けたきた私は、研究目的にも重要な存在だったらしく、かつてここに居た数多くの実験個体だった姉妹達は、私の実験結果による数値を大きく下回った。
費用を対照実験に使うより、私に集中的に運用する方が有益と考えたのか、気付けば私はたった一人でこの研究所に留まることになった。
彼女達がどうなったかは知らない。唯一家族と呼べる彼女達が居なくなったことはショックだったが、それも実験と管理し尽くされた生活の中で薄れていってしまった。

「そうか、ならば最終調整と“首輪”の設定を行う。0730までに私の所までこい。IS学園では私達の干渉は難しくなるからな、少々規定の洗脳(プログラム)を書き替えておく」
「・・・・・・(コクッ」

そう言って研究員は去っていく。
特に疑問に思ったことはなかったが、彼はこちらを見る時僅かに困惑が混じるようだ。表面上まったくの無表情だったが、微かに柑橘類(こんわく)の臭いが感じられた。
前世では味わったことの無かった感覚。
超人覚醒実験によって産まれた、超能力と呼ぶべき異能。
“共感覚”というらしいが、詳しい事は教えて貰っていない。
私の見える世界は少し不思議だ。相手が何を考えているのか、記されている文字の真意、場の雰囲気、それらが“色”や“におい”などで直感的に知覚される。
例えば食事の際に含まれた薬物が“赤く”視えたり、人の行動を視覚せず匂いで判別したり、何かしら別の情報(ちかく)が与えられるのだ。

「・・・・・・」

私はもう一度空を視る。
それはこの世界に産まれた時から視ている空で、前世では解らなかった空のカタチ。
“冷たい”。だけど透き通るような“清涼な匂い”。どこまでも聞こえる“旋律”。
それが私の景色。この世でたった一人だけの世界。
与えられる僅かな自由時間を、私はこうして世界を感じて過ごしていた。
研究所で得られるのは無機質でどこか狂気に満ちた黒に近い“灰色”。陰鬱とした閉じられた世界、産まれてからの全て。

「・・・・・・」

生まれ付き声のでない喉を摩る。伝えたい言葉も、訴えたい想いも、今のところ無いから不便はしていない。
でも、何となく悲しいかもしれない。

「・・・ッ・・・ッッ」

声を出そうとしても、吐き出す息が掠れた音を響かせるだけだ。

「ッーーー・・・・ッーーー・・・」

叫び続けた。
遥か遠くの、未だ自らの運命に気付かぬあなたへ。
“物語の主人公”へ、私の事に気付いて貰えるかもしれないから。

会いたい――――――会いたい―――――――あなたに会いたい―――――――――

わたしを、すごいところにつれていってほしい。



一応ブログにも同じ奴がにじファンの投稿分あるので、こちらにも加筆修正して一日一話で投稿したいと思います。

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